第2話

「ほんとマジで正気じゃねぇ!なんで全員標準で狂信者なわけ!?」


 やぁどうも。

 なんかヤバそうな空気失言に気付いて王宮から脱出した多分宮廷魔術師です。

 16才で拝命して19才で除名か、短い宮仕えだったな。


「王国から貰った魔道具ってあとどれだ?ブレスレットは自作だっけ?」


 万が一GPS的な魔道具があったら絶望だ。俺が脱出に動いた瞬間に見えた全員のハイライトが消えた目はマジで怖かった。具体的にはドラゴンより怖かった。

 でもよく考えてみたらそりゃそうだ。

 あのカルトレジスタンスでさえ神は絶対なのだ。俺には関係ないしってその辺りの話題を避けてたのが仇になった。


「だって宗教ってなんか忌避感あるじゃん……!現代日本人だったんだよこっちは……!!」


 修学旅行で神社仏閣巡りは楽しいし、友達の家がカトリックで教会に行くとか、彼女が巫女のバイトするとかそういうのは全然なんとも思わないんだけど。

 なんでだろうね、宗教って聞くと胡散臭いって思っちゃうの。


 お陰で聖教について知ってることは少ない。

 俺が知ってるのは唯一神だから神に名前が無いことと、天地創造して人間造ったことと、神話に基づいて亜人を差別してることくらいだ。

 カルトレジスタンスについての情報はもっと少ない。獣人の少女が神託を得て魔法士になり、差別と圧政から抜け出すために立ち上がったぐらいのことしか知らない。

 とにかく魔術を研究して魔物をぶっ殺せばよかった俺は転生者故の孤独────という名のぼっちだったので。

 転生者っていざ自分がなると難しい。俺は生まれた時から自意識あるパターンだったから尚更。成長が早すぎたせいで神童と呼ばれたこともあったけど魔法はなかったからただの天才ってことになったし。神に選ばれたわけでもない異端は恐れられ、コミュ力でどうこうなる範囲を過ぎてしまった。

 成長してからも俺の能力が高すぎたせいで遠巻きにされ、魔術師にも貴族の反感を買っている俺と仲良くしてくれる人はいなかった。だから久々に話しかけてくれた団長にテンション上がっちゃったのもあるんだけど。


「さすがに分かる。この思想は宗教国家にとって致命的過ぎたらしい。絶対指名手配される」


 国家と国家に敵対する勢力どっちにも喧嘩を売ったようなもんだ。そんなつもりなかったのになぁ!!


「ただ異世界らしく魔物を倒して俺つえー出来ればそれで良かったのに……!」


 魔術を研究して、世界の真理を紐解いて、魔物を倒して強くなって。もうそれだけで楽しかったのだ。現代知識で荒稼ぎもしなかったし、奴隷みたいな扱いを受けてる亜人を同情で助けて惚れさせることもなかったし、王だのハーレムだのを望んだこともなかった。


「いたか!?」

「っ、ぁぶね……」


 もう追っ手が来たらしい。しかも王国の騎士じゃなくて聖教の聖騎士だ、完全に終わったわ。

 存在をとっとと森に逃げ込む。さすがに危険度最大と言われる魔の森には来ないでしょ。

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