第3話 質疑応答


 ヒーヒー言いながらギルドに戻って来てみれば、カウンターでは何やら仲間達が騒いでいた。

 いや、見捨てられた以上“元”仲間と言った方が良いのだろうが。


「だから俺達も必死で戦ったんですけど! どうしても勝てなくて!」


「怪我を負わせるだけでもやっとだったんですよ! そしたら、今日組んだ術師の子が勝手に前に出ちゃって……仕方なかったんです! 俺達も止めようとしたんですが、そのままガブッって――」


「だぁれが勝手に前に出たって? アンタ達が一目散に逃げ出して、私が置き去りにされただけでしょうが」


 思い切り溜息を溢しつつ、大きな声でそう言い放ってやれば。

 二人は冷や汗を流しながら此方を振り返り、死んだはずじゃ? みたいな事を口々にボヤいている。


「お帰りなさい、“フィア”さん。御無事で何よりです、貴女からも報告をお聞かせ願えますか? どうやら此方のお二人の話と、食い違いがあるようですので」


「えぇ、もちろんです。お陰でコッチは死にかけましたので」


 と言う事で本日あった事を包み隠さず説明してみれば、いつの間に日は落ち、件の二人は別室に連れて行かれてしまった。

 仲間が誰か犠牲になる、一人だけ残して戦線を離脱する。

 こればかりは良くある事だが、今回の事は流石に問題があると判断されたんだそうで。

 そりゃ生贄みたいに扱われ、逃げる為の囮として使われたのでは、術師としては堪ったものではない。

 今後知らない人と組むのが怖くなってしまう程のトラウマを残されてしまったのだ、きっちり罰を受けて貰おうではないか。

 後衛を置き去りにして逃げた前衛め、罪を償え。

 などと思いつつ、クックックと悪い笑みを浮かべていれば。


「フィアさん、背中を見せて下さい。本当に大丈夫なんですよね?」


 そう言って、受付のお姉さんが私の背後に回って来た。

 髪の毛を退かし、ボロ布みたいになってしまった服を少しだけズラすと。


「これはまた大きな傷跡ですね……でも、もう治りかけていますね。傷跡も残らなそうで良かったです。上級のポーションを使用されたんですね」


「じょ、上級!?」


 なんか、とんでもない事を言いだした。

 ポーションだって色々ある、効果によってお値段も様々。

 私が想定していたのは、一般的には下級に近い代物。

 それだって新人では購入を戸惑ってしまう程度には良いお値段。

 だというのに。


「あ、あの……コレに入ってて、綺麗な空色だったんですけど。どれくらいする代物だったんでしょうか……?」


 もはや震えながら、彼に貰ったポーションの空瓶を取り出してみると。

 受付さんは困った様に笑ってから。


「美味しかったですか?」


「え、えぇ……ポーションってこういう味なんだぁって思って、グビグビ飲めたくらいには」


「あぁ~じゃぁ、聞かない方が良いと思います。多分ソレ、普通なら騎士とか貴族の方が戦場で使う様な代物なので」


 ひぃぃ! いったいいくらすんのコレ!?

 プルプルしつつ、割らない様に気を付けて瓶をバッグに戻していく。

 中身は無くなっちゃったけど、絶対瓶だけでも高いヤツだ。


「そ、それで! さっき報告した大剣使いって、このギルドに居ますか!? 凄く大柄で、兜までキッチリ被ってて!」


「顔を覚えてもらう事も冒険者の仕事ですからねぇ、そういう時は兜を取るのが普通なんですけど」


「じゃぁやっぱり、傭兵とか兵士の方だったんですかね!? うわぁぁぁ! 他の立場の人に借りを作るのは良く無いってぇぇぇ!」


 もう、悶えた。

 お礼もちゃんと言えてないし、名前も聞いてない。

 それなのに、彼の関係者からの依頼でもあってみろ。

 更に私が受けてしまった場合を想定しろ。

 お礼もろくに言わない冒険者が、再びのこのこ顔を晒す事になるのだから。

 印象としては最悪、というか最初に人間かどうか疑う様な発言をしてしまっているのだ。

 初対面としては最も良くない会話だった事だろう。

 やばい、立場のある人とかだったら……最悪ギルドにクレームが来るかも。

 そんな事を思って、グネングネンと身悶えていれば。


「身の丈ほどもありそうな馬鹿デカイ大剣で、軽々振り回した。あまり派手ではないけど、厳つい全身鎧。それは間違いありませんね? マントとかもしていませんでしたよね?」


「マントは付いて無かったですね……紋章とか付いてれば、そこから調べられたのに……最悪です」


 魂が抜けるかって程の大きなため息が零れた。

 私新人なのに、早くもギルドに迷惑かけるかも。

 そう思うと、もはや続けられるか不安になって来た。

 此方は物凄く落ち込んで、真っ白に燃え尽きそうになっているというのに、何故か受付さんはクスクスと笑ってから。


「私が知っている限り、騎士団や傭兵でもそこまで大きな大剣を振り回す人は見た事が無いですねぇ。兵士では、そもそも支給品の武具を使うでしょうし」


「じゃぁどこの誰なんですかぁ……もう、何なの」


 楽しそうにする彼女をジトッと睨みながら、もう一度ため息を溢した所で。


「でも、一人だけ知っていますよ? 普通だったら絶対使わない様なサイズの大剣、いっつも鎧を着てて、ちょっとボソボソ喋る人。まぁ彼なら、熊の魔獣くらい一撃でしょうし」


 え? 知り合い?

 というか、受付さんが知っているって事は冒険者?

 ここに来て、一筋の光が……なんて思った瞬間、ギルド内から音が消えた。

 え? 何、今度は何?

 普段だったらいつだって煩いくらいに声が聞えて来る場所なのに、こんなに静かになる事ってあるんだ。

 思わず混乱しながら周囲を見回していると、誰しも視線は一か所を見ている様で。


「あんな感じの人じゃありませんでしたか? おかえりなさい、ダージュさん。お疲れ様でした」


「……」


 ギルドの入り口には、本日助けてくれた大男が立っていた。

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