#037
キャブオーバー型の乗用車がアンたちの前に停まる。
運転手の女性が車から降りて、アンに一礼した。
今は自動運転車が主流になっているのだが、どうやらアンが移動するときの乗り物にはすべて運転手がつくようだ。
運転手とは顔馴染みなのだろう。
アンは一礼した運転手の女性と気さくに声を掛け合っていた。
その間に、ブレシングが子供を一人ずつ車へと運んでいると、ミントが彼のことをじっと見つめていた。
「なに? なんかおかしい?」
「いえ、あなたは一人ずつなんだなと思って……」
ミントの言葉を聞いたブレシングが彼女が視線を向けたほうを見ると、そこには子供を両脇に抱え、さらに特別仕様のベビーキャリアで胸と背中に子供を乗せているアンの姿があった。
合計四人の子供を運ぶ彼女の姿は、まるで大家族の母親のようだ。
「うん? どうした二人とも?」
「アンさん……。相変わらずパワフルだな……」
苦も無く子供たちを運ぶアンを見て、ブレシングが呆れる横では、ミントが嬉しそうに微笑んでいる。
運転手の女性は車内のシート動かして荷室を作り、それからトランクリッドを開け、アンが子供を乗せる手伝いをしていた。
それからアンたちは連合国からの迎えの車に乗り、宇宙空港へを出て自宅へと向かう。
いくつもの街を抜け、数時間走ると深い森へと入る。
ミントにとっては見慣れない光景なのか、彼女は窓からずっと外を眺めていた。
ブレシングにとっては、数年ぶり戻ってきた勝手知ったる我が家への道だ。
そこからさらに奥へと進み、木々のない空間へと到着。
キャブオーバー型の乗用車はそこで停まり、アンたちは車から降りる。
「丸太小屋……ですか?」
ミントが両目を見開いて呟くように口にした。
彼女は丸太小屋を生で見るのが初めてだったのだろう。
孤児院出身とはいっても、生まれてからずっと街で暮らしていたミントとっては森に囲まれた丸太小屋に住んでいるなど、まるで絵本の世界だ。
「お気に召さなかったか?」
「いえッ!? けしてそんなことはッ!」
「ここへ来たからには君にもいろいろ手伝ってもらうぞ。何しろやることはいくらでもあるからな」
アンが再び四人の子供たちを運びながらそう言った。
そんな呆然としているミントの横を、ブレシングが全員分の荷物を抱えて通り過ぎていく。
「フフフ、来たことを後悔するかもね……」
「え……?」
さらに呆気にとられるミント。
そんな彼女のことを気にせずに、アンは子供たちを丸太小屋へと運ぶと、車で待っていた運転手の女性に声をかけた。
運転手の女性はアンとブレシング、そしてミントに一礼すると、車を発進させて丸太小屋の前から去って行った。
そして、アンはミントの傍へ行くと彼女に言う。
「じゃあ、まずは料理の支度を手伝ってもらおうか」
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