第45話 一夫5妻制,初代蓮黒天女
悟一と名前を変えた浩一は,もとの顔が分からないように,顔に傷を受けられた。その傷は,両方のまぶたの部分にかかっているので,全く別人の様相を呈した。
見ていて痛々しいので,小芳は,悟一(浩一)のために,目の周囲を覆う覆面を準備してあげた。
悟一たちが,梅山城を出発する日,ヒカル,小芳,憫佳,そして10歳の珠莉らが見送った。ヒカルは,選別代わりに20枚の上級爆裂符を護衛分隊長に渡した。
悟一は,自分がこのように生かされたことに,再度感謝の意を表した。
悟一「ヒカルさん,小芳さん,憫佳さん,そして,珠莉ちゃん,見送りありがとうございます。自分がこのように生かされて,かつ,榮楽宰相の息子という身分までいただいて感謝にたえません。
もし,わたしで役立つことがあれば,何らかの形で恩返しをさせていただきます」
小芳「フフフ,別にそんなにかしこまらなくていいのよ。あなたを生かすのも,作戦の一環なんだから,気にしないでちょうだい。
それで,ひとつ聞きたいのだけど,菊峰城とわたしたちは,いずれ大きな戦いをすることになります。その時,わたしが,あなたに協力を要請したら,あなたは,われわれに協力してくれますか?」
悟一「はい,わたしの気持ちは,すでに梅山城側にあります。いずれ,『大妖怪・水香』様もこちらの陣営に加わるのでしょう? そうなったら,圧倒的に梅山城に勝機があります。わたしは,勝ち馬に乗りたいですから。でも,,,」
小芳「でもって?」
悟一「はい,わたしの父親は,敵に廻してもいいのですが,,,」
小芳「え?なんと,父親を敵に廻していいのですか?」
悟一「はい,そうです」
悟一(浩一)は,父親が好きではなかった。母親が名家出身でなかったためか,ほかの妻たちに意地悪されてきており,自分も,『気』が使えない体になったのも,彼女らによる何らかの毒による原因ではないかと疑っていた。しかも,父親がいっさい,母親や自分を擁護してくれなったことも知っている。父親への憎しみはあっても,父親を助ける気持ちなど持ち合わせていなかった。
悟一は,言葉を続けた。
悟一「でも,わたしの部下だった5名のS級符篆師たちは,敵に廻したくありません。それだけが気がかりです」
小芳「フフフ,分かりました。彼女たちは,菊峰城に帰らないと思うわ。というのも,偽の浩一さんの死体を持たせてあげて,途中で爆破するように仕向けたのよ。その爆発には巻き込まれてはいないと思うけど,でも,遺体が無くなったから,菊峰城に帰るにも帰れないと思うわ。今頃,どこで何をしているのやら?」
悟一「そうだったのですか,,,だったら,確かに菊峰城には帰らないですね。分かりました。では,そろそろ出発します。皆さん,お元気で」
悟一と護衛隊たちは林弦宗を目指して出発した。
悟一と護衛たちの行程は,梅山城から南の方角に150kmほど離れた松風城下町を経由して,さらに南西の方角に150ほど離れた桂河城近くにある林弦宗に行く行程となる。およそ300kmの行程だ。
悟一(浩一)は,馬車で移動となり,護衛たちは徒歩で移動する。馬車での移動は楽かもしれないが,振動が多く馬車酔いが避けられない。必ずしも恵まれた環境というわけでもない。
1日の移動距離は,大体20km程度なので,松風城下町まで行くのに,約1週間ほどかかる予定だ。
出発して,数日間は何事もなく過ぎた。だが,,,
出発して5日目,盗賊が管理している検問を通る必要があった。悟一たちは,梅山城の正規軍と云っていい。しかも護衛が20名もつく。通常であれば,盗賊といえど,イチャモンをつけることはない。
だが,最近,新しい盗賊の団長が就任してから様相が一変した。
門番「あの,どちらまで行かれるのですか? 大体でいいので,教えていただけますか?」
護衛分隊長「まあ,あれだ,桂河城あたりだ」
門番は,ニヤッと微笑んで,通信符を4枚同時に発動させた。その後,悟一たちを休憩する空き地に誘導して,露天式の喫茶店風の感じでくつろいでもらった
門番「あの,,,後で,渉外担当の鴻明(こうめい)様がこちらに来られます。すいませんが,それまで,そこの露天の休憩所で,コーヒーや紅茶を飲んでいただけますか?」
護衛分隊長「え? なんでそんな対応になるんだ?ここは,ひとり銅貨5枚で通れるのではなかったのか?」
門番「実は,新しい団長になってから,いろいろとルールが変わりまして,申し訳ありません。さほど時間は取らせませんので,もう少々お待ちください」
門番は,終始低姿勢で対応した。
15分ほどして,ある男女2名の団員が馬を走らせてやって来た。男の方は渉外担当の鴻明で,女性のほうは鴻明の秘書だ。
鴻明「すいません,待たせてしまって。責任者の方,どうぞ,あそこでお話しさせてください」
鴻明は,屋根だけの大きな簡易テントを指刺した。そこには,机も椅子も準備されていた。
護衛分隊長と悟一は,鴻明と対面で座った。秘書は飲み物を準備したりした。このような席では,女性がひとりでもいると,話がスムーズに進む。
お互いの自己紹介が終わったところで,鴻明が本題を切り出した。
鴻明「では,お話しさせていただきます。あなたがたは,300kmほど離れている桂河城あたりに行かれるのですね?」
悟一「はい,そうです」
鴻明「でも,護衛の方20名もいては,その移動までの経費も膨大でしょう。どうですか? その護衛を,わたくしどもに任せてくれませんか? 費用は,そうですね,,,金貨200枚で結構です」
その話を聞いて,護衛分隊長は鼻であしらった。
護衛分隊長「金貨200枚も支払うなら,われわれが護衛するのとなんら変わらないじゃないか。それに,あなたがた盗賊団をどうやって信じればいいんだ?」
鴻明「われわれを信じる信じないは,後回しにしましょう。
まずは,お互いのメリットについて説明させていただきます。この辺一帯は,われわれの地盤です。それに,桂河城付近の地域も,今の団長の弟君が仕切っている盗賊団が管理しています。つまり,身内です。悟一さんを安全に護衛するのに最適な人選であることは理解いただけたかと思います。
さて,あなたがたのメリットですが,護衛の隊員は,ここから任務を開放されて戻ることができます」
ここまで鴻明が話した時,女性秘書は,ある名刺大の大きさのカード40枚を護衛分隊長に差し出した。そのカードには『特別優待券』と,大きく書かれていた。
鴻明「そのカードは,わたくしどもが管理している娼館の無料使用券になります。どの娼婦でも,その1券あれば,一晩ゆっくり遊べます。つまり,その券1枚は,金貨5枚相当の価値があるということです。それが40枚もあります。つまり,合計金貨200枚です。
つまり,あなた方は,ここで金貨200枚を支払って,特別優待券40枚を購入でき,悟一さんの護衛から解放されて,ここで2晩も遊べることになります。
さらに,悟一さんは,われわれが責任を持って安全に桂河城に護衛いたしましょう」
ここまでの説明を受けて,護衛分隊長の心はかなり動いた。でも,2晩だけでは,いろいろと種々の問題がでてくる。
悟一は,護衛分隊長の気持ちが理解できる。隊員たちは,なんといっても,サラリーマンだ。このような出張任務では,日当制で,早くお城に帰ってしまうと,出張手当がその分,減ってしまう。つまり,往復1ヶ月もかかる行程を短縮したくない。
悟一「仮に鴻明さんの話に乗るとして,護衛たちは,なんらかの形で1ヶ月ほど,わたしを護衛するという任務が必要です。まずは,その点をクリアする必要があります」
鴻明「なるほど,,,1ヶ月もですか,,,さすがに1ヶ月分もの特別優待券を購入するほどの路銀はないでしょうね。さて,,,」
鴻明は,ここでしばらく考えてから話を続けた。
鴻明「折角,ここまで話を聞いていただいているので,では,こんな案でいかがでしょう。わたくしどもの息のかかった娼館が,その先の松風城下町の娼館街にあります。まずは,そこで隊員の方は,当初の日程通り1ヶ月ほど,寝泊まりをしていただきます。
宿泊施設は,雑魚寝になってしまいますが,宿泊は無料で提供させていただきます。それに,『優待割引券』をいくらでも発行させていただきます。その券があれば,われわれの息のかかった娼館限定になりますが,30分間,銀貨3枚で対応させていただきます」
悟一「え?それって,わたも松風城下町にいないとダメってことですか?」
鴻明「そこは,あなた方の判断に任せますが,護衛の方も,悟一さまが,なんらかのトラブルに見舞われて,已むなく1ヶ月ほど,松風城下町に逗留しなければならないという状況が必要ではないですか?
ともかくも,わたしどもとしては,あなたがたから,金貨200枚に相当するものを提供したいのです。そのため無料で娼館の部屋を提供しますし,無尽蔵に『優待割引券』を発行します。
さて,問題は,護衛の方に,ひとり金貨10枚も出させて,1ヶ月も,遊ぶお金があるかということです。たぶん,無理ではないでしょうか? そこで,悟一さん,あなたが,その金貨200枚を支払うのはどうですか? その失ったお金は,松風城下町で稼げばいいんです。
1ヶ月で金貨200枚を稼ぐのは,ちょっと無謀ですが,足りない分は,護衛たちから回収すればいいでしょう。護衛の方にもときどきは,仕事してもらえばいいんです。
つまり,旅の途中で路銀を落としてしまった。だから,已むなく松風城下町で,悟一さんを護衛する傍ら,失ったお金を回収するために,そこで仕事をした,というストーリですかね? フフフ」
この話を聞いて,護衛分隊長の眼が一瞬光った。その意味は,鴻明の話に乗ってもいいということだ。悟一は,護衛分隊長の気持ちを汲むことにした。
悟一「その話,乗ってあげましょう。松風城下町で1ヶ月ほど過ごすことにします。あの,仕事の斡旋はしてもらえるのですね?」
鴻明「もちろんですよ。娼館の女将は顔が広いですから,女将の頼みなら,断れる旦那などいませんよ。それに,松風城から桂河城への移動は,われわれが責任を持って護衛しますから安心してください」
悟一「・・・」
その後,悟一と護衛分隊長が相談して,悟一が金貨100枚,護衛隊員がひとり金貨5枚で,合計200枚を出すことに決まった。1ヶ月後,悟一が失った金貨100枚を稼げない場合,隊員たちが,悟一に貸し与えるということにした。悟一が借用書を書けば,隊員たちが梅山城にもどれば,そのお金は間違いなく回収可能だ。
悟一の行き先は,盗賊団たちには,はっきりとは伝えていない。悟一の行き先は林弦宗だ。果たして,ほんとうに,悟一を彼らに任していいものかどうか,その点については,とりあえず1週間ほど松風城下町で過ごしてから,再度判断することにした。
とにもかくにも,最近の盗賊団はうまく立ち回るものだと,悟一たちは感慨深げだった。
その後,盗賊団員2名ほどが来て,彼らの案内で,松風城下町へと向かった。
ー 松風城城下町,娼館街 ー
その娼館街の離れに,かなり大きな屋敷があった。大広間がいくつかあって,2階と3階には,小さいな部屋が並んでいた。大広間の一部屋を,護衛隊員たちが使用し,悟一と護衛分隊長は,2名で一部屋を使用することにした。
悟一の護衛は重要度の高い仕事だ。そのことは護衛分隊長はよく理解している。護衛隊員20名の命以上に大事なのもわかっている。そうは思っていても,遊び好きな分隊長のこと,遊ぶ機会があるならとことん遊ぶ! これが,分隊長の考え方だ。
案内係の団員が,一通り案内し終わったので去っていった。
今回のアレンジで,一番得をしたのは護衛隊員たちだ。少なくとも1週間は,娼館で遊べる!それに宿泊代も無料だ。これなら,ひとり金貨5枚を支払ってもお釣りが来る! 彼らはすぐに『優待割引券』を持って,そそくさと出かけていった。
だが,悟一は違う。彼は童貞だし,こんなところで失うわけにはいかない。
悟一は,その娼館の女将を尋ねた。
悟一「女将さん,あの,ボクに何か仕事を斡旋してくれませんか? とりあえず1週間ほど仕事したいんです。その後のことはまた考えます」
女将「悟一さん,どこぞのお偉いさんの御子息なんでしょう? 掃除洗濯なんて仕事も斡旋できないしね,,,それに1週間? それも中途半端だわ。少なくとも1ヶ月だったら,まだいくつか宛てがあるのだけど,,,」
悟一「では,1ヶ月ということで,斡旋してくれませんか? もし,その前に辞めることになれば,違約金を支払ってもいいので」
女将「わかったわ。それはいいとして,悟一さん,あなたの被っている仮面,一度,外してもらえますか?」
悟一「構いません。ボクもこんな仮面,ほんとうは被りたくないんです」
悟一は仮面を外した。悟一の,両方のまぶたに刀傷のような跡があった。見ていて,決して心地良いものではなかった。
女将は悟一の顔を見て溜息をついた。仮面を被っている理由がわかったからだ。
女将「なるほどね。これでは,元の顔を知っている者も,識別ができないわね。それに対人商売も無理。そうなると,,,悟一さん,確認なんだけど,あなた,気法術が使えない,煉丹もできない,符篆術もできない,,,でも,読み書きができて,計算もできる。それで合ってる?」
悟一「はい,それで合っています」
女将「そうなると,どこかの会計の仕事くらいしか思いつかないわ。この辺で一番大きいお店となると,来福薬問屋くらいかな? でも,折角,梅山城下町に支店を出したのに,閉めることになったっていうし,今は厳しいかもね。他に景気がいい所といえば,飛脚問屋かな?でも,飛脚問屋は対人の仕事がどうしても出てくるし,,,」
女将は,いくつか候補を思いついては消去していった。結局,可能性は低いものの,来福薬問屋に決めて,悟一をそこに連れていくことにした。
ー 来福薬問屋,会議室 ー
女将は,来福薬問屋の番頭に悟一を紹介した。
女将「悟一さんは,どこかの宰相さんの御子息なんですって。どうも訳ありで,1ヶ月ほどここで逗留して仕事をするはめになって,,,そこで,番頭さんのところで雇っていただけないかしら?」
番頭「他ならぬ女将さんの頼みとあっては,断ることは難しいけど,でも,まず,その仮面はないでしょう? それを外してからのことだと思いますよ」
悟一「わかりました。外させていただきます」
悟一は仮面を外した。彼の顔を見た番頭は,苦い顔をした。
番頭「あっ,もういい。仮面をしてもらって構わない。悪いことをした。コホン,コホン,まあ,そうだな。どこぞの宰相さんの御子息だとしても,その身分でお金を払うわけにはいかねえ。きちんと仕事ができるかどうかだ。現場で試験をしてみて,採用するかどうかはそれからのことだ」
番頭は,悟一と女将を連れて,事務室に移動した。そこには,20名ほどの事務職員がいた。全員が女性職員だった。このような細かな仕事は女性が適任だ。
番頭が,悟一と女将を連れてくると,一斉に女性職員たちの顔がその方向を向いた。
悟一の仮面姿はとても神秘的に見えた。しかも,彼から漂ってくる高貴な気品的なものを感じた。明らかに,どこぞの御曹司といった雰囲気がある。それでいて遊び慣れている様子もない。
彼女たちは,なんでこんなところに視察に来るのかと怪訝そうな顔をした。
番頭は,会計を担当する女性職員たちの傍に来た。会計係の職員は,膨大な伝票の束の集計をソロバンでテキパキと計算していた。
番頭は,その職員に座席を譲ってもらい,悟一に座ってもらった。
番頭「悟一さん,そこに集計が終了した伝票の束があります。それを10分以内で,その合計を算出してください。できなければ,残念ですが採用することはできません」
悟一「わかりました。この手の仕事は,子供の頃にさんざんやらされました。この程度の伝票の束なら10秒とかかりません」
悟一はそう言って,伝票を両手で持ってペラペラペラとめくった。その時間,わずか4秒。
悟一「合計は,8985.672です」
そのあまりの速さに,周囲にいた会計係の職員が叫んだ。
「え?うそー!?」
「有り得ないわ,そんな速さで?」
「どんな頭の構造しているの?」
「絶対,間違っているわ」
などなど喚きだした。
悟一の,その解答に,隣にいた女性職員は,自分が計算した合計の数字を見た。
女性職員「あれ? 百の位の数字がわたしのと違っています」
その言葉を受けて悟一が返答した。
悟一「誰でも間違いはあると思います。でも,ボク,暗算では,一度も間違ったことはありません。わたしが間違うと,大変なことになるので,絶対に間違わないようにしていました」
番頭は,悟一の驚異的な暗算力に驚いたが,悟一の「一度も間違ったことはありません」という言葉を信じて,その職員に,再度計算し直すように命じた。
その女性は確認の意味で,同僚も誘って2名で同じ伝票の計算を行った。5分ほどかけて慎重に計算していった。その結果,2名が算出した答えは,悟一が4秒で算出した答えと同一だった。
女性職員「すいません,わたしの計算した数字が間違っていました」
その女性はバツが悪そうに頭を下げた。
女性たちは,また叫んでしまった。
「え?合っているの?」
「たった4秒で正解を出したの?」
「奇跡! これは奇跡だわ!」
「あぁ,やっと,この会計係にも,神様が降臨されたのだわ」
などなどの声があがった。
番頭は,悟一に聞いた。
番頭「悟一さん,子供の頃,こんなことをしたのって,ほかの人が計算したのを,監査的にチェックしたのではないですか?」
悟一「はい,そうです。ボク,『気』が扱えなかったので,計算業務の方で,暗算の英才教育を受けていきました。当時,ボクが計算業務の最終的な承認者だったので,絶対に計算ミスは許されませんでした。そのせいで,いまでも書物を一度見ればほぼ暗記することができます」
番頭「・・・」
番頭は,もしかしてとんでもない人物を見つけたのかもしれないと思った。
番頭「まあ,1回だけでは不十分だ」
番頭は,会計主任を呼びつけ,計算のチェックする業務の一部を悟一にやらせるように命じた。
悟一は,チェック表と伝票をチェックしていって,わずか5分後,,,
悟一は,会計主任である女性職員に報告した。
悟一「この100束の伝票のうち,4束に計算ミスがあります。正しい数字は,こうこうです」
悟一は,テキパキと指摘した。
会計主任「え? 4束も計算ミスがある?」
彼女は,慌てて,部下にその4束の再計算をさせた。
10分後,,,
果たして,悟一の指摘通り,それらに計算ミスが見つかった。
番頭は,開いた口が塞がらなかった。なんという暗算速度,かつ,正確無比!
番頭「わかった。もういいです。女将さん,悟一さん,会議室に戻りましょう」
悟一「はい」
女将「ふふふ,はいはい」
女将は,超嬉しかった。悟一がこんなにも計算能力に優れているとは思ってもみなかった。これだと,日当,金貨3枚,いや,場合によって,金貨5枚をねだることもできそうだと思った。女将は,悟一の給与の2割を手数料としてで差し引くことができる。
会議室に戻って,番頭は口を開いた。
番頭「悟一さん,正直言って,あなたの能力は高すぎる。彼女たちが1週間かけてする仕事を,あなたなら30分で終えてしまうでしょう。もちろん,悟一さんを採用したいのだけど,あなたの能力だと,その日の夕方に,会計業務の確認で30分もいれば,それで済んでしまいそうだ。丸1日,採用するには,ほかに適切な仕事がありません。女将さん,どうしましょう?」
女将は悟一の顔を見た。仮面で覆われているので,素顔に微妙な機微までは観察することはできない。
女将「悟一さん,あなた,さっき一度見た内容は忘れないっていったわね。だったら,薬草の知識だって,すぐにプロレベルになるんじゃない? 薬草の分類とか,管理業務もこなせるんじゃない?」
悟一「暗記は得意なのですが,実際に薬草などは触ったことはないので,時間がかかると思います」
女将「悟一さんの能力なら大丈夫ですよ。仕事は,実践で覚えていけばいいんです。番頭さん,薬草の管理関係の仕事もさせていただけますか? それで,なんとか,丸1日,採用させてください。日当は,そうですね,,,最初の1週間は,日当金貨2枚でいいですよ。能力が認められたら,順次,アップさせてください」
番頭「わかりました。では,臨時的に,1週間,日当金貨2枚の条件で採用しましょう。その後は,仕事ぶりを見て判断しましょう。では,新人の方は,最初に若旦那様に挨拶することになっています。悟一さん,いや,今後は,呼び捨てにします。それでいいですね?」
悟一「もちろん,そうしてください」
番頭「わかりました。では,悟一,それに女将さんも一緒に来てください。若旦那様を紹介します」
番頭は,悟一と女将を連れて,若旦那の執務室のドアを叩いた。部屋の中から女性秘書の声がした。
秘書「どうぞ,入ってください」
番頭「では失礼します」
番頭は,部屋の中に入った。秘書は,若旦那の机に,花嫁衣装の図案を回収するところだった。彼女は番頭に聞いた。
秘書「何用ですか?」
番頭「今度,新しく採用した職員を紹介しに来ました。榮楽悟一という人物です。どうも訳ありで,短期間ですが,こちらで働いてもらいます。女将さん,紹介してください」
女将「はい,若旦那様,ご無沙汰しております。最近,顔をみせませんね。婚約者にぞっこんですか?」
若旦那は,ニヤッと微笑んだ。
若旦那「女将さんのところは,今度は,職業斡旋業でも始めたのかな?」
女将「ホホホ,そうよ。最近,客も金回りが悪くてね。多角経営でもしないと,娼婦たちを養えないのよ。困った時代になったものだわ。そんなことより,この子,悟一さんを番頭さんが採用してくださったので,お礼申し上げますわ」
若旦那「ほほおう,それはいいのだが,仮面をしているとは,ちょっと分けありなのかな?」
その言葉に,悟一は仮面を外した。
悟一「ちょっと人前に出せる顔でないので仮面で隠しています。ご容赦お願いします」
若旦那「なるほど,,,でも,なんか,その傷,わざと付けられた感じだね。フフフ,まあ,詮索はよしましょう。いいことありませんから」
女将「ホホホ,さすがわ若旦那様,世渡りがお上手ですこと。若旦那様をお慕いもうしあげている女性(にょしょう)は多くいましてよ。またのお越しをお待ちを申し上げておりますわ」
そんな社交辞令のやりとりの後,番頭が本題を切り出した。
番頭「この悟一は,暗算が卓越しておりまして,会計の監査業務を手伝ってもらうことにします。ですが,計算が異常に速いので,30分もあれ数日分の仕事をこなしてしまいそうです。そこで,薬草の管理業務を覚えてもらうことにしました」
若旦那「なるほど,それはたいした才能だ。もしかして,気法術でも,かなりの才能を持っているのかな?」
得てして,頭脳明晰な者は,気法術でもかなりの能力を持っている場合が多い。
悟一「いえ,ボク,気法術はまったくできないんです」
若旦那「ほう? それって,病気か何かの原因かな?」
悟一「いえ,かつて多くの医師に診てもらったのですが,体に特に異常はないとの診断でした。今はもう諦めています」
若旦那「そうか,悪いことを聞いたな。番頭,どうだろう?『衆康堂』の会計業務も併せてやってもらったらどうだ? そこなら,野外から採取した薬草もたくさんあるし,薬草を覚えてもらうのにいいと思うのだが?」
番頭「あっ,なるほど,それはいい考えですね。では,午前中は,衆康堂で分類管理業務をしてもらって,午後は,衆康堂の会計を見てもらってから,こちらに移動して,会計監査をしてもらうという感じでですかね? では,そんな感じですすめたいと思います」
その後,少し雑談をして,番頭は悟一に,薬草図鑑や薬草学の本を貸し与えた。
番頭「悟一の記憶力がほんとうなら,2冊の本くらい,一晩で暗記できるでしょう。明日は朝8時から出勤,お願いしますよ」
悟一「わかりました。明日からよろしくお願いします」
・・・ ・・・
用事も済んで,悟一と女将は,のんびり並んで娼館に戻っていった。その道すがら,別に話題もなかったので,女将は,あるお客さんの息子の話を引き合いに出した。
女将「あるお客さんの息子さんの話なんだけど,ある日,泣きながら帰って来たんだったって。訳を聞いたら,好きになった女性に恋文を送ったのよ。まっ,それはそれでよかったんだけど,その女性,頭がかなりよくて,その恋文の文章を添削して返して来たんだってさ」
悟一「フフフ,よっぽど,下手な恋文だったんでしょうね。ボクも添削しそうですよ」
女将「なるほど。頭のいい人は,発想が違うわね。まあ,それはいいんだけど,そのお客がね,息子のために,なんかしてあげたいんだって。娼館に連れてきなさいって,言ったんだけど,それはダメだって」
悟一「それなら,その息子さんに,呪詛符でもあげたらいいんじゃないですか?」
女将「え? 呪詛符?」
悟一「はい。ボクは『気』のパワーがないので,不活性の呪詛紙しか創れませんけど」
女将「例えば,どんな呪詛符が創れるの?」
悟一「呪詛符,その基本は単純なんです。恨みを持続・増強させればいいんですよ。だから,本来,誰でもできるものなんです。呪詛符,正確には,『怨念増強呪符』とでも言い換えることができるかもしれませんが,一部の呪術師の間では,ごく一般的に使用されているものですよ」
女将「え? 悟一さんは呪術師なんですか?」
悟一「ボクは,『気』のパワーがないので,呪術師にはなれません。でも,知識だけなら,呪術師には負けないと思います」
女将「そういうものなの? 呪符って,紙に書くものなんでしょう? それって,素人が見て,モノマネされる危険性はないの?」
悟一「もちろんありますよ。だから,呪符の原図に両方からノリを塗って,別の紙で挟み,その上に偽物の図案を描く手法が採られています。
凝った呪術師なんかは,原図を10分割にして,『気』を流す順番を換えることで,正常に機能させる方法とか,カモフラージュの応用技ならいろいろあるんですよ」
女将「へえ,やはり奥が深いのですね」
悟一「不活性の呪詛符でよければ,金貨5枚ほどで作成してあげますよ。だいたい,それが相場ですから」
女将「それって,どうやって活性化させるの?」
悟一「簡単です。その呪詛符に『気』を流して,恨みの思いをその呪詛符に流せばいいんですよ。例えば,『今度の試験で不合格になれ』とか,婚約者がいるなら,『破談になれ』とかね。効果は『気』の供給がなけば2,3日しかありません。でも中には,伝説級の呪詛符もあるんです」
女将「え? 伝説級の呪詛符?」
悟一「はい,相手の体の近くに設置させることができれば,その相手から『気』を吸収して効果を持続させるというものです。例えば,お守りだと偽って肌身につけさすとかですかね?」
女将「へえ~,それって,もう,とんでもない代物だわね。でも,相手を不幸にできるのなら,幸福にだってできるのではないの? 試験合格祈願,恋愛成就,安産祈願,家庭円満とかね?」
悟一「それは,多分,可能だと思います。でも,例えば,試験で合格したとして,それが,果たして自分の実力で合格したのか,呪詛符のおかげで合格したのか判然としません。だから,幸福系の呪詛符は,歴史的に発展してこなかったようです」
女将「それって,『不幸』の思いのほうが,効果はあるってことですか?」
悟一「ある懇意にしている霊能力者が云っていましたが,この世には,悪霊,怨霊,浮遊霊などが腐るほど存在します。不幸な話は,すぐに協力者が現れるますが,幸福な話は,なぜか協力者が現れないらしいんです」
女将「そんなもんですかね? じゃあ,一度,その呪詛符を作ってくれませんか? 今度,お客さんが来たら,その呪詛符を売り込んでみましょう」
悟一「さすがに伝説級の呪詛符は無理ですか,一般的な呪詛符なら,たぶん作れると思います。細かい仕事になりますが,ボク,そんな仕事好きかも知れません。何時間も集中するので,つまらないこと考えなくていいし。ほんとうは,こんな仕事で食べていけたらいいのですけど」
女将「呪詛符の販売ルート開拓ですか,,,ちょっと,すぐには,いい方法が思いつきませんね」
悟一は,借りている娼館の部屋に戻った。相部屋の護衛分隊長には,作業があるからと,部屋を空けてもらった。
彼は,さっさと薬草に関する2冊の本をさっさとめくって,記載内容を写真に収めるかのように記憶していった。
悟一「よし,次は,呪詛符の作製だな。さて,どの陣法を参考にしようか?」
実は,悟一は,呪詛符を作るのは始めてだった。
悟一「どうせ,作るなら,伝説級の最高の陣法をモデルにして,呪詛符を制作しようか,,,」
悟一は,陣法・陣盤の知識は,随一のレベルだ。悟一だけが解読に成功した伝説級の強化陣法を参考にすることにした。
1枚の紙に6体の枝陣盤図,さらに中央に眼陣図を描くというものだ。その作業は,非常に細かな作業となる。本来,1メートル角の大きな紙に書くべき陣法を,わずか5cm角の紙片の中に描き込んでいく。その作業には,虫眼鏡を使い,超極細の筆や,紙質もキメの細かなものが要求された。
1時間,2時間,3時間,,,結局,その図案を完成させるのに,10時間もかかってしまった。悟一は,自分の寝る時間をほとんど費やしてしまった。
そこまで精魂詰めて制作していっても,果たして呪詛符として有効に起動するかどうかはまったく不明だ。
悟一「はぁ~,,,やっと図案が完成した。これ1枚完成させるのに,精魂使い果たしてしまった。はぁ,もう,二度とこんなしんどいもの作りたくもない。
ボク,細かい作業は好きだと思ったけど,これほどまでに細かい作業になるとは思ってもみなかった。
やーめた。この方法での呪詛符の作製は封印しよう。でも折角,作製したのだがからなぁ。廃棄するのももったいないし,,,お守り代わりにでもするか」
悟一は,その図案の表面にノリを塗って,その表面に新しい紙を貼り付けた。その新しい紙に,何か名前を書くことにした。
悟一「さて,,,なんて書けばいいなか? もともと『念』を強化するものだし,念は女性のほうが強いから,女性の名前のほうがいいかな?
ここは娼館だから,やはり『花魁』か,,,でも,それだけでは,ちょっと寂しい気がする。
花魁に続く言葉が必要だ。悪霊,,,ちょっとイメージが悪い。怨霊,,,それもダサいし,生き霊,,,う~ん,パッとしない。霊,霊って,言葉が続くから,素直に御霊(みたま)にしようか?」
悟一は,その紙の表面に,篆書体で『花魁之御霊』と描いた。
悟一「あらら? これでは,花魁のお墓じゃないか,,,でも,まあいいか。お墓にお参りして,いろいろと祈願するのは自然なことだ。うん,これでいい。お守りにの完成だ」
悟一は,それをお守り袋の中に入れて,自分の首から吊り下げた。
悟一「さすがに徹夜はしんどい。今は午前6時か,,,1時間でも寝るか」
悟一は,その場に倒れるように寝込んでしまった。
・・・ ・・・
1時間後,,,午前7時になった。いまだに悟一が起きてこないを心配した女将は,彼の部屋を覗いた。仕事を開始する初日から遅刻だなんて,紹介者である女将にとっても面目が立たない。
女将「悟一さん? 起きてる? 起きなさい! もう,初日から遅刻だなんて,許さないわよ!」
そうは言ったものの,悟一はまったく起きようとしない。そこで,女将は,いつも花魁たちにしてしまう行為を思わずしてしまった。その行為とは,電撃による攻撃だ!
女将は,もちろん花魁経験者だ。多くの武林たちと経験を重ねた結果,特に『気』の修行をしているわけでもないのに,いつの間にか,上級前期レベルの『気』の使い手になってしまった。女将は,ちょっと変わっていて雷撃を放つことができる。いつもの花魁たちにしているように,弱い雷撃を悟一に放った。
ビリビリ!
その雷撃は,手足がピリピリする程度なので,ビックリ仰天する程度で,外傷を与えるほどではない。その雷撃でも,悟一は起きなかった。
女将「悟一! もう起きなさい! もっと強力な雷撃を喰らわしますよ!」
それでも悟一は起きなかった。そこで女将は雷撃のパワーレベルを上げて悟一に放った。
ビリビリビリー!
その電撃のレベルは,女将が放てる上級前期レベルの強力な電撃攻撃になってしまった。そのレベル,心臓が弱い者なら,十分に殺せるレベルだ。
女将は,一瞬ヤバイと思ったが,もう後の祭りだ。でも,普通に息をしていたのでホッとした。
女将の放った強力な電撃は,悟一の体を這っていき,彼のお守り袋の中に吸い込まれるかのように流入していった。それと同時に,不活性だった『花魁之御霊』が起動してしまった。起動したところで,何か音がするわけではない。だが,この『花魁之御霊』は,そんじょそこらの呪詛符とは違った。付近に浮遊している花魁の霊魂をどんどんと取り込んでいった。その後,この『花魁之御霊』を誰が支配するかで,バトルが行われた。だが,そんなこと,誰も知るものはいなかった。
『花魁之御霊』は一度起動すると,大気に存在する『気』を吸収することが可能となる。つまり,半永久的な呪詛符だ。これこそ伝説的呪詛符に値する機能だ。
悟一はさすがに体に痺れが走って眼を覚ました。
悟一「あれ? 女将さん? どうしたの?」
女将「はぁ,,,やっと目覚めたのね。今日は仕事の初日よ。さっさと顔を洗って出勤しなさい。遅れてはダメよ」
悟一「まだ,眠たいけど,そうしましょうか,,,あの,呪詛符ですけど,もう数日待ってください」
女将「そんなの,いつでもいいから,さっさとしてちょうだい」
悟一「はいはい,では,起きましょうか,,,」
悟一は,起きて朝の志度をした。その後,饅頭1個を口に頬張って来福薬問屋に向かった。
・・・ ・・・
悟一が来福薬問屋に到着した後,番頭に連れられて衆康堂に移動した。その移動中,番頭は宿題のことを聞いた。
番頭「さて,薬草の本2冊を貸したが,果たして一晩で覚えたかな?」
悟一「ええ,たぶん,頭の中に入っていると思います」
番頭「ほほう,そうかな?では,テストしよう。ますは基本的なところから,止血草の特徴を言ってみなさい」
その質問に,悟一は頭の中にある本のイメージをスキャンしていった。
悟一「光沢のある葉で,桜の花びらのような構造をして,やや浅い切れ目があって,・・・」
悟一は,さらに本に記載のある内容を読み上げていった。
番頭「もういい。では,次に,冬獣夏草の特徴は?」
悟一「冬獣夏草は,取り憑いている獣の種類によって異なります。蛇なら,蛇のような葉の形状を示し,トカゲならトカゲのような葉の経常を示します。菌株のある場所を掘り返して,獣の遺体の有無を確認する必要があります」
番頭「ほほう,よく覚えたな。どれだけ時間がかかったんだ?」
悟一「ページをめくるだけの時間ですから,30分もかかっていません」
番頭「そうか,,,記憶力の天才って,ほんとうにいるんだな。それに比べて俺は,,,人の数倍も暗記に時間がかかってしまう」
悟一「それでも,薬問屋の番頭にまでなったのですから,たいしたものだと思いますよ。人に言われぬ苦労したのでしょう?」
番頭「・・・,まあ,そうだな。何度読み返しても暗記できずに,録音石を用いて,自分の声を吹き込んで,何度も何度も聞いたよ。悟一に渡したあの2冊,同僚は3ヶ月から半年ほどかかって暗記したが,俺は2年もかかってしまった。当時は,同僚がどんどん出世するのに,俺は,ずっと雑用ばかりしていた。同僚の出世をねたんだものだよ」
番頭は,顔を少しゆがめた。
番頭「でも,急な出世は時として不幸を招くことがある。同僚たちは,実践経験を積むため,早々に野外採取に出かけた。だが,それっきり戻ってこなかった。多分,妖獣に殺されたのだろう」
悟一「人生,塞翁が馬って感じですね」
番頭「こんな話は止めにしよう。あっ,そうそう,衆康堂では,薬草の分類管理の仕事を覚えてもらうが,今日の午前中は,薬草の野外採取に行ってもらう」
悟一「え?でも,ボク,『気』も扱えない弱者なんですよ。妖獣に遭遇したら,すぐに餌にされてしまいますよ」
番頭「それは心配はいらない。優秀な護衛が5名もつく。彼女たちは,皆,初級煉丹師たちだ。一緒に採取にいけばいい」
悟一は,なんで優秀な護衛と初級煉丹師とが結びつくのか,理解できなかった。
衆康堂に着いて,番頭は悟一を若旦那の婚約者である凛に紹介した。その際,悟一は,率先して仮面を外して,簡単に自己紹介をした。
悟一「ボク,梅山城の榮楽宰相の息子で,榮楽悟一といいます。よろしくお願いします」
凛「もう仮面していいわよ。 どうやら訳ありみたいね。最近も,5名の初級煉丹師が梅山城から来るし,なんかきな臭いわね。まあいいわ。最近の梅山城の状況,教えてくれる?」
悟一は,自分が知っている内容を凛に伝えた。
凛「なんか,あの初級煉丹師の話と同じだわ。ふふふ,まあいいわ,番頭さん,今日のアレンジはどうなっているの?」
番頭「はい,午前中は,その5名の初級煉丹師が野外で薬草採取に行くので,それに同行していただく予定です。彼女たちから,生の薬草を観察してもらおうと思います。午後は,会計監査の仕事をしてもらってから,本店に戻ります」
凛「悟一さんは,薬草の基本的な知識はあるのですか?」
番頭「薬草の本2冊を,一晩で暗記してもらいました。後は実践だけです」
凛「え? 一晩で? へえ〜,すごいわね。記憶力の天才って感じなの?」
番頭「はい,本人の言葉を借りれば,2冊を暗記するのに30分もかかっていないそうです」
凛「それは,またすごいわね。榮楽宰相にそんな超天才少年がいたなんて,聞いたこともなかったわ。まあ,いいわ。番頭さん,彼も結婚式には招待リストに加えてちょうだい」
番頭「わかりました。名簿リストに加えておきます。ですが,いまだ,大妖怪・水香様の行方が判明していません。結婚式に招待するにも,招待状を出せない状況です」
凛「まあ,いいわ。引き続き,捜索をお願いね」
番頭「了解しました」
その後,番頭は悟一を,煉丹師たちの執務室に連れていった。執務室とは,煉丹する作業場とは別で,デスクワークする場所だ。
そこでは,1名のS級煉丹師・春風を頂点に,上級,中級,下級の順番に机が並べられていた。すべて女性で,男性はひとりもいない。
番頭は,S級煉丹師・春風に挨拶をした後,悟一を紹介した。悟一は,凛にしたように仮面を外して挨拶をした。
番頭「それで,悟一ですが,今日の午前中,5名の新人煉丹師と同行させていただく予定です。アレンジ,お願いできますか?」
春風「ああ,そうでしたね」
春風は,初級煉丹師が並んでいる机のほうに向かって叫んだ。
春風「新人の紫江子ほか4名,ここに来なさい」
かつては,悟一の部下であり,彼が死んだと思っている5名のS級符篆師たちは,ここで初級煉丹師として採用され,今は,『紫江子』,『緑子』,『橙子』,『青江』,『白江』と名乗っていた。彼女らは,厚化粧をして,元の素顔がまったくわからないようにしていた。
紫江子「は~い」
返事をするのは,彼女らのリーダーである紫江子だ。彼女たち5名は,そそくさと,春風のところに来た。
春風は,彼女ら新人5名の初級煉丹師を悟一に紹介した。いくら,厚化粧をしているとはいえ,悟一は,すぐに彼女たちが,自分の部下であったことがすぐにわかった。だが,悟一は自分の身分を明らかにするのは禁止されている。
悟一は,彼女たちに挨拶した。悟一は,自己紹介するときには,仮面を外すことにしている。果たして,彼女たちは,浩一だと気づくだろうか?
悟一は,仮面を外した。
悟一「わたし,榮楽悟一といいます。わけあって,こちらでしばらくお世話になります」
悟一は,いまだかつて,彼女たちに頭を下げたことはない。でも,ここでは,頭を下げなかればならない。ちょっとだけイヤな気分だった。でも,彼女たちに遭遇できたことは幸先がいい。
一方,紫江子たちは,仮面を外した悟一を見ても,浩一だとはまったく分からなかった。両方のまぶたに刀傷のようなものがあると,素顔を推し量るのは困難なようだった。それに髪型も変わっている。声はそのままなのだが,浩一が死んでいると信じ込んでいるので,いくら声が似ているからといって,端から浩一だとは思わなかった。
紫江子「わたし,紫江子といいます。彼女たちは緑子,橙子,青江,白江です。よろしくお願いします」
悟一は,なんとも安直な名前を考えたものだと,ちょっとおかしくなった。
悟一「野外での薬草採取は初めてです。ボク,『気』はまったく使えません。だから妖獣と遭遇したら逃げるしかありません。いろいろとお手数をおかけしますが,よろしくご指導のほどお願いします」
紫江子たちにとっては,久しぶりに自分たちに『部下』が出来たと思って,ちょっと嬉しくなった。いくらでも命令口調で言うことができる。
紫江子「こう見えても,わたしたち気法術では,上級前期レベルよ。野外活動は慣れているので心配いらないわ。妖獣が襲ってきても,なんとかできると思う。任してちょうだい」
悟一は,紫江子たちはすでに気法術ではS級に達しているのを知っている。つまり,上級前期とすることで自分らの素性を隠しているものと思った。
春風「では,あとのことは紫江子に任します。よろしくね?」
紫江子「了解です。お任せください。悟一さん,では一緒に来てください」
紫江子たちは悟一を連れて,生物管理棟に移動した。煉丹の材料は,植物だけでなく昆虫を含む動物材料も多い。小型サソリや大型ゴキブリ,乾燥芋虫など,あらゆる昆虫が丸薬の材料になるようだ。もっともその効果のほどは保障されていないようだが,,,
その生物管理棟の一角に,馬も養っている。もっとも頭数は少なくて3頭のみだ。これら3頭が死んだ場合,もう補充の予定はない。
紫江子は,そこで3頭の馬を借りた。これらは,仮に返却しなくても賠償する必要はない。返って管理費を節約できるのでありがたがるようだ。だから,借りるほうも気が楽だ。
紫江子「悟一さんは,わたしと一緒に乗ってください」
悟一「はい,ですが,ボク,どこに捉まればいいのですか?」
紫江子「腕を通して,わたしのお腹で手を組めばいいでしょう」
悟一「では,そうさせてください」
悟一は,丁寧に対応した。悟一は,自分から身分を明かすことはできない。でも,相手が気づく分には問題ない。無理に身分を隠すようなことをする必要もない。自然体で対応すればいい。
淵妖谷,そこは,この場所から40kmほど東側に位置する峡谷で薬草の宝庫だ。同時に,種々の妖獣がさらに遠方からそこに出没する場所でもある。とても素人が気楽に行けるようなところではない。
だが,紫江子たちは,上級前期の腕前だと公言している。その技量があれば,例え,S級レベルの妖獣に遭遇しても逃げ切れるだろうとの春風の判断だ。
その峡谷には,伝説の『影隠蔓』が生えているウワサがある。もし,発見でもすれば,初級煉丹師でも煉丹可能な『影隠丹』を煉丹できる。その効能は,自分の気配を消す,すなわち,『気』の流れ,本人の発するオーラなどを消すことができると云われている。
もっとも,そんな丹薬,誰がほしいかといえば,盗賊とか泥棒以外に思いつかない。まあ,実用性に乏しいものではあるのだが,,,
でも,それは,初級影隠丹の場合だ。もし,伝説の『超級影隠丹』を煉丹できれば,なんと,姿を透明にすることもできるという。伝説なので,どこまでほんとうかは定かではない。
3頭の馬に乗った紫江子は,地図を確認した。彼女も行くのは初めてだ。それに,悟一の都合を考えれば,遅くとも午後3時まで戻ってくる必要がある。
紫江子「では,馬に『気』を流してあげて。馬の体力を2倍に引き上げるわよ」
緑子,青江「了解でーす」
紫江子は,悟一がいるので,気篆術という表現を避けた。
紫江子たちは,以前,立華から教えてもらった『強化気篆符』を展開した。それはもともと相手に『気』のレベルを10倍にも引き上げるというチートな技だ。もっとも10秒しか継続しないものらしいのだが。
でも,『気』のレベルを2倍程度に控えると,持続時間を10分程度にすることができる。効果が切れたら,再度『強化気篆符』を施術すればよい。
紫江子たちは,乗っている馬に『強化気篆術』を施術していった。そうすることで,馬の場合,『気』の代わりに体力を大幅に増強させることができる。この事実は,他の動物を使って実験したことがあるので,わかっていた。
紫江子「では,しゅっぱーつ!」
体力がビンビンになった馬は,時速40kmで駆けだしていった。
悟一は,慌てて,紫江子のお腹に腕を通した。だが,馬が振動するに乗じて,その手も上下した。また,紫江子のDカップの乳房もその揺れに任せているので,頻繁に悟一の手と接触した。
悟一は,別に紫江子に情欲したいわけではないし,別に,彼女の胸を触りたいわけでもない。もし,その気があったのなら,とっくの昔に紫江子たちを手籠めにかけていただろう。
でも,こうも頻繁に手に乳房があたってしまうと,さすがにちょっと,その気がなくても,あの部分が少しは反応してしまう。
しかも,紫江子は,風をまともに受けてしまうので,着物の胸元が徐々に開いてしまって,下着の長襦袢もはだけてしまい,真正面からみれば,紫江子の胸元が見え隠れするような状況になった。それは,馬に2人乗りして前側に跨がった青江と白江も同様だった。
悟一は,かつて,紫江子たちの裸はときどき見る機会があった。夏場に,陣盤作製に集中すると,どうしても汗だくになってしまう。そんなとき,彼女は,上半身裸で汗を拭きながら仕事をした。もちろん,豊満な乳房は全開状態だ。
当時の浩一に裸を見られようが,それでお手つきになろうが,どうでもよかった。いや,できればお手つきになりたかったというのが正直なところだろう。
でも,当時の浩一にとって,彼女たちは,美人でスタイルもいいのだけれど,とにもかくにも『大事にすべき貴重な部下たち』という意識があって,性欲の対象外とした。
でも,今の状況,つまり,頻繁に手に乳房が接触して,かつ,その気もないだけどあの部分が少し反応してしまっては,,,
悟一は思った。
悟一『ボク,もう,浩一ではないし,『大事にすべき貴重な部下たち』という認識は捨てるべきだ。うん,そうだ! 普通のスケベな性欲のある男を演じよう。その方が,『悟一』らしいじゃないか。じゃあ,この状況なら,,,このまま,手で彼女のおっぱいを触るか,,,いや,やっぱり,触ると,怒られて,蹴り飛ばされてしまうかも,,,でも,,,ええいーー! どうにでも慣れーー!』
悟一は,両方の手を腹の位置から,胸の位置に変えて,すでに強風で露わになった両の乳房を思いっきり握った。でも,そうしないと,馬の振動で振り落とされてしまう。思いっきり握る必要があった。
紫江子は,一瞬,ビクッとなった。まさか,こんな大胆な行動に出られるとは?!
紫江子は,悟一が,梅山城の宰相の息子だと信じている。紫江子は思った。
紫江子は,このまま胸を触らせるか,それとも,怒って叱咤するかどうかを瞬時に考えた。
はたして,その答えはすぐに出た。そのまま悟一の好き勝手にさせるというものだ。
彼女もすでに18歳になっている。もう結婚して子どもがいてもおかしくない。それに,このまま,既成事実を作れば,将来,梅山城の宰相の息子の妻に収まることもできる。悟一の妻になるのも悪くはない。妾でも構わない。
紫江子の行動は明確だ。騎乗とはいえ,あの行為ができないことはないはずだ。彼女は,ゆっくりと体を前に倒して,お尻を突き出すような体勢にした。もし,悟一が望めば最後までできるかもしれない。
この紫江子の体勢に,逆に,悟一が当惑した。
悟一『え? これって,どういうこと?』
悟一は,いろいろと考えを巡らした。しかし,答えは出て来なかった。それに,童貞の彼は,あの行為を知らない。ましてや騎乗でできるはずもない。
ちょうどその時,馬の体力が限界に達して走るのを止めて休息タイムとなった。
後方から,青江や白江たちが追ってきたので,紫江子は,已むなく,乳房をしっかりと握っている彼の手を,やさしくどけてあげた。
紫江子「悟一さん,この続きは後でね♥」
紫江子は,悟一にやさしく声をかけてあげた。
悟一は,紫江子が,いったい何を考えているのか,まったく理解できなかった。こんな騎乗で,性欲など感じるわけでもないだろうに,,,何が目的だ?
悟一のあの部分は,今は,すでに反応が収まっていた。
青江たちが乗った馬がやっと追いついた。青江も,ほとんど上半身が裸同然だった。
青江「紫江子! すこしは,速度,落としてよ! 着衣の乱れさえ直す時間もなかったわ。見てよ! もう丸裸よ!」
青江は,着衣の乱れを直しながら文句を言った。その後,白江たちも追いついて同じような文句を言った。
紫江子「文句は後で聞くわ。ここで10分休憩しましょう。5,6回繰りかえしたら,目的地に着くと思うわ」
彼女らの中で,一番,感が鋭いのは白江だ。彼女は,紫江子の傍に来て耳打ちした。
白江「紫江子,あなた,もしかして,悟一さんをものにしようと思っていない? まあ,それもいいかもしれないけど,梅山城は,これから戦火に見舞われるわよ。安穏とした生活なんて送れないかもよ。それに,わたしたち,皆,あなたについていくことに決めているの。もちろん,悟一をものにするなら,わたしたちも一緒よ」
紫江子「・・・」
10分後,白子が声を大きくして,悟一と一緒に馬に乗りたいと明言した。これには,誰も反対はしない。どうせ,一巡するのだから。
でも,,,,紫江子にとっては,これからが本番というときだったので,ダメと言いたかったが,,,でも,機会均等の精神で同意した。
彼女たちと付き合いの長いはずの悟一ではあったが,まったくどのような状況になっているのか,まったく読めなかった。
休息時間が終わって,再び『強化気篆術』を展開して,馬に活力を与えて,再び出発した。白子と悟一は,一番最後の列だ。
騎乗で,白子は悟一にいろいろと質問した。
白子「悟一さん,あなた,紫江子にどんなことしたの? でも,どんなことでも,わたしにしてもいいわよ。それに,わたしの体,紫江子とほぼ同じなのよ。胸だってDカップだし,身長,体重も同じ,気法術のレベルだって同じなのよ。生理だって同期しているしね」
この白子の言葉に,悟一は,確かにそうだと思った。彼女たちの裸は何度も見たが,5つ子かと思うくらい同じだった。
悟一「それって,どういうことなの?」
悟一は,『悟一』として,素直に質問してみた。
白江「詳しく言えないけど,以前の仕事は,5人が同レベルの術を展開する必要があったの。そのために,気法術のレベルを合わせていったわ。すると,体格もだんだんと似てしまったのよ。わたし,最初の頃は,わたしAカップだったけど,気法術のレベルを同期させるに従って,当時一番大きかった紫江子のDカップの胸に合わせるかのようにDカップになってしまったわ。他の女性も同じよ。だから,わたしたち5人は,後天的な5つ子と思っていいわ。
紫江子が好きになる人は,わたしたちも好きになるわ。一夫5妻制ってことよ。
紫江子は,もうあなたと結婚する気でいるわ。悟一さんも覚悟を決めてね。わたしたち,5人一緒にまとめて結婚して! 一生面倒みてちょうだい!」
白江は,そう言いながら,手綱を左手だけにして,空いた右手で悟一の右手を自分の乳房に触らせた。
悟一は,まさか,紫江子や白江たちが,そんなことを考えているとは思ってもみなかった。それに,今の身分では,果たしてそんなことが可能とも思えない。でも,,,彼女たちが,その考えなら,しかも,彼女たちの能力なら,いくらでも仕事が見つかるはずだ。ならば,それもいいかもしれないと思い直した。
ザザザーーー!
馬の走る速度に合わせて,何かが並列的に走っている何かがいた。馬たちは恐れをなして,徐々に速度を弱めて停止した。紫江子たちも,周囲に何んらかの妖獣に囲まれているのがわかった。
紫江子がテキパキと指示した。
紫江子「すぐに馬から下りてちょうだい! 馬は,3頭一緒に手綱で結んでおけば,おとなしくなるはずよ」
緑子,橙子,青江,白江らは,すぐにその言葉に従った。かつ,命じられなくても,悟一を橙子,青江,白江の3名が囲んで,紫江子と緑子が攻撃態勢を敷いた。
その戦術は,悟一が編み出したものだ。
ノソノソノソ!
茂みから出てきたのは,妖獣のグレイ・ウルフだった。その数,およそ10頭。やつらの本当の狙いは3頭の馬だ。人間はついでだ。
それを見抜いた悟一は,自分が馬の傍に移動することで,橙子,青江,白江の3名を3頭の馬と悟一を守らせることにした。だが,それは無理があった。恐怖に覚えた馬は,手綱を振り切って,がむしゃらにこの場所から逃げ出していった。しかも,3方向ばらばらに逃げた。
これには,悟一も紫江子たちも驚いた。それよりも,グレイ・ウルフのほうがもっと驚いた。どう命じればいいのか? 已むなく,1頭だけを追うよりも,ここにいる人間を襲うほうがいいと判断した。それに駆足では,人を乗せていない馬には追いつけないからだ。
再び,悟一を橙子,青江,白江の3名が囲んで,紫江子と緑子が攻撃態勢を敷いた。
だが,グレイ・ウルフ10頭が相手では,この陣は不適だと悟一は思った。というのも,グレイ・ウルフは,少なくとも,気法術で上級レベル,中にはS級にまで達している場合もある。決してあなどれない妖獣だ。
彼は已むなく叫んだ。
悟一「五芒星・第3章,風刃の舞!」
この言葉に,紫江子たちは,腰が抜けるほど驚いた。そんなこと知っているのは,浩一しかいない!!
だが,今は,驚いている場合ではない。
紫江子たちは,悟一を中心点にして,半径メートルの円周上に正5角形の頂点部分に陣取り,右手から,気篆術による特殊な陣盤を高速で描いていった。
その奇妙な行動に,グレイ・ウルフのボスは,一瞬,攻撃命令が遅れた。それが彼らの命取りになった。もし,すぐに攻撃していたら,その陣法を崩すことができただろう。
彼女たちは10秒かけて,気篆術による陣盤を完成させた。
彼女たちは一斉に叫んだ。
「五芒星・第3章,風刃の舞!」
バッヒューーンーー!
彼女たちの五芒星から,螺旋状に風刃の矢が水平に旋回していった。
その風刃の矢は,次々とグレイ・ウルフを串座にしていった。それでも勢いは止まらず,その旋回した風刃の矢は,周囲の樹木を次々になぎ倒していった。そして,,,静かに消滅した。
その威力,天女レベルの技にも劣らないものだ。
危機を乗り越えた紫江子たちは,いや,正確には,紫江子と白江だが,バツが悪そうに,悟一,いや,浩一の前に来た。
紫江子「すいません,まさか浩一様だったとは,,,恥ずかしい真似をしてしまいました」
白江「わたしもすいませんでした。まさか,浩一様だったとは知りませんでした」
悟一は,ニヤニヤしながら答えた。
悟一「ボクは,自分から身分をバラすことは禁止されている。でも,お前たちが気づくのは構わない。今は,紫江子,緑子,橙子,青江,白江と名乗っているのか?」
紫江子「はい,浩一様の遺体が爆発してしまって消滅したので,菊峰城にも帰ることもできず,名前を変えて厚化粧して衆康堂で身を寄せていました。まさか,こんな形で再会できるとは思ってもみませんでした」
悟一「いいか,わたしは,今は,梅山城の宰相の息子という立場だ。これからも,その立場は変わらない。菊峰城と梅山城が本格的な戦闘になったら,ボクは梅山城側につく」
この言葉に,紫江子たちは,お互いの顔を見合った。
悟一「つまり,わたしは,身も心も梅山城の宰相の息子になったというわけだ」
その後,悟一は,これまでの経緯を詳しく説明していった。
悟一「・・・,というわけだ。つまり,お前たちが,ボクの指示に従ってくれるなら,1ヶ月後に,お前たちを連れて,いや,お前たちの護衛で,林弦宗に向かうことにする。どうだ? 同意するか? もし同意するなら,お前たちは,将来,わたしの妻とする。もちろん一生面倒をみる。正確には面倒を看てもらうことになるのだが,,,」
この言葉に,5人全員が眼から涙を流した。それは願ってもないことだ。その答えは言うまでもない。もちろんイエスだ!
こんな状況になったので,もう,野外採取は中止とし,これからの行動計画を相談しあった。
その結果,悟一はこれまで同様に悟一として,活動することにした。紫江子たちは,薬草の勉強はほどほどにして,仕事が終わり次第,悟一が借りている娼館の部屋に来て,そこで,さらに陣法の連携の訓練を開始することにした。
また,悟一は,『悟一』として,無理やりスケベな人格になって,将来の夫としての役割の研鑽をすることを彼女らに約束した。
・・・ ・・・ ・・・
そして,1ヶ月が経過した。
悟一は,無事に金貨100枚を貯めることができて,盗賊たちの手を患わせることなく,紫江子たち5名を護衛にして林弦宗へと旅立った。
ここまで護衛してきた護衛分隊長たちは,悟一と別れて梅山城へと戻っていった。
紫江子たちの陣法のレベルは着実に上がっていった。今では,五芒星・第10章までの連携ができるようになった。しかも,気篆術の発動時間が5秒にまで短縮できるようになった。
一方,悟一もレベルが上がった。正確には,悟一がしている『花魁之御霊』のレベルが上がったという意味だ。というのも,『花魁之御霊』の6ヶ所の枝陣盤と1ヶ所の眼陣盤に君臨する人物が確定したからだ。これまで眼に見えないバトルが繰り広げられていたが,やっと落ち着いて,統率ができるようになった形だ。
その眼陣盤に君臨するした,20年ほど前に,天女レベルにまでなった気法術の使い手だった花魁の悪霊だ。その名は,初代『蓮黒天女』!
すでに,悟一は,夢の中で,何度も初代『蓮黒天女』によって童貞を奪われていた。夢の中なので,その都度,悟一は童貞の身分で奪われた。
だが,,,初代『蓮黒天女』は,その『花魁之御霊』のパワーを借りれば,短時間だが,肉体さえも構築することができた。悟一は,夢の中だと思っていたのだが,実際はそうではなかった。
最初のころは,初代『蓮黒天女』は,上半身を半透明の状態にして,大事な部分だけを実体化して悟一の童貞を奪い,彼の粘液を受けていった。その行為を経ることで,彼女の魂力のレベルをアップしていった。
霊体は肉体がないので『気』は扱えない。だが,魂力というパワーを扱える。そのレベルをアップさせることで,肉体さえも構築でき持続時間も長くさせることができる。ひとたび肉体を構築すると,あとは,『花魁之御霊』から膨大な『気』のパワーを使えるので,『気』を使うことが可能となる。
今では,初代『蓮黒天女』は,自分の体,全体を30分間も実体化させることができるようになった。
ある日,いつものように,真夜中,悟一は夢の中で初代『蓮黒天女』に『童貞』を奪われた。初代『蓮黒天女』は,もちろん,肉体を実体化させてあの行為を行った。その行為が終わった後,彼女は,悟一の耳元で囁いた。この声は,悟一にとっては,夢の中でのできごとだ。
初代蓮黒天女「悟一さん,ありがとう,わたし,あなたと知り合いになれて嬉しいわ。お礼に,わたしが出来ることなら何でもしてあげるわ。何が望みなの?」
夢の中の悟一「え? お礼? え~と,そうだな,,,ボク,『気』が使えないんだ。『気』を使えるようになりたいんだけど,できるようになるのかな?」
初代蓮黒天女「気が’使えるようになりたいのね? わかったわ。今は,時間がないけど,明日からは,あの行為を短く済ませて,残りの時間であなたの体を隅々まで調べてあげるね。じゃ~ね」
翌日から,初代蓮黒天女は実体化した肉体を使って,夢の中で性的満足して寝入った悟一の体に密着させることで,彼女の全方向から気の流れを展開していった。
初代蓮黒天女「脊髄から各神経系への流れ,,,異常なし。丹田からからの気の放出,,,異常なし。腕から手の平への気の流れ,,,異常なし。脚の上部から指先まで,,,異常なし。どうやら,筋肉や神経系に異常があるわけではないわ。これは,単純ではないわ。この続きは,明日に持ち越しね」
その後,1週間に渡って,悟一の身体の内蔵部分を徹底的に精査していった。
初代蓮黒天女「あれ? 腎臓の気の流れ,,,ちょっと,おかしいわ。流れているように感じるけど,これ,,,もしかして,これって,以前,仙界の武林宗で習ったことがあるけど,『偽装気流陣法』が施されているの?しかも,ランダムに施されているわ。どういうこと?? こんなことできる人って,いったい誰なの? まったく思いつかないわ」
彼女は夢の中の悟一に聞いてみることにした。
初代蓮黒天女「ねえ,悟一さん,あなた,『偽装気流陣法』って知っている?」
夢の中の悟一「『偽装気流陣法』? あっ,え? そいえば,,,子供の頃,母親からその陣法を覚えるように言われたの思い出した」
初代蓮黒天女「え? 母親から?」
夢の中の悟一「うん。そう,,,だんだんと思い出した。どうして,今まで思い出さなかっただろう,,,当時,確か8歳だったと思うけど,ボク,すでに中級後期になっていたと思う。でも,母親は,このままでは,ボク,誰かに毒殺されてしまうと恐れて,その『気』を封印するように言われたんだ。
そこで,懇意にしている仙人に聞いたら,『偽装気流陣法』があるって教えてもらったんだ。ボク,その陣法を覚えて,自分の身体にランダムに植え付けたんだ。その陣法は,ボクの丹田から出る『気』のパワーで発動し続けるから,永続的に維持されるようになっている。そうか,,,なんで,思い出さなかったのかな,,,え? 何? だんだんと,,,記憶が,,,また曖昧になってきた,,,」
夢の中の悟一は,また,夢の中で寝てしまった。
初代蓮黒天女「なるほど,,,これは,『偽装気流陣法』だけでなく,記憶封印も施されているみたいだわ。これは,わたしでは解除できないわ。
それに,母親が悟一のために『気』を封印させたのなら,無理に解除しなくてもいいかもね」
初代蓮黒天女は,寝入っている悟一に,やさしく頬にキスした。
初代蓮黒天女「悟一,あなたの『気』を解除できる“超人”が現れるまで,悟一の代わりに,わたしが代わりに展開してあげるわ。じゃあ,ゆっくりと楽しい夢をみてね」
初代蓮黒天女は,Hカップもの豊満な胸を悟一の身体にさらにきつく押しつけながら,その裸体を消滅させていった。
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