#030

「メディスン……。久しぶりだな」


「あぁ、お前がいてくれたおかげでムーグツー内にいた人たちは守られた」


「それは違う……。私はあいつに手も足も出なかった……。運がよかっただけさ」


そう言って俯くアンを見て、メディスンはそれ以上声をかけられなかった。


悔しがっているとか、そういう様子ではなかったが。


おそらくはノピアが生きていたという事実――。


しかも彼が連合国の敵となって現れたことに、少なからずショックを受けているのだろうと、メディスンは思った。


「ともかくエヌエーやブレシングも無事だったんだ。そこは、やはりお前のおかげだよ。あとニコもな」


メディスンはそう言うと、アンの肩をポンッと叩いた。


ミントはそんな二人を眺めていると、傍にいたニコの頭を擦っているメディスンへ声をかける。


「メディスン大佐、お久しぶりです」


「ミント……君もいたのか? すまない、気が付かなかった」


ミントとメディスンのやり取りを見たアンは、その口を開く。


「彼女とは知り合いなのか、メディスン?」


「あぁ、何度か連合国のパーティーでな。それよりもミント。君の父上が心配していたぞ。あまり無茶をしてはいかんな」


メディスンの忠告に、ミントはわかりやすく表情を歪ませた。


そして、プイッと顔を逸らすと不機嫌そうに答える。


「父のことはいいんです。あの人のことなんて……」


ミントがそう言ったとき――。


治療施設の待合室に映っていたホログラム映像が、突然切り替わる。


《連合国軍、ならびに地球と宇宙に住むすべての者たちに告ぐ。私はノピア·ラッシクという者だ》


アン、メディスン、ミントだけでなく、その場にいた誰もが突然切り替わったホログラム映像に驚愕。


全員がホログラム画面に映るノピアの姿に釘付けになっていた。


《私を知っている者はそう多くないと考え、こうやって姿をさらして名乗らせてもらっている。さて、すでに知っていると思うが、連合国軍の建造したスペースコロニー……ムーグツーでの観艦式は、我々ストリング帝国によって中止させてもらった》


静まり返る待合室の中で、メディスンに通信が入った。


そのメッセージによると、どうやら今映っているノピアの映像は世界中に流れているようだ。


《私はこの場を借りて、これまで散っていった英雄たちの遺志を継ぐ者として語りたい。それは、世界を武力で統一しようとした帝国の初代皇帝レコーディ·ストリングやローズ·テネシーグレッチ二人とは違い、ストリング人としてではなく、一人のこの世界を憂う者としてだ》


ノピアの言葉を聞いてアンの無表情が崩れる。


右の拳をギュッと握りしめ、激しく歯軋りをしている。


《連合国軍が世界を我が物にしている事実は、先に名を出した二人の行為よりも悪質だった。特にリプリント・イーストウッドの率いるベクトルは、平和を与えるためなどと抜かし、逆らう者や疑わしい者を虐げて富をむさぼった。当然彼らは滅んで然るべき。だからこそ、我々は今回の襲撃に至ったのだ》


表情を歪めるアン。


複雑そうにホログラム画面を見るメディスン。


他の待合室にいた者たちのほうは、皆が不安そうな顔をしていた。


だがそんな中で――。


ミントだけがその両目を輝かせていた。

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