#042
外へと出たアンは森の中に向かって歩くと、そこで横に倒れていた木を見つけた。
寿命だったのか、それとも何かよって倒されたのかわからないが。
アンはその木に腰かける。
「ブレシング……お前は知っているだろう……。戦いの悲惨さを……」
そう呟きながらアンは思う。
これまでも世界のためといって何百万人もの人間を殺してきた。
そんな自分だ、正直いつ殺されても構わない。
自分が死ぬのはいい。
だが、戦えば戦うだけ大事な者を失う。
十代の頃――。
まだストリング帝国の一兵卒として戦っていた頃の仲間たちは、マシーナリーウイルスの実験によって化け物――
結婚式を前に死んだ二人の友も、自分のことを好きだっといってくれた仲間も、兵士として目をかけてくれていた隊長もみんな死んだ。
その後にできた新しい仲間――。
炎、水、風、大地の力を操る者たち――。
氷の大陸で若き王と君臨し、死の間際に彼が自分を愛していたと知った男――。
自分をウイルスの暴走から救ってくれた不思議な力を持った老人――。
夫を失い、人斬りとなって神具を振るう女剣士――。
帝国の研究所で知り合った、生まれて初めて恋心が芽生えた相手――全員戦いの中で死んでいった。
育ての親だった男もまた、皆と同じく世界を守るためにこの世から姿を消した。
そして五年前――。
子供たちと引きこもっていたアンに、光を見せてくれたサイドテールの少女がいた。
アンはそんな彼女の姿に魅せられ、再び戦場へと戻った。
だが、その少女もまた世界を守るために死んだ。
そして、唯一の肉親だった妹もその少女と戦って亡くなった。
それから三年前――。
まだ連合国が出来たばかりの頃に、ずっと共に戦ってきたエヌエーの伴侶である男――ブラッドが犯罪都市の任務中に亡くなった。
それと、前の戦争で仲間だった者の妹が、ある街で起きた事件での後遺症で植物人間状態となった。
その友人の妹――少女は、街に住むすべての人間を守るために奇跡を見せた。
その奇跡は、自分がかつてサイドテールの少女が見せてくれた光を具現化したものだった。
だが、その光を見ても連合国は――世界は変わらなかった。
街で起きた事件により、イーストウッドがストリング帝国の残党狩りを名目に特殊部隊ベクトルを設立。
そしてベクトルは、その権力を連合国内でさらに強めていった。
連合国のアンたちへの監視が厳しくなったのもそれからだ。
それでもメディスンやエヌエーは、上層部へ意見を言い続けていた。
逆らう者、疑わしき者を処分していくベクトルのやり方に異を唱え続けていた。
だが、アンはもうそんな気持ちも萎えていた。
「あの、アンプリファイア・シティでの奇跡を見ても世界は変わらなかった……。これ以上何をしたって……結局は無駄……。だったらせめて……」
人は、自分が手の届く範囲を守れればそれでいい――。
それが、戦い続けてきたアン·テネシーグレッチの出した答えだった。
顔を上げれば、高い木々の隙間から星空が見える。
アンは無意識に機械の腕を空へと上げ、星空を掴もうとしたが、すぐに手を戻す。
「こんなところにいたんですか?」
そのとき、突然アンに声がかけられた。
明るい緑色の髪をした少女――ミント·エンチャンテッドだ。
ミントはゆっくりとアンに近づいていく。
「アンさん、実はあなたに話しておきたいことがあるんです」
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