第15話 ブンブン丸
「ダージュさん……本当に凄いですね」
彼女の声を聞きながら、大剣を振り回した。
ダンジョンとは、一般的には洞窟に近い形をしている。
だからこそ、大型の武器は不利……なんて言われているが。
「……フンッ!」
短い息を溢しながら、目の前から迫る獣の群れを薙ぎ払う。
その際切っ先が岩壁に当たったが、そのまま力任せに振り抜き。
「……大剣の使い方って、そうでしたっけ」
壁を砕きながら相手を斬り伏せ、振り抜いた遠心力をそのまま利用して次の獲物へと飛び掛かった。
乱戦の時は、コレが一番楽だ。
今でこそこの大剣を振り回せる様になったが、“普通の大剣”と比べても俺の得物はデカイ。
だからこそ、ごく普通に戦おうとしても……正直、疲れるのだ。
力が付いたとは言え、重いモノは重いのである。
ということで魔獣の群れに飛び込み、ひたすらに剣をぶん回していれば。
「終わり、ました」
ポツリと呟いた頃には、動いている敵影は無し。
足元には数多くの魔獣の死体が転がっているので、続く皆には気を付ける様に言わないと。
「お、お疲れ様でした。大丈夫ですか? 少し休憩を挟みますか?」
心配そうな声を上げるダリアナさんが、慌ててこっちに駆け寄って来る。
その際、俺が恐れていた事が現実となり。
「うわっ!」
見事に、足を滑らせた。
一面血の海、というか切れ味も大して良くない大剣なので、臓物の類もそこら中に散らばっている。
仕方ない事ではあるのだが……しまった、注意を促すのが遅かった。
あろう事か、仲間の前で醜態を晒す結果になってしまったのだ。
申し訳なさと、やってしまったという後悔が押し寄せてくる。
ともかく尻餅を着いてしまった彼女を助け起こそうと、俺も彼女の元へと慌てて駆け寄ってみた結果。
「ゴフッ!」
此方もスッ転んだ。
しかも、彼女よりも盛大に。
顔面から地面に激突し、更に背負った大剣の柄が後頭部を強打する。
兜を被っているので、そこまでダメージがある訳でもないのだが……鉄同士がぶつかって、ガイィィンと重い音が兜の中に響き渡った。
「お前達……何をやってるんだ」
そんな間にも後続が到着し、イーサンには呆れた声を上げられてしまう結果に。
ダリアナさん関しては、普通に騎士の皆様に助け起こされていた。
あぁホント、何をやっても恰好が付かないな、俺。
ハァァと大きなため息を溢してから此方も立ち上がれば、呆れ顔のイーサンからタオルを差し出される。
「兜だけでも拭いておけ……鎧が真っ赤だぞ。それじゃ流石に部下だって怖がる」
「……すまない」
「少し休むか?」
「……いや、大丈夫」
それだけ答えてから兜の前面を拭い、ダンジョンの奥を眺めた。
あとどれくらい進まないといけないのかは分からないが、これでも結構な速度で最深部に近付いている筈。
もっと言うなら騎士達は今の所戦闘に参加していないので、最奥に辿り着いても全力で戦える事だろう。
「このダンジョン、分岐は……」
「幸いと言って良いのかどうなのか、あまり無いな。だからこそ逆に、冒険者達には人気が無い。宝も何もあったものじゃないからな、ウマミが少ないんだ」
「それで……増えすぎた」
「そういう事だ。不思議が多いな、ダンジョンと言うモノは」
そもそもダンジョンから生まれる道具、というのは元々ココに入り込んだ者達の遺品だと言われている。
この場所で命を落とした者は、全てダンジョンに食われる。
死体はもちろん、道具さえも。
それは迷い込んだ動物や、ここから生まれて来る魔獣たちも例外ではない。
実際に先程倒して来た魔獣たちも、今では徐々に地面の中に取り込まれ始めている。
だからこそ“ダンジョンは生きている”なんて事も言われていたりもするが……正直な所、イーサンの言う通り謎ばかりなのだ。
魔道具を作る事を専門にしている人達も居るが、彼等からしても製造法の分からない不思議な道具だったり。
とてもではないが一個人が扱う威力ではない武器が産み落とされたりと、ダンジョンからは様々な品が発見されて来た。
俺の腰に付けた“マジックバッグ”や、その中に入っている“光の剣”もこの類なのだろう。
逆に言えば、ダンジョンで見つけた剣を存分に使い。
自らの功績を隠す事無く好き放題やった奴が居て、ソイツは英雄として語られている訳だ。
各地に眠る英雄の武器、なんて言われている一本だと言われても……正直俺は、ソイツみたいにこの剣を振り回す事は出来ないだろう。
はっきり言ってソレは、武器が強いだけで本人が強かった訳じゃない。
そんなものは……ちょっと英雄とは言えないんじゃないだろうか?
「最深部に居るのは恐らくかなり大物だ、お前ばかり無理をするなよ?」
「そんなに……魔素が溜まっているのか?」
「調査隊の話では、な? 竜みたいな大物が出てこない事を祈るさ」
「……」
イーサンには冗談交じりにそんな事を言われてしまうが、勘弁してくれ。
あんなのがポンポン生まれていたのでは、世界が幾つあっても足りないというものだ。
たった一匹でさえ、簡単に街を滅ぼせる力を有しているのだから。
「とにかく、先に行く……」
「あぁ、だが今度は俺が続こう。ダリアナを付けても、手が出せないみたいだからな」
「……」
「安心しろ、邪魔はしないさ。お前は好きに戦ってくれて良い。今回はコイツ等にダンジョンと言うモノを教える為の授業みたいなものだ、派手にやって良いぞ」
それだけ言って、今度はイーサンが俺の隣を歩き始めるのであった。
狭い所で戦う以上、あまり近いと巻き込んでしまいそうで怖いのだが……まぁ、彼なら大丈夫か。
以前にも共に戦った経験はあるし、剣技と言う意味では俺なんか足元にも及ばない騎士だ。
だったら俺は、自分の心配だけしていれば問題無いのであろう。
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