#018
子供たちの言葉にせぬ想いを受け取ったアンは、娘が避難場所に来ていないことに絶望するパロット·エンチャンテッドに声をかける。
「失礼、私は連合国軍大尉、アン・テネシーグレッチだ。あなたはパロット·エンチャンテッドで間違いないか?」
アンは連合国が創立されていたときから軍に参加していたが。
連合国上層部の人間のことをほとんど知らなかった。
彼女が知っているのは、せいぜい連合国が創られる前に共に戦ったオルゴー王国の女王レジーナ·オルゴーくらいだ。
そのため、今目の前いる髭の生えた成人男性が、パロット·エンチャンテッドなのかを確認した。
両手で頭を抱えて俯いていたパロットは、バッと顔を上げてアンのほうを見た。
そして、突然取り乱して彼女の両肩を掴む。
「君があの有名なアン・テネシーグレッチかッ!? 頼む! 娘のミントがいないんだッ! もしかしたら逃げ遅れて外にいるのかもしれないッ!」
それほど娘が大事なのか。
パロットは大の大人とは思えぬほど狼狽えている。
アンは唾まで飛んでくる勢いで迫られたが、普段通りの無表情でまずは落ち着くように言った。
「落ち着いてなどいられるかッ! 彼女が、ミントがいなくなったら私は破滅なんだッ!」
アンには何故ここまでパロットが取り乱すかがわからなかった。
だが、それほど娘を愛しているのかと思うと、彼の状況を自分の立場に置き換えてみる。
もし子供たちの誰かが、この避難用シェルターに入れなかったとしたら――。
この男ほどではないのにしろ、動揺は隠せなくなるだろうと。
アンはそう思うと、再びパロットに声をかけた。
「安心してくれ。あなたの娘は私が探してくる」
「本当かッ!」
アンの言葉を聞いたパロットはその表情を明るいものへと変え、今度は彼女の両手を自分の両手でガッシリと掴んだ。
もう取り乱してはいないが、その暑苦しい態度は変わっておらず、アンは思わず仰け反る。
「あぁ、だから落ち着いてほしい。あなたが動揺していると、ここに避難してきた人たちにもそれが伝染してしまう。それは、あなたも望むことではないだろう」
「あぁ、あぁ。わかった、わかったから、必ず娘を見つけて私のもとへ連れてきてくれ」
アンは手汗がべっとりとついたパロットの手を振り払うと、やれやれといったため息をつく。
そして表情一つ変えずに、彼に背を向けてシェルターの出入り口の扉を開けた。
「話は聞いていたな。私が戻ってくるまで、けしてこの扉は開けないでくれよ」
そして、扉の側に立っていた連合国の兵二人にそう言い、アンはシェルターを出て行った。
それから街のほうへと向かい、周囲に人がいないかを探す。
(被害はまだないようだな……。なら、ミントという娘も無事のはずだ)
そう内心で呟くアン。
彼女が心の中で言ったように、街の建物には攻撃を受けた様子は見られなかった。
アンはそれを見て安心していると、突然頭の中に電気信号が送られてきたような感覚に襲われる。
「この感覚……。まさかッ!?」
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