第3話 アリアに死亡フラグ
一人洞窟を出た俺は、荒れた岩山を一歩、また一歩と登った。
空は鉛色の雲に覆われ、地平線から立ち上る霧は禍々しく揺らめく。
重たい冷気が肌にまとわりつき、吐く息を白くする。
突如、目の前を威圧するような影が覆った。
来た! いつの間に?
顔を上げると、視界に収まりきらないほどの巨大なドラゴンが口元から青白い炎をくゆらせ、こちらを威嚇していた。
空間転移だ。
体長は軽く十メートルを超える。鱗は氷のような硬い艶を帯び、ごつごつとした爪は岩盤にめり込んでいた。
フロストフレイム・ドラゴン。Sランク!!
目を凝らせば、うっすらと青白いオーラに包まれているのがわかる。
魔力が脈動している。
しかし、青白いオーラの時は魔力が減っている時だ。
空間転移により、魔力が減退したのだろう。
「勝機あり!」
その時だ。
ザザーーーーっと波立つような音を立て、大きく翼を広げた。
その瞬間、風が吹き荒れ、周囲の岩肌は霜で覆われた。
間一髪で体を翻して難を逃れたが、あれに当たっていれば氷漬けにされてしまうところだった。
炎と氷の魔力を併せ持つその巨体に向かって、俺は剣を構え詠唱する。
「全ての時を司る神よ、我が刃に力を宿せ。因果を断ち、瞬間を裂き、終焉の闇を切る光となれ。時間断絶剣!!」
「グオオォォォーーーッキィィィ!!!」
再び大きな翼を広げ、咆哮を上げた。
「グオオォォォーーーッキキキキキィィィ!!!」
風が向かって来る。
その風に向かって剣を振り上げた。
「時間断絶、ぐわっ……」
遅い!
タイミングが合わず、風に衝突した剣の衝撃で、俺の体は勾配を転げ落ちた。
ゴロンゴロンゴロン、グシャ
「いってー、くっそ」
ドラゴンは大きな前足を振り上げ、地面を叩きつける。
ドゴォォォーーー!!
その衝撃で、周囲の岩が粉々に砕け散った。
「よし、今度こそ! 来い!」
剣を両手で構え、深く息を吸う。
「グオオォォォーーーッ」
ドラゴンが翼をバタつかせながら襲い掛かって来た。口内には青白いの炎が渦巻いている。
「今だ! 時間断絶!」
剣を振り上げると、時空を切り裂くような轟音が鳴る。
巨大な爪が頭上から振り下ろされ、剣が受け止めた。
「止まった!」
その隙に、受け身を取り、横へ体を逃がす。
数秒遅れて、ドラゴンの足が地面にめり込んだ。
ドラゴンからは、俺がワープしたように見えただろう。
「ははっ。ざまぁみろ!」
その瞬間、ドラゴンの尾がしなり、再び襲い掛かる。
「おっと」
地面を這う尾を、ジャンプで飛びのき背後を取った。
「神影剣! 覚醒せよ!」
ジャンプして、ドラゴンの背に向かって振り下ろした。
ゴツっと音がして、確かな手応えはあったものの、その強靭な鱗に刃ごと弾かれた。
再び転がされる。
ゴロンゴロンゴロン、グシャ。
「いってーくっそー」
再びドラゴンの口から青白い炎が放たれた。
跳び退きながら、炎の勢いを読む。
「時間断絶!」
剣が光と轟音を放つと、目の前で炎が止まった。
僅かにできた隙に体を逃がし、態勢を整える。
「よし……!」
だが、ドラゴンは怯むことなく再び突進してくる。その巨体が巻き起こす凍り付くような風圧に耐えながら反撃のチャンスを窺う。
「これでとどめだ……!」
ドラゴンがその巨大な口を開け、攻撃を繰り出そうとした。
今だ!!
全身全霊を込めて剣を振り下ろした。
「時間断絶剣ー!」
バキィィィーーーーーーーーンッ
時空が裂ける音と共に、剣から放たれた光がドラゴンの首元に刺さり、レーザー光線のように、体を真っ二つに分断した。
「グオォォォォ……ッ!!」
裂け目から青白い血しぶきを上げ、体を硬直させる巨体は、咆哮と共に消滅した。
瞬間的に剣が作り出した時空と共に、消え失せたのだ。
「ふーっ、危なかったー」
シーンと不気味に静まり返った山を下る、というよりは滑る。
ゴロゴロと転がる岩石と共に、麓に着地した。
「ん? アリア?」
岩陰からアリアの姿が見えた。続いて凛、パリピ社長も――。
「おーい! どうしたの?」
声を張ると、アリアが眉尻を下げて困り顔を見せた。
「すごい振動がして、洞窟が崩れてしまったのです」
片方の頬をぷくっと膨らませた凛が崩れた洞窟を無言で指さした。
「あららー」
ドラゴンをちょっと派手に暴れさせちゃったみたいだ。
「洞窟はまた別の場所で作ればいいんだけどね、伊吹を待ってたんだよ」
凛はそう言って、腕組みをした。
「お疲れさん。手こずったみたいだね。魔力が落ちたフロストフレイム・ドラゴンだったら紅炎剣の方が楽に行けたんじゃないの?」
パリピ社長がイモムシをかじりながらそう言った。
確かにそうなんだけど紅炎剣では魔王に勝てないから――。
その時だった。
突如、大きな影が俺たちを覆った。
刹那。
「危ない!」
アリアがこちらを振り返ったと同時に、俺に覆いかぶさった。
「え?」
一瞬の出来事だった。アリアが青白い閃光に包まれ、冷たく硬直したのだ。
「アリアーーーーー!!!」
すぐに、胸の呪符が振動し、発光し始めた。
「フロストフレイム・ドラゴンの
パリピ社長が叫んだ。
「報復に来たんだ」
凛が掌をかざし叫ぶ。
「グランシールド」
岩壁が一時的にドラゴンを足止めしたが、怒り狂ったヤツの前には薄氷に等しい。
難なく突破し、咆哮しながら迫って来る。
俺は胸に手を当てて呪符を吸い寄せた。
これは、アリアの死亡フラグ――。
「フラグクラッシュ!!!」
3枚の呪符を全て使い切った俺は、フロストフレイム・ドラゴンの前に立ちはだかった。
剣を構え、まっすぐにドラゴンの目を見据える。
「紅炎剣、覚醒せよ!」
大凶勇者帰還~現世で魔王討伐~ 神楽耶 夏輝 @mashironatsume
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