第8話 パーティ復活

 ドゴォォォーーー、ドゴォォォーーー……


 夜の街に爆破音が響く。


「クソ! キリがない」

 次から次へと炎を上げる溶岩ゴーレムが、地面から沸いて来ては立ちはだかる。

 足元は既に真っすぐに立っていられる場所さえ少なくなってきた。

 道路は防護服を着た警備員たちが、大人数で誘導棒を振り、自動車に迂回を指示している。


「伊吹ーーー!」

 どこからともなく、俺を呼ぶ声が聴こえた。


 辺りを見回すと、警備員の人壁の向こうから手を大きく振る凛が見えた。


「凛!」

「こっちこっち!」

 と手招きをする。

 汗でべったりと貼り付く髪をまぜながら、そちらに小走りすると、凛は路肩に止めてある赤い軽自動車を指さしてこう言った。


「乗って!」


「え?」


「町は一旦消防に任せて、ダンジョン封鎖が先! そしたら、こいつら全部まとめて消滅するから」


「そっか。わかった」


 俺は、凛に言われるまま後部座席に乗った。

 警備員たちが、凛の車を誘導する。

「ありがとう」

 と警備員に手を挙げ、凛は勢いよくアクセルを踏み込んだ。

 ブォオオオーーーーン。

 体が後部座席に吸い寄せられる。

「いっくよー! しっかり掴まってて」

「おおおお……オッケー!」


 すぐに炎を上げたゴーレムが行く手を阻む。

「うわぁー、危ない!」

 フロントガラスいっぱいに写り込む巨体に、思わず目を閉じた瞬間、キキキキーーーっと車輪が滑り、同時に体はドアに貼り付いた。

「大丈夫大丈夫! 余裕余裕」

 大丈夫大丈夫。余裕余裕……って、2回言う時は大体怪しいんだよ!!


 凛の車はすごいスピードで、ゴーレムたちの脇をすり抜けて行く。

 車体が揺れるたび、俺の体も左右に揺さぶられる。


「アリアとパリピ社長も、ダンジョンに向かってる。消防車引きつれて行くって」


「そっか。パーティ復活だな」


 凛はバックミラー越しに、嬉しそうな笑顔を見せた。


「座席の後ろに防護マントがある。それ使って。ダンジョン内は恐ろしく熱いから」


「ああ、ありがとう」


 道は外灯も乏しい暗闇に差し掛かる。

 ヘッドライトだけが頼りだ。

 ガタガタと車体が揺れる。

 細いY字路に差し掛かると、ウウウウウーーーーーとサイレンを鳴らす消防車と合流した。


「アリアたちだ!」


 凛が嬉しそうに消防車に向かってパッシングする。


 消防車も答えるようにライトを明るくした。




「着いたよ」

 そう言って、凛はサイドブレーキを引いた。


「ん? なんだ? あれ?」


 火を吹くダンジョンの入口から数メートル離れた場所に、キャンプファイヤーのような火の手が上がっている。


 不思議に思っていると、到着した消防車から次々に隊員が降りて来る。

 アリアとパリピ社長も消防車から降りて来た。


「伊吹!」

 アリアが、笑顔でこちらに駆け寄る。

 悠々と歩いてくるパリピ社長に手を挙げて挨拶した。

 社長は、まるで寄り合いに遅れてやって来た、偉い人みたいだ。

 全く緊張感がない。


 皆、一様に、不思議そうな面持ちでキャンプファイヤーをチラ見する。


「なんだろうね? この火」

 俺が再びそう言うと「キャー!」とアリアが頬を赤らめた。


「ん? 何?」


「ゴ、ゴーレムが……」

 そう言って、アリアは赤く染めた頬を両手で覆った。


 よく見てみると、確かに炎を上げるゴーレムが数体重なり合うようにして、何やら蠢いている。


「あはは~、やってるねぇ」


 パリピ社長が嬉しそうにそう言った。

 それで、俺もピンと来た。後尾してるのだ。


「珍しいな、こんな時に、こんな所で、後尾するなんて」

 そう呟くと「早く行こう。ゴーレムの後尾は長いから、ちょうどいい足止めよ」

 凛がそう言って、防護マントを羽織った。


「確かに、ゴーレムは後尾始めたら、攻撃どころか寝食忘れて朝まで腰を振り続けるらしいから、ちょうどいいかもな」

 そう言って、パリピ社長も防護マントを羽織った。


「それもそうだな。ボス倒せばどうせこいつらも消滅するわけだし、やらせておくか」

 そう言って、俺も凛が準備してくれていた防護マントを羽織った。


 アリアが「ステイタスウィンドウ」と詠唱して何やら宙を眺めている。

 因みに、それはアリアにしか見えていない。


「伊吹……」


 アリアの表情に陰りが見えた。


「どうした?」


「どうやら、このダンジョン自体が生きているようです」


「え? なに? どういう事?」


「入口からおよそ200メートル先にコアがあります。それを破壊すればクリアですが……」


「楽勝じゃん。消防のホースってそれぐらい伸びますよね?」

消防士に確認すると力強く頷いた。


「コアは直径およそ30センチの塊です……。直径10メートル、深さ計測不能のマグマの中にあります。マグマの温度はおよそ1500度。しかも動いてる……」


「無理ゲーじゃん」


「しかも厄介なのは、5メートル先から急激に通路が狭くなっている事です。大人が1人屈んでやっと通れるほどです」


「マジかー」


「入口は消防車一台どうにか通れそうにも見えますが、すぐに狭くなっているようですね」


「内部に侵入するのも最低限の人数で行こう。俺と伊吹君。二人で行くのが有効だろう」


 パリピ社長が俺の肩を叩いた。


「確かに」


「俺が消防のホースを持って伊吹君を援護する。マグマまで到達すれば、どうにかなるっしょ」


「そうっすね。行きますか」


「ちょっと二人、軽ーーーい! 大丈夫?」

 凛があきれ顔を見せる。


異世界あっちでも、なんかこういうのありましたよね?」

 パリピ社長に訊ねると

「あったあった。あれ、どうやって突破したんだっけ?」

 と、腕組みをした。


「どう……でしたっけ?」

ボス戦は毎回過酷過ぎて、脳が記憶をとどめておく事を拒否しているかのように、ぼんやりとしか思い出せない。


「まぁ、行ってみよ」


 パリピ社長はそう言って、消防のホースを小脇に抱えた。

「そうっすね」


 俺には一つ気がかりな事があった。

 冒険者協会の人達が来た時、呪符が光ったのだ。


 あれは、俺の勇者フラグだと思っていたが、もしかしたら、俺の死亡フラグの可能性もあるな……なんて事を思いながら、胸に手を当てた。


「ブレイブソード」


 どちらにしても、クラッシュしておけばよかった……かも知れない。

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