第4話
現実逃避気味に第一目標を決めたところで、やっぱり問題は食料だ。魔物肉のステーキは食えても、塩もなきゃ胡椒もない。米とは言わんからパンをくれ。
「いやまぁ魔術駆使したらどうとでもなるんだけど」
いくら魔術でも食料は生み出せない。
だが食事の必要ない体にはできる。ちょっと人間やめて魔力生命体になればいいし、不老化して脳と心臓を動かすエネルギーを魔力で持ってくればいい。
やべぇよだんだん面倒くさくなってきたよ……なんで俺がこんなことしてるんだろ。異世界転生わーいやったーで良かったじゃん。神とか知らねぇよ勝手にやってろよ……
「一回村に帰ってみるか?」
どれだけ強くなったって強靭な精神なんて得られない。戦いの中で死を恐れなくても、日常を追われるのは怖いし、孤独は寂しい。
故郷の村は俺を畏れたけど、村を出たあとは英雄として扱ってくれた。宮廷魔術師になった直後に帰った時は盛大に出迎えてくれた。
「……顔を出す勇気はないが」
村は神聖王国の属国に位置している。一日そこらで情報が回るのは各国の大聖堂までだろうし、そこそこ田舎の村だ。俺のことがレジスタンスに伝わるのにも時間がかかる。ああ良かったSF系ディストピアじゃなくて!監視社会だし伝達魔法もあるしインターネット以下電話以上くらいの情報速度はあるけど!!
「とりあえず行ってみよう。別に俺頭いいわけじゃないし、考えてても悪い方向に進むだけだ」
バカの考え休むに似たりだっけ?メンタルやられてる時に考え事するなってインターネットも言ってた。一旦寝てリセットしよう。
◇◆◇
しっかり眠った翌日。
自宅という名の小屋に印をつけ、俺は故郷近くの印に転移をした。割と顔が知られているため、内緒で開発した変装魔術もちゃんと発動している。
思えばプロパガンダ的なやつの一種だったのだ。平民でも能力があり成果を上げれば宮廷に出仕出来るし、一代限りとはいえ身分も与えられる。そういう宣伝にはもってこいだった俺は、教会の魔法士と同じく広報に立たされることも多かった。
社会構造とか自分にとって都合が良ければ気にしないよね……。
「そっか、俺、知名度あったんだ」
今更ながらにしくじったものだと痛感する。
言葉の重さも認識していなかったが、声の大きさには今気付いた。全部が数値化され実感はなくとも目に見えるインターネットと違い、この世界じゃ相手を見なきゃ分からない。俺はそれを些事と思い、王国や教会は重要視して、今はきっと危険視している。
クソデカため息をつきながら村を歩く。活気があるし、ちょっと整備もされて町に近くなっていた。商人もいるし、越してきた──と言っても住居は管理されているので新しく割り当てられたのだろう知らない人もいる。
時々話しかけてくれた麦畑のおじさん、簡単な薬を作ってくれたおばあちゃん、俺より二つ下で懐いてくれた妹分、そして────
「伝令だ、道を空けろ」
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