第6話 偽りの舞台裏
ビルの一室で、小林健太と山田瑞希は、佐藤から提供された追加の資料に目を通していた。資料には、これまで隠されていた番組制作の裏側が詳細に記されている。そこには、視聴者を感動させるために行われた「過度な演出」の数々が綿密に書かれていた。募金のために感動を演出することが、いつしか番組の“ビジネスモデル”となっていたのだ。
小林が目を止めたのは、ある企画書の一部。「被災地の子供たちにサプライズ訪問」その横には、「涙の演出必須」と赤字で書かれている。番組のために仕組まれたサプライズであり、子供たちがタレントに驚き、感動の涙を流す場面が計画されていた。さらに驚くべきは、その場面が撮影される前に、子供たちに台本が渡されていた事実。涙を流すタイミングまで指示されていたという記録が残されていた。
小林は絶句した。彼らは、人々の純粋な善意を募金に繋げるために、過度な演出を行い、視聴者の感情を操作していた。山田は、あるスタッフの証言メモを読み上げる。「番組の感動的な再会シーンは、すべてリハーサル済み。タレントの涙すら、あらかじめ用意されたものだった。」これには小林も表情を曇らせた。「これが、僕たちが作り上げてきたチャリティー番組の実態なのか……。」
資料には他にも、募金を呼びかけるための「演出マニュアル」があった。「感動の涙を誘うためのBGM選曲」「被災地の人々との触れ合いシーンの撮影アングル」「タレントの泣き顔を最大限引き立てる照明効果」など、あらゆる要素が計算され尽くしていた。その意図は明確だった。視聴者の心を動かし、財布のひもを緩めさせるために、感動を演出し尽くす。それが局の指針であり、善意をビジネスに変えるための手段であった。
さらに、番組内で取り上げられた「闘病中の子供たち」のエピソードも、過度な演出によって編集されていたことが判明する。子供たちの言葉は切り取り、編集され、実際には言っていないセリフが追加されていた。その場面が「生放送」として放送された事実に、視聴者は疑いを抱かなかった。小林は震える手でその資料を閉じた。「これは……詐欺に等しい。」
山田が机に両手をつき、厳しい表情で小林を見た。「視聴者は感動に酔いしれていた。だが、その感動は作られたものだ。これは単なる演出の範囲を超えている。」彼らは、番組制作に関わるスタッフたちの証言を集めることを決意する。過去の番組に携わった者たちの中には、真実を語りたい者がいるはずだと考えた。
数日後、小林と山田はかつて番組に参加していた元スタッフの山下と接触した。彼は当初、口を閉ざしていたが、次第に重い口を開き始めた。「最初は僕たちも信じていたんです。善意のために働いているって。でも、次第に演出がエスカレートしていった。泣かない子供には泣くように指示し、病気の人たちの苦しみをあえて強調して撮影したんです。いつの間にか、それが当たり前になっていた。」
小林は山下の証言に震えた。善意の仮面をかぶった偽善の世界が、こうして作られていたのだ。彼は、これらの事実を世に出すことの重さを改めて感じた。真実を公表すれば、多くの人々が抱いていた感動や信念が崩れ去るかもしれない。しかし、それでも、偽りの善意の上に成り立つ募金の実態を暴くことこそが、今や彼に課された使命だった。
「この世界は、善意を食い物にしてきたんだ。」小林は呟くように言った。そして、彼の目には決意の光が宿っていた。過度な演出によって捏造された感動、その裏に隠された真実を、今こそ暴かねばならないと。
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