第13話 試作品の誕生

会議室のドアが静かに閉まり、由美は新たに生まれた「午後の紅茶」の試作品を前にして、深い呼吸をついた。ついに、現地市場向けの新しいフレーバーが完成し、試飲会を行う日が来た。彼女の目の前には、現地の消費者ニーズに応えた試作品と、日本のオリジナル風味を保持したプレミアムラインが並んでいる。


「ここまで来た…」

由美はその試作品を見つめ、これまでの道のりを思い返していた。文化の違い、消費者の嗜好、ブランドの本質との葛藤…。すべてを乗り越え、今、試作品が現実のものとなった。


会議室には、現地のマーケティングチームのリーダー、リチャードや現地のパートナー企業の担当者たちが集まっていた。これから、この紅茶を市場に送り出すために、彼らの意見を聞くことが重要だ。


「では、早速試飲を始めましょう。」

由美の合図で、アシスタントたちがテーブルにカップを配り、紅茶を注いでいく。現地向けに開発した新フレーバーと、プレミアムラインの両方がそれぞれのカップに注がれ、会議室には豊かな香りが広がっていく。


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参加者たちは一口、また一口と紅茶を口に含み、慎重に味わっていた。沈黙が続く中、最初に口を開いたのはリチャードだった。


「驚いた。現地向けのフレーバーは、思ったよりも軽やかで、バランスが取れている。これなら、現地の消費者も受け入れやすいだろう。」


由美はリチャードの反応に胸を撫で下ろした。だが、次に聞こえた別の声が、彼女の心に再び緊張感を呼び起こした。


「しかし、プレミアムラインの方は…少し強すぎる気がする。現地の消費者には、これが本当に受け入れられるのか疑問だ。」

それは現地パートナーの意見だった。


由美は一瞬言葉を失った。プレミアムラインは日本での成功を象徴するものだが、それがこの市場で受け入れられないという意見が出たことに、ショックを隠せなかった。


「確かに、少し挑戦的な味かもしれません。しかし、これは『午後の紅茶』のアイデンティティを守るためのラインです。私たちは、現地向けのラインと同時に、この日本の伝統を広めたいと考えています。」

由美は力強く反論した。


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会議が終わり、試作品の評価が出揃った。現地向けフレーバーは大方の賛同を得たものの、プレミアムラインに対する意見は賛否が分かれた。由美はそれを踏まえ、どうすればプレミアムラインをより現地市場に馴染ませることができるのか、考えを巡らせていた。


その夜、彼女はホテルの部屋で再び資料を見直し、次の一手を考えた。「プレミアムラインを守りながらも、現地に合わせたアプローチを模索しなければ…。」由美の頭の中で、さまざまなシナリオが交錯していた。


彼女は立ち上がり、部屋の窓から夜景を見つめた。「どれだけ困難でも、この挑戦を諦めるわけにはいかない。」自分にそう言い聞かせ、次のステップへと心を固めた。

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