11.知らない世界と謎
「ほっんとマジで助かった!! おまえらがいなかったらどうなっていたか!!」
チルアが落ち着いた後、ストは勢い良く頭を下げた。
「いや、俺達ほとんど何もやってないし……」
「スト、でいいか? ほとんどおまえが倒していた……。よく拳だけで倒せるな」
「ああ! ストって呼んでくれ! 倒し方は、ツボを抑えればいけるっつうか」
実際、ただの気絶かと思っていた魔物は息をしていなかった。それを武器も使わずやってのけるのは、凄いことだろう。
「ストにい、この人達は……?」
と、ストの後ろに隠れていたチルアが、ひょっこりと顔を覗かせる。
「あ、この人達はな……! ええっと、あれだ! えっと……」
「そう言えば、自己紹介してなかったね。私はリアだよ!」
リアの言葉を発端に、各々自己紹介をした。森を隔てた先にある王国から来たことも説明したが、ストもチルアも知っている様子は無かった。そもそも、ストもチルアも自分の住む村以外に人がいるとは思っていなかったようだ。
「その、おまえらが住むって言う国は、どんだけ人が住んでんだ?」
「うーん、何人だろう? 王都に一万人ぐらい住んでて、いくつか街と村があって、それぞれに何百人、何千人って住んでるから……」
「そんなにいるのか!? 俺のいる村なんて、全員数百人ぐらいしかいねえぞ! 魔物の防衛はどうやってんだ!?」
「えっと、お城を中心に魔物が絶対入ってこれないシールドがあってね。その中に街も村も全部あるよ」
そうリアが言えば、ストは目をキラキラさせながらリアを見た。
「すげえ、そんなシールドがあるのかよ! 行ってみてえ! つか、俺達の村にもそんなの作れねえのかな!!」
「うーん……。作ってあげたいのは山々なんだけど、私達も仕組みがわかってないんだよねえ。なんとなく、大きなクリスタルがそのシールドを作ってるとは言われてるんだけど」
「えっ、国が作ったわけじゃないの?」
リアの言葉に、隣で聞いていたアスは驚いて尋ねた。ずっと王族や貴族の偉い人が、凄い技術で作ったものだと思っていた。
「それが、誰が作ったのかもわかんないんだよね……。何千年も前からあったっていう文献は残ってるんだけど……」
「何千年!?」
リアは頷く。ロイも特別驚いたような素振りは見せなかった。恐らく、王都の方では常識の話なのだろう。
「すげえな。そんなバリアが何千年も前からあって、しかも伝説のドラゴンまで!!」
「ドラゴン……? ドラゴンさんいるの?」
キョロキョロと辺りを見渡すと、リアの足元に隠れていたクロが、パッと顔を出す。
「あー!! ほんとだ!! ドラゴンさんだ!!」
そう言って、チルアはクロの方に怖がることなく駆け寄った。
「可愛いー!!」
「チルアの場所も、こいつが教えてくれたんだぜ!!」
「流石伝説のドラゴンさんだね!!」
どうやら、ストやチルアのいる村では、黒いドラゴンは忌み嫌われる存在ではないらしい。寧ろ、崇められる存在にも思えた。
「ここなら、わざわざ野生に返さなくても、クロが幸せに暮らしていけるかもね」
「そうだね」
リアの言葉に、アスもそうだったら良いと思いながら頷いた。
クロが悪しきドラゴンにならないかもしれない。つまりは、神子である自分も死ぬことはない。そんな未来が現実のものとなって来たようで、それが嬉しくてたまらなかった。
「あっ、チルアちゃん。怪我してるよ」
と、リアがチルアのかすり傷に気付いてしゃがみこむ。
「ほんとだ! 気付かなった……。でも、これぐらいなら平気だよ!」
「チルアちゃんは強いねえ。でも大丈夫だよ。お姉ちゃんが治してあげる」
そう言って、リアはチルアの腕に手をかざした。ふわっと、優しい光がチルアの腕を包む。すると、みるみると怪我が消えて、綺麗な肌に戻っていった。アスも実際、毒を受けた時に治療してはもらっていたが、ハッキリ見たのは初めてだった。
「はい、おしまい」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
チルアは、目をキラキラさせてリアを見た。
「お姉ちゃんも、長様と同じ力を持ってるんだね!」
「おまえら、ドラゴンといい、魔法といい、何者なんだ!?」
「ちょっと待て。リア様の他に、この力を使える者がいるのか!?」
チルアやストの言葉に、ロイが驚いて尋ねた。
「ああ! 俺らの村の長が使えるんだ! 怪我したらよく治してもらってんだ! 他にも、色んな魔法が使えるんだぜ!」
「5000年以上長生きしてる、物知りの人なの! それにちっちゃくて白くて可愛いんだ!」
チルアやストの話す異次元的な長の存在に、3人とも頭を抱えるしかなかった。5000年以上生きている人など、現実にいるとは思えなかった。
「長様というお方に、早く会ってみたいところだな」
「紹介するんだったな! 任せろ!」
「ストにい。その前に、お花。ママとパパの大好きなお花が咲いてるよ。真っ白のお花」
ふと視線を上げると、森の中に真っ白な花がそこら中に咲き乱れていた。魔物と戦闘している時は目に入らなかったが、無数の白い花が静かに風に揺られていた。
「そうか。皆、すまねえ。もう少し村に連れて行くの待ってくれねえか? 今日はおやじとおふくろの、命日なんだ」
その言葉に、アス達も無言でこくりと頷いた。
何本かの花を摘んだ後に向かった先は、四角くかたどられた墓石が沢山並んだ場所だった。すぐ近くには木で作られた高い壁が奥まで連なっており、アスは驚いてそれを見上げた。こんな大きな建造物を、アスは見たことが無かった。
「スト。もしかしてスト達の住む村って……」
「ああ、こん中に住んでるぜ。リア達のとこみたいなすげえシールドはねえけど、この中にいりゃどんな大型の魔物も入ってこれねえ。たまに飛行型のは来るけどな」
確かに、大型の、例えばクマ型の魔物であっても、この壁を突破できるとは思えなかった。飛行型でも、相当高く飛べないと中には入れそうになく、中は安全に過ごせそうだった。
お墓はその高い壁の外にあったが、それでも安全にお墓に行けるようにするためか、成人男性が隠れる事ができる程度の木の柵と門があった。
「まっ、食料とかは外に出なきゃなんねえから、定期的に死人が出るけどな」
「もしかして、ストのご両親も……」
「そ。魔物なんて、そう毎日出くわすもんでもねえのによ。よりによって、俺が初めて狩りを教えてもらうために外に出たタイミングで出くわしてよ。俺を庇って両方死んじまった」
そう言って、ストは一つのお墓の前で立ち止まる。そして、摘んだ白い花をお墓の前に置いた。
「おやじ。おふくろ。見てたか? 俺はチルアを守れるぐらい強くなったぜ」
ストはお墓の前で手を合わせた。アス達も、黙って手を合わせる。
ストは、誰もが驚くほど強かった。けれどもそれは、両親を目の前で亡くしたからなのではないかとアスは思う。
叶うなら、ストの両親が天国からその事を見て、喜んでいますように。アスは静かに、そう願った。
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