27.お披露目と印象

 出来上がっだ神子の衣装は、白をベースに金の糸で刺繍を施された豪華なものだった。ただ動きやすさも重要視されており、少しいつも着ている服よりも重い程度で困ることは無かった。

 難点と言えば汚れやすい事だが、何着も用意されるとのことで問題は無いのだろう。値段がどれ程かかったのかは知らないが、第一印象のためと言われたら仕方ない。更に白いマントを羽織ったら完成だ。


 廊下に出ると、ロイが待っていた。アスの姿を見ると、ロイはマジマジとその姿を見た。


「似合わないでしょ」

「いや、似合ってはいる。服が変わるだけで一気に神子っぽくなるなと」

「似合ってはってどういうことなのさ」

「お得意の営業スマイルでもしておけば問題ない。安心しろ」


 なんとなく、部屋にあった鏡を見る。流石に自分のために一生懸命やってくれて人達の前で大きな声では言えないが、黒髪は白い服から浮いている気がするし、営業スマイルはなんだか胡散臭く見えてしまった。


「では神子様、国王陛下も待っておられます。行きましょう」


 と、ロイが急に改まってアスに言った。


「ここからそれするの?」

「慣れておけ。公式の場だ」

「はいはい。わかりました、行きましょう」


 今日は国王陛下から、正式に騎士団に神子の紹介がある。その時にクロの事も正式に紹介する予定だ。噂は流れているようだが、騎士団の中でも信用しきれていない人が多いらしい。


 一方クロの現状だが、世話係が付けられ、そんな噂など気にもせず順調に育っている。最初は世話係にも恐れらたが、人懐っこい性格からか次第に可愛がられているようだ。成長も著しく、アスほレベルの重さであればもうすぐ乗ることもできるかもしれなかった。




 ロイに案内された場所は、大きな広場だった。ロイ曰く、普段は訓練所にも使われ、何かあればイベントにも使われる場所だという。

 騎士が広場に整列し、国王陛下が来るのを待機していた。国王陛下の挨拶が終われば、アスの番だ。


 と、ザワザワしていた空間が、シンと静まり返る。騎士団長らしき人が軽く話し、次いで皇帝陛下が前に立った。軽く形式的な言葉が連ねられ、その後強い口調で話し始めた。


「我が国を守るため、神子様が現れた! また、神からのお告げにより、我々が厄災の元凶と認識していた黒いドラゴンもまた、救国のドラゴンと判明した! しかし、厄災の時は近づいており、周囲の魔物が国を襲うこととなるだろう! そこには、騎士団の力が必要不可欠となる! 皆鍛錬に励み、その時に備えてくれ!」


 騎士達は力強く敬礼し、それに答えた。


「本日は神子様にも来て頂いている。神子様は魔法の他、魔物の倒し方にも精通しておられる。鍛錬時でも何かあれば尋ねるように。それでは、神子様こちらへ」


 そう言って、国王陛下の方を見た。アスも頷いて、前に立ち、お辞儀をする。


「皆さん、はじめまして。神子のアスと申します」


 アスは騎士団の人達を見渡す。皆、尊敬というよりは見定めるようにアスを見ていた。そんな様子を見て、アスはニコリと笑う。


「皆様には、俺の力の一部をお見せしますね」


 騎士団は実力が全てだとロイが言っていた。ならば、力を見せつけてやればいい。


 バリバリ、と、ストの村で子供たちに見せたように空中に雷を落とす。それも一つではなく沢山。騎士団員によっては、それでも少しビビっている人もいた。

 けれどもアスは決して恐れられたいわけではなかった。可能なら仲良くしたい。アスは強く風を吹き起こし、そこにいる人達の視界を塞ぐ。

 そうしてその瞬間雷を止め、色とりどりの花吹雪を降らせた。優しく風で花びらを舞わせると、騎士団員達も、国王陛下やロイまでもがその光景に見とれていた。


「このように、自然を自由に操ることができます。この力で可能な限りこの国を守っていけたらと思っています。しかし、神子の力にも限度があります。私がカバーしきれない所を、皆様に補って頂ければと思います」


 そう言うと、大きな歓声が巻き起こった。どうやら、ウケは良かったらしい。皆の目は憧れの眼差しに変わっていた。


「それでは、もう一人強力な仲間を紹介します」


 そう言ってアスは空を見上げた。どこかでリアが待機しているらしく、それを合図にアスが起こしたものとは違う風が巻き起こる。そして、花吹雪の中をクロがやってきた。一瞬恐怖が騎士団員の中に生まれたのをアスは感じた。


「ガウ!!」


 クロがアスの元に降り立つ。アスはクロを優しく撫でた。クロもアスに顔を擦り寄せる。国王陛下も隣にやってきて、クロを撫でた。

 事前に話は出ていたものの、やはり長年の恐怖はあるのだろう。何人かは少し構えている者もいた。けれども、神子と国王陛下が暫く可愛がり、何も害がない様子を見せると、ようやく安心した様子を見せた。


「この子はクロと名前がついてます。人懐っこい子なので可愛がってください。……クロ、火を吐ける?」

「ガウッ!」


 アスが言うと、クロは喜んでと火を吐いた。そんなやり取りを見ていたからか、安心から好奇心へと変わっていく。


「かっけー……」


 ポツリと呟いた騎士団員の一人の言葉をクロは聞き逃さなかったのか、クロはその人の元に飛び込んでいった。そして撫でてくれと頭を差し出す。騎士団員も恐る恐る撫で始めるとすぐに打ち解けていった。

 そんな様子をアスはホッとして眺める。


「ありがとう。これで問題なくクロも受け入れられそうだ」


 と、国王陛下が小声でアスにそう言った。


「クロの性格のおかげですよ。あれだけ人懐っこければ、受け入れたくもなります」

「アス君の最初の導入があってこそだ。もう少し自分に誇りを持っていい」

「それは、全てが上手く行ってからですかね」


 ここに来てからバタバタしすぎて、封印の力をどう強めてていこうかまでは考えられていなかった。けれども、騎士団が上手く魔物と戦えるようになったあたりからは、深く考えていかなければならないだろう。ミレと国王陛下も、ストとリアの動きにより無事会う約束が進み、着々と物事は進んでいた。


 と、クロの件が落ち着いた後、国王陛下が再度口を開いた。


「明日より、対魔物の訓練を本格的に始めてもらう。指南役は、神子様と共闘経験があり、魔物の倒し方を熟知しているロイ・グリニカとする!」


 と、一瞬空気が変化したのをアスは感じた。

良い方ではなく、悪い方だ。


「陛下より指南役を賜りました、ロイ・グリニカです。私の知る限りではありますが、魔物への対処法を教えていけたらと思うので、よろしくお願いします」


 ロイも感じているのか、いつもより覇気が無い。騎士団長が強く拍手をしたが、他の団員の拍手もまばらだった。


『ロイはね、ああ見えて昔はちっちゃくて、虐められてたんだって』


 ふと、リアの言葉を思い出した。アスはロイの隣に立った。


「私も明日は参加しようと思ってます。皆さんよろしくお願いしますね」


 隣から、ロイのホッとしたような息が聞こえた。アスはロイの背中をポンと叩いた。

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