宗教戦争ディストピア -転生魔術師は剣と魔法の世界で無神論を貫く-

雪餅猫。

第1話

『唯一にして絶対の神が世界を創り、動物を造り、最後に神の姿を模して人を造りました。神は人に魔法を授け、地に満ちよと伝えたのです。

 正しく生きた人は死後に楽園へ導かれます。

 だから人には優しくしましょう。人にも動物にも仇なす魔物を倒しましょう。禁忌を犯し純粋な人族から外れた亜人を管理しましょう。主に祈りを、感謝を。』



『死後の楽園など無意味だ!我々に必要なのは今を生きる食料だ!人も亜人も平等であるべきなのだ!

 神は嘆かれた!私に声を伝えたもうた!獣人たる私が魔法を授かったのが証拠だ!私がこの世に楽園を築いてみせる!

 之は聖戦だ!神の名を騙った圧政に報いを!神の言葉を捻じ曲げた教皇に死を!』



……お分かりいただけただろうか?

 ざっくり言うと、一神教系差別主義圧政宗教国家vsカルト教団レジスタンスだ。どっちも厄すぎて関わりたくない。


 そんな世界に転生した俺は何もかも知ったこっちゃねぇと教科書ラノベ通りに魔力を感知し、身体を鍛え、魔術を体系化し、16才にして神聖王国宮廷魔術師の地位を拝命した。

 そりゃもう色々あった。でもちょっと英雄になってたり、貴族に睨まれてたりなんて些事だ。

 何せ俺は。


『俺にとっては魔法も奇跡も等しく術だ、そこに神はいない』


 と。

 よりにもよって王宮で言い放ってしまったのである────!


 ◇◆◇


 言い訳をさせてくれ。

 前世の俺は日本人。クリスマスを祝い、暮れに鐘を聴き、正月に神社に行く日本人だった。

 宗教関連のニュースを見たりはした。過激派のテロがどうとか、芸能人がカルトの洗脳でどうとか、他人事として。

 ご先祖さまは見てるかもしれないし、お米は残しちゃいけないし、首塚は未だに祟ってるけど、神様はいない。

 人権も思想も肉体も、ありとあらゆる『人間性』が国家ないし世界によって守られていた。


 だから──ぶっちゃけここまで大事になるとは思わなかったんだ。


 いや知ってたよ?分かってるつもりだった。

 宗教上肉は食べれないっていう同級生に、じゃあメニューの幅が広くてパンもあるファミレスにしようぜって言うぐらいのノリで。『宗教って大変なんだな』みたいな。実家に仏壇も神棚もあったけど。

 相手の信仰を否定したつもりもないし、こっちの考えを押し付けようとした訳でもない。俺の主観では、って話だったんだ。


 でもダメだった。

 前世の俺が死んだのは大学生頃だったと思う。地位に付随する発言の責任とか重さなんて知る由もない。

 そもそも匿名で色々発信できる時代だったから『自分の言葉』に対する責任なんて持ってないやつの方が多かったと思う。


 そう。

『最年少』で『宮廷魔術師』になった平民上がりの『名誉貴族』が『王宮』で『魔術師団長』に告げた言葉は、国家を揺るがすほどには重かったのだ。

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