第2話 紅茶の裏側へ

会社のカフェスペース。湯気を立てるコーヒーマシンの音が、静かなオフィスに響いていた。由美は「午後の紅茶」のボトルを片手に、隅のテーブルに腰を下ろす。彼女の心は重く、今日の会議で浴びた冷たい視線が頭から離れない。


「情熱だけじゃ現実は変わらない…か。」

自分でもわかっている。でも、それでも諦めたくない。由美の手元にある紅茶のボトル。それを見つめると、胸の奥から湧き上がる感情を抑えられない。


「石川先輩、大丈夫ですか?」

ふと、聞き慣れた声が由美の耳に届く。顔を上げると、開発部の若手社員、中村由香が心配そうに彼女を見つめていた。由美は慌てて微笑み返す。「あ、由香ちゃん。大丈夫、大丈夫…ただ、ちょっと考え事をしてただけ。」


由香は由美の前に座り、「午後の紅茶」のボトルをじっと見つめた。そして、ポンと手を打つ。「そうだ!先輩、紅茶の開発部に来てみませんか?」

「え?」由美は目を瞬かせた。

「紅茶の開発部ですよ!先輩、知らないことがたくさんあるはずです。あの人たち、紅茶にかける情熱がすごいんですから!きっと面白い話が聞けますよ。」


由美の心がざわめく。紅茶の開発部。その名前だけで、彼女の胸に一筋の希望が差し込んだ。由香の言葉に誘われるまま、二人は社内の奥にある開発部のラボへと足を踏み入れる。


ラボの扉を開けた瞬間、由美は息を呑んだ。広い室内には、茶葉の香りが漂い、所狭しと並べられた試験管やビーカーが、まるで秘密の実験室のように輝いていた。白衣を着た開発者たちが黙々と作業をしている。その中心に立つのは、開発部のチーフ、大塚健だった。


「おや、マーケティング部の石川さんじゃないか。」

大塚は紅茶の入ったカップを手に、にこやかに微笑んだ。由美は緊張しつつも頭を下げる。「大塚さん、突然お邪魔してすみません。開発部の様子を見学させていただければと…」


大塚は頷き、由美に手招きした。「まぁ、遠慮するな。ここでは紅茶が主役だ。」彼は棚から一つのボトルを取り出すと、それを由美の前に差し出した。「これは、試作品の一つだ。まだ市場には出ていないが、我々が追求している紅茶の未来だ。」


由美はそのボトルを手に取った。キャップを開けると、芳醇な茶葉の香りがふわりと広がる。その香りを吸い込んだ瞬間、彼女の胸に熱い何かがこみ上げた。これだ。彼女が伝えたいのは、この瞬間だった。


「大塚さん、この紅茶は…」由美の声は震えていた。

大塚は頷き、「紅茶には物語がある。茶葉が育つ畑、製造の工程、そして私たち開発者の想い。それらすべてが一杯の紅茶に込められているんだ。」彼の言葉に、由美の心は大きく揺れ動いた。自分が追い求めていたものが、ここにある。彼女は気づかされた。紅茶の裏側にある物語。それこそが、彼女が世に伝えたかったものだ。


「私…この物語をもっと知りたいです。」由美は涙を堪えながら、大塚に告げた。「そして、これを多くの人に伝えたい…」


その時、大塚は静かに微笑んだ。「石川さん、君の情熱、我々に見せてくれないか?」

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