第13話 体力お化け
「ダリアナ……お前、ソレどうした?」
馬車の中で不審な視線を向けて来る団長は、私が握っている剣の柄を見つめていた。
コレを知っている様にも聞える発言だが……やはり、これが“光の剣”なのだろうか?
「昨日の夜ダージュさんにお借りしました。失礼な態度を取った私に対しても、こうして寛大な心を持って頂けるんですから……凄いですね、彼は」
「いや、むしろお前の方が凄いと思うがな……よくアイツが喋ってくれたな、というかよくソレを貸してくれたな。俺と喋る様になったのは、随分経ってからだったのに」
なかなかどうして、やはり対人には慣れていないというか、そういう人みたいだ。
見た限り団長とは普通に話しているし、この現場では一番仲が良さそうに思えるのに。
「やはりこれが、“光の剣”なんですか? どう見てもただの剣の柄にしか見えませんが……刃がありません」
「英雄の武具なんてのは、俺達には理解出来ない魔道具なんだろ。多分、よく知らんが。ちなみにこっちには向けるなよ? そう見えて、刃が発生すると巨大な赤竜を真っ二つにするくらいデカいからな」
「はぁっ!?」
この剣の柄から、そこまで巨大な刃が?
とてもではないが、想像すら出来ない代物の様だ。
しかし、そんな話を聞いた後では是非見てみたい。
でも悲しい事に、使い方が全然分からないのだ。
魔道具と言うのなら、魔力を込めれば良いのか? と思って注いでみたが、一切変化なし。
どこかに刃を発生させる仕掛けでもあるのかと調べてみても、本当にただの剣の柄。
見た目は結構豪華というか、綺麗な見た目をしているが……正直、コレが武器庫に転がっていたら見向きもしないだろう。
「団長、ちなみに……使い方とか、分かりますか?」
「知らんし、俺には使えなかった。アイツは“必要だと思えば出る”とか訳の分からない事を言っていたがな」
そういう物なのか。
魔道具というか……むしろ魔剣や聖剣に近いのかもしれない。
ということは、持ち主を選ぶ存在。
そして彼はそんな代物を、あんな簡単にポイッと貸してくれたと言う事になる。
私自身が信用されていると言う事は無いだろうから、おそらく騎士団そのものに対する信頼という事だろう。
だとしたら、決して無くしたり傷つけたりしてはならない。
コレがとんでもない代物であると同時に、私の失態は全て騎士団そのものの評価に直結するのだから。
もう……色々やらかした後な気もしないが。
どうにか、今からでも挽回するしかない。
「ちなみに団長は、最初ダージュさんにどう接していたんですか?」
「……」
ちょっとした思い付きで質問しただけなのだが、彼は非常に顔を顰めて窓の外に視線を向けてしまった。
何か、聞いたら不味かっただろうか?
首を傾げながらも、ジッと相手の事を見つめていれば。
「お前より……酷かった」
「え」
「何かにつけては絡んで、文句を言って。小馬鹿にする様な態度を取っていた……」
「よくそれで嫌われませんでしたね」
ジトッとした瞳を向けると、相手は大きなため息を吐いて。
「俺も若造だったって事だよ。しかもその態度が影響してるのか、未だアイツは態度が固い。ギルドでアイツの担当受付嬢にも、俺が行くと警戒されるくらいだよ」
「何を言ったんですか……本当に」
「お前が想像する十倍は罵詈雑言を吐いていたと思う。現場について、アイツの戦闘を見るまで」
今では随分と落ち着いた雰囲気だし、若い子を率先して育てようとする“イーサン”騎士団長。
彼にも、黒歴史と言うモノを持っているらしい。
思い出しただけでもため息が零れる程なのか、馬車の外を眺めながら何度も何度も「はぁぁ……」と情けない声を上げていた。
「でも、その……ホラ。今では二人、仲良いみたいに見えますし。ね?」
「だと良いんだがな……アイツは基本短文しか喋らんから分からないんだよ」
もう一度盛大なため息を溢して、思い切り項垂れる騎士団長。
この人のこんな情けない姿、初めて見たかも。
「わ、私ダージュさんとお話してきます!」
「あんまり副隊長がポンポン姿を現すものじゃないぞ。部下も気が張って仕方ないだろ」
「むしろ部下に関しては、常に緊張感をもって行動して欲しいくらいですね」
「お前はソレだから“鬼の副長”なんて言われるんだよ……」
先程からため息ばかり溢す団長を他所目に、走行中の馬車の扉を開いて飛び降りるのであった。
※※※
騎士の行進、目的に向かっての進軍。
そう言えば多少は格好良いのかもしれない。
でも結局は、移動しているだけなのだ。
つまり、暇。
周りの人たちは皆馬に乗っているし、立場の高い人間、もしくは主戦力になる人物は馬車。
コレがこの騎士団の移動が速い理由。
普通なら歩兵だって居るだろうし、もっとゆっくり進む所なのだろうが。
この辺にちゃんと金を掛けている為、普通よりずっと早く目的地に到着出来る。
つまり、帰るのも早くなる。
という事で、本日もえっほえっほと俺は走る。
俺だけ、馬に乗っていないので。
別にイジメられている訳ではない。
自身と大剣が重すぎる為、馬が駄目になってしまう事が多いのだ。
そんな理由で、普段から乗合馬車にも乗れない訳だが。
「ダージュさん、お疲れ様です」
連日夜になると声を掛けてくれる騎士様が、俺の横に並んで来た。
馬に乗る訳でも無く、本人も走った状態で。
えっと……どうしたんだろうか?
あぁ、もしかして訓練か? 確かに馬にまたがってばかりでは体が鈍りそうだし。
それに、こういう事を言っては嫌がられるかもしれないが……ずっと馬に乗っていると股に負担が来るからな。
経験はないが、長時間乗っていると普通に血尿とか出るらしい。
本当かは知らないけど、俺馬に乗れないので。
「ずっと走っていますけど、大丈夫ですか? 今からでも馬車に移っては?」
「……重いから」
「え、えっと……一応ウチの馬なら、結構鍛えられてますから……」
「……馬を潰したら、不味い」
とは言うものの、実際の所乗馬の経験が無いので怖いというのもある。
なら馬車は問題ない、とは自分でも思うのだが。
俺が乗ると、明らかに馬が疲弊するのだ。
休憩が増えたり、水を飲む馬が……なんかもう可哀そうになるくらいガブガブ飲むものだから。
とてもではないが、止めた。
馬、可哀そうだし。
それならむしろ、俺が馬を運んだ方が速いくらいだ。
今の俺なら、そしてこの速度なら。
多分夕方まで走り続けたってバテる事は無い、なので問題無し。
全体でちょこちょこ休憩も挟んでいるし、コレといって困る事は無い。
決して馬車に乗った後で会話に困るとか、そう言う理由ではない。
そう思いたい。
「凄いですね……ずっと走り続けているのに、息も上がっていない」
はっ、はっ、と呼吸を繰り返しながらも、彼女は隣を走り続けていた。
兜は被っていないが、その身には鎧を纏っているのだ。
普通なら、こんな事はしない。
鎧とは戦いで身を守る為の盾であり、長距離を走る様には設計されていないのだから。
「……無理は、良くない。馬車に」
「い、いえ! ちょっとだけお話しようかなと思いまして! でも、これ……結構辛いですね」
「……慣れると、普通」
「私の鍛え方が甘かったと、言わざる負えませんね」
そう言って走り続ける彼女だったが。
それはちょっと違うというか、俺とこの人では立場が違うというか。
俺は冒険者で、常に一人。
なら全てを自分でこなさなければいけない上に、こうして長時間移動を続ける事だって常。
だが彼女は騎士、つまり現場に着いてから本領を発揮すれば良いだけなのだ。
ならば、馬車に乗るか馬に乗るか。そういった選択が正しいと思うのだが。
「あ、あのっ! 剣! ありがとう、ございましたっ! 私には、全然っ! 使えっませ――」
息が上がって来た彼女は、どうにか付いて来るのが必死な御様子。
その状態で無理に喋り、更にはバッグを漁り始めたので。
「イーサンと、同じ馬車……で、良いのか?」
「え、あ、はい」
彼女の腰に手を回し、そのまま担ぎ上げてから。
「……すまない」
それだけ言って、彼の馬車まで走った。
皆の間を走り抜け、件の馬車の扉を開けて。
「話は、後で聞く……無理をするな。騎士が走って移動したら、その……格好悪いだろ」
そういってから、馬車の中に彼女を放り込み。
呆れ顔のイーサンにペコッと頭を下げてから扉を閉めた。
よし、これで問題無し。
そんな訳でその場を離れ、元の位置へと戻って行くのであった。
あぁ、端っこって落ち着く。
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