#054
それからウェディングとリーディンは、子供たちを力ずくでマイクロバスに乗せる。
子供たちも最初は面白判断で反抗していたが、最終的には笑顔で席についていた。
マイクロバスに乗り込もうとするウェディングとリーディンに、アンが訊ねる。
「せっかく乗せてもらっておいてなんだが、子供らの着替えとかはどうすればいい?」
二人は服や下着なら、新品のものが施設にあると返事をした。
どうやら二人の運営している非営利活動法人――ジャズ・ミックスは、いつでも大人数の人間を受け入れる準備が整っているようだ。
「これがないと不味いというものがなければ、すべてこちらで用意できますよ」
「そうか、なら問題ない。ではしばらくの間、あの子たちのことを頼むよ」
リーディンの言葉を聞いたアンは、二人に軽く手を振ると、マイクロバスに乗った子供たちに向かって声を張り上げる。
「いいかお前たち! あまりお姉さんたちに迷惑をかけるなよッ! それと勉強と運動はしっかりとやっておくような!」
子供たちはマイクロバスの窓を開け、一斉に「はーいッ!」と大声を返してきた。
宇宙観光から帰ってきて、またすぐに別の土地に行けることが嬉しいのだろうが、その表情は少し寂しそうだった。
彼ら彼女らは、やはりアンのことが好きなのだ。
いつまで離れるのかわからないと考えると、そういう顔になるのもしょうがない。
「アンさんって、意外と家庭的なんですね。本物のお母さんみたいです」
「コラ、ウェディングッ! お前はまた失礼なことをッ!」
その様子を見ていたウェディングがそう言うと、リーディンがまたも声を張り上げた。
互いに言葉を交わしながら運転席へと乗り込み、アンや後ろにいたミント、ブレシングに向かって別れの挨拶をする。
「では、私たちはこれで失礼しますね~」
「家に戻る日が決まったら連絡をください。すぐに子供たちを連れてきますから」
窓から顔を出す二人に、アンが返事をする。
「あぁ、わかり次第連絡させてもらうよ。そっちも何か子供たちのことで困ったことがあったら連絡をくれ。私が言い聞かせるから」
「うんうん。英雄もお母さんになれるって感じですね」
「だから失礼なことを言うな! すみません、アンさん。ではまた」
またもウェディングを注意したリーディンは、自動運転のスイッチをオンにする。
そして二人は車内から会釈し、子供たちを乗せたマイクロバスは、丸太小屋の前から去っていった。
「二人とも、あれからすっかり立ち直ったんだな……」
アンはバスが去っていく眺めながら、ウェディングとリーディンのことを思っていた。
彼女たちもまた戦争で大事な人を失っているのだ。
それでも元気に生きている。
アンはそう考えると、胸に熱いものを感じていた。
それから彼女は、明日ここを出発する準備をするために、丸太小屋へと戻っていった。
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