#045

――ミントとブレシングがアンたちが住む丸太小屋へやって来てから数週間。


自然に囲まれた生活にも慣れ、今日も朝から畑仕事を終わらせていた。


「ほら、ブレシング。急がないとみんなが起きて来ちゃいますよ」


「わかってるよ」


連合国の上層部の娘であるミントも、最初は戸惑うことも多かったが。


もうすっかり日々の日課をこなしていた。


ブレシングはそんなミントを見て、呆れるほどたくましくなったと彼女の後を追う。


「意外だったな」


「何がです?」


「君はてっきりお嬢様育ちだと思っていたんだけど、文句一つ言わないんだから」


ブレシングにそう言われたミントは、得意気になって微笑む。


どうやら彼女はここでの生活を気に入っているようだ。


砂や土に塗れながらも、背筋を伸ばしてその鮮やかな髪を手で払う。


「そういうあなたは、あまりここでの生活が好きじゃなさそうですね」


「そうりゃそうだよ。虫は多いし、何をするにも人力なんだ。僕は何度もアンさんに街に住むように言ってるんだけど、聞いてもらえない」


「でも、便利過ぎるのも考えものですよ」


「そんなもんかな」


アンはブレシングだけではなく、メディスンやエヌエーからも街に移るように言われていたが。


彼女はここでの生活を望んだ。


電気はすべて発電機に頼り、水道も井戸を使うこの不便な暮らしでも、アンはここを離れたくないようだ。


だがブレシングがそうなように、成長したここで育った多くの子供たちは皆街へと移っている。


全員が新しい環境で仕事に就いても、一ヶ月に一度くらいは必ずアンへ連絡を寄越していたが。


ほとんど者がここへ帰って来ることはない。


年に一度、アンが子供たちを連れて街で会うくらいだ。


二人が丸太小屋に戻ると、アンがブレシングに声をかけてくる。


「おい、ブレシング。さっきお前のデバイスに連絡が入って来ていたぞ」


そう言ったアンの手には、ブレシングのエレクトロンフォン(携帯電話)が持たれていた。


ブレシングは慌ててアンからエレクトロンフォンを奪うと、彼女のことを睨む。


「まさかアンさん、勝手に見てないよな?」


「見た。女からだったな」


「人のプライベートを勝手に見るなよッ! ホント昔からそうなんだからッ!」


「だったら私にわからないパスワードに変えればいいだろう」


「変えてるはずなんだけど……」


どうやらアンは、ブレシングがエレクトロンフォンの暗証番号を何度も変えても、すぐに見破ってしまうようだ。


苛立つブレシングのことを、今度はミントが目を細めて見ている。


「なんだよ、ミント?」


「へぇ、女性から連絡ですか。意外ですね。あなたはそういう人じゃないと思ってたんですが」


「おい、何を勘違いしているか知らないけど。君が思っているようなことじゃないぞ」


「そっちこそ、何を弁解しているんですか」


「いやだからそれは、君が怒っているように見えたから……」


「怒ってなんかいません。私には関係ないですし」


そうは言ってもミントは、明らかに不機嫌そうにその場から去って行った。


ブレシングはそんな彼女の後を追いかけて、必死で弁解を続けていた。


アンはそんな若者二人を見て呟く。


「大事……誤解を解くのは大事。頑張れ、ブレシング……」

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