28.評判と自信過剰

「ロイ!!」


 神子とドラゴンの紹介が終わり解散した後、アスはまっすぐロイの方へと駆け寄って行った。騎士達はその広場で訓練を始めたが、ロイはその中に混じらず浮かない顔をしていた。


「アス。……すまない」

「……何が?」

「いや、その……」

「よっ、ロイ!」


 と、知らない声がロイに声をかけた。声の方を見ると、二人の男がアスとロイに近づいて来ていた。


「あっ、神子様もおられたんですね! 私、ロイと同期のゼットと申します!」

「俺はラクトっす! よろしくお願いっす!」


 こんなわかりやすい見た目をしていて自分に気付かないわけないだろう。そう思いながら、アスは二人に向き合った。さもロイとは親しくしていると言わんばかりの二人の言葉とは裏腹に、ロイは二人と目線を合わそうとしなかった。


「はじめまして。アスと言います。明日の訓練はよろしくお願いしますね」

「見ててください! 魔物なんて楽勝っすよ! ロイだって倒せるレベルのなんっすよね?」

「神子様はご存知無いかもしれませんが、こいつ人と戦う訓練できなくて、生贄の姫様の近衛騎士に逃げたやつなんですよ! あ、近衛騎士って言ってもどうせ死ぬ姫の近衛騎士なんで、大したことないっていうか!」


 ゼットとラクトは、聞かれてもいない事を自信満々にアスに語って聞かせた。そして、意地悪そうな顔をロイに向ける。


「つか、ロイ! 姫様と逃げ出したんじゃなかったのかよ! 姫様もおまえとは嫌って事で戻る気になったのか? つか、やる事やったのか?」

「リア様とはそのような関係ではない! それにリア様は……」

「あー、怖い怖い! 相変わらず真面目ちゃんですねえ!」


 そう言って、ゼットとラクトは笑った。その笑い方もロイを馬鹿にするような笑い方で、アスは内心イライラが止まらなかった。けれども、それに言い返すのも相手にネタを提供するだけでしかないという事もわかっていた。


「ロイの実力しか知らないですが、王国の騎士団はそんなにもレベルが高いんですね」


 アスは何も知らないフリをしながら、笑顔で返す。そうすれば、二人は嬉しそうにまた語り始めた。


「そうなんっすよ! そうなんっすよ! いや、神子様の魔法には敵わないっすけど!」

「雷の魔法とか凄かったですよ! 流石神子様、本当に同じ人間とは思えないです! いや、神子様を同じ人間と言うのはおこがましいかもしれませんが……」

「いえ、俺も国を四方八方守ることは難しいので、皆さんのご協力が必要です。明日、是非お二人の実力を見せてくださいね」

「勿論っす!」

「楽しみにしててください!」


 表面的な褒め言葉を、アスは受け取ったフリをする。ゼットとラクトは、神子と仲良くなれたと思い満足したのか、アスとロイの前を機嫌よく去っていった。アスがロイの方をチラリと見ると、気まずそうに俯いていた。


「ロイ」

「あ、あのだな……。確かにあいつらの言う事は間違ってはいなくて……。俺は訓練一つまともにできなくて……」

「ロイがそう思うのは、ロイに任せてくれているリアや国王陛下に失礼だと思う」

「……っ。それは、そうかもしれないが……」

「それに、今はもう大丈夫なんじゃないの? 俺と会った時、俺と戦って実力試そうとしたじゃん」

「あれは……! 流石に攻撃を自分に仕掛けられるのは怖くないというか……。正直おまえをナメていたのもあるが、攻撃を受けるだけでこちらから仕掛けるつもりもなかったからな……。流石に守るぐらいはできる」


 そう言うロイは、アスとも目を合わせようとしなかった。アスは、訓練風景をチラリと見る。ゼットとラクトの動きを見ても、ロイに勝ってるとは思わなかった。寧ろロイよりも洗練されていないようにも見える。それに、リアを大事にする国王陛下が、実力を伴わない人間をリアに付けるとも思えなかった。

 ふと、アスは良い事を思いつき、ニヤリと笑った。


「ロイ、中くらいの動物が入るぐらいの頑丈な檻ってある?」

「檻、か? 探せば無くはないと思うが……」

「まあ俺の魔法で作れるか。ロイ、ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど、森まで付いてきてもらえない?」

「それはかまわないが……」


 ロイは訝しげにアスを見る。アスと目が合うと、ロイは何故かピクッと体を震わせた。


「なに、するつもりだ」

「ちょっとね。だって、あの二人は少なくとも、魔物なんて楽勝なんでしょ?」

「まさか……」

「ちなみに俺は何もしないから、なにか危険な事あったら二人のこと守ってあげてね」


 アスの言葉に、ロイは困ったように笑った。


「そんな、そこまでしなくていい」

「ただの実践訓練だって! それにあの人達、余裕って言ったんでしょ? じゃあ大丈夫だって!」

「そう、だな。ありがとう、アス」

「別に何もしてないって」


 優しいロイがそんな事を望んでいない事も、ただの自己満足でしかない事もわかっていた。ただロイを馬鹿にされて、アス自身が許せないだけ。それでちょっとロイの周りの環境が良くなればそれで良かった。





「今日は、皆さんの実力を見せて頂ければと思います」


 次の日、アスは闘技場を会場とし騎士を集めた。流石に騎士団長にだけは方針を伝えたが、騎士団長も快く了承してくれた。寧ろ魔物をナメている騎士が多くいるとの事で、実際に対面させると言うと良い考えだとニヤリと笑った。


「ゼットさん、ラクトさん」


 アスは二人に近づく。神子に話しかけられた事が嬉しいのか、二人ともテンションが上がっていた。


「是非代表して実力を見せてください」

「神子様! 当然ですよ!」

「何するんっすか!?」

「そうですね。お二人以外は閲覧席に行って頂けますか?」


 アスがそう言えば、皆疑いもなく閲覧席に向かった。これで魔物が無作為に襲うことは無いだろう。ロイも魔物を放つタイミングで物陰に隠れてもらう予定だ。


「では、準備するので少々お待ちください」


 アスはそう言って、ワープを使い魔物を隠していた場所に向かった。そうして、アスが魔法で作った石の檻を、蔓の魔法で運ぶ。布で隠してあったが、ガタガタと揺れるそれが一つ運ばれてきたとき、闘技場内は静まり返った。


「神子様、それは……」

「魔物なんて余裕なんですよね? 是非倒してみてください」


 そう言ってアスもその場から離れた。と、同時に1体の魔物を場に放った。

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