#025

アンの登場にリョウガは驚愕していたが。


すぐに先ほどの笑みを浮かべる。


「今日は本当についてる。まさかオリジナルの適合者と会えるなんてな」


アンはそんなリョウガを無視して、ブレシングとミントのもとへ移動する。


その背中にはジェットパック。


さらにその手には銃剣タイプのインストガンが持たれており、おそらくは避難場所から出てから入手したと思われる。


「アンさん……」


「もう大丈夫だ、ブレシング。エヌエーのほうも心配いらないぞ。ちょっと無理してもらったが、ニコシリーズの電気羊にシェルターまで運んでもらった。ところで、そっちの子は?」


アンは震える足で立つブレシングの肩をポンッと軽く叩くと、彼にミントのことを訊ねた。


ブレシングが答えようとすると、ミントが身を乗り出してアンに迫る。


「あなたがあの英雄アン・テネシーグレッチさんッ!? 一体どうしてこんなところにッ!?」


「私のことよりも、もしかして君の名前は……ミントというんじゃないか?」


「……ッ!? 私のことをご存知なんですかッ!?」


「やはりそうか。実は君の父親のパロット·エンチャンテッドに頼まれてな」


アンはふらつくブレシングを地面に座らせながら、ミントに説明を始めた。


自分が避難場所――シェルターから出てきたのは、連合国の上層部の一人であり、ミントの父親であるパロットに頼まれたからだと。


事情を聞いたミントの顔が、次第に浮かないものへと変わっていく。


アンは彼女の様子を見て、父親と上手くいっていないのかと勘繰っていると――。


「おい、オレのことは無視ですか?」


リョウガが右足を思いっきり踏み込んで音を鳴らし、アンへと声をかけた。


アンは特に表情を変えずにミントにブレシングのことを頼むと、リョウガのほうへと歩き出す。


一歩また一歩とゆっくりと向かってくるアンに、どうしてだかリョウガは震えていた。


先ほどブレシングとエヌエー二人がかりでも余裕をみせていた彼とは、まるで別人のような様子だ。


「アンさん、気をつけて……。そいつはマシーナリーウイルスの力を……」


「ブレシング。私がさっき大丈夫だと言っただろう? だから、そこで安心して見ていろ」


振り返ることもなく抑揚のない声で言ったアン。


ミントはそんなアンの態度から冷たい印象を受けた。


だがブレシングのほうへ目をやれば、冷たい態度を取られたはずの彼は微笑んでいる。


(この人……笑ってる? なんで? あんな言い方をされたのに笑っているの……?)


ミントは二人の関係を考えていると、これが信頼というものなのかと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る