#053

ウェディングとリーディンはアンに軽く挨拶をすると、早速自分たちがここへ来た理由を説明し始めた。


現在二人は、特殊能力者だった人間を保護する非営利活動法人――ジャズ・ミックスを運営しており、レジーナからの依頼で、アンの家にいる子供たちを預かることになったそうだ。


レジーナはアンがよく知っている者たちとは言っていたが。


まさか、かつての戦友と顔を合わすとは思ってもみなかったのだろう。


さすがのアンも驚きを隠せずにいた。


「そうか。君らなら安心して預けられるよ」


表情を戻して口を開くアンに向かって、ウェディングは誇らしげに顔を上げ、自分の胸を叩いた。


「はい! ドーンッと私たちに任せちゃってください!」


「おいウェディングッ! なんだその態度は! 今日は仕事で来ているんだぞ!」


「え~、いいじゃないですかぁ。アンさんとは知らない仲じゃないですしぃ」


「まったく、お前はどこへ行っても誰と会ってもその調子だ……。少しはつつしみというものをだな」


すると、ウェディングの態度に声を張り上げるリーディン。


その様子から察するに、たとえ相手が目上の人間だろうが、仕事人として来ていようが、プライベートと変わらない彼女にいつも困らされているようだ。


アンは、目の前で揉め始めた二人の顔を見て言う。


「二人とも綺麗になったな。私が知っている君らはもっと幼かった。凄く見違えたよ。美しい大人の女性になった」


後ろで見ていたミントは、アンの言葉に思わずドキッとしていた。


何故このタイミングで容姿を褒めたのか。


いや、それ以上に見た目に触れる必要があったのか。


アンと二人の関係がいまいちわからないミントは、これでは口説いてるようではないかと胸をドギマギさせている。


案の定、アンにそう言われたウェディングとリーディンは、その表情を緩ませていた。


「最後にアンさんと会ってから、五年くらい経ってますからね。少しは大人に……」


「ですよね! いや~さすがはアンさんッ! 美しくなった私たちに気が付いてそれを口にしてしてくれるとは、やはり英雄の名は伊達じゃありませんね!」


「お前は少し黙ってろウェディングッ! それとアンさんか英雄であることと今の話は関係ない!」


そんなウェディングとリーディンのやり取りを気に入ったのか。


はたまた彼女たちとアンの会話を見ていたせいなのか。


子供たちはウェディングとリーディンのことを気に入り、早速二人に飛び掛かっていた。


「ちょっと君たち!? なんですか急にッ!?」


「イタッ!? おい誰だ今つねったのはッ!? やめろ! コートを引っ張るんじゃないッ! 破れるだろ!」


群がる子供らに悪戦苦闘するウェディングとリーディンを見てアンが言う。


「うちの子たちはかなりヤンチャだからいろいろと迷惑をかけると思うけど、よろしく頼む」

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