第2話 真実を暴く闇の扉

夜のテレビ局ビル、エレベーターが最上階へと音もなく進む。小林健太の手には、かろうじて手に入れた募金データのコピーが握られていた。意を決して彼が向かったのは、通常立ち入りが制限されている「特別会議室」。そこでは、局の上層部が募金の集計を終え、今まさに利益分配の最終確認を行おうとしていた。


エレベーターの扉が開くと、廊下には異様な静けさが漂っていた。遠くから聞こえる低い話し声に導かれるように進むと、会議室のドアから漏れ出る声が聞こえる。「今年も上出来だ」「次のプロジェクトへの資金も潤沢だ」。その言葉に、募金がどのように扱われているのかの一端が透けて見えた。


小林はドアを少しだけ開け、中を覗き込む。豪華な会議テーブルの上には、何冊もの厚いファイルと寄付金の内訳が示されたホワイトボード。だが、それらの数字は、放送で発表された募金額とは明らかに異なっていた。数千万単位の金額が「諸経費」「宣伝費」の名目で局の内部経費として記載されている。善意で集められた募金の一部が、局の収益として計上されている現実が、彼の目の前に突きつけられる。


そのとき、会議室の奥から制作局長・小野寺の声が響いた。「チャリティーをビジネスに変えたのは我々だ。視聴者は感動を、スポンサーは露出を、局は利益を得る。それで全てが回るんだ。」その言葉は、まさに善意を食い物にする冷徹な計画の全貌を語っていた。小林の心臓が激しく鼓動する。これが真実だ。この闇を暴かなければならない。


小林はドアを押し開け、会議室に踏み込む。突然の闖入者に、会議室の全員が驚き、視線を彼に向ける。彼は震える声で問いかける。「これは、何なんですか? 募金は、視聴者の善意は、一体どこへ消えているんですか?」会議室の空気が凍りつき、しばしの沈黙が続く。そして、小野寺がゆっくりと口を開いた。「お前には関係ない。これは、我々の仕事だ。」彼の目は冷たく、何の罪悪感も見せない。


小林は胸の内にある怒りと絶望を抑えながら、データのコピーを手渡す。「これが証拠です。僕は、この事実を世間に公表します。」その言葉に、会議室内の空気が一変した。上層部の幹部たちは顔を見合わせ、何かを決断しようとするような視線を交わす。そして、小野寺が笑みを浮かべて言った。「それができると思うのか?お前一人で、この巨大な機構に立ち向かえると?」


小林の心は揺れる。しかし、彼はこの瞬間、自分がどれだけ無力であっても、真実を求める者として進まなければならないと確信する。「僕一人では無理かもしれない。でも、真実は必ず誰かの心を動かす。」そう言い放つと、彼は会議室を後にした。背後では、上層部の焦りと怒りの声が次第に高まっていく。小林は廊下を走り抜け、真実を世に広めるための戦いを始める覚悟を決めた。

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