第5話 何かもうヤバそうな人
「フィアちゃ~ん? どうした、斥候にでも職を変えたのか? 随分と薄着じゃねぇか」
「うるっさいですねぇ、ローブを駄目にしちゃったんですよ!」
「可愛い恰好してパーティに入れて貰おうって作戦か? いいぞいいぞぉー! もっと肌出していけぇー!」
「だからうるっさいって言ってるんですよ! 新人だからって舐めないで下さいね!? 燃やしますよ!」
先日の一件で、魔術付与の付いたローブを駄目にしてしまった私は……もはや完全に私服って状態でギルドに来ていた。
参ったなぁ……他のそういう装備って、制服くらいしか無いし。
そして卒業生がそんな物を着て来る訳にもいかない。
もっと言うなら、冒険者になる事を両親には反対されている為、金銭的支援も求められない。
つまり、自分で稼いでどうにかする他無いのだが。
現状、こうして先輩達に弄られまくっているという訳である。
戦闘職ともなれば普通に完全装備だったり、特殊な物品で身を固めている人の方が多い。
新人だって見栄を張って“それっぽい”恰好をしているのに。
私だけ、フラッと街中に出かける様な恰好をしている。
く、屈辱……。
でも私は術師だ、相手に接近しなければ攻撃は出来る。
つまり、この恰好でも簡単な仕事ならこなす事が出来る! 筈!
なんて甘い考えだと分かっているので、思わず溜息を溢していれば。
「はいはーい、朝の依頼張り出しの時間ですよー。新人イジメて遊んでる人には見せてあげませんからねぇ~」
苦笑いを浮かべる受付さんが助け舟を出してくれた為、それ以上先輩達が絡んでくる事は無くなった。
ホッと息を吐き出し、私もクエスト掲示板に走り込む準備を整えていれば。
「りゅ、竜殺し!?」
誰かが、そんな事を叫んだ。
その瞬間ギルド内から音が消え、掲示板前からはサァーと人が引いて行く。
え、え?
もうクエスト張り出しも終わりそうだけど、誰も掲示板に向かわないんだけど。
普段ならこんな事は絶対にない。
我先にと、先輩新人関係なく飛びつく筈なのに。
しかしながら、皆の視線は掲示板ではなくギルドの玄関に向かっており。
「あ、昨日の……えぇと、ダージュ? さん」
皆の視線を追ってみれば、そこには大剣を背負った大鎧が突っ立っていた。
何度見ても武骨だし、威圧的な見た目。
しかも本人があまり喋らない事もあって、相手の感情が読めない。
昨日お礼を伝えている時だって、正直怖かったくらいだ。
だというのに、彼はそのまま此方に歩いて来てから。
「少し、いいだろうか……?」
ボソボソと、そんな言葉を口にした。
あ、え、あ? 私?
もしかして、やっぱりポーションの代金を払えとか、そういう事だろうか?
だとすると、今は不味い。
返金にしても、ローブの買い直しにしてもお金が必要なのだ。
そしてそのお金を稼ぐ手段というのが、私達にとっては今現状掲示板に張り出されている訳で。
更に言うなら、先輩達より先に良い仕事を取らないと、全然稼げない訳で。
などと思いながら、冷や汗を流しつつ視線を動かしていれば。
「仕事、選んでからで良い……必要なら、手を貸す」
それだけ言って、クエスト掲示板を指さすのであった。
お、おぉん? 手伝うって、この人が?
昨日今日で周りの反応を見る限り、何か物凄い人っぽいし。
完全に新人の面倒を見る、みたいな感じになってしまいそうなんだが。
こんなベテランにそれ程の時間の余裕があるのか? というのと。
友達でもない私に、何でそこまでしてくれるの? というのもある。
ひたすら混乱していれば、彼は掲示板の方へと歩き始め、更には受付さんも“おいでおいで”とばかりに手招きしているではないか。
「今日は組むんですか? ダージュさん」
「必要が、あれば」
「では、こちらなんて如何でしょう? ベテランと組んでいれば安全ですし、何より経験になります。こういうのも、格上と組んで無いとやっぱり不安が伴いますからね。それから……こう言っては何ですけど、フィアさんお金ないですよね? 良い稼ぎになりますよ?」
「やります!」
彼女の言葉に、二つ返事で返してしまった。
受付嬢のリーシェさん、彼女は基本的に私にあった仕事しか紹介しない。
その信頼が置けるほど、的確な仕事を貰っている。
先日は何処かの馬鹿二人が先行し過ぎたせいで、熊に齧られそうになったけど。
などと考えつつも、手渡された依頼書の内容を見た瞬間。
サッと血の気が引いた。
「あ、あの……オークの集落を潰す。みたいな事が書かれているんですが……」
「えぇ、討伐依頼です。というか、完全に“殲滅”ですね。貴女程器用な術師と、ダージュさんが居れば余裕かなって」
「無理ですってぇぇ!?」
もはや涙声になりながら叫んでみるものの、リーシェさんはニコニコしたまんま。
そして隣にいる鎧男はといえば。
「仕事は、決まったから……少し、時間をくれ」
しれっと受ける気でいるらしい。
やばい、せっかく昨日生き残ったのに今日死ぬかも。
オークの集落? しかも二人?
もっと言うなら、私今装備が整ってないんですけど。
矢の一本、投石の一つでも死ぬ可能性があるんですけど。
しかし、逃げられない。
周囲の目もあるし、受付嬢は書類をまとめ始めているし。
何よりこの大剣使いは“さっさと来い”とばかりに、こちらをチラ見しながら酒場の一番奥の席へと足を向けているのだ。
もしかして私……本当にヤバい人に目を付けられた?
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