第6話 魔王は生きている?
「出現するはずなかった階層に突然モンスターが現れたのです。チームはパニックに陥って、父は地質用ハンマーでモンスターを殺しました」
「よかったじゃん」
「いいえ、よくないのです。この国の法律では、適性を持っていない人間がモンスターを狩る事は禁止されています」
「え? なんで?」
「なぜそういう法律になっているのかは、明らかにされていませんが、恐らく多額のお金が動くからではないでしょうか?」
「モンスターを狩れば魔石でも生むっていうのか?」
「そういう事です。アニメやゲームみたいに、あからさまに魔石が転がり出すわけではないですが、不思議な力の宿ったモンスターの毛皮や牙は、高値で売り買いされています」
「なるほど」
「なので、この話が明るみに出れば、父は犯罪者になってしまうのです。初犯でも禁固刑が科される重い罪です」
アリアは暗い顔で俯いた。
「酷い法律だな。それで。アリアがここにいるのと、どう繋がるんだ?」
「私が北条さんに協力する事を条件に、この事件をもみ消すと言われて……」
「アリアが北条に協力してた?」
「はい。北条さんのパーティに参加しています。先日、青梅三原ダンジョンの最深部に出現したネクロドラゴンを、一緒に倒しました」
「え? ネクロドラゴン!?」
死霊を操るネクロモンスターに対抗できるのは聖霊の力。聖なる魔法だけがネクロドラゴンを倒す事ができるはずだ。
異世界ではパリピ社長の魔力と俺の聖剣で倒したのだが。
「どうやって倒したんだ?」
「パリピ社長が、パーティにいます」
「え? パリピ社長も?」
「はい。しかし、パリピ社長は魔法が使える事は公にしたくないそうです」
「そりゃあ、そうだろうな」
「凛さんもパーティにいます」
「え? 凛も?」
「はい。しかし凛さんの魔力は異世界にいた時よりもかなり弱くなっています。しかしDランクの適正を認められました」
「そっか」
「この世界には、まだ魔法を使える人間はいません。不思議な力を持つ事は、今のところ隠しておくのが得策です。パリピ社長はこっそり北条さんの剣に魔法をかけました」
「やっぱり。おかしいと思ったんだよな。あいつの実力だけでSランクなんて……」
「しかし、仕方がありません。パリピ社長はこちらの世界で多額の借金があるそうです。幸い、A級冒険者のスキルが認められました」
金のためか……。
「私も、北条さんに協力する事を条件に、父の件をもみ消してもらいました。この高校への編入を勧められて、転校を余儀なくされたのです」
「手元に置いて、監視するためだな」
「はい。恐らくそういった意図だと思います」
「汚いやつだな」
「けど、驚きました! 伊吹がいたんですもの。けれど、昨日までの伊吹は私の事なんて全然知りませんでした。だから察したのです。私の知ってる勇者の伊吹は、まだ異世界で闘ってるんだなって」
「さすが。察しがいいね」
「逢いたかったです」
「え? お、俺も、会いたかったっていうか、SNSとかで調べて連絡取るつもりでいたよ。向こうでは、個人的な情報については何も話さなかったから会えるか心配だったけど、まさかこんなに早く逢えるなんて」
「ふふ、そうですね。毎日不安で、心細かったです」
「そっか、なんかごめん」
「どうして謝るのですか?」
「いや、随分時間かかっちゃって。魔王討伐」
「それ……なんですが。伊吹、魔王は確かに死んだと思いますか?」
「え? 死んだだろ! 俺が確かに葬った」
「だとしたら、この状況は、なんなんでしょう? 地球上にダンジョンがあって、モンスターが生息してるなんて」
「それは……俺にもわからないよ」
「それに、何よりも変なのは、私達の体験です。実際に過ごしてきた過去3年間は確かにあったはずなのに、全てが書き換えられています。私達だけじゃない、全世界の記憶も歴史も変えられてるのです。女神は言いました! 召喚される寸前の世界に寸分狂わず戻すって」
「ああ、確かに。その約束通り、戻って来たはずなんだよな」
「紛れもなく、同じ時、同じ場所のはずですね」
「まさか、魔王の魔力?」
「魔王クロノスは、時を操る覇者。死んだと見せかけて、逃げた……とか」
「ブラフ?」
「宇宙の藻屑になったんじゃなくて、時空を超えて3年前の地球に移動した。そう考えると合点がいくと思いませんか?」
魔王クロノスは、時を操り、異世界から四季を奪った。凍えるような冬のまま止まった世界では、動物も植物も繁殖せず、モンスターだけが増え続けていた。
俺が戦ったあの瞬間、魔王クロノスは時空を超えて3年前の地球に移動したのだとしたら、異世界に行っていた俺たちが知らない3年間が存在するのは、確かに合点が行く。
けれど、俺は――。
「ごめん。今、考えたくないよ」
「伊吹!」
「俺、昨日まで異世界で……。みんながいなくなった後、たった一人で過酷な戦闘を潜り抜けてきたんだ。悪いけど、今考えたくないわ」
アリアに背を向けて階段を駆け下りた。
俺の功績を否定されたみたいで、なんだかモヤモヤした。
アリアにだけはあんな事言われたくなった。
大人げないと思ったが、頭と心が混乱して、俺は素直に前向きになる事ができずにいた。
ただ一つだけ……。
時空の歪みによって、父は事故を回避したのだとしたら、それは喜ぶべきことだ。
浮羽と北条の関係も、もしかしたら俺が知ってる現状ではないのかも知れない。
ふと、そんな事が頭を過った。
Side—浮羽
あの日の記憶は曖昧だ。
私はどうして、あの日、あの時、北条君の腕に抱かれて、あんな事を言ったのだろう?
「はぁ、はぁ……浮羽は……S級冒険者の、北条君に抱かれて……幸せな女です。あっ、あああーーーー。もっと、愛して……ください……」
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