第6話 勇者誕生!!! ちょっとだけ胸糞あるけど次でザマァするので我慢してね♪
ゴゴゴゴ……
いやぁな地響きが地面から足を伝う。熱気を帯びた夜風が、焦げた臭いを運んでは鼻先を擦る。
地平線の向こうにはオレンジ色の炎が空を染め、黒煙が舞い上がっている。
そちらに向かって、聖剣を握りしめ、俺は全力で走った。
ウウウーーーーーというサイレン音が追いかけて来る。
消防車だ。
俺はその赤い巨体に向かって両手を振った。
「こっちだー! こっちこっち!」
消防車の窓が開き、消防士が片手を上げてOKの合図を送ってきた。
ズン、ズンという地響きは徐々に大きくなり、炎を上げる巨体を露わにした。
「1,2,3……8体か」
目に映るだけで8体の溶岩ゴーレムが跋扈していた。
1体がこちらに気付き、向かって来る。
で、デカい!
異世界よりも一回りぐらいデカい。
メラメラと巨体から炎を上げながら近づいてくる。
俺は消防車の前に背を向け立ちはだかり、両手を広げ上下に大きく振った。
消防車は停車し、すぐさま消防隊員が数名下りて来た。
手際よく、道路わきに設置されている消火栓にホースを繋げていく。
「おい! そこの冒険者! 放水のタイミングを指示してくれ」
「わかった」
消防士たちは、俺が剣を持っていたから冒険者だと思ったのだろう。
ズンズンと近づく溶岩ゴーレムに真正面から向かい合う。
「紅炎を纏え! 全てを焼き尽くす炎よ、覚醒せよ!」
メラメラと聖剣が炎を宿した。
「今だ! ほうーーーーすーーーい!!」
「よし、放水開始!」
声と同時に、俺の真上から、勢いよく水が放たれた。
◆◆◆
『こちらヘリ中継班です。富士山麓、青梅三原地区上空よりお伝えします!』
テレビは上空からの映像を映し出している。
燃え盛る街。
悠々と闊歩する炎に包まれた巨体を、北条篤弘は自宅のリビングで見ていた。
消防車が数台で囲み、巨体目がけて放水している。
「ふっ、無駄だよ。溶岩ゴーレムは、水を浴びて一時的に火が消えても、またすぐに燃え始める。剣では歯が立たない。装甲車もすぐに引火して返り討ちに遭う」
北条は高みの見物とばかりにソファにふんぞり返り、ほくそ笑みながら足を組んだ。その時だ。
『ドゴォーーーーーーーー!!!』
爆音と同時に、画面にノイズが走った。
『うわっ! わぁーーーー!!!』
レポーターの戸惑う声をマイクが拾った。
『何という事でしょう! 溶岩ゴーレムが爆発しました。今、一体何が起きているのでしょうか』
「なに? 溶岩ゴーレムが爆発した? そんなバカな」
前のめりで画面にかじりつく北条。
態勢を整えたカメラが、画面にその全容を映し出した。
消防車から放たれる水の中で、次々にゴーレムが石クズとなって崩れ落ちる。
「なんなんだ? これは?」
崩れ落ちた岩の向こうに姿を現したのは、黒いパーカーの男。手には炎を上げる剣が握られている。
「は? まさか……矢羽?」
北条の膝はガクガクと震えていた。
一体どんなカラクリで、こんな事ができるというんだ?
『あれは、冒険者でしょうか? かなり若い男性に見えます。見ようによっては高校生? 高校生ぐらいでしょうか?。次々に溶岩ゴーレムを爆破させていきます。一体どういう事でしょうか? スタジオの大木さん、聞こえますか? 大木さん? 大木さん! スロー映像が確認できますでしょうか?』
『はい! スタジオの大木です。今、スロー映像を準備中です。もうしばらく……あ、出ました。出ましたね。スロー映像ご覧いただけますでしょうか?』
司会者のタイミングの後、映像が流れて来た。
消防車から放たれた水とほぼ同時に、ゴーレムの胸元を剣で刺す矢羽伊吹の姿がある。
剣は水を浴びてるにも関わらず、火は消えていない。
つまり水の中で燃え盛る剣をゴーレムに刺している。
「は? 蒸気か?」
表面の火を消したと同時に、水分を含んだゴーレムの体の中を火で急激に温め、蒸気で爆破させてる?
『中継の今泉さん、聞こえますか? 今ですね、冒険者協会から情報が入りました。彼はですね、正式に教会が認定した……え? 勇者? 勇者だそうです! ちなみに現段階では勇者という称号はないため、SSランクの冒険者という登録になっているようですが、協会が正式に認めた勇者だそうです! 世界初のSSランク冒険者と同時に、勇者が誕生した、との事です! 勇者誕生です!!』
興奮気味に、勇者誕生を伝えるテレビを、北条はパチっと消した。
「クソ! クソ! クソ!!! 宮田ー! 宮田ーーー!」
北条は大声でマネージャーを呼んだ。
「篤弘様、お呼びでしょうか?」
腰を低くして、マネージャーの宮田が入室した。
「パーティメンバーを招集してくれ。今から富士山麓ダンジョンに行く。あいつがゴーレム狩り切る前に、ダンジョン封鎖するぞ」
「篤弘様?」
宮田は更に上体を低くした。
「大変申し上げにくいのですが、針木太陽さん(パリピ社長)、美加護アリアさん共に、先ほど脱退されました」
「はぁ? 脱退だと? そんなの認めない!」
「しかし、篤弘様にそのような権限はございません」
「何? 権限はないだと?」
「はい。冒険者は皆、自由意志でパーティに参加しております。来る物拒まず、去る者を追う事はできません。ただ、小日向凛さんだけは、まだパーティメンバーでございます。招集しますか?」
北条はニヤリと笑った。
彼女も一応は魔力持ち。
しかも昼間に、自分のモノにしたばかり。
「なかなかいい体してたな」
そう呟き、余韻を思い出す。
「すぐに連絡してくれ」
ご褒美に、またテイムポーションでも舐めさせれば喜ぶだろう。
女は皆、俺とやりまくりたいんだ。
「かしこまりました」
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