#052

アンは森にある丸太小屋に戻ると、レジーナから新兵器のテストを頼まれたことを皆に話した。


そのためしばらくの間は、ここを離れることと子供たちを世話する者がやって来ることを伝える。


説明を聞いた子供たちは嫌そうな顔をしたが、すぐに表情を戻してわかったと返事をした。


その様子を見ていたミントは、子供ながらアンに迷惑をかけないようしているのだと察する。


「というわけだ、ミント。悪いが、私は仕事でここを離れる。君も家へ戻るといいだろう。それともここに残るか?」


アンに訊ねられたミントは、自分も彼女について行くと答えた。


連合国上層部の一人であるレジーナ·オルゴーのいう新兵器というものを一目見ておきたいのだそうだ。


ミントの返事に、アンは言葉に詰まった。


自分の判断で、勝手に人を連れて行っていいのかを迷っているのだ。


そんな彼女の不安に気が付いたミントは、その心配は無くす案を出す。


「私から父に言えば、何も問題ないと思いますよ」


ミントは、レジーナと同じく上層部の一人――パロット·エンチャンテッドの娘だ。


その立場を使えば、連合国軍の新兵器の立ち合いに参加することは、むしろパロットが喜ぶとミントは言う。


戸惑っているアンに向かって、傍にいたブレシングも続けて口を開く。


「そういうことなら僕も行くよ。メディスンさんやエヌエーさんからは、彼女の護衛をするように言われているしね」


「お前ら……好き勝手言ってくれる……」


アンがミントとブレシングに呆れていると、丸太小屋の外からエンジン音が聞こえてきた。


客など滅多に来ないこの森に、一体誰だろうと皆が外へと出る。


そこには小型のバス――マイクロバスが停まっていた。


運転席には誰もいないのを見ると、どうやらバス型の自動運転車のようだ。


子供たちは初めてマイクロバスに見たようで、嬉しそうにはしゃいでいる。


「私が良いと言うまで、あのバスに近づくなよ」


アンは皆にそう言うと、ゆっくりとマイクロバスへ近づいていく。


彼女が近づいて行くと、バスから二人の女性が降りてきた。


一人は傷んだ髪をしたトレンチコート姿の女性で、もう一人は笑みを浮かべた愛想の良さそうな女性だ。


「おっ久しぶりです~! アンさんッ!」


「コラ、いきなり大声を出すな! すみません、もうアンさんと会えると聞いてからずっとこの調子で」


「ウェディング、それにリーディンも……」


それは、今から五年前の戦争でアンと共に戦った二人――。


ウェディング·グレイとリーディン·ライトだった。

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