第3話
「こんなこともあろうかと、なんて想定できるわけねーんだよなぁ」
魔の森の中域。まだ頑張らなくても倒せる魔物が多い場所にサクッと拠点を置く。
適当に結界貼ってそれっぽい小屋を錬成して隠蔽を掛ければあら不思議、森の中に佇むちょっと不気味な魔術師の家の完成だ。ま、拠点は空間魔術の中にあるのでただのハリボテだが。
「で、だ……どうしよ……」
別にスローライフもやぶさかじゃない。でも食料は無理だ、農耕の知識なんてないしそもそも種がないし、何もかもが自給自足なのはスローライフとは言わない。開拓って言うんだ。
あと完全に独りになると多分発狂する。前世じゃ友達は多い方で、一軍に親友がいて二軍にも三軍にも友達がいるタイプの陽キャだった。無理だ、お喋りしたい。かくなる上は錬金術も視野に……。
「街に行けば教会に追われる。そこら辺の町にもギルドはある。辺境の村もレジスタンスに見つかれば終わりだ……」
異世界お約束の冒険者ギルドだが、この世界の場合聖教会と密接に関係している。各地のギルドが魔物を観測し、手に負えないほど強い魔物がでたら魔法士が片付ける。冒険者とは露払いなのだ。
「神の名のもとに、か」
聖教会もレジスタンスも理由は『神が仰ったから』
それをぶち壊せる思想を許しはしないだろう。めんど。
何せどっちも日本人倫理観的には真っ黒である。
聖教会は亜人を奴隷、なんなら家畜として扱うし、レジスタンスはレジスタンスで聖教会の間違った教えから解放するとの名目で子どもを誘拐・洗脳する。
正義のために命を厭わないどころの話じゃない、神の名のもとに尊厳はない。王族は教会に頭を下げ、貴族は圧政を敷き、平民は日々の鬱憤を亜人にぶつけ、亜人は捨て石の如く魔物にぶつけられる。思想統制・監視社会・極端な能力主義!うーんディストピア。
中世ヨーロッパの悪いとこだけ煮つめてファンタジーぶち込んだらこうなる……か?どうだろ、ならないと思う。ならないで欲しい。世界史そんなに得意じゃなかったんだよね。
なお命の価値は比べるべくもない。
下手すると蘇生すら可能な奇跡の前に人の命は使い捨てだ。レジスタンスなんて楽園が創られたら復活すると思ってるレベル、因みに魔術師的見解を述べさせてもらうと流石に不可能。
名もなき唯一神くんは天地より先に道徳の教科書を創造するべきだった。心のノートとか。
「そっか倫理観……価値観の相違……この世界の一般的な人と普通のお喋りってできるのか……???」
根本的な問題に気づいてしまった。
そもそもコミュニケーションってのは共通の話題から発生するものだ。テストの話とか教師の話とか昨日のドラマとか話題のゲームとか。この世界で俺が語れる会話デッキって魔術しかなくない?しかも体系化したのが俺自身だからどう頑張っても講義じゃない?
「はーーーーーー……やっぱり錬金術か……」
倫理観的に生命冒涜な方向には手を出してこなかったが多分できる。生命の創造というよりも人工知能の生成的な方向なら代償は要らない、と思う。
真理……覗きますか……。ついでに神の存在証明もしといてやろう。神に聞くのは亜人のこと実際どう思ってるかと神託出したかかな。
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