第16話 締まらない
「す、すごいですね……」
その後の戦闘。
先行するダージュさんはもちろんの事、今度は団長が彼のサポートに入る事になったのだが。
「ダージュ、細かいのは任せろ。お前はとにかく道を空ける事だけ考えてくれ」
「……助かる」
随分と気軽に話している様に見えるが、戦場はもはやただの蹂躙の場と化していた。
突き進む大剣使い、その後ろから付いて行き長剣を振るう騎士。
片方が豪快さと威力を求めているのなら、もう片方は正確さと速度。
私では近付く事さえ出来なかったダージュさんの剣技に合わせて、団長が静かに、そして目で追えない程の斬撃を被せていく。
「だ、団長の本気……初めて見た」
後ろから部下達の声が聞えて来る。
確かに、その通りだ。
普段稽古をつけてもらっている者ばかりだが、私と模擬戦をした時だってあんな速度では動いていなかった。
つまり私達の実力は、彼の本気に全く届いていないという証明。
団長が若者の育成に力を入れている事もあり、この隊は若い者達が集まっている。
実力が付いた者は他の騎士団へと巣立って行ったり、遠方調査隊を務めたりと様々。
最初の頃は騎士学校の延長線上にある騎士団、みたいに感じる事も多かったが。
確かに、彼から教わる事は非常に多い。
そして戦闘面でも、彼に認められる程の実力が付いた暁には……恐らく、各地で名を上げる程の強者に育っている事だろう。
それはこの国にとって、非常に重要な項目。
“新人ばかり押し付けられ、成長した者から他の所に取られてしまう騎士団”などと揶揄される事もあるが、ここは間違いなく“ソレ”を目的として設立されたのだろう。
なんたってあれ程の強者から教えを乞える場所が、私達の様な若輩者に与えられているのだから。
そして、それと同時に。
「ダージュさんも……やはり、凄い」
疲れを知らぬ狂戦士とばかりに、延々と大剣を振り回す彼。
あの人の武器はあまりにも巨大で、武骨だ。
普通のサイズの“大剣”と呼ばれる物なら、片手に一本ずつ持っても振り回せそうだと思ってしまう程の腕力。
皆が馬に乗って移動する中一人だけ走り続け、そのまま戦闘でも先陣を切る体力。
そして何より、団長自らでないとサポートさえ出来ない程の実力。
彼が……もしもウチの騎士団に入ってくれたら。
「欲しい、彼の事が。彼さえ加わってくれれば、私達は個人としても、団体としてももっと強くなれる……」
そんな事を呟きながら、我々は先行する二人の背中を追うのであった。
※※※
「意外とあっさり着いたな、やはりお前と組むと楽だ。どうだ? 本当に騎士団に入らないか?」
「……それは、無理だ」
「つれないな、相変わらず」
フンッと鼻を鳴らすイーサンだったが、不機嫌と言う訳ではないらしく苦笑いを浮かべている。
彼からこうして誘って貰えるのは、正直非常にありがたい。
その話を受ければ、俺には就職先も用意される上に、自動的に仲間が出来るという事なのだから。
だがしかし、俺が騎士の務めを果たせるかと言われると全く持って自信がない。
もっと言うなら、いきなり大勢の中に放り込まれても、上手くやっていける未来が見えない。
騎士団の人に挨拶する時も、完全に固まってしまったし。
イーサンには結構慣れているというか、こちらとしては友人に近い存在だと思っているので……彼個人と冒険者としてパーティが組めたらなぁ、とは思ったりもするが。
流石に騎士団長を辞めて冒険者になる馬鹿は居ないだろう。
と言う事で、断わる以外の選択肢はないのだ。
「それで、団長。ココが最深部と言う事でよろしいんですよね? あんなのが居ますし」
俺達がポツポツと会話している所に、ダリアナさんが声を上げた。
そして視線の先には、開けた場所に複数体のゴーレム。
更には広間の真ん中に、他の個体より大きな体の……アレは、何だろうか?
ゴーレムと同じ様な見た目に見えるが、獣が丸まった様な形のナニか。
「まだ魔素が溜まり切っていないから目覚めていない、と言うだけだ。部屋に入れば不完全な状態でも目を覚ますから気を付けろ」
「「「はっ!」」
本当にダンジョンが初めての団員も居るのか、皆彼の言葉に緊張した面持ちで返事をしていた。
さて、どうしたものか。
あれら全てをいっぺんに相手するとなれば、少々手間だが……こちらだって人数は多いのだ。
魔法が使える者が多いのなら、人海戦術でどうにでもなるとは思うが。
ということで、俺もイーサンの方へと視線を向けると。
「ダージュ、真ん中の……何だ、ゴーレムか何か。あのデカイのを相手にする事は可能か?」
「何か分からない……が、多分。周りが……その、邪魔をしなければ」
流石に一人でデカいのを相手にしながら、周りのゴーレムまで破壊しろと言われたら遠慮したい。
そういう意味での発言だったのだが、団員の数名が「クッ!」と悔しそうな声を上げて視線を逸らしていた。
もしかしたら彼等は、武器が剣しかないから攻撃が通らない。と言う事なのだろうか?
それとも、自分が相手にしたかったという事か?
であれば、あんな悔しそうな顔をするのも分かる。
などと想像し、うんうんと一人頷いていれば。
「あぁ~その、なんだ。ダージュ、今の発言は“周りのゴーレムが”邪魔に入らなければ、一人でデカイのを抑えられる。という発言で良いな?」
「……? あぁ」
それ以外に何があるのか。
思わず首を傾げてしまったが、イーサンは溜息を溢し、ダリアナさんを含めた団員の方々はホッと息を吐き出していた。
なんだ、何が起きた? 俺はおかしな事を言っただろうか?
そう考えると怖くなり始め、先程までの会話を思い出しながら一人反省会を開いていると。
「あ、あはは……ここまでの道中、我々は何も役に立っていませんからね。そういう面々からすると、“周りが邪魔しなければ”というのが私達の事を差している様に思えてしまいまして」
ダリアナさんの言葉に、一瞬ポカンとしてしまった。
どういう事だ? 冒険者の俺が、騎士団の人達にそんな失礼な発言をする訳が――
『兄さん、基本的に言葉が足りません。もう一言くらいは頑張りましょう』
以前ミーシャに言われた事を思いだし、頭痛を覚えた。
そうか、俺が出しゃばり過ぎた影響で皆少しだけ劣等感というか、そういうのを覚えていた可能性もあるのか。
ダリアナさんが言っていた事は、そう言う事なのだろう。
今この場で立場の上下など気にしている面々の方が少ないのかもしれない、というか同じ戦場に立っているならその可能性も高い。
もっと言うなら、俺は誤解を与えない様に「周りのゴーレムに邪魔されなければ頑張る」と最初から言うべきだったのだ。
こちらは先程イーサンが訂正してくれたのが、その証拠だ。
いちいち短く喋ろうとする癖が、全て悪い方向に聞えてしまったという訳だ。
ま、不味い。
相手に不快感を与えてしまった、どうにか謝罪しないと。
などと考え、頭の中で次に喋る事を考えていれば。
「まぁ、ダージュの言葉が足りないのは今に始まった事ではないからな。皆、良いな? 周りのゴーレムを彼に近づけるな。俺はダージュと共に大物に当たる、皆は基本ダリアナの指揮に従って行動してくれ」
「「「はっ!」」」
まだ先程の謝罪が済んでいないというのに、事態が動き始めてしまった。
皆それぞれ武器を構え、今か今かとイーサンの合図を待っている御様子だ。
えぇと、えぇと。
「どうした、ダージュ。まさか、本当に手を出すなとは言うまい?」
もはや飛び出そうとしている彼等が、皆俺の事を待っていた。
ここで足を引っ張るのは更に不味い。
団体行動中なのだから、俺の遅れが皆の遅れになってしまう。
と言う訳で。
「……あぁ、いやその……何でもない」
ボソボソと呟いてから、此方も大剣を構えるのであった。
また、失敗してしまった。
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