26.真面目と今後

「なるほど。もうすぐシールドの力が弱まり魔物が国へ入ってくるが、神子の力が足りていない。だが一方で、シールドを作るためのクリスタルが魔物を生んでいて、これを期にシールドに頼らない生活を検討する事も可能。ただししかもクリスタルを破壊する事で、争いが起こりやすくなる、と」


 そう言って、国王陛下は静かに考え込んだ。


「クリスタルを破壊するとしても神の国の実験待ちとなれば、すぐに結論を出せる話ではないな」

「俺が問題なく力を使えれば良かったんでしょうけど、申し訳ないです」

「いや、謝らないでくれ。寧ろこれがきっかけで真実を知ることができて運が良かったとも考えられる」

「ありがとう……、ございます……」


 国王陛下はそう言ったものの、ただのフォローでしかない事もアスはわかっていた。けれども狼狽える様子を見せないのは、流石は国王陛下というところだろうか。国王陛下はまた暫く難しい顔をして暫く考え込み、そしてバッと顔を上げた。


「スト君。そのミレという方に私が直接会うことは可能だろうか。直接情報を確認したい」

「た、多分大丈夫だと思います! 誰とでも気楽に話してくれる人なんで!」

「ありがとう。スト君から以来はお願いできるか?」

「はい!」

「リア、スト君に付いて行きフォローして欲しい」

「もちろんだよ!」

「ロイ、明日騎士団を集めるから、魔物を倒すための訓練を仕切ってくれないか。アス君やスト君も、ロイのフォローをして欲しい」

「かしこまりました」

「俺にできることなら!」

「勿論です」

「一先ず魔物が入ってくるのは確実だから、その対策を先行しよう。その後新しい情報を確認しつつ、対策を練ることにする。それから、神子の力が足りていないのは公表せず、公表するのはあくまで神子はドラゴンと一緒に魔物から民を守る存在だったということで良いだろう。丁度黒いドラゴンの伝説も認識を改める必要があるのだから、問題ないはずだ。黒いドラゴンに関しての正式な公表方法は少し検討するが、先ずは騎士団から噂を広めようと思う。その際には神子であるアス君にも協力してもらおう。先程のような感じで仲の良い姿を見せてもらえば問題ないだろう」

「わかりました」


 国王陛下は、次々と方向性を決めていく。そんな姿に安心しつつも、アスは申し訳なさでいっぱいになった。最初から封印の力がきちんと使えれば、もう少しシンプルだっただろう。


「本当に、俺にできることがあればなんでも言ってください。魔法は自由に使えるし、必要なら皆の前に立って説明します。だから……、えっと……」


 アスの言葉に、国王陛下はフッと笑った。


「アス君は真面目な子だ。神子というだけで、要望を出せば何でも聞いてもらえる立場だろうに」

「いや、だって……! そもそも俺の力が不十分だから、そんなふうにされる資格なんて……」


 そうアスが言えば、リアもロイもストも心配そうな顔でアスを見た。皆にそんな顔をさせたいわけではなく、アスは拳をぎゅっと握りしめた。


「やはり真面目な子だ。いや、真面目すぎるくらいだ。全てを一人で抱える必要は無い。我が国の問題だからな」

「でも……」

「敢えて一つ言わせてもらうなら、真面目すぎて抱え込み過ぎることかな。早く言う事で、解決できる事もあるのだよ」

「はい、すいません……」


 確かに神子が現れた事をすぐに伝えていたら、今よりも魔物に対する警戒や今後の検討が早期にされていたかもしれなかった。そう思うと、隠していた事自体が良くなかったのかもしれない。


「一先ず、アス君とスト君には部屋を用意しよう。今日はゆっくり休むといい。スト君は、せっかくだからロイに街含めて色んなところを案内してもらいなさい」

「良いんですか!?」


 ストは、目をキラキラさけながらロイを見た。ロイも、問題ないと頷く。けれどもストのみということは、アスにはやるべき事があるのだろう。


「アス君は申し訳ないが部屋で待機してくれ。先程一緒にいた騎士達に箝口令を敷いてないから、神子の存在も噂で流れ始めるだろう。見た目を整えて、不要かもしれないが護衛も付ける。息苦しいかもしれないが、我慢してくれ。その方が、信用も得やすいのだ」

「わかりました」


 確かに大事な事だろう。人は中身とはいいながら、結局最初は見た目で判断される。毎回魔法を使って神子の証を見せるわけにもいかず、それっぽい雰囲気を見せている方が手っ取り早いだろう。

 国王陛下は、部屋の外にいた使用人に声をかけ、指示を出し始める。

 そんな中、アスは不安そうな顔をしていたのだろうか。リアやロイ、ストがアスのところに近付いてきた。


「何か困ったことあったら、私を呼んでね! 神子様なんだから、私を呼んでも全く問題ないんだから!」

「私の事も呼べ。暇つぶしでもかまわない」

「俺だって、呼ばれればすぐ行くぜ!」


 その言葉に、少しだけ緊張が溶けた気がした。


「みんな、ありがとう……」


 そんな中、国王陛下がアスに近付いてきた。国王陛下は、アスにそっと耳打ちする。


「アス君の周りに付けるのものは、皆アス君の世話を仕事とする者だ。可能な限りやってもらいなさい。これも神子としての役目だ」


 ノックの音がし、部屋の扉が開いた。国王陛下の表情が、スッと変化する。


「それでは、神子様はこちらへ」


 きっとここからは、外向きの振る舞いが必要なのだろう。アスも小さく深呼吸し、外向きの振る舞いに変える。アスは国王陛下に案内されるまま、部屋の外に出た。




 それからは慌ただしかった。風呂に入って体を綺麗にされ、髪を整えられる。採寸もされ、近いうちに専用の服も届くらしい。仮で用意された服も白が貴重の豪華なもので、アスは落ち着かなかった。


 一つ困ったのは、初対面で怖がられる事だった。どうやら、最初に国王陛下達の前に現れた時が、想像以上に恐ろしく見えたらしい。噂は人へ人へと伝わるうちに、笑いながら攻撃して暴れ回った等変化したという。リア曰く、その辺りの噂はすぐに落ち着くとの事だったが、人を怖がらせたままなのは申し訳なかったので、なんとか名前を覚え、優しく接した。


「昨日来てくださったマリーさんですよね! 昨日は身の回りの事色々と教えてくださりありがとうございました!」


 半分営業スマイルではあるが、そんな感じで明るく接していると、次第に噂は落ち着いたのか、皆普通に接してくれるようになった。そしてここに来てから数日が経ち、ロイがアスの部屋にやって来た。


「おまえ……、神子様のお付きになりたいって人が殺到しているようだが、何をどうやったらここまでそうなる」

「えっ……? いや、普通に怖いって噂を消したくて……。何かまずいことになってる?」


 アスがそう言うと、ロイが呆れたようにアスを見た。


「いや、問題は全く無い……。寧ろ問題無さすぎてびっくりしてる程だ……」


 ロイの言葉にアスは首を傾げた。そんなアスを見てロイは溜息を付く。


「一先ず、神子様の服も出来たようだし、噂も充分に広まった。そろそろ表に出なければならない」


 ロイの言葉に、アスも真剣な顔で頷いた。

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