#031
「ノピア、ムーグツーへの襲撃を正当化するつもりか……」
メディスンが呟くように言った。
彼を自分ではそう言いつつも、ノピアの言葉が間違っていないことはわかっていた。
イーストウッドが率いる部隊ベクトルは、元々ストリング帝国の残党狩りを目的として結成されたものだった。
それは、今から三年前にアンプリファイア・シティという街で起きた事件後のこと――。
ストリング帝国の科学者だったドクター·ジェーシー·ローランドが現ストリング王国の将校らを引き連れてストリング帝国を名乗り、連合国軍へと反旗を
それからは先ほどノピアが口していたように、ベクトルは疑わしい者を虐げて富を
その結果――。
連合国軍は多くの住民から反感を買った。
だがすでにベクトルは連合国で軍の主力となり、指揮をするイーストウッドは上層部と同じ権力と発言権を得ていた。
ベクトルはその後の国の宇宙開発へも力を注ぎ、連合国軍の宇宙での移動を可能とするスペースバトルシップ――レインボーを開発。
さらには三つのスペースコロニーを完成させ、それらはムーグワン、ムーグツー、ムーグスリーと名付けられた。
今回行おうとしていたベクトル艦隊による盛大な観艦式は、世界での彼らの力を盤石にするためのセレモニーだったと思われる。
しかし、その
ベクトルは世界の頂点に立つその寸前で、一気に地獄に落とされたのだ。
メディスンは、襲撃で戦死したイーストウッドのことを自業自得と思ってはいたが。
何とも言えない感情に悩まされていた。
やり方を間違え、部下たちの増長を無視した結果。
イーストウッドは、ベクトルを指揮する人間として世界中の嫌われ者となった。
だが、曲りなりとも世界は平和になった。
連合国軍による――ベクトルによる反理想郷ともいえる世界ではあったが、そこにはたしかに争いのない世界が広がっていたのだ。
ノピア·ラシックは正しい。
彼の言うことに間違いはない。
ベクトルはたしかに逆らう者や疑わしい者を処分していった。
しかし、争いのない世界を創りあげたベクトル――イーストウッドもまた正しいのだ。
メディスンはそう考えると、所詮は人間がやることに、正しいも間違っているもないのかもしれないと思っていた。
(ノピア·ラシック……。彼ならイーストウッドとは違うやり方で、この世界に平和をもたらすことができるのか……?)
考え込んでいるメディスンに、アンが声をかける。
「メディスン? 大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ。……そうだ、アン。お前には、これから私の部隊に入ってもらうぞ」
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