第4話

 シャーロットは観察していた。


 かまえている私から目をらして、お巡りさんを凝視ぎょうししたのは何でだろう……? すきをつかせて、別のヤツと連携れんけいするとか? 確かに、背後にいやな視線を感じるな……。おっと、警戒けいかいしている間に武器を抜いてしまったか……。まあいいや、十歩、いや、八歩の距離で止まったまま、何かわめいているだけだし……。年齢は27歳くらい。日本人は若く見えるから30歳以上もあり得る? 青白い顔。昼夜逆転の生活。紫オジサンの従業員じゅうぎょういんでも血縁者けつえんしゃでもない。上背うわぜいはあるが猫背のヤセ型。時折、体をふるわせてから、何かをき捨てる様につぶやく。ヘロインかな? 武器は、つばなしのダガー。確か、ドスだっけ? りつけるには刀身とうしんが短いし、突くにはてきさない持ち方。投げナイフとしてもバランスが悪そう。ねらいがわからないな……。それに、左手に持った鞘はどうするつもりだろう? てか、いつまでガニまたっ立ってるんだよ? それ以上に頭にくるのは、私の後ろ。確か、パン屋があった辺りの二階か屋上からねらっているヤツ! ひょっとして大佐の娘? 確か、プルーデンスだったか。古めかしい響きだね。まさか街中で狙撃そげきするわけないよね? 首の後ろがゾワゾワするから止めてほしいんだけど。大体、今まで何やってたんだよ? 紫オジサン運んだヤツを捕まえてれば、いつもどおりの朝だったのに。まあいいや。優先権プリオリテは我にあり。ヘロヘロ君を仕留しとめよう。


 考えをまとめるや、飛ぶような突進ランジで一気に間合まあいをめ、腸腰筋ちょうようきんストレッチさながらのバレストラで、相手のひざの高さまで沈み、第五クィンテのパリイでドスを払い落とす。浮き上がりがてら特殊警棒を手放し、そのまま前足を軸に体を反転させ、相手の手首に手をえる頃には、同じ向きを向いて肩を並べる姿勢になる。


 ヘロヘロ君は、まだ私がいた位置を見てるし、50メートル位先のパン屋の屋上に、エアライフルを腹這はらばいに構えるプルーデンスの栗毛くりげが見える。何だろう? このガッカリする気持ちは……、まあいいや。


 そっと相手の手首を掴み、肩の高さまでひねり上げると、その腕をくぐる様に再反転する四方投しほうなげで相手を地面に叩きつけた。


ゴキッ。


 何の抵抗ていこうしめす間もなく投げられた男は、体を硬直こうちょくさせたまま、意識を失っている。

「ちょっと! 受け身くらい取りなさいよ!」

 シャーロットは、言葉に反応を返さない男の腕を掴んでフリフリしながら、巡査を呼ぶ。

「お巡りさーん。救急車ー!」

 ドスを拾ってけ付けてきた巡査に男を引き渡すと、今更いまさらながら手足に震えがきた。

「ふーん、思ったよりも緊張きんちょうするんだな……。でも、実戦で通用した。……そうだ、バレストラ・アーツと名付けよう。略して『バリツ』。そうか、これが私のバリツだ」

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