第5話

 予想通りの結果ではあったが、カイは満足気まんぞくげにアーサーに感想を伝える。

「お前の妹、スゲえな!」

「何の話だ……? 何が起こっている?」

 妹を怒らせたことに動揺して冷静さをき、状況の把握はあくすらできていないレアなアーサーをからかおうと、カイはわざと遠回りに質問した。

「アッシュグレーのボクサーブリーフってお前のだよな?」

「は? ブリーフ? なぜパンツの話になる?」

「まさか、妹とペアルックしてるわけじゃないよな? もしかして、貸してるとか? いやいや、それはないか。すると、盗まれちゃったのかなー?」

「シ、シャーロットが……! お、俺の……? もっ、黙秘する……」

「はっはー。いや、いいと思うぜー。一見いっけんスパッツぽく見えるし、よく似合にあってる」

「ま、待ってくれ! シャーロットはパンツ一丁いっちょうなのか……? 一体どんな格好かっこうをしているんだ!?」

 最早もはやなげきにも似たアーサーの問いかけに、ちょっと気の毒に思ったカイは素直すなおに答えることにした。

「落ち着けって! 上品なブラウスに、ほんの少し短めのチェックのスカートだ。うん。いいとこの女子高生風って感じだな」

「パ……パンツはなんでだ……?」

 いよいよ質問のていをなさなくなったアーサーの様子に、これは父親の心境しんきょうなのかなと考えながら、手短に説明する。

「お前の妹がな、被害者の関係者と口論こうろんになって、逆上ぎゃくじょうした相手を制圧せいあつしたときに、スカートがめくれたんだよ。ちょっとだけな」

「フー……」

 落ち着きを取り戻したアーサーを和ませようと、冗談交じょうだんまじりに説明する。

「ボンナバンで一気に間合いを詰めてさ、そっから、グッと立ち上がるんだよ。あの太腿ふとももだからできる動きだよな。そこはすげーいいと思ったぜ。でもさー、あのボクサーブリーフ。あれは、ああいう、丸みをびた尻じゃなくて、こう、四角く、キュッと上に引きまった形じゃないとなー」

「……あの太腿は、トラウマだ……」

 アーサーの声が再びくもる。

「ほうほう、寝てる妹にイタズラしちゃったとか?」

「……いや、激怒げきどしたシャーロットは、あれでめ付けてくるんだよ……」

 なるほどな。アーサーが動揺していた理由がなんとなく分かった。

「あー、激おこの妹に絞められて、三途さんずの川を見ちゃったかー」

「……いや、あれはフォース湾だった……。手こぎボートでエディンバラを目指すんだ……」

 かなりの致命傷ちめいしょうだったらしい。怒らせた原因は聞かない方が良さそうだ。


 シャーロットに目をると、巡査とのり取りが終わっていた。

「そろそろ、お前の妹が戻ってきそうだぜ。わるか?」

「いや! 朝食に行ったことにして欲しい! あと、家を出たらしいから、帰るよう伝えてくれ! あと、何かあった時は、力になってやって欲しい! それじゃ、あと頼んだ!」

 あの冷徹れいてつなアーサー・アシュクロフトが、こんな風に取りみだすのか……。家族とのせっし方が分からないとか言ってたもんな。

「ああ。後でおごれよ? またな」

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