#036

その後、アンたちはスペースシャトルに乗り込み、ムーグツーから出港。


宇宙空間へと飛び立ち、大気圏を抜けて地球へと到着した。


宇宙空港の外で連合国軍の迎えを待っている間――。


子供たちははしゃぎ疲れたのか、側にあったベンチでスヤスヤと眠っている。


「まったく気楽なもんだなぁ……。散々振り回して置いて疲れたら寝ちゃうんだから」


「あら? そんなこと言っていますけど。あなたも楽しそうでしたよ」


そんな子供らを眺めて呆れているブレシングに、ミントがからかうように声をかけた。


クスクスと上品に笑いながらそう言う彼女を見て、ブレシングは「うぅ」と表情を歪める。


「そりゃ……楽しかったけど……。というか、なんで君がうちに来るんだよ」


「でも、そのおかげであなたも実家に帰れるのでしょ? よかったですね、私がアンさんの家に行くことになって」


「はぐらかさないで答えてよ。一体君は何が目的なんだ?」


「目的なんて、そんな大それたことは考えていないですよ。ただせっかく英雄といわれたアンさんと知り合えたんだから、これを機に親交を深めたいと思っただけです」


ミントと言葉を聞き、疑うような眼差しを向けるブレシング。


ブレシングはミントがあのときに――。


ムーグツー内での戦闘にした行動を忘れていなかった。


彼女はストリング帝国軍の准尉であるマシーナリーウイルスの強制者――リョウガ·ワスプホーネットに、自分を主のもとへ連れて行ってくれと言っていたのだ。


連合国上層部の一人であるパロット·エンチャンテッドの娘であるというのに、この女は裏切るつもりだったのかと、ブレシングは彼女への疑念が拭えない。


(だけど、状況が状況だったっていうのもあるし……。あの場でこの子が投降したら、戦闘が止まっていた可能性は高いんだよな……)


結果としては――。


帝国軍はムーグツー内に侵入したものの、襲い掛かってきた連合国軍の兵を数人殺しただけで、民間人や非戦闘員には手を出さなかったが。


もし侵入してきた帝国軍の目的が街へ攻撃することだったとしたら、ミントの口にした言葉の意味が変わってくる。


ブレシングはそんなことを考えながらモヤモヤしていると、それを頭の中から吹き飛ばそうとばかりにアンに声をかけた。


彼にはめずらしく少し怒気の交じった声だ。


「アンさんはいいの? いきなり上層部のお嬢さんがうちに来ることになって」


「……? 私は構わないが。何か問題があるのか?」


訊ねられたことの意味がわからないといった様子でアンが答えると、ブレシングは大きくため息をついた。


そうなのだ。


上層部の娘だろうが誰だろうが、結局アンの生活は連合国に監視されているのだ。


今さら自宅に一人来たくらいで、別にどうということもない。


「ない……。なかったです……」


「そうか。ならいい。おッ、どうやら迎えが来たみたいだぞ」


肩をガクッと落とすブレシングと、迎えに来た車に視線を向けるアン。


そんな二人を見て、ミントはまたクスクスと上品に笑った。

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