第44話 雲禅天女と花馨天女

 水香の性奴隷身分になった花馨天女は,最初に桜霞宗に戻り,宗主に内弟子50名全員,および,長老2名が雷撃などによって死亡したことを伝えた。


 殺害者は,雲禅仙人の後継者,雲禅天女であること,さらに,雲禅天女は『大妖怪・水香』であることも報告した。


 このことは,悪霊子爵の了解を得たものだ。悪霊子爵も,水香の了承を得ている。


 水香は,もう,大妖怪・水香であることを隠すのを止めにした。どうせ隠したところで,すぐにバレるからだ。


 宗主「そうですか,,,大妖怪・水香が生きていたのですか,,,しかも,雲禅天女になってしまったとは,,,また,とんでもない状況になってしまいました,,,いったいどうやって,事態を収拾したらいいのか,まったく分からないわ」

 花馨天女「そういうのは,絡めてでいくのよ,絡めてで」

 宗主「え? どういう意味?」

 花馨天女「大妖怪・水香は,つまり,雲禅天女なんだから,その責任をすべて林弦宗の宗主に負わせるのよ。内弟子1名につき,賠償金金貨1000枚ってとこかな? 長老は,金貨3000枚。合計で,金貨5万6千枚を請求すればいいわ。もっとも,大妖怪・水香が逆上して,桜霞宗を皆殺にする,ということのないようにするのが条件なんだけど,フフフ」

 宗主「そうなのよ。大妖怪・水香が襲ってきたら,ひとたまりもないわ。どうしようかな? とにかく,大妖怪・水香の情報は,すべてのお城,各武林宗に連絡するようにするわ」

 花馨天女「そうね,それからかな?」


 桜霞宗の宗主は,さっき届いた一通の手紙を花馨天女に見せた。その手紙の内容は,次のようなものだった。


『 ー情報提供依ー  頼桜霞宗 宗主様

  

 梅山城の城主が,新しく小芳という女性になったという報告を受け,わたくしどもは,その承認のため,菊峰城第三次城主候補・菊峰浩三を団長とする第一陣の使節団を派遣しました。しかし,彼は梅山城の軍隊による爆裂符の攻撃を受けて爆死させられました。

 その後,菊峰城第二次城主候補・菊峰浩二を団長とする第二陣の使節団を派遣しました。ですが,浩二も梅山城の軍隊による爆裂符の攻撃を受けて爆死させられました。

 浩三も浩二も,『ヒカル』という名の符篆師が制作したと思われる爆裂符によって爆死されられました。

 このようなことがあっても,菊峰城側としては,事を荒げたくないので,第一次期城主候補・菊峰浩一を団長とする第三陣の使節団を派遣しました。しかし,彼

もまた梅山城を訪問後,暗殺されました。

 このようなことから,梅山城は,明らかに菊峰城に対して宣戦布告をしたものと判断しました。

 菊峰城としても,この『宣戦布告』に対して,正々堂々と受けてたつ所存です。

 ですが,それと時を同じくして,第一次期城主候補・菊峰浩一は生かされているとの匿名情報を入手しました。その真偽のほどは不明です。

 種々の理由から,わたくしどもが正確な情報を入手するのは困難な状況です。つきましては,菊峰浩一に関する情報について,何か有益な情報を収入しているのであれば,その情報の提供をお願いする次第です。

 有益な情報と判断された場合,次回から気含石の取扱量を増やす用意があることをお約束します。

 また,梅山城の戦闘力に関する情報についても提供をお願いする次第です。

 尚,情報が集まり次第,梅山城を包囲,殲滅する計画です。その際は,桜霞宗に対して,梅山城討伐のご協力をお願いする所存です。その節は,何卒,ご協力のほどお願い申し上げます。 

 菊峰城城主 菊峰城浩蔵』

 

 その手紙を読んで,梅山城と菊峰城が,交戦状態になっているのが分かった。


 花馨天女「これって,他の武林宗やお城にも同じような手紙が届いているのでしょう?」

 宗主「そのためにも,これから藤雨城の城主に会いに行く予定だったのよ。でも,この手紙からだと,早くて3ヶ月,遅くても半年以内には,梅山城への討伐隊の派遣要請が正式に来ると思うわ」


 花馨天女「なるほどね。梅山城の案件や,大妖怪・水香も生きているとなると,かなり厄介だわ。あっ,そうそう,わたし,大妖怪・水香と戦って,いや,その仲間の美羅琉っていう林弦宗の教官に戦って,不意打ちを食らって負けてしまったのよ。正確には,大妖怪・水香のサポートがあったのだけどね」


 宗主「ええ? 天女レベルであるあなたが負けたのですか?」

 花馨天女「そうよ。わたしの3重の鉄壁の結界が,美羅琉って教官の純剣気に,簡単に斬られてしまったわ。あたかも紙を切るようによ! あれにはビックリだわ。

 それで,わたし,大妖怪・水香の指示で,高級娼婦になる約束をさせられたの。これから,梅山城の娼婦街でお金を稼せがなくてはならないのよ。月に金貨1000枚を稼ぐ必要があるの」

 宗主「ええーー?! そうなんですか?」


 宗主は,内心,いい気味だと思った。美貌とスタイルだけで,玉輝仙から双修を受けて,強者になったような女性だ。その事実を知る者なら,誰も花馨天女を敬うものいない。


 花馨天女「宗主にお願いがあるのだけど,この事実,玉輝仙人に伝えてほしいの。わたし,梅山城で,高級娼婦になるけど,ターゲットは,この手紙にあるように,『ヒカル』という人よ。彼は,大妖怪・水香の昔の連れだった人よ」


 宗主は,その言葉の趣旨がよくわからなかった。でも,聞き返すのは止めた。

 

 宗主「・・・,わかりました。真天宗の玉輝仙人には,伝書鳩を飛ばしてあげます」

 花馨天女「それで,この手紙にあるけど,浩一とか,梅山城の戦力とか,何か情報持っているの?」

 宗主「わたしのところまでは情報が入らないわ。どのみち,これから藤雨城の城主に会いに行くけど,花馨さんの仙器で連れて行ってくれる?」

 花馨天女「わかったわ。その前に,何か,着物がほしいのだけど。このピンクのひらひらでは,さすがにまずいでしょう?」


 宗主は,どうせ高級娼婦になるのだから。そのピンクのひらひらで充分だと思ったが,そんなことは口には出せなかった。だって,花馨天女は宗主の姉弟子だから,多少は敬う必要がある。


 その後,花馨天女は,まともな着物姿に着替えて,宗主を連れて,薔薇飛行仙器で藤雨城に向かった。


 その仙器に乗っている間,桜霞宗の宗主は,花馨天女に,最近の藤雨城の状況について語った。


 宗主「3年前に,城主が変死してから,まだ11歳だった第1夫人の長男が,新しく城主になったのよ。花馨さんも知っているけど,あの長男って,剣術気狂い的なところがあって,軍隊の採用条件も気法術のレベルから,剣技のレベルに変えてしまったのよ。その意味では,花馨さんが,宗主の時代に,剣術をメインに修練する方針に変えたのは大正解だったわ」

 花馨天女「そうよ。だって,あの第1夫人の長男に,剣術を指導したのは,わたしですもの。聡一がまだ8歳の頃に,剣術でわたしを負かしたら,結婚してあげるっていってやったわ。フフフ,そしたら,本気にしちゃってね。かわいい~!」


 宗主は,大きく溜息をついてしまった。また,花馨天女によって,人生を狂わされた男が生まれてしまったのか,,,


 宗主「その話はおいといて,最近,なんかまた変死事件が起きているんですって。以前にも,調査団を派遣してくれとか頼まれて対応したけど,何も分からなかったわ」

 花馨天女「そんな変な事件,変なやつに対応させればいいのよ」

 宗主「え? それって,どういう意味?」

 花馨天女「変なやつって,変なやつよ!」

 宗主「・・・」


 そんなわけのわからない話をしながら,宗主と花馨天女を乗せた仙器は,藤雨城の上空を数回旋回してから,藤雨城の正門の手前に不時着した。


 門番が急いで,その仙器の方に駆け寄ってきて,慇懃に礼をした。


 門番「これはこれは,花馨天女様に,宗主様。どうぞ,どうぞ,こちらに」

 宗主「いつも丁寧に対応してくれてありがとう」

 門番「いえいえ,これが仕事ですから」

 宗主「それで,最近は,変な事件は起きているの?」


 門番が,城主の住む藤華庵に案内しながら,宗主の質問に返答した。


 門番「それが,やはり起きてしまいました。かれこれ2ヶ月ほど前に,また,女中のひとりが変死しました。どうも,2,3ヶ月に1回ほど起きています。いくら警護を強化してもダメで,最近では,女中を辞める者が続出してしまって,今では,男連中が一部の雑役を肩代わりして後宮を闊歩しているありさまです。食事もまずくなるし散々です」

 宗主「へえ,,,じゃあ,女中は,もうほとんどいないの?」

 門番「少しは残っています。これ以上,辞められてはダメですから。今は,もう絶対に変死体を出さない覚悟で,24時間,かつ,2重,3重の警護体勢を敷いて,女中たちを警護しています」

 宗主「なかなか困ったものね」

 門番「はい,,,いったい,敵は,どこにいるのか,未だに分かっていません」

 宗主「なんとかしてあげたいにですけど,,,」


 宗主は,花馨天女が以前,言っていた『変な事件には,変なやつに対応させる』という言葉の意味を,このとき,どんな意味かを理解した。


 そんな会話をしている間,城主の住む藤華庵に着いた。そこで,門番は藤華庵の護衛に引き継いで戻っていった。


 護衛はすぐに城主を呼びに行った。しばらくして城主の聡一と女性秘書が玄関から出てきた。


 城主「これはこれは,花馨天女様と宗主様,わざわざ来ていただいてありがとうございます。どうぞ,どうぞ,お入りください」


 城主の聡一は,まだ14歳で子どもと言ってもいい。実質,実権は母親の第一夫人・多美江が握っていて,大事な決定権はすべて母親が行う。つまらない案件は女性秘書の陽架が行う。


 城主の聡一は,毎日,剣術の修練に明け暮れている。だって,花馨天女を剣術で負かせば結婚してくれるのだ。一瞬たりとも修練を怠ってはならない。


 ー 藤華庵の居間 ー


 ゆったりとしたソファに座って,城主の聡一が,花馨天女にまず提案した。


 聡一「花馨天女様,ボク,そろそろ,かなりの剣術の腕前になったと思います。後で,試合をさせていただいていいですか?」

 花馨天女「あら? そうなの? わたし,最近,剣術の稽古,していないから,もしかしたら,負けてしまうかもしれないわね。ふふふ」


 この言葉に,聡一は目を輝かした。


 聡一「あの,,,あの言葉,覚えていますか? わたしが剣術で花馨天女様に勝ったら,ボクと結婚してくれるって!」

 花馨天女「もちろん覚えているわよ。でも,わたしが勝ったら,わたしのお願い,聞いてくれるかしら?」

 聡一「もちろんです! どんな願いでもお聞きします!」

 花馨天女「よかったわ。じゃあ,この話,試合の後で,続きをしましょう。今は,宗主が聡一さんにお話があるそうよ」

 

 聡一は,顔を赤らめて,ヤッターと叫びたい心を抑えて,宗主の顔をみた。


 宗主は,女性ではあるものの,聡一にとっては,全然,性的な魅力に欠けていた。あまり,会いたくない女性のひとりだ。宗主も,聡一を嫌っていた。ろくに城主の仕事もせず,剣術ばかり精を出して,いったい何を考えているの?と軽蔑の眼差しが見て取れた。


 聡一「コホン,コホン,さて,宗主様,要件は何ですか?」


 聡一は,ぶっきらぼうに言葉を放った。宗主は,例の手紙を聡一に見せた。


 宗主「その手紙,城主のところにも来ていますか?」

 聡一「来ていますよ。案件が案件だけに,母上と相談して対応中です」

 宗主「そうですか。実は,その件とは別なのですが,最近,大きな動きがありました」


 聡一「はて,どんな動きでしょう? この藤雨城は,ちょっと変死事件がたまに発生しますが,それ以外はいたって平穏ですが?」

 宗主「まあ,そうでしょうね。多少,女中が変死しても,その程度の対応なんでしょうね,,,実は,雲禅仙人のことなんです」

 聡一「雲禅仙人ですか,,,母上から,わたしがまだ小さい頃,妖獣に殺されけかたところを,雲禅仙人に助けられたことがあると云っていました。大恩のある人物だと聞かされています」

 宗主「へえ,そんなことがあったのですか。まあ,それはおいといて,雲禅仙人に継承者が現れました。女性で,雲禅天女と名乗っています」

 聡一「・・・,そうですか,,,では,藤雨城としても,雲禅天女様に,就任祝いを送らないといけませんね」

 宗主「なるほど,,,そういう対応ですか,,,城主は,梅山城を壊滅させたのが,『大妖怪・水香』であることは知っていますか?」

 聡一「もちろん知っています。玉輝仙人によって殺されたことも知っていますよ。へへへ,花馨天女様も戦ったそうですが,もう1歩,及ばなかったこともお聞きしています」

 

 花馨天女「わたしのことは,いいのよ。そのことは忘れなさい」

 聡一「はいはい,花馨天女様!」

 

 宗主は,話を続けた。


 宗主「実は,玉輝仙人が殺したことになっている『大妖怪・水香』ですが,生きていることが判明しました。しかも,その水香は,雲禅仙人の後継者,雲禅天女なのです」

 聡一「・・・,『大妖怪・水香』が生きていようが死んでいようが,その水香という女性は,この藤雨城に何ら悪さをしていません。雲禅天女となったからには,きちんと礼を尽くすのが,城主の務めではないでしょうか?」

 

 宗主は,城主の言うことももっともだと思った。そこで,以前,閃いた変死事件のことをかませることにした。


 宗主「そうですか。雲禅天女は,ここから150kmほど離れている林弦宗にいます。そこの教官で,美羅琉という女性に会いにいけば,雲禅仙人に会うことができるそうです。どうです? 雲禅天女の就任祝いを送る際に,思い切って,今,起きている変死事件の調査を,その雲禅天女に依頼されては? 彼女の素晴らしい能力なら,変死事件など,すぐに解決すると思うのですが?」

 

 聡一「なるほど,,,それもそうですね。ともかく,大恩のある雲禅仙人の継承者であれば,ボク自ら訪問する必要がありますね。ちょっと待ってて。母親と相談してきますから」


 聡一は,急いで母親のいる藤羽庵に駆けていった。


 花馨天女はニヤニヤして宗主の顔をみた。


 宗主「花馨さん? どうしたの? わたしの顔をみて?」

 花馨天女「イヤ,別に。あなたもそんなにバカじゃないと思っただけよ。フフフ,大妖怪・水香がここに来れば,いくらでも彼女を暗殺する機会はあるでしょう。毒殺で殺すのが,一番楽な方法だしね」

 宗主「え? それ,どういう意味?」

 花馨天女「文字通りの意味よ。これで,あとで剣術の試合をして,わたしが勝てば,聡一にお願いするだけよ。どんな手を使っても,大妖怪・水香を,ここにいる間に,毒殺か何かで暗殺しなさいってね」

 宗主「・・・,え? でも,花馨さんは,彼女の奴隷になったんでしょう?」

 花馨天女「そうよ。わたしの仕事は,高級娼婦として,月,金貨1000枚を稼ぐこと。でも,それ意外は,なんでもいいのよ。陰で『大妖怪・水香』を暗殺する手引きをすることだって問題ないわ」

 宗主「え?でも,バレたら大変じゃないの?」

 花馨天女「そうね,,,ちょっと,見てくれる?」


 花馨天女は,着物の帯を緩めて,着物を少しはだけて,豊満なGカップの胸を露わにした。


 花馨天女「悪霊子爵さん,出てきてその姿を現してちょうだい」

 

 Gカップの乳房から,モコモコとした半透明の煙が出てきて,半透明のヒト型に形状を変えた。それが,悪霊子爵だった。


 悪霊子爵「あまりパワーを使いたくありませんので,半透明で失礼します。花馨天女様,要件はなんでしょうか?」

 花馨天女「今,わたしが話した内容はすべて聞きましたか?」

 悪霊子爵「はい,聞きました。それが何か?」

 花馨天女「どうなの? 大妖怪・水香に報告するの?」

 悪霊子爵「そんなつまらない話,報告すれば,悪霊女王様から大目玉を食らうだけです。そんなアホなことで,悪霊女王様が殺されるわけないからです。要件は以上でしょうか?」

 花馨天女「そうね,あっ,それと,あなたの『気』のレベル,今は,どの程度なの?」

 悪霊子爵「花馨天女様は,思いの外,『気』を豊富に蓄えているので,今は,S級後期程度のパワーを発揮できます。あと1ヶ月もすれば,花馨天女様と同等レベルの『気』の使い手になると考ております」

 花馨天女「あら? 頼もしいわね。じゃあ,引き続き,『気』の修練をしてちょうだい」

 悪霊子爵「花馨天女様,承知しております。では,失礼します」


 悪霊子爵は,ゆっくりと半煙状になって,ふたたび花馨天女のGカップの乳房の中に消えていった。


 宗主「えぇーー? 何? あれ? 幽霊なの?」

 

 花馨天女は,豊満な乳房を着物の中に押し込んで,着物を整えながら返事した。


 花馨天女「『大妖怪・水香』が使役している悪霊たちよ。この悪霊子爵は,『大妖怪・水香』のお目付役って感じなのよ。だから,『大妖怪・水香』が望めば,わたしの行動なんて,すべて筒抜けよ。

 でも,今の話,聞いたでしょう? わたしがいくら策を弄しようが,この悪霊子爵は『大妖怪・水香』に報告なんてしないわ。いったい,『大妖怪・水香』にとって,大事な情報って何なのか,わたしもさっぱりわからないわ」


 宗主は,空いた口が塞がらなかった。悪霊子爵,,,すでに宗主のS級中級の腕前を凌駕している。 しかも,1ヶ月後に仙人レベル? それって,もう,最強に近い??


 聡一が,足早に駆けて戻ってきた。


 聡一「ごめんなさい。ちょっと遅れてしまって」

 宗主「いいのよ。それで? どうでしたか?」

 聡一「はい,母親の了解が取れました。それで,どうやって,林弦宗に行くかですが,案が2通りあります。

 案1,通常通り,護衛を多数引き連れて,林弦宗に行くという方法です。この場合,馬を使っても4日ほどはかかるでしょう。

 もうひとつの案ですが,花馨天女様の仙器に乗せてもらうという案です。もし,花馨天女様が承知いただければ,気含石10個を,仙器用のパワーとして提供し,別途,謝礼として,金貨500枚を差し上げます。

 ボクとしては,花馨天女様をわずらわしたくないので,案1で行きたいのですが,母親は,花馨天女様と同行を希望しています。そのほうが安全性が高いとの理由からです」


 宗主は,花馨天女の顔を見た。花馨天女は,顔をニヤッと微笑んだ。


 花馨天女「残念ですが,金貨500枚では対応できません。往復になりますので,金貨1000枚になります。それなら,案2で対応しましょう」


 その言葉に,聡一もニヤッとほほんだ。


 聡一「たぶん,そういうと思って,金貨1000枚の了解を取り付けてきました。後で,その金貨を持ってこさせます。気含石は往復ですので20個もあればいいですね?」

 花馨天女「まあ,それくらいあれば十分だわ」

 聡一「では,この件は,これで終了とします。それで,,,その,,剣術の試合ですが,,,すぐにしていいですか?」

 

 花馨天女は,溜息をついた。ここ数年,聡一とは会っていないので,どの程度強くなったのかよく分からない。でも,相当の強さなのは間違いない。だって,別途,打倒花馨天女を目指して,強豪の剣士を2名採用して,日々,修練を積んできたのだ。まず,敵の実力を知らないと話にならない。


 花馨天女「いいわよ。でも,聡一さんも肩慣らしが必要でしょう? 最初に,宗主とちょっと試合をしてちょうだい。宗主に勝てるほどの技量があれば,わたしと試合する資格があるってことよ」

 宗主「ええ??ーー」


 宗主は,気法術を極めてきたが,剣術はたしなみ程度だ。門弟たちへの剣術指導は,教官や長老たちに任している。もっとも,その長老たちは,,,殺されてしまったのだが,,,



 ー 藤雨城の中庭 ー


 急遽,聡一と,桜霞宗の宗主,及び,花馨天女との模範試合があるとのことで,聡一の指南役の剣豪2名は当然のことながら,親衛隊20名,後宮護衛隊30名,聡一の腹違いの弟,聡二,11歳,さらに,第1分隊の隊員たちが集まった。総勢,300人を超えるほどになった。


 宗主としても,すぐに聡一と試合をする前に,体をほぐす必要があるので,誰か,適当な選手を選んでもらうことにした。


 桜霞宗の宗主と試合ができるなんて,ほんとに光栄なことだ。誰もが手をあげて試合を望んだ。聡一は,親衛隊長にその選手の選定を依頼した。親衛隊長としても,いったい誰を選んだらいいのかまったく分からない。


 そこで,親衛隊長,後宮の護衛隊長,第1分隊長に来てもらって,ジャンケンをすることにした。勝者が,その隊の中なら,ひとり選ぶという方法だ。その結果,第一分隊長が勝利した。彼は,その中から,剣術の腕では,一番うまい傘次郎に白羽の矢を当てた。


 傘次郎「光栄であります。精一杯,頑張ります!」

 第一分隊長「うん,よし,藤雨城の隊員代表として,お前の腕を見せてやれ」

 傘次郎「了解であります!」


 傘次郎は,『気』のレベルでは,初級前期の最低限レベルだ。とても軍人として採用されるはずもなかった。だが,3年前,聡一が城主になってから,採用条件を『気』のレベルではなく,剣術のレベルに変更した。より実践レベルでの強者を採用するためだ。もっとも,それは表向きで,聡一が剣術大好き,さらには,花馨天女が大好きということに尽きる。


 傘次郎は,剣技では,第一分隊の中でも随一とウワサされている剣術使いだ。


 審判は,第一分隊長が引き受けることにした。


 第一分隊長「では,宗主様。ルールですが,『気』による放出系攻撃は禁止になります。ただし,『気』による防御系の展開は自由に行って構いません。また,木刀に『気』を流すのも自由にしていただいて結構です。

 少しでも,腕や胴体に木刀が当たったら,そこで試合が終了します。試合時間は10分まで。負けを認めた場合,もしくは,戦闘不能になった場合も,そこで試合終了とします。よろしいですね?」


 宗主「まあ,一般的なルールだわ。了解よ」

 第一分隊長「では,両者,準備してください」


 傘次郎は,腕部分と胴体部分に,クサビかたびらを着けた。少しでも,腕や胴体に木刀が当たったら,そこで試合が終了する。宗主は,『気』で,腕や胴体の表面を強化できるので,そのような防具は必要ない。


 第一分隊長「では,試合,始め!」


 宗主は木刀の表面に白光の『気』を流した。木刀を『気』で硬度を強化させた。


 宗主は,加速3倍速が使える。いくら,剣技の技量が熟練レベルに達していなくても,3倍速で振るえば,桜霞宗の直弟子程度,敵ではない。


 宗主は,そこで3倍速で傘次郎に向かって,彼の胴めがけて水平斬りを放った。


 シュー!


 だが,傘次郎は紙一重で宗主の攻撃を躱した。


 宗主『え? 何? どうして?』


 宗主は焦った。彼女はすぐに体勢を立て直して,斜め十字切りを2回連続で放った。


 シュー! シュー!

 

 通常の剣技の3倍速の速度での連続攻撃だ。だが,傘次郎は,その攻撃を木刀で受けることもなく体捌きだけで紙一重で躱し続けた。


 宗主は,一度引き下がった。審判に確認した。


 宗主「審判,剣風刃は禁止されていますか?」

 

 審判も,まさか傘次郎がそこまでの高度な体捌きをするとは思ってもみなかった。でも,今は驚いている場合ではない。


 宗主の提案に,本来なら禁止しているのだが,でも,この際,もっと傘次郎の実力を見たくなった。


 審判「剣風刃だけでなく,気法術の攻撃技も急遽認めます」

 宗主「フフフ,了解よ。でも剣風刃だけでいいわ」


 宗主は,さらに間合いをとった。


 宗主『この傘次郎という選手,,,強い! でも,わたしの剣風刃,受けれるの?』  


 宗主は,剣風刃を放った。しかも,連続の剣風刃だ。

 

 シュパー! シュパー!ーー


 その剣風刃は,斜め十字の方向に向かって連続攻撃した。その剣風刃は20発にもなった。宗主が剣術できる最大の技だ。この技だけは,ときどき練習して錆びさせていないものだ。


 傘次郎は,その技を見て少し微笑んだ。彼は,木刀でその連続攻撃の剣風刃をなぎ払った。


 その姿を見た観戦者は,一瞬,何かおかしいと思った。そうなのだ。なんで木刀が剣風刃とぶつかって折れないのだ?


 だが,そんな基本的なことに気がついたのはごく少数だった。


 傘次郎は,剣風刃の15発目をなぎ払ったが,そのとき,木刀が折れてしまった。それに続く16発目以降の剣風刃は,そのまま彼の体にヒットした。


 ドドーーン!


 傘次郎は剣風刃にヒットして,後方5メートルほどにも飛ばされてしまった。


 地に倒れた傘次郎は負けを認めた。


 傘次郎「宗主様,参りました。降参します。すごい剣風刃の威力でした」


 傘次郎は宗主にヨイショした。


 宗主は,自分の剣風刃が敵の体にヒットしたところで,せいぜい数十cm程度,後方に後退させる程度のことだ。5メートルも吹き飛ばせることなんてできるはずものない。ということは,剣風刃の威力を殺すために,一緒に後方に飛んだ? 


 そんなことを考えていると審判が叫んだ。


 審判「はい,そこまで! 宗主様の勝ち! お見事でした」


 パチパチパチ! 観戦者たちから宗主への拍手喝采を浴びた。また,傘次郎に対しても,よく善戦したとの意味合いでも拍手が送られた。  


 宗主は,まさかこんなところに自分の実力を隠した強者がいるとは思わなかった。


 傘次郎,彼は,剣技では間違いなくS級レベルに相当するほどの強者だと判断した。だって,あの木刀で剣風刃を15発も防御できるはずがない。しかも,気法術の『気』を使っていない。ということは,剣技の修練によってのみ得られる特別な『純剣気』を応用していることになる。それだけでも,間違いなくS級レベルに達している。しかも,宗主の3倍速を容易く躱した。つまり,少なくとも5倍速は余裕で使えることを意味する。どんな修練をすればそんな強者になれるのか?


 こんな疑問を持った者は,他に3名ほどいた。城主の聡一と,彼の指南役である2名の剣豪だ。特に,2名の剣豪は,もし傘次郎と試合をしても,勝てる自信がないとまで思わせたほどだ。


 宗主は,傘次郎のところに来て耳打ちした。


 宗主「傘次郎さんていいましたっけ? 勝ちを譲っていただいてありがとう。お礼にいいこと教えてあげる」

 傘次郎「え?いいこと?」

 宗主「フフフ,花馨天女の防御結界って超強力なのよ。でも,その結界を紙のように切り裂いた剣士がいたんですって。彼女,林弦宗の教官で,美羅琉っていう女性らしいわよ」

 傘次郎「林弦宗,,,美羅琉,,,教官,,,,はい,覚えました。ありがとうございます!」


 傘次郎にとって,自分の進路を迷っていた時だ。このまま軍隊の中に埋もれて,実力を隠して,幼なじみと結婚して平和な家庭を築く,,,それも悪くと思った。でも,心の底では,このままでいいのか?という自問自答してきた。そんな時に,宗主から美羅琉のことを教えられた。直感的に彼は,美羅琉に会うと何かが変わるかもしれないと思った。


 ・・・ 

 今の聡一にとって,傘次郎のことはどうでもいい。まずは,宗主と試合をして勝たねばならない。そして,花馨天女にも勝って彼女と結婚するのだ! 


 聡一,14歳,気法術では初級後期レベルだ。剣技の腕前は,実は,まだまだで,これから伸びていくところだ。そもそも肉体強化もできてない。それでも真摯に剣を振るい続けているので,剣を振る速度だけは一流剣士並みだ。


 聡一は,なんとしても,宗主に勝たねばならない。


 しかし,宗主は違った。宗主は,聡一に勝っても何のメリットもない。返って,聡一の恨みを買うだけだ。彼女は聡一にわざと負けるつもりだ。でも,上手に負けないと,花馨天女が文句を言ってくるし,その辺の兼ね合いが大事だ。


 聡一と宗主の試合が始まった。

 

 予想通り,聡一が,速攻の攻撃で宗主を襲った。さすがにその速度は一流剣士並みだ。2名の剣豪から稽古をつけてもらっているたまものだ。


 宗主はこのまま負けてもいいと思った。でも,少しは,『自分も頑張りましたよ』ポーズをしなければならない。彼女は,自分の周囲に『気』の防御結界を構築した。


 その結界は,聡一の木刀の攻撃を難なく防いだ。だが,彼の持っている木刀は,その結界に激しく当たっても折れることはなかった。


 宗主はふと思った。


 宗主『あれ? なんで木刀が折れないの? まさか,純剣気を発動させる一歩手前にまでなっているというの?』


 シュパー!シュパー!--


 その後の聡一の木刀は,数十回ほど,宗主の結界を強打していった。


 メリッ! 


 宗主の結界にヒビが入って,その結界は消滅した。


 聡一「隙ありー!」


 ダン!


 聡一は,その一瞬を逃さず,宗主の腕に木刀を叩きつけた。


 審判「はい!そこまで! 聡一様の勝ちです!」


 その審判の声に,周囲の観戦者が,一斉に叫んだ!


 「城主様! 最高!」

 「城主様ーー! 愛してまーす!」

 「城主様ーー! 結婚してーー!」

 「城主様ーー! わたし第2夫人でいいです!」

 「城主様ーー! わたし,第3夫人でいいですーー!!」

 

 などなど,特に女性隊員からの黄色い声が飛び交った。聡一は,まだ,誰とも結婚していない。とにもかくにも,第2夫人や第3夫人の話は,花馨天女を最初に妻に迎えてからのことだ。


 宗主が負けたのを見て,花馨天女は宗主を睨みつけた。


 花馨天女「宗主,あなた,わざと負けたわね?」

 宗主「そんなことありません。城主様の剣さばきが鋭くて,びっくりしました。わたし,剣技では到底太刀打ちできませんでした」

 花馨天女「ふん,まあいいわ。聡一さんのレベルがだいたい理解できたから」


 花馨天女は,審判に提案した。


 花馨天女「審判,試合時間を3分間に短縮してくれんませんか? わたし,その間,『気』の防除結界を構築します。聡一さんが,3分以内にわたしの結界をすべて切り裂いて,わたしの体に木刀が接触したら,聡一さんの勝ちとしましょう」

 

 審判は,城主の意見を聞いた。


 城主は,それなら真剣を使わせてくれと逆提案をした。花馨天女はそれで問題のないと返事した。


 審判「では,両者準備はいいですね?」

 聡一「いつでもどうぞ」

 花馨天女「わたしもいいわよ」


 審判「はい,では,試合始め!」


 花馨天女は,安全をみて3重の『気』による防御結界を構築した。聡一は,全力で真剣を放って,その結界を切り裂きにいった。


 パシュー!パシュー!ーー


 さすがに真剣の威力は凄まじく,十数回ほどの攻撃で,外層の結界を破壊した。だが,それと同時に,花馨天女はまた新しく防御結界を構築して,再び3重の防御結界を構築した。


 聡一の勝機は,同時に3重の結界を破壊するか,同時でなくても,新しく結界が構築される前に,次の結界を破壊するしかない。


 1分が過ぎ,2分が過ぎた。聡一の全力の攻撃は1層を破壊するのに10秒もかかってしまった。その後,なんとか9秒,8秒にまで短縮することができたがそこまでだった。試合終了の3分が過ぎてしまった。


 審判「はい,そこまで! この試合,花馨天女様の勝ちになります」


 パチパチーー!


 だが,誰も声をかけるものはいなかった。いったい,花馨天女を賞賛すると,城主を非難にした感じになるし,負けた城主を賞賛するわけにもいかないし,,,


 聡一は,全力を使い果たしてその場で跪いた。


 聡一「ハア,ハア,ーーー,負けました。ボク,まだまだだったのですね。花馨天女様,また,試合してくれますか?」

 花馨天女「いいわよ。でも,今度は,宗主ではなく,もっと強敵に勝てるのが条件よ」

 聡一「え? その強敵って,誰ですか?」

 花馨天女「そうね,,,まだ決まっていないけど,でも,梅山城のヒカルって人かな? 彼に勝てないと,お話にならないわ」

 聡一「ヒカルって,あの,大妖怪・水香の連れだった人ですか? 確か,剣上仙人が助けたって聞いたことがありますけど?」

 花馨天女「あら? よく知っているわね。さすが城主ね。ちゃんと情報持っているじゃない」

 

 聡一は,褒められて,頭をポリポリかいた。


 この試合は,ここでお開きになった。


 ・・・ ・・・

 城主の聡一,宗主,花馨天女の3名は,藤華庵に戻った。


 聡一は,花馨天女に聞いた。


 聡一「それで? 花馨天女様が試合で勝ったので,お願いを聞きましょう。そのお願いって何ですか?」

 花馨天女「別に大したことではないわ。今から,林弦宗行って,雲禅天女に会うのでしょう? その時に,彼女にこの藤雨城で起きている変死事件の調査をお願いしてほしいのよ」

 聡一「え? でも,どうして,雲禅天女なのですか?」

 花馨天女「そこまで知らなくていいわ。とにかく,彼女をここに連れて来なさい。そして,その間,なんとしても彼女を暗殺しなさい。それが依頼内容です」

 聡一「ええーー? 暗殺??」

 花馨天女「そうよ。毒殺でもいいし,眠り薬を飲ませて,寝込みを襲ってもいいし,いくらでも方法があるでしょ。 城主でしょう? 天女ひとりを殺せずして,何が城主ですか!」

 聡一「でも,,,雲禅仙人は,大恩のある方です。その後継者である雲禅天女を殺すのは,いくらなんでも,,,すいません。雲禅天女に変死事件の調査を依頼するのはいいのですが,暗殺するのはお断りします。城主は,王道を重んじると教えられていますので」

 

 花馨天女は意外だった。まさか,自分の依頼を断るとは,,,


 花馨天女「そうですか,,,」


 花馨天女が,どうしようか考えている時,宗主が花馨天女の耳元でつぶやいた。


 花馨天女「なるほど,,,所詮,雲禅天女をここで殺すのは無理筋ではあるけど,でも,少しはあやつにギャフンと云わせることはできそうね」


 花馨天女「聡一さん,最初に宗主と戦った傘次郎って隊員をここに呼んできてちょうだい」

 聡一「え? 彼をですか?」

 花馨天女「そうよ」

 聡一「・・・」


 聡一は,門番にいいつけて,彼を呼ぶようにいいつけた。


 しばらくして,傘次郎がやってきた。傘次郎に対しては,宗主から話を切り出した。


 宗主「傘次郎さん,いい話があります。ここに,近々,林弦宗の美羅琉教官がきます」

 

 その話に,傘次郎は目を輝かした。


 傘次郎「ええ? それって,本当ですか? 彼女と試合ができるのですか?」

 宗主「そうよ。城主様が,そのように仕向けるそうよ。その時,どんな方法でもいいから,賭けをもちかけてほしいのよ」

 傘次郎「え? 賭けですか?」

 宗主「そうよ。実をいうと,美羅琉教官の背後に,雲禅天女がいるのよ。この天女,わたしの門弟を50人,長老を2名も殺した悪辣なやつなの」

 

 その話を聞いて,城主も傘次郎もびっくりした。


 宗主「別に,雲禅天女を殺そうだなんて,だいそれたことはもう考えないわ。彼女は圧倒的な強者なのは間違いないようだから。傘次郎さん,あなたがどんなけ実力を隠していようが,雲禅天女には勝てないと思うの。でも,もしかしたら,美羅琉教官には勝てるかもしれない。

 だから,美羅琉教官と賭けをして,少しでもいいから,あの憎き雲禅天女に一泡かぶせたいのよ。どう? 協力してくれる?」

 

 傘次郎が返答を渋っているとき,聡一が声をかけた。


 聡一「傘次郎,その美羅琉教官って,どれだけ強いかわからないが,傘次郎にとっては,自分の実力を試すいい機会だと思う。勝てばよし,仮に負けても,一切咎めない。わたしからも,その依頼,引き受けてくれ」

 

 城主からそう言われては,引き受けないわけにはいかない。


 傘次郎「わかりました。では,全力で臨みたいと思います。賭けの内容については,城主様にお任せします」

 聡一「わかった。では,試合の方,よろしく頼む。その試合までは一切の任務を解く。終日,剣の修練に励め」

 傘次郎「ありがとうございます。では,そのようにさせていただきます」

 聡一「一泡ふかせる内容,,,ちょっと,文官たちにアイデアを出させるとしよう」

 

 宗主「でも,せいぜい,この程度しかできないのね,,,絶対的な強者って,やぱりすごいわね」

 花馨天女「なんか,消化不良だわ。でも,,,玉輝仙人がこの情報を入手したら,なんとかしてくれるかも,,,でも,,,それでも,,,」


 花馨天女は,もう考えるのを止めにした。どんな強敵を連れてこようが,『大妖怪・水香』に勝てるとは思えないからだ。


 その後,花馨天女は,宗主と聡一を連れて,仙器で150kmほど離れている林弦宗に出向いた。


 

 ー 林弦宗,水香の教官宅の居間 ー


 その居間の部屋で,聡一,桜霞宗の宗主,花馨天女の3名は,美羅琉や水香と面談を持った。尚,花馨天女は,水香の性奴隷的な身分だ。


 美羅琉「それで? 桜霞宗の宗主様や,藤雨城の城主様がお出ましとは,何用でしょう?」

 聡一「はい,実は,花馨天女様から,雲禅仙人の継承者が現れたとの報告を受けました。実は,わたし,幼い頃,妖獣に殺されそうになったのを,雲禅仙人様に助けられたと母上より聞かされておりました。そこで,このたび,雲禅仙人様の継承者,雲禅天女様が現れたということで,雲禅天女様の就任祝いを持参いたしました」


 聡一は,持ってきたリュックの中から,小さな宝箱を取りだして,水香の手前に差し出した。


 聡一「雲禅天女様の就任祝いでございます。どうぞ納めください」

 水香「あら? こんなことしてくれるの? 嬉しいわ」


 そんな返事をしながら,雲禅仙人の過去の記憶をスキャンしていった。水香は,その宝箱を持って,その箱を開けた。そこには,気含石10個が入っていた。


 水香「あらら,これって,気含石? しかも10個も?」


 美羅琉は,水香の宝箱を奪うように自分のものにした。


 美羅琉「禅子様,これは,わたしが安全に管理します。いいですね?」

 

 水香は,自分ではさほど必要ではないので,美羅琉のいいようにさせた。


 水香「そうですね,,,聡一さんでしたね? あなたがまだ4歳になったばかりの頃で,そこそこ歩けるようになった頃だったと思います。3帝森林の,妖蠍の大群に襲われた時,たまたま,雲禅仙人が,上空を飛翔していて,あなた方一行を発見しました。彼は,たまたま練習中の雷撃を放って,妖蠍の大群を退けました。その記憶だけはしっかりと受け継ぎました」


 その水香の話を聞いてびっくりした。母親から聞かされていた内容と完全に一致するからだ。


 聡一は,ソファから下りて床に正座して両手を床につけた。


 聡一「まさか,雲禅天女様が,そんな記憶を受けついでいるとは思ってもみませんでした。ここに,改めてお礼申し上げます」


 そう言いながら,聡一は五体投地を行った。聡一にとって,雲禅天女は,直接ではないが,命の恩人といってもいい存在だった。


 水香「別にわたしが助けたわけではないですから,そんなお礼など不要です。頭をあげなさい」

 

 その言葉を受けて,聡一は頭を上げた。


 水香「では,お礼のお返しに,いいものをあげましょう。あなたのしているブレスレットをよく見せてくれますか?」

 聡一「え? あっ? はい,どうぞ」


 聡一は,ブレスレットをはめている左腕を水香に差し出した。水香は,自分の手をそのブレスレットの近くに寄せた。すると,間もなく,そのブレスレットが一瞬ぱっと光って,すぐに消えた。


 水香「はい,もういいです。わたしからのお返しは,夢の中で楽しい思いをしてもらうことです。楽しみにしてくださいね」

 聡一「え? 夢の中で楽しい思い? あっ,えーと,よくわかりませんが,ありがとうございます」


 聡一は,取りあえずお礼を述べた。


 水香は,宗主にも声をかけた。


 水香「宗主,折角ですから,あなたにもいいものを与えましょう。左手を出してもらえますか?」


 大妖怪・水香からの依頼だ。断るわけにもいかない。


 宗主「え? はい,どうぞ」


 宗主は左手を差し出した。水香は,宗主の左手の薬指にしている指輪にも悪霊を住まわせた。


 その儀式が終わったところのを見計らって,聡一は,リュックから大きな巾着袋を取りだして,水香と美羅琉の中間付近に差し出した。


 聡一「あの,,,実は,美羅琉様と雲禅天女様に依頼したいことがございまして,これは,その謝礼です」


 美羅琉は,すぐにその巾着袋を受けとって金額を数えた。


 美羅琉「え? 禅子様,金貨500枚ほどありますよ」


 美羅琉は,ニコニコしながら聡一に向かって言った。


 美羅琉「城主様,なんなりと申しつけください。どんなことでも対応させていただきますよ」

 

 聡一は,どうやら,雲禅天女を動かすには,美羅琉を説得させればいいのだと判断した。


 聡一「実は,わたくしどもの藤雨城では,2,3ヶ月に1回程度,女中が変死体として発見されるんです。警備を強化しているのですが,今だに事件が起きてしまいます。以前,宗主様にも依頼したのですが,原因が分からずじまいでした。ぜひ,美羅琉様と雲禅天女様のお力で,変死事件の解決をお願いしたいのです」


 聡一がそこまで言って,五体投地をしてお願いした。


 美羅琉「城主様,ぜんぜん問題ございませんことよ。わたくし,美羅琉と禅子様に任せていただければ,そうですね,,,1ヶ月もしないうちに,解決させていただきますわ。ホホホー」


 美羅琉は,安請け合いをした。


 聡一「ありがとうございます!ありがとうございます! それで,いつ頃から対応いただけますか?」

 美羅琉「そうですね,,,」


 美羅琉は,水香の顔を見た。水香は,美羅琉のアレンジで動くだけなので,美羅琉に顔を見られても返事のしようがない。美羅琉は,しょうがないので,ちょっと神秘性を醸し出して返事した。


 美羅琉「その辺は,城主様にも内密で活動させていただきます。わたしは,授業もありますので,そうですね,,,今度のお休みの時にはお邪魔させていただきますわ」

 聡一「わかりました。では,今度のお休みの時に,お待ちしております」


 要件も済んだので,聡一たちは,別れの挨拶をして,花馨天女の仙器に乗って立ち去った。


 花馨天女は藤雨城に戻って聡一を降ろし,桜霞宗に移動して宗主を降ろして,花馨天女はそのまま梅山城に向かった。

 

 その後,聡一は,夢の中で,ある美人と知り合い,自分の童貞を捧げる夢を見ることになる。宗主も夢の中で,花魁姿の女性と知り合い,花魁になるための心得を説かれることになる。そんなこと説かれても,宗主は花魁になるつもりなどまったくないのだが,,,


 そうなのだ。水香が聡一と宗主に与えた悪霊は,上級性奴隷の女性悪霊だった,,,


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