#044

一人の男が椅子に寄り掛かっていた。


頭全体を覆う感じでバンダナを巻いた状態で、だらしなく口を開けて眠っている。


おそらく酔い潰れたのだろう。


テーブルに転がっている空の酒瓶や、乱雑に脱ぎ捨てられたレザージャケットがそれを物語っている。


さらに部屋の中はもっと酷い。


会話すらもかき消すほどの音量で流れるディスコミュージックが響き、食べかけのファーストフードや、油まみれの工具や衣服なども転がっている。


昼間から酔い潰れているこの男の名は、ソウルミュー・ライクブラック。


今から五年前――。


アンやメディスンらと共に、連合国の前身ともいうべき組織が世界を平和にしたときの立役者の一人だ。


今の彼の姿を見ても、とてもじゃないがそんな風には見えないと思われるが。


その証拠は、その両手――。


ソウルミューが戦争で失ったのは両手を、左右ともに義手にしていることだ。


だが、そんなかつての英雄も今は見る影もない。


しかし、連合国はソウルミューの功績を忘れてはいなかった。


彼には国の功労者としての給付金と、さらに軍警察の仕事で植物人間となった妹への保険金が毎月入ってきている。


元々贅沢に興味がないのもあってか、今のソウルミューは、月に何度かある機械整備の仕事で生計を立てている状態だ。


普通の勤め人が週休二日勤務なら、彼はほぼ月休二十日勤務である(別に働く必要もないのだが)。


しかし、そんな有り余る時間があっても、ソウルミューはただ酒を飲むだけ。


朝から酔い潰れ、目を覚ませば再び飲み始める。


そんな放蕩ぶりを見れば、誰かが心配しそうなものだが。


ソウルミューに身近な人間などいなかった。


たまに昔の仲間から連絡か来ることもあったが、それでも彼は家を出たりはしない。


食事もすべてデリバリーで、家事は代行会社に依頼している(この部屋の様子だと、気が向いたときだけ呼んでいるようだ)。


ソウルミューが椅子で寝ていると、部屋の中に誰かが入ってきた。


「おい、いるなら出ろ。何度もチャイムを鳴らした――うッ!?」


部屋に入ってきたのは神経質そうな顔をした男――メディスン・オーガニックだ。


メディスンはソウルミューを起こそうとした。


だが、当然彼の声は大音量の音楽にかき消され、さらにあまりの酒臭さにたじろく。


それからメディスンは部屋の窓を開けて空気を入れ替え、換気扇まで回す。


「うあ……? メディスン……?」


「やっと気が付いたか」


「もう飲めねぇよぉ……」


「私はすすめていないが……」


寝ぼけているのか、それともまだ泥酔でいすいしているのか。


ソウルミューはメディスンが酒をすすめていると思っているようだ。


「おい、いい加減に目を覚ませ。今日はお前に、仕事を依頼に来たんだ」


「仕事……?」


「あぁ、あるもの造ってもらいたい。端的言えば、適合者専用兵器だ」

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