12.努力と興味
重たい門を開ければ、そこには一つの村が広がっていた。レンガ造りが主だったアス達の国とは違い木で作られた質素な町並みだったが、市場では物が売られ、子供は駆け回り、人で賑わっていた。寧ろ、アスの住んでいた街よりも煩いぐらいかもしれない。
「なんだか……、見られていないか?」
「うん。そんな気がする」
アス達が通ると、チラチラとこちらを見る人が絶えなかった。念の為クロを布で隠しながら歩いていたため、クロに反応しているわけではないだろう。なんだか落ち着かず、アスは目線を落とした。
「そりゃあ、ここにいる皆は家族も同然。全員顔見知りなんだぜ! だから、おまえら誰だよってなってんだと思う」
「警戒されているということか」
「んー、確かにそれはちょっとあるかもな。俺達は外に人なんかいねえって思って生きてきたわけだし。興味半分、警戒半分ってとこじゃねえか?」
そんな話をしていると、周囲を走り回っていた子供たちが駆け寄ってきた。子供は、大人とは違い興味が100%という勢いで、目をキラキラさせながらアス達を見ていた。
「ストにい! この人たち誰!?」
「見たことない人たち! どこから来たの!?」
「おまえら落ち着けって! とりあえず長の所に連れて行くつもりだ」
そう言って子供たちを宥めるストは、良いお兄さんに見えた。最初に会った時の勢いを思い出すと意外ではあるが、逆にその勢いもあって子どもたちにもウケるのかもしれない。
「ストにい! いつものあれやって!」
「やって、やって!」
と、子供達がストの腕にしがみついた。
「ちょ、今は案内しねえとなんねんだって! ……しゃあねえな。1回だけだぞ!」
「やったあ!」
と、ストが力こぶを作るように腕を上げた。すると、2人ほどの子供たちがストの腕にぶら下がる。そのまま、ぐるぐると回り始めた。子供たちのキャッキャとした声が、村中に響き渡る。
「彼は相当鍛えているな。騎士として訓練してきたからわかる」
「確かに、凄い筋肉だね」
子供とはいえ、小さくはない二人をストは軽々と持ち上げていた。腕に力を入れると、余計にしっかりとした筋肉が目立つ。
「まあ、両親を目の前で亡くしたと言っていたから、気持ちは少し、わかるがな」
ロイは少し遠くを見つめながら、静かに言った。リアの話によると、ロイは昔、騎士になるきっかけとなった人を亡くしていた。亡くした理由は違えど、ロイもストもきっと並々ならぬ努力をしてきたのだろう。
みんなみんな、辛いことがあっても、それを糧にして生きている。乗り越えて、努力して、こんなにもキラキラと生きている。それに比べてお前はと言われているような気がして、アスはなんだか息が苦しかった。けれどもそれ以上に、素直に凄いと思えない自分に嫌になる。
「ストにい凄いだろ!」
と、一人の子供がアスに近付いて、まるで自分の事をみたいに自慢をした。
「そうだね。凄いね」
「ストにい、神子みたいに強いんだ! おまえみたいにヒョロっちいのには負けないぞ!」
「あはは、確かにすぐやられちゃいそうだなあ」
ストを神子みたいと言われて、本当にその通りだとアスは思った。自分なんかよりも、ストの方が伝説に出てくる主人公に似合う。
と、突然ロイが、アスと子供の間に割り込んできた。
「子供。言っておくが、彼の弓の腕は最強だ。魔物だって簡単に倒してしまう」
「うっそだあ! こんなにヒョロっちいのに?」
「嘘ではない! 私は何度も見てきた! 軽く矢を放っているようにみえて、急所に当てる正確性とその威力は何度見ても感動するものだ!」
「ロ、ロイ! そんな子供相手にムキにならなくても……」
子供相手に熱弁し始めたロイを、アスは慌てて止めた。実際神子の力が無ければ強くないヒョロい奴という子供の言葉は真実で、だからこそ大声で語られると恥ずかしくもなった。
「何故だ。子供とはいえ、真実は真実で伝えなければならん!」
「いや、そうかもしれないけど、もう少し優しく……」
「そんなに強いなら俺と勝負しろ! 俺だって強いんだからな!」
子供も子供でムキになってアスに勝負を仕掛けてくる。リアもリアで、その様子を微笑ましいと言わんばかりに笑っていた。
アスはどうしたら良いのかと頭を抱える。
「はい、ストーップ! 俺達はこれから長のとこ行くんだ。遊ぶのはちょっと待ってな!」
「遊びじゃない! 俺はこいつに勝負を仕掛けたんだ!」
「たっくん。我儘はいけないよ」
ストの後ろから顔を覗かせたチルアが、ムッとした顔で注意をする。すると、たっくんと呼ばれた少年は、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「こ、今回ばかりは勘弁してやる! 次は覚えとけよ!」
そう言って、どこかへと走って行ってしまった。
「まったく。たっくんは、いつもこうなんだから!」
チルアはそう言ってため息をつく。そんな二人のやり取りが可愛らしくて、アスは思わず笑ってしまった。
「わりい、わりい。そろそろ行くか。あいつら、ちょっと構ってやんねえと永遠にゴネるからな」
「ストは人気者だね」
「そうかあ? 遊んでやってるから、懐かれてるだけだ」
そう言ってストは頭をかく。けれども子供は正直な生き物だ。同じように他の人が遊んでも、あそこまで寄ってこないだろうとアスは思う。
「チルアも、皆と遊んでくるか?」
「うん!」
「暗くなる前に家に戻るんだぞ!」
「わかった!」
そう言って、チルアも子供たちの輪に入っていった。そうして子供たちの群が落ち着いた頃、ようやくアス達は長のいるという屋敷へと向かった。
そこは、村の中では少し大きめの、けれども長の住む家と言われると想像以上に落ち着いた、木で作られた屋敷だった。しかも屋敷を囲むようにあるテラスは、村の人たちが自由に憩いの場として使っていた。
ストは、その屋敷の中をまるで自分の家であるかのように入っていく。そもそも、扉は開きっぱなしで開放され、日の光が室内を照らしていた。アス達も、ストに続いてそっと中に入った。
中は誰がいるわけでもなく、しかも長が住んでいる割にはお手伝いもいなかった。中心には、真四角の台。その上には、何故か丸い水晶が置かれていた。ストは、そこに手を置く。
「なにしてるの?」
「ん? 長を呼んでるだけだぜ?」
リアの質問に、何かおかしい事でもあるのかと言わんばかりにストは答える。どういう意味だと考える間もなく、奥の扉が開く。
「ストか。いったい何のようじゃ。また怪我でもしたのか?」
話し方の割には幼い声。現れた姿に、アス達は一瞬固まった。
現れたのは、長と呼ばれるには余りにも幼い少女だった。年はチルアと同じ10歳か、それよりも幼く小さく見えた。チルアの言った、小さくて白くて可愛いという意味が、ようやく理解できる。真っ白で癖のある大量の髪が、まるで妖精のような、人間とは違う生き物ではないかと勘違いさせた。
「違うって! 村の外から客が来たんだ!」
「村の外からじゃと?」
長は、アス達に気付いたのか三人を上から下まで眺めた。
「ほう。お主ら、奥へ参れ」
そう言ってまた部屋の中に入っていった長に続いて、アス達も恐る恐る部屋の中に続いた。
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