第9話 出来れば使わない方針で
「団長、ダリアナです。少しよろしいでしょうか?」
「入れ」
扉をノックして声を掛けてみれば、すぐさま入室が許可された。
勢い良く扉を開けば、騎士団長がヤレヤレと言わんばかりの表情を浮かべてから。
「それで?」
「それで? じゃありません! 何故あんな冒険者を頼る必要があるんですか! 彼等は“何でも屋”。声を掛ければ、報酬次第で仕事に食いつくかもしれませんが、我が騎士団の補佐など務められるか分からない存在ですよ!」
はっきり言おう、そんなもの金の無駄だ。
思い切り声を上げれば、相手はクククッと楽しそうに声を上げてから。
「しかし相手は、こちらの報酬額を聞く前に了承したぞ?」
「騎士団からの依頼です! 金額も普段以上だと想像出来る上に、何の考えも無しに討伐依頼を受ける冒険者も多いと聞きます! そんな者が隊に加われば迷惑です! 足を引っ張られたら、此方に被害が出るんですよ!?」
相手に噛みつく様な状態で、そんな言葉を吐いてみれば。
彼は更に楽しそうに笑ってから、こちらに資料を差し出して来た。
ソレに目を通してみれば……件の、ダージュという冒険者。
騎士団と協力して竜を討伐した事により、一躍有名になったんだとか。
思わず舌打ちを溢しながら、資料を机に戻そうとしてみれば。
「それは重要な資料だ、最後まで読め」
「は、はぁ……」
資料の前半は、隊の人数とか物資とか。
更には構成されていた面々の資料が多い。
中盤からは、戦闘の内容が描かれており……。
「あの、これは過大評価では? たかが冒険者に、この様な仕事が出来るとは」
「その過大評価のまま、上に報告したと。そう言いたいのか? だとすれば俺は、重罪だな」
「し、失礼しました!」
だって、書いてある内容が……その。
こう言っては何だが、まるで英雄譚なのだ。
大剣を振るう冒険者。
対するは生きるモノ全てに脅威を振り撒く様な、炎を吐く赤竜。
そして何より、国の最大戦力とされる騎士達が手も足も出なかったかの様に綴られている。
そのまま報告書を読み進めてみれば。
「流石に、冗談ですよね?」
「だったら、それは報告書ではないな」
もはや負傷者を運び出す事の方が優先になってしまう様な状況、そんな彼等を逃がす為に一人の冒険者だけが前に出た。
絶体絶命、間違いなくその状況だった筈なのに。
この資料を作った者が振り返った先には、“光の剣”を振りかざす冒険者が居たそうだ。
しかもその剣は、これまで皆が苦戦していた竜の首をあっさりと刎ねた。
たった一撃でスパッと、音も無く。
まさに英雄譚であり、それこそ物語に出て来る勇者様の様だ。
いつから私はその手の小説を読んでいたのかと錯覚する程、あり得ない内容が綴られていた。
「これは、何を見せられているんでしょう?」
「過去の戦況報告書だ」
「ふざけないで下さい!」
報告書を机に叩きつけながら叫び声を上げてみれば、団長は楽しそうに笑い。
「そう、私もそうやって反発したものだ。しかしな……共に戦えば分かる。コレは、真実を記したモノなんだと」
クックックと意地悪く笑う彼を見ながら、ひたすらに混乱してしまった。
大型の魔獣が発生すると、それは周囲の驚異となる。
だからこそ、我が騎士団で駆除せよ。
それは、分かる。
しかしながら、何故“冒険者”等付けるのか。
もっと言うなら、たった一人だけ。
“ダージュ”という冒険者。
もしもこの報告書が本当の事で、団長の言う様に物凄い実力の持ち主なら……何故出世しない?
それ程の力があるなら、間違いなく国や騎士団からお声が掛かっている筈なのに。
こんな偉業を成したというのなら、間違いなく勲章モノだ。
だというのに何故、未だに冒険者など続けている?
「私は、理解出来かねます」
「ソレが普通だ。しかし相手が冒険者だからと言って、上だ下だと喚くなよ? 品性が疑われるぞ」
「……了解」
まるで揶揄うかの様に、団長はそんな声を上げて来る。
その返答に対しても、口元を歪める事くらいしか出来なかったが。
※※※
「あらら、また騎士団からのお仕事ですか。では、しばらく兄さんは家を空けると」
「そうだな、多分一月くらいじゃないかな」
本日の事を妹に伝えてみれば、相手は特に驚いた様子も無く。
いつも通り夕食を進めながら話を聞いていた。
「遠征なのに一月、というのは本来早い筈なんですけどね。近場なんですか?」
「そうでもない、のかな? 騎士団の馬車が速いのもあるけど、休憩なんかもかなりキッチリしてる所だから。基本的に移動は速い。あとは、仕事を始めてしまえばすぐに終わるだろうし」
そんな会話をしていたら、ふと思い出した。
前にあの騎士団と関わった時から暫く経ったから、人も増えたりしているんだろうか?
だとしたら、ちょっと気が重いなぁ……。
基本的にあぁいう御堅い人達の中に、俺みたいな冒険者が混じるとあまり良い目で見られないのだ。
出来れば前回と同じ隊が良いが、人員を他の騎士団に移すとか結構あるみたいだし。
思わず大きなため息を溢してしまうと、クスクスと笑う妹が。
「団長さんは変わって無かったんですよね? であれば、彼にずっと付いていれば良いじゃないですか。あの人なら、兄さんとも普通に話してくれますし」
「確かに、それが一番楽なんだけど……あの人、事あるごとに騎士にならないかって誘って来るから。それに、基本的に一人になる事のない立場だし」
この家だって報酬として頂いた物なので、あまり無下には出来ないのも確かだが。
でも俺が騎士なんて無理だ。
あんなにキチッとした行動は出来ないし、何より彼等みたいに堂々と喋る事が出来ない。
騎士なんて言えば、庶民からは憧れの眼差しが向けられる存在。
そんな彼らの鎧に身を包みながら、モゴモゴと情けなく喋る奴が居てみろ。
彼等の顔に泥を塗る様なものだ、絶対無理。
俺だってそんな格好悪い騎士は見たくない。
「私はそれもありだと思いますけどねぇ。恰好良い鎧に身を包んだ兄さんというのも、見てみたいですし」
「勘弁してくれよ……俺には恰好良い装備なんて似合わないし、情けない騎士にはなりたくない」
「“光の剣”を掲げる純白の騎士、なんて言ったら凄く格好良いと思いますけど」
笑顔でそんな事を言って来るミーシャだったが、此方としては言葉に詰まってしまった。
その言葉は、正直あまり好きになれないので。
「兄さんがアレを“ズル”だと思っている事、そして良い思い出が無いのも分かっています。でも、騎士団からの依頼であり、更には遠征。であれば、絶対に持って行って下さいね? 嫌いだからと言う理由で、“道具”を使わず死ぬなんて真似……許しませんから」
「……」
「兄さん、聞こえていますか?」
「……わかったよ。でも、可能な限り使わないから」
アレを使う、というか関わるといつだってろくな事にならないので嫌なのだが。
妹の言う通り、便利な道具を使わずに死んでしまっては元も子もない。
思い切り溜息を溢しながらも、壁に飾られた“剣の柄”に視線を向けるのであった。
こんなモノが、最大の戦力とは……剣士が聞いて呆れるな。
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