第4話 裁かれた善意

報道陣が詰めかけた記者会見場は、緊張と熱気に包まれていた。局の会見が始まる数分前、マイクを手にした記者たちの視線は、壇上に立つ制作局長・小野寺に注がれている。会場の隅に立つ小林健太の心は嵐のように乱れていた。彼は佐藤から受け取った決定的な証拠を握りしめ、今まさに局の真実が裁かれる瞬間を待ち構えていた。


「お集まりいただき、ありがとうございます。」小野寺の声がスピーカーから流れ、会場のざわめきが収まる。「まず初めに、募金に関しての不正に対し、深くお詫び申し上げます。」彼の声は表面上は丁寧だが、その裏にある冷徹さを隠しきれていなかった。「しかしながら、これらの不正は一部の局員による独断であり、組織としての関与は断じてございません。」


その言葉に、カメラのフラッシュが瞬く間に光り、記者たちから一斉に質問が浴びせられる。「募金の使途に関する詳細は?」「局の責任はどう取るつもりですか?」小野寺は予定通りの言葉を並べ、局の責任を個人の不正に押し付けようとする。その瞬間、小林の手に汗がにじむ。これまで彼が見てきた真実が、またもや闇に葬られようとしているのか。


しかし、小林は壇上に向かって一歩踏み出した。「それは、事実ではありません!」彼の声が会場に響き、全ての視線が彼に集中する。記者たちの間から驚きの声が漏れ、小野寺の顔に一瞬の緊張が走る。小林はその場で、佐藤から受け取った証拠を手に取り、高く掲げる。「ここに、募金がどのように局内で使われていたか、そして局員による着服の詳細が記された証拠があります!」


一斉にカメラのフラッシュが炊かれ、小林は深く息を吸い込み、証拠の内容を次々と明かし始める。募金が局の内部経費として計上され、さらに局員たちの個人口座へと不正に振り込まれていた事実。小林の口から語られるその一つ一つの事実に、会場内の空気は凍りついていく。小野寺の表情は歪み、彼は何とか反論しようとするが、小林の声がそれを圧倒する。「これは、組織全体による計画的な行為です!」


佐藤が前に進み出る。「私もまた、その一員でした。」彼は罪悪感に押しつぶされそうになりながらも、局員による募金の私物化の実態を告白する。会場は一瞬の沈黙に包まれ、その後、怒涛のような記者たちの質問が飛び交う。「これは本当ですか?」「局は何を隠しているのですか?」小野寺の顔は蒼白になり、局の幹部たちが慌てて会場を出ようとする。


しかし、小林は追撃の手を緩めない。「あなたたちは、視聴者の善意を利用し、偽りの感動で私腹を肥やしてきた!」彼の言葉は怒りと悲しみに満ちていた。「チャリティー番組は、善意のためのものではなかったのですか?」その問いに、小野寺は言葉を失う。全てのカメラがその瞬間を捉え、局の腐敗と偽善が全国に拡散されていく。


会見は混乱の中で終了し、小林と佐藤は記者たちに囲まれながら、局の崩壊の始まりを見届ける。視聴者たちはこの真実に激怒し、募金の全貌を明らかにするためのさらなる調査が行われることが決定される。局は外部の圧力を受け、内部調査を強いられる。これまで隠されていた数々の不正が次々と明るみに出る中、局員たちはその罪の重さを思い知らされることになる。

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