募金の闇〜報道されない真実〜

湊 町(みなと まち)

第1話 善意の表と裏

都心の夜、煌びやかなライトがテレビ局のビルを照らし、毎年恒例のチャリティー番組「愛の24時間」が始まる。スタジオには、有名タレントたちが集い、募金を呼びかける熱気が満ちている。大画面に映し出されるのは、被災地の子供たちや病院で闘病する人々の姿。観客と視聴者は涙し、次々と募金が集まる。しかし、その裏で一人の男が異なる感情に囚われていた。若手ディレクターの小林健太だ。


「すごい額だな……」


同僚が興奮気味に呟く中、小林はスタジオの片隅でモニターに映る数字を見つめていた。募金総額の数字が増えるたびに、胸に募る違和感。タレントたちが無償で出演し、善意を訴えかける光景の裏に、見えない何かが潜んでいるように感じてならない。


タレントたちの華やかな笑顔の裏には、それぞれの思惑がある。出演することでイメージアップを図り、好感度を上げることで新たな仕事やCM契約に繋がる。事務所にとっても、タレントの露出はビジネスチャンスだ。小林はそれを知りながらも、今回の番組で特に感じるのは、スタジオ全体に漂う「商業的な匂い」だった。これは純粋なチャリティーなのか?その疑念は募る一方だ。


番組の進行が一旦落ち着いた頃、小林は募金管理室の様子を探るため、局内の廊下を歩いた。途中、スタジオから漏れ聞こえるスタッフの笑い声が、彼の心に冷ややかに響く。募金箱の中から現金を取り出し、集計する手つきは慣れたものだ。彼らの間で交わされる


「これでまた視聴率も収益も上がるな」


という言葉に、小林は足を止める。善意の行為がまるで「ビジネス」として扱われていることに、背筋が凍りつく。


小林は制作局長・小野寺のオフィスに向かう。

オフィスのドアを開けた瞬間、机の上にはスポンサー企業との契約書の山があった。


テレビ局はスポンサーからの提供料や広告収入で莫大な利益を得ており、その一部が局の収益として蓄えられている。さらに、小野寺がパソコンの画面に映し出したのは、チャリティー番組で放送されるCM枠の収益計画書。番組のコンセプトとは裏腹に、その数字は明らかに利益を優先していることを示していた。


「これが本当のチャリティーだ。視聴率も、募金額も最高だよ。」


小野寺の冷笑的な言葉に、小林は拳を握り締める。タレントの無償出演は、視聴率を稼ぎ、広告料を吊り上げるための演出に過ぎない。善意を利用して作り上げられた舞台の裏側で、局は収益を上げ、組織を肥大化させていた。小林の脳裏に、テレビカメラの向こうで募金をしてくれる視聴者たちの姿が浮かび、その一人一人の顔が痛いほど胸に突き刺さった。


小林は一歩踏み出す。しかし、オフィスの入口に立ちはだかったのは、局内のセキュリティガードだった。目の前で起きていることは何か。それは、巨大な組織による善意の収奪。その瞬間、小林はこの番組の「真実」に気づく。それは、善意の仮面をかぶった偽善の世界だった。彼は深い息を吐き、心の中で決意を固める。「この闇を暴く」と。

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