第46話 水香の剣技
ー 林弦宗,教官棟の会議室 ー
林弦宗の宗主は少し悲壮な顔をしながら,美羅琉にあるお願いをしていた。
宗主「実は,青蒼剣術大会が,この林弦宗で開催されることが決まりました。2ヶ月後です。ですが,ちょっと困ったことになってしまって,,,」
美羅琉「口を濁さないで,さっさと要件を言ってください。どうせ,禅子様と関係があるのでしょう?」
宗主「・・・,はい,その通りです」
宗主は,金貨200枚を取りだして美羅琉に渡した。
宗主「これは,依頼料です」
どんな依頼かは知らないが,美羅琉は,水香をどのようにでも動かすことができる立場だ。その立場を利用すれば,容易く金儲けができることを知った。これなら,この世界や,仙界,神界をぐちゃぐちゃにしなくても,金を湯水のように使って遊びほうけてもいいかなと思うこともあった。
美羅琉はニコニコ顔でそのお金を受けとった。
宗主「実は,その青蒼剣術大会を成功裏に収めることができれば,主催者側から,金貨2000枚が報酬として支払われます。ですが,失敗に終わると,罰金として,金貨2000枚を支払わなければなりません」
美羅琉「それがどうしたの?」
宗主「実は,内々の情報ですが,仙人・天女が,大妖怪・水香様の討伐に動いているという情報が入りまして,,,しかも,青蒼剣術大会の参加メンバーに紛れて,この林弦宗に入り込むらしいのです」
ここまで話を聞いて,美羅琉は宗主の用件が理解できた。
美羅琉「なるほどね。つまり,今からでも,大妖怪・水香様を,この林弦宗から追い出せばいいってことですね?」
宗主「ものわかりが良くて助かります。そうです。そうしてくだされば,わたしの方から,大妖怪・水香様は,どこかに修行に出かけたという情報を流します。それで,なんとか,無事に青蒼剣術大会を成功裏に収めることができます」
美羅琉「わかったわ。了解よ。少なくとも2ヶ月間,どこかに行ってもらいます。任せてちょうだい。あっ,それと,わたしに2週間ほど休暇をください」
宗主は,今では,剣術の実技指導の授業では,美羅琉の弟子のような存在になった大護が面倒をみている。美羅琉はいてもいなくてもいい。
宗主「2週間の休暇,了解しました」
美羅琉は,この金貨200枚で,最近,桂河城下町に出来たという,女性をターゲットにした男芸者の集まる男娼館街で遊べるとほくそ笑んだ。
美羅琉は,もう,聡一の依頼で藤雨城に行くなんて発想は毛頭無く,水香だけ行かせればいいと思っている。
ー 水香の教官宅,居間 ー
美羅琉は,水香の両足を抱いて,泣きながらお願いした。これが,水香を100%説得できる『泣き落とし戦法』だ。
美羅琉「禅子さま~,お願いです! すぐに藤雨城に行って,例の変死事件の調査に出向いてください! 禅子様が殺人事件を起こすのは絶対にダメですよ。低調に低調に行動してくださ~い」
水香「やけに熱心ね?どうしたの?」
美羅琉「だって,藤雨城の女中が変死してしまうんですよ? 可哀想じゃないですか! わたし,弱い女性の味方なんです。禅子様もそうでしょう? それに,すでに藤雨城の城主様から依頼料金貨500枚ももらっているし,もうこれ以上,放置できません!!」
水香「そうね,,,行ってもいいわ。でも,知っていると思うけど,わたし,具体的に指示されないと動けないの。歩くときも,左脚から1歩出すのか,右足から1歩出すのかまで指示してくれないとダメよ」
美羅琉「・・・」
美羅琉は,少し考えてから言葉を発した。
美羅琉「わかりました。では,禅子様,この案で行動してください」
美羅琉は,適当に考えた具体的な案を水香に伝えた。それを聞いた水香は,さすがにひとりで行動するのは控えたかった。なんといっても身重だ。
水香「でも,奴隷がひとりくらいは必要かな? 一緒に行く奴隷を選んでちょうだい。男どもに犯されるのは間違いないわ。へたしたら殺される運命よ。その前提で選んでちょうだい」
美羅琉にとって,伊治子たちがどうなろうとどうでもいい。伊治子たち4名を呼んできて,その場でジャンケンさせた。負けたのは穌梨子だった。ここに来てから,なぜか胸がCカップにまで大きくなった。でも,その気弱な性格はそのままだった。穌梨子は,すでにS級前期のレベルに達していた。他の3名も同様だった。
だが,これ以上の急激なレベルアップは,体の負担が多きすぎる。これからは,肉体強化に訓練の重点を置くところだった。
穌梨子「あの,,,わたしが負けたのですけど,何をすればいいのですか?」
美羅琉「穌梨子,あなたは,今から,禅子様と一緒に藤雨城に潜入捜査してもらいます。要はスパイです。目的は,女中の変死事件調査です。危険が伴います。犯されることがあるかもしれません。殺されることがあるかもしれません。
でも,穌梨子,あなたは,別に何もしなくていいのよ。ただ,禅子様と一緒に,流れに任せればいいの。ただし,何か変化があったら,その都度,禅子様にその映像を念話で送りなさい。それが,あなたの命を救う唯一の方法よ。念話でイメージ送付はできるわね?」
穌梨子「はい,もっとも大事なことなので練習しています。今では,半径5kmまでなら,念話で送れると思います」
美羅琉「半径5kmか,,,ちょっと足りないかもしれないけど,まあいいわ」
美羅琉は,水香と一緒に行くのは穌梨子になったことを伝えた。
水香と穌梨子は,美羅琉の用意した女中服に着替えて,雲禅13号を起動して去っていった。
それを見た美羅琉は,心の中で「ヤッター!」と叫んだ。だって,これで大手を振って,男娼館街に行ける! しかも2週間も! 軍資金だってある!
美羅琉が考えた行動計画は,水香が他人になりすまして藤雨城に女中として採用されて侵入するというものだ。しかも,最初の2ヶ月間は,いっさいの行動はしないこと! ただ,じっと流れに任せること。犯されそうになっても,その流れに従うこと。その内,犯人は必ず水香に接近してくるはず。それをただ待つというものだ。それが,作戦に該当するのかどうかはわからないが,まあ,作戦には違いないのだろう,,,
美羅琉は,居残りの伊治子たちに,金貨20枚を渡して生活費の足しにさせて,自分は,さっさと桂河城下町の男娼館街へ出向いた。
ただし,出発する前に,宗主の了解をとって,伝書鳩を藤雨城に飛ばすのは忘れなかった。その内容は,次のようなものだ。
『藤雨城,城主様。例の変死事件の件,雲禅天女が隠密裏に対応中です。遅くとも3ヶ月以内に解決することをお約束いたします。尚,わたし,美羅琉は都合により,すぐに訪問できなくなりました。2ヶ月後に控えている青蒼剣術大会が林弦宗で開催されるためです。悪しからずご了承ください。美羅琉』
このような長文でも,特殊な薄い紙を使うので,伝書鳩で飛ばすことができた。
この手紙を受けとった藤雨城の聡一は,当初花馨天女が考えていた,水香に一泡吹かせるもくろみ,すなわち,水香に賭けを持ちかけて美羅琉と傘次郎を試合させるというものだが,それが水泡に帰したことを知った。
・・・ ・・・
雲禅13号に乗った水香と穌梨子は,人目のつかない桂河城下町内の一角に着地した。そこから徒歩で,藤雨城に向かった。
藤雨城の門番に,女中になりたい旨伝えると,今は,採用していないとのことだった。
水香は,周囲を見て,他にだれもいないのを確認して,穌梨子に金貨1枚を彼に渡すように指示した。
門番「あっ,思い出した。そういえば,女中は娼館の女将の紹介で採用することになっている。まあ,娼館とは持ちつ持たれつの関係だからな」
穌梨子は,娼館のある場所を教えてもらって,水香を連れて娼館街へと移動した。
その道すがら,,,
穌梨子「禅子様,わたし,まだ処女です」
水香「わたしも今日も処女です」
穌梨子「・・・,禅子様,わたし,ただ,女中の仕事をしていればいいのですか?」
水香「そうよ」
穌梨子「もし,犯されそうになったらどうすればいいのですか?」
水香「流れにまかすの」
穌梨子「それって,反抗してもいいの?」
水香「流れにまかすの」
穌梨子「・・・」
穌梨子は,反抗してもいいし,そのまま無抵抗でもいいと判断した。その場の状況に任すと理解した。
娼館街について,穌梨子は,女将に藤雨城の女中になりたい旨を説明したが,どの女将もまともに取り合ってくれなかった。
穌梨子「禅子様,どうしましょう。3件ほど廻りましたが,どこも真面目に取り合ってくれません」
水香「破壊しても周辺に影響のない娼館を探してちょうだい」
穌梨子「・・・」
穌梨子は,娼館街の離れに,ポツンと離れて建てられた娼館を発見した。
そこで彼女は,そこの女将に,藤雨城で女中になりたいので紹介してくれるように依頼した。だが,案の定,けんもほろろに断られた。
穌梨子「わたし,本気なんです。女将さん,ぜひぜひお願いします」
女将「そんな面倒くさいことしたくもないわ。それに,紹介料だって,せいぜい金貨2,3枚だし,イヤよ,そんなこと!」
穌梨子は,普段は気弱な性格だ。でも,今は違う。なんといっても水香と一緒だ。どんなことになろうと,水香に勝てるような強者はいないと信じている。だから,これまでの反動なのか,超強気な性格になった。
穌梨子「これが最終通告です。わたしの言葉に従わないと,この娼館を破壊します」
女将「何,バカなことを言ってるのよ。さっさと出ていきなさい!」
穌梨子は,水香から自由に娼館を破壊していいと言われている。ならば,遠慮はいらない。
穌梨子は,氷結の矢を,自分の背後に展開した。それも同時に10発もだ。
それを見た女将は,ビックリした。そんなことができるのは,S級レベルの気法術者だ!
女将「待って! 待ってちょうだい! その術を解いてちょうだい!」
穌梨子は,展開した氷結の矢を解除した。
女将は急に態度が変わった。
女将「あなた様は,S級術者ですね? おみそれしました。でも,なんでそんな強者が藤雨城の女中になるのですか?」
穌梨子「詮索は不要です。さっさと紹介してください」
女将「わかりました。ですが,身元調査を厳密にしないと,わたしが罰せられます。まあ,取りあえず中に入ってください」
女将は,開いている部屋に彼女たちを案内した。お茶,お菓子などを下女たちに出させて,彼女たちの身元をどうするかを相談した。その結果,かつて,病気で亡くなった女中たちの身元になることで対応することにした。
年齢や体つきから,水香は『さえ子』という名で,近くの農村出身とし,穌梨子は『くり子』という名で,倒産した商家の娘という身分になった。
女将「あの,,,失礼ですが,あとで衙門の方が来られて,あなたがたの身分を詳しく調べられたら隠すことはできません。その場合は,何て言えばいいでしょうか?」
穌梨子「その時は,わたしは穌梨子,こちらは禅子という名前を明らかにしてください。林弦宗の美羅琉教官の名前も出していいです。彼女の指示でわたしたち動いていますので」
女将「穌梨子様に,禅子様,そして,林弦宗の美羅琉教官様ですね? 了解しました。その節は,その名前を出すようにします」
その日は,この娼館で一泊させてもらうことにして,翌朝,藤雨城に出向くことにした。
その日の夜,客がどんどんとこの店に来た。当然だ。それが商売なのだから。客のひとりが,たまたま廊下を歩いている蘇利子を見た。
客「お? きれいなかわいこちゃんじゃねえか? おっぱいもでかそうだ。おい,お前を指名する。一緒に来い!」
蘇利子「・・・」
蘇利子は,流れに任すことにした。流れに任すとはどんな感じなのか,よく分からないが,ともかく蘇利子は,客の映像を念話で水香に送った。客と逢うのも,変化のひとつだからだ。
蘇利子は客についていった。その客は,一晩,部屋を貸し切りにしていた。先ほど彼の対応をした女性はもういなかった。別の客の対応をしに行ったようだ。
客は水香に金貨2枚を渡した。
蘇利子「わたし,処女です。2枚では足りません」
客「へへへ,そうか,処女か。では,金貨10枚にしてやろう」
蘇利子「・・・」
蘇利子は金貨10枚を受けとった。彼女は,これからどうしていけばいいのか分からなかった。
思案にくれている暇もなく,客が蘇利子に抱きついてきて,押し倒して,女中服の着物をはだけさせていった。蘇利子のCカップの胸が露わになった。
その客は,その胸に顔を押しつけて,両手で彼女の胸を揉んでいった。その行為は,蘇利子にとっては大きな変化だ。その映像を,何度も水香に念話で送った。
それは,蘇利子にとってすぐに助けてという意味あいのつもりだ。
このとき,水香から念話の返事が来た。
水香『そのまま,流れに任せなさい。最後の一線は守ってあげる』
その言葉を聞いて,蘇利子はやっと安心した。
客は蘇利子を丸裸にして,あの行為に及んだ。いや,その行為をしたつもりだった。
水香は,別の部屋からこの場所まで霊力の場を展開して,その客の体全体を包み込み,あの行為を疑似的に体験させた。その後,,,その客は精力を奪われ,寿命も30年ほど失っていった。
そして,その場で意識を失った。
蘇利子は,こんな経験をするのは初めてだった。間違いなく,水香がしてくれたのだろうが,でも,自分はこの後,どうすればいいのかよくわからなかった。取りあえず着衣を着て,客が目覚めるまで体を横にして待つことにした。
1時間もすると客が意識を取り戻した。
客「あれ? 俺,どうしたんだ? あっ,そうか,思い出した。俺の全財産を渡さないといけないんだったな」
客は,自分の巾着袋をすべて蘇利子に渡した。蘇利子は,いったい何が起こったのかさっぱりわからなかった。何よりも,客は急に老人になってしまってしまい,今にも死にそうな顔つきをしていた。
客は着衣を直しながら,「亡くなった友人が待っている。ちょっと,会いに行ってくる」と言って,その場を去っていった。
蘇利子「・・・」
しばらく,呆然自失になったが,気を取り直して水香のいる部屋に戻った。
蘇利子「禅子様,いったい何がどうしちゃったのですか? お金を巾着袋ごと渡してくれるし,死んだ友人に会いに行くと言って去っていったんだけど?」
水香「別に言葉通りのことよ。お金をあなたに渡して,自殺しに行っただけよ。自殺の場所は,人目につかない場所にしたから,死体が発見される可能性は低いわ」
蘇利子「・・・」
蘇利子は『大妖怪・水香』の能力の一端をみてしまった。とにもかくにも,彼女はこんな状況の中でも処女を守ることができた。
・・・ ・・・
翌日,女将は,水香と穌梨子を連れて藤雨城に出向いた。お城の正門からではなく,裏門の守衛に軽く挨拶して,お城の中に入っていった。
女将は,なんの躊躇いもなく,衙門棟の中に入っていった。その中に人事部という標識がかかっていた。女将は,そこの女性職員に声をかけて,何やら話を始めた。
その後,女将たちは,議室に通されて,面接を受ける段取りとなった。
しばらくして,2名の女性が入ってきた。女主人と秘書といった感じだ。女主人は,城主の母親で,第一夫人の多美江で,もうひとりは陽架という女性秘書だ。
女将は,水香を『さえ子』という名前で紹介し,穌梨子は『くり子』という名前で紹介して,彼女たちの家庭事情などを説明した。
多美江「それで,ここで女中として働きたいのですね?」
女将「はい,ぜひ採用させていただきたいと思います」
多美江「でも,彼女たちを娼婦にするほうが,女将さんにとっても利益が多いのではないですか?」
女将は,大きく溜息をついて返答した。
女将「実は,彼女たち,プライドが高くてどうしても娼婦の仕事はしたくないとの一点張りで,,,でも,一般家庭の女中の仕事も,プライドが許さなくて,,,結局,候補に残ったのが,ここなんです。ぜひ,彼女たちを女中に採用してください」
多美江「彼女たちの気法術のレベルは?」
女将は,それぞれに返事させた。
水香は,何て返事しようかと考えた。ここまでの話の展開は,美羅琉から指示を受けていない。これまで,暇々に雲禅仙人の記憶を頼りに小技を再現してきたが,最近,やっと,上級レベルにまで,『技量を下げる』ことができた。今後,さらに,技量を下げる予定だ。ならば,上級レベルでいいか?
水香「わたし,『気』の才能が生まれながらにあって,今では,上級レベルに到達しています」
これには,多美江や秘書の陽架もビックリした。水香は,見かけ12歳程度だからだ。どうしたって初級にも達しない,基礎級レベルか,もしくは,まったく使えないだろうと思っていたからだ。
多美江「え? 上級ですって? じゃあ,ちょっと,その技,見せてくれますか?」
水香は,コクッと頷いた。
水香は,両方の手の平に,火炎球を同時に放出した。それらの火炎球を,ゆっくりと浮上させた。その火炎球は,その後,徐々に小さくなって消滅していった。
それを見た,多美江たちは,またまたビックリした。女将も,実は上級中期レベルの実両者だ。でも,火炎球をゆっくりと浮上させることなど,どう頑張ってもできるわけがない。同時に風を操ることが必要だ。そんなこと,できてもS級中期か後期以上でないと無理だ。
水香は,まだ,どの程度が上級で,中級で,という区別がまったく理解できていなかった。
多美江「さえ子さんとかいいましたね。気法術は得意のようですが,剣術はできますか?」
水香「見よう見まねで,多少はできると思います」
多美江「そうですか,,,では,後で,剣術の腕前を見せていただきます。それで,採用するかどうか決めましょう。さて,くり子さんは,どのレベルですか?」
穌梨子は,水香が上級レベルといっていながら,S級以上のレベルを披露したので,穌梨子は,正直に言うことにした。別に隠すことのほどでもないし。
穌梨子「わたし,S級前期です」
多美江と陽架は,開いた口が塞がらなかった。だって,穌梨子も,見た目14歳くらいだからだ。どうがんばっても中級中期までが限界だ。
多美江「信じないわけじゃないけど,ちょっと技を披露してくれますか?」
穌梨子は,自分の背後に氷結の矢を10本,同時に出現させた。その数秒後に,さらに10本を追加で出現させ,さらに,数秒後に追加で10本出現させた。そして,静かにそれらを消滅させた。
S級の術者がひとりいれば,その城は潰れるという。まさに,その技量を披露した恰好だ。
もし,この2人が暴れでもしたら,この藤雨城は壊滅してしまう可能性だってある。
多美江は,穌梨子にも剣術での技量を聞いて,水香と同じく,たしなみ程度にはできることを伝えた。
多美江は,陽架に命じて,剣術で一番強い者を闘技場に呼ぶように命じた。
30分後,,,
闘技場に,多美江たち以外に,第一分隊長と,この藤雨城で一番強い剣士,傘次郎が姿を現した。
多美江は,第一分隊長に,水香たちと,傘次郎を勝負させるように命じた。
分隊長「え? こんなか弱い女性と傘次郎とですか? それって,勝負になるんですかね?」
多美江「何事も,やってみないとわからないわ。さえ子さん,傘次郎と剣術で勝負してください」
水香「わかりました」
多美江「分隊長,審判をお願いね?」
分隊長「承知しました」
水香と傘次郎が闘技場に上がった。分隊長は,傘次郎の実力であれば,相手を寸止めできるので,どんな厳しいルールでも問題ないと判断した。
分隊長「試合で,許可されるのは,武器では剣のみ,防御系の『気』の使用,『気』で剣を捻出すること,また,それを『気』で強化することです。さらに剣風刃もOKです。
それ以外は許可されない。今回は,時間は制限しません。どちらかが負けを認めるまで試合を行ってください。尚,場外になったら,もちろん負けとなります。ルールは理解しましたか?」
傘次郎「はい,了解しました」
水香「はい,大丈夫です」
そのルールを聞いて,傘次郎は,自慢の剣を持ってきた。どんな弱い敵であれ,少なくとも,第一夫人の多美江さんが連れてきた人だ。強者であるのは間違いない。ならば,遠慮はいらない。
すでに,傘次郎の実力は,周囲に徐々にバレてきている。ならば,ここで,全力を出す事態になってもなんら問題はない。傘次郎の覚悟は決まった。
分隊長「では,試合,始め!」
傘次郎は,自慢の剣に純剣気を展開した。それを見た水香は,『気』で傘次郎と同じような剣を捻出し,そこに傘次郎と同じく純剣気を放出した。
それを見た傘次郎はビックリした。なんで,こんな小娘が純剣気を放てるのだ? 傘次郎は,已むなく,奥の手を出すことにした。それは,この職場に来て,初めて披露するものだ。
それは『剣意』! 自分の周囲に結界を張る技だ。それは,『気』の防御結界とも異なる。無色半透明のブヨブヨとしたものが傘次郎の周囲を覆った。それを診た水香は,それを真似た。
しかし,無色半透明の物体なので,ちょっと診ただけでは,再現するのは困難と判断した。そこで,霊力の場を構築して,その霊力が『剣意』というものに接触させて『剣意』を解析した。
まったく同じものはできそうもないが,高密度の気流体で,剣の流れを遅延される作用があるものだと分かった。そこで,水香は,『偽物剣意』を構築した。それは,無色半透明で,かつ,超がつくほどの高密度の気流体だ。無色半透明なので,肉眼で見ることができる。
それを見た傘次郎は,びっくり仰天した。まさか,『剣意』までも構築できてしまうとは,,,
だが,傘次郎には勝算があった。だって,彼には,加速技10倍速が使える! ならば,速攻で水香の結界である『剣意』を砕くのみ!
傘次郎は,その場から消えるかのような速度で水香に向かった。それは,一瞬の時間だった。彼は,斜め十字切りで,水香の偽物結界を切ろうとした。
ブス!
傘次郎の純剣気を帯びた剣は,水香の偽物剣意を切り裂くことは出来なかった。僅か,数cmほど切ったところで,いや,厳密には,気流体なので,切ることができず,その超密度の気流体に剣の速度が減速されて,数cmのところで止まったというのが正解だ。
傘次郎「え? まさか? 純剣気の剣が通らない!」
それを見た水香は,『気』の剣で,傘次郎の純剣気で覆われた鋼鉄製の剣を一刀両断にした。それに引き続いて,傘次郎の周囲を覆っている『剣意』を,『気』の剣で切り裂き,裸同然になった傘次郎の胴体部分に,足蹴りを喰らわした。
ドーン!
その足蹴りの威力は凄まじく,傘次郎は50メートル以上も吹き飛ばされてしまった。どうみても死んでもおかしくない状況だった。
このような攻撃をおこなったのも,傘次郎を再起不能にさせて,穌梨子との勝負を止めさせるのが狙いだ。
だって,傘次郎の実力からすれば,どうみても穌梨子に勝ち目はないからだ。
審判をしている第一分隊長は唖然とした。いったいどうすれば『気』の剣で,実際の鋼鉄製の剣を切り裂くことができるのだ? しかも,傘次郎の剣は,純剣気で覆われていたはずだ!
それに,あの蹴りの速度! 半端ないレベルだ。
第一分隊長は,すぐに秘書の陽架に,医者を連れて来るように依頼して,傘次郎のところに駆け寄った。
傘次郎生きていた。しかも意識があった。それが幸いして,口から血を吹き出していて,何度も咳き込んでいた。もし,意識を失っていたら,血が喉に詰まって窒息死していただろう。どうみても,全治1ヶ月以上の重症のようだった。
その後,上級煉丹師である医者が来て,傘次郎の状況を診断して,応急措置として,中級精力丹を飲ませた。とりあえずそれを飲ませれば,なんとかなるという万能丹薬だ。
「雲禅天女様,あまり,わたしの部下を虐めないでください」
そう言って,城主である聡一が,親衛隊を引き連れてやってきた。
水香は,こんなにも早く身元がバレてしまうとは,,,でも,ここまで実力を披露してしまった以上,バレるのは当然かもしれない。それに,顔を換えてもいないし,城主の聡一ならすぐに雲禅天女だとバレるのはあたりまえだ。
こうなっては,美羅琉が考えたストーリーで,変死事件を調査するのはできなくなってしまった。
水香は,闘技場から降りて,城主のところに来た。
水香「変なところを見られてしまいました。身分を隠すつもりでしたが,できまなくなりました」
聡一「いえいえ,構いません。母上,改めて紹介します。こちらが,雲禅仙人の継承者,雲禅天女様です。そして,雲禅天女様には,ふたつ名があります。それは,,,『大妖怪・水香』様です」
多美江「ええーー?? この方が,雲禅天女様? 聡一から聞いていたけど,これほどの若さとは,,,スタイルも,,,ステキで,,,」
多美江は,「巨乳ドチビ!」と言いたかったが,なんとか,差し障りのない表現で言えた。
秘書の陽架,第一分隊長,さらには女将まで,水香が雲禅天女で,『大妖怪・水香』だと知って,ビックリ仰天した。
彼女を怒らせたら,それこそ,こんな小さな城など,すぐに壊滅させられてしまう。それに,傘次郎との試合でも,雲禅天女の強さは証明された。そもそも,いくら,仙人,天女といえど,純剣気や剣意を展開できるものなど,どれだけいるのか? いや,ほとんどいないはずだ。
雲禅仙人だって,剣士の修行はしていないはずだし,純剣気や剣意は使えなかったはずだ。なのに,どうして雲禅天女は展開できるのだ?? 第一分隊長は,考えれば考えるほど水香に対して恐怖を感じてしまった。
その後,多美江が,雲禅天女を招待する形で,この場にいる全員が,彼女の住む藤羽庵に移動した。
ー 藤羽庵,貴賓室 ー
多美江は水香を上座に座らせた。その隣に穌梨子が座り,さらにその隣に女将が座った。
迎える側として,多美江と城主の聡一の2名が面と向かって座り,秘書の陽架,第一分隊長,城主の親衛隊長,および多美江の親衛隊長の4名は,多美江と聡一の背後に立った。
多美江は,雲禅仙人に助けられたことがあった当時のことを語り出して,水香にお礼を述べた。水香は,たまたま雲禅仙人の継承者になっただけなので,礼には及ばないこと,また,聡一からも丁寧な挨拶を受けたので,それで十分ですという,水香にしては,気の利いた台詞を吐いた。
水香も,それなりに苦労してきたのかもしれない。
穌梨子から,今回の潜入捜査は美羅琉の立案で,身分を明かさないで女中として潜伏して,敵が彼女たちを襲うように仕向けるという作戦であることを伝えた。いったい,だれが犯人なのか不明だからだ。
そこで,今後の捜査方針について相談した。
いまさら,水香たちに女中の仕事などできるはずもないし,親衛隊の連中に,水香たちの素性がバレてしまったので,美羅琉の作戦は破綻してしまった。ああでもない,こうでもないと案が出たが,いずれも水香は却下した。だって,面倒くさい内容だったからだ。
聡一「では,禅子様,どのような案がいいと思いますか?」
水香「穌梨子,一番いい案を出しなさい」
そう言われたものの,穌梨子は,いったい水香がどの案がいいのか,よくわからなかった。
だって,一度,水香たちがこの城を去って,再度,変装して女中として潜入するという案を,水香は蹴ったのだ。さらに,親衛隊長の推薦という形で,女中として潜入するという案も,水香は蹴った。
穌梨子は,出来の悪い頭で,水香が何に満足するのかを真剣になって考えた。ここで,へたな案を出してしまうと,もう愛想をつかれて,いざという時,助けてくれないかもしれない。つまり,穌梨子にとって,生死に関する重大な局面だ。
穌梨子は,少なくとも,当初の『女中』という業務ではダメだと思った。でも,今の立場では,周囲の連中が平伏してしまい,捜査などできるはずもない。ならば,その中間的な存在,,,
穌梨子「コホン,コホン,えーと,こうなった以上,禅子様は,女中という立場は,避けたいということだと思います。でも,今の雲禅天女様の立場では,周囲の者が平伏してしまい,捜査なんてできる状況ではありません」
ここまで言って,穌梨子は,多美江たちの顔色を見た。彼らは,一様に首を上下に振って同意する意を示した。
穌梨子は,最後に水香の顔を見た。水香の顔は,ほんの少し微笑んでいるようだった。
穌梨子は,ちょっとホッとした。
穌梨子「そこで,わたしたちの身分ですが,女中の方々と,頻繁に接触できるような立場にあるのが理想です。しかし,女中を管理するような仕事はダメです。女中の護衛という仕事も,義務がつきまとうのでダメです。そうですね,,,」
穌梨子は,ここまで言えば,誰か案を出してくれのではないかと期待した。
多美江にも聡一,水香が何を期待しているのかが理解できた。
多美江「では,禅子様は,女中たちのための専属のお医者さんという立場になるのはどうでしょうか? 穌梨子さんは,禅子様はその助手という身分です。女中部屋の隣に,臨時に医務室を準備しましょう。そこで寝泊まりもしていただくということでどうでしょう? それなら,頻繁に女中とも接触できますし,相談相手にもなれますし,『自由時間』もいくらでも取れると思いますよ」
多美江は『自由時間』という言葉を強調した。
穌梨子は,水香の顔色を診た。水香の顔は,詳しく診ないとわからないほどだが,ほんの少しだけ微笑んだ顔に変化した。穌梨子は,その変化を見逃さなかった。見逃していたら,穌梨子に未来はない。
穌梨子がすべきこと,それは,水香が望んでいることを汲み取って,それを相手に伝えることだ。それができて,初めて,いざというとき,水香にいろいろとお願いができるというものだ。
穌梨子「はい,その案で禅子様も了承していただけると思います」
多美江「了解しました。では,そのように準備します。今日の夕方までには準備できると思いますので,それまでこの部屋でくつろぎください」
やっと,水香と穌梨子の身分が確定したので,多美江たちもホッとした。一度,多美江たちは,貴賓室から去った。
・・・ ・・・
穌梨子は,今の対応でよかったかどうか水香に確認した。
穌梨子「禅子様,今の対応でよかったでしょうか? もし,不満点があったら,今のうちに指摘ください」
水香「ぎりぎり合格点よ」
穌梨子「ぎりぎりって,どうすれば100点満点取れるのですか?」
水香「すべて自分で立案して,わたしのすべきことを,明確にイメージで送ることよ。これからが本番よ。どうせ完璧な計画なんて立案できなのだから,ダサい計画でもいいのよ。でも,面倒くさいのはダメ」
穌梨子「はい,その点は承知しています」
・・・
夕方になって,臨時医務室の内装が整ったので,多美江は,水香たちをその部屋に案内した。
そこには,ベッドが4台準備されていて,蛇腹カーテンで仕切られていた。戸棚も用意されていた。この部屋の奥には,トイレも風呂も完備されていた。お湯も蛇口から出るようになっている。給水塔があるので,そこから,各施設に配水されている。
でも,水香と穌梨子が寝泊まりするには十分なところだ。
穌梨子「あの,丸薬が必要になった場合は,どうするのですか?」
多美江「女中には,貴重な丸薬は与えないの。もともと怪我するような仕事もいしていないしね。病気になったら,体を休ませるだけでいいわ」
穌梨子「・・・」
穌梨子は,女中の,ちょっと悲惨な現実を知った。それでも,多美江は,いざっというときのために,このお城の奥医師を紹介することにした。
多美江は,水香たちを連れて医局棟に移動した。
医局棟には,奥医師1名,その部下で5名ほどの医師がいた。奥医師はS級煉丹師であり,部下の医師たちは,皆,上級煉丹師だ。かなり贅沢な布陣だ。
穌梨子は,臨時医務室を開設する以上,中級精力丹くらいは,常備用として入手したかった。そこで,念話で水香に聞いてみたが,水香は,その必要はないと念話で返事した。その時になれば,奪ってでも入手するからだ。
穌梨子は,確かにその通りかもしれないと思った。
多美江は,奥医師たちに,女中の隣の部屋に臨時医務室を設けて,彼女たちに,臨時の医師になってもらうことを伝えた。
多美江「では,禅子様,穌梨子様,ひとこと,ご挨拶お願いします」
穌梨子「わかりました。わたし,穌梨子と申します。S級煉丹師です。隣にいるのは,わたしの師匠で,禅子様と申します。煉丹術は,すでにS級を越えて天女レベルです。どうぞよろしくお願いします」
穌梨子は,そう挨拶して頭を下げた。水香もちょっとだけ頭を下げた。水香は,煉丹などしたこもない。だが,雲禅仙人は煉丹の神様みたいな人物だ。その知識を受け継いでいる以上,穌梨子が説明した内容は,あながちウソではない。
穌梨子も,煉丹術については,幼少の頃より携わっていて,気法術がS級に達したのを契機に,今ではS級レベルの丹薬を煉丹するができた。だから,S級煉丹師と名乗ってもなんら不思議ではない。
穌梨子の説明を聞いて,奥医師たちはビックリした。穌梨子でさえもS級煉丹師? 禅子様は天女レベルの煉丹師??
この穌梨子の説明に,多美江が慌てて追加説明した。
多美江「あの,禅子様は,雲禅仙人の継承者です。雲禅天女と名乗っています。今は,訳あって,このような対応をしています。穌梨子様は,雲禅天女様のお弟子さんです。あまりビックリしないでください」
そういう多美江も,そう説明してなんとか自分の驚きの気持ちを抑えた。
奥医師たちは,多美江のその説明を聞いて,さらにびっくり仰天してしまった。すぐに,その場で平伏し,土下座して頭を地につけた。だって,雲禅仙人は,高位の煉丹師仲間の間では,『煉丹術の神様』的存在だからだ。
奥医師「これはこれは,雲禅仙人様の継承者で,雲禅天女様であらせられますか。大変,失礼いたしました。わたくし,ここで,奥医師を務めされております,前悟と申します。また,こちらの5名は,わたしくの部下で,いずれも上級煉丹師でございます。今後とも,どうぞよろしくお見知りおきください」
奥医師は,部下に命じて,いくつか丹薬を持って来させた。その部下は,いくつか常備薬の丹薬をみつくろって奥医師に渡した。奥医師は,その内容を確認して,それを穌梨子に渡した。
奥医師「これらの常備薬は,下級,中級,及び,上級精力丹でございます。とりあえず,それだけあれば,緊急の応急措置は施せるかと存じます。ほかに何か御用がございましたら,遠慮なく申しつけください。即時に対応させていただきます」
この挨拶に,穌梨子が対応した。この場は,軽々しく水香が話しをする場ではないことは彼女もよくわきまえている。
穌梨子「丁寧な挨拶,また,常備薬の提供,ご苦労様です。お立ちください」
その言葉を受けて,奥医師たちは,ゆっくりと立ち上がった。
穌梨子は,念話で水香から,ちょっと『デモ』をする準備があるというので,その対応をした。
穌梨子「折角,常備薬を提供してもらいましたので,雲禅天女様,,,わたしくしは,禅子様とお呼びしますが,禅子様から,奥医師さんに,ご褒美がございます。威厳を正して,お受け取りください」
その言葉を受けて,奥医師は,再び,土下座した。
奥医師「ははーー!」
水香は,両手で,何度か手印をこねくり回して恰好をつけた。水香の場合,別にそんなことする必要がないのだが,『見せる』動作も,時には必要なものだ。
手印の動作が終わると,つぎに,空中に人差し指で,篆書体で『強化』という文字を描いた。その文字は黄金にまばゆく輝いた。べつにそこまで光り輝かせる必要もないのだが,デモ効果も重要なのだ。
水香は,空中に描いた『強化』という気篆術の図案を,平伏している奥医師の体に放った。
ボァーーー!
奥医師の体が光り始めた。
穌梨子「奥医師さん,どうぞ,平伏を解いて結構です。今,あなたに,一時的に『気』のパワーを10倍に引き上げました。それは,そんなに長く続きません。今のうちに,ボトルネックになっている『気』のレベル上げを行いなさい」
その言葉に,奥医師は歓喜の顔をした。
奥医師「はい!はい! すぐに,体内の『気』を調整いたします! この場で失礼します!」
奥医師は,すぐにあぐら座りをして,両手を丹田の位置で桃のような形状を構築し,眼を閉じて体内に『気』を巡らせた。
10倍に引き上げられた状態の『気』の流れが,彼のボトルネックとなった障壁を打ち破るような感覚を覚えた。
1分後,水香の与えた強化気篆術の効果は消滅した。しかし,奥医師の体内には,すでにレベルアップするだけのパワーがあったので,そのパワーを体内に巡らせた。
10分後,,,,
奥医師は,ゆっくりと眼を開けた。そして,満悦の笑顔になり,再度,水香に対して五体投地を行った。
奥医師「雲禅天女様! 誠にありがとうございます! ここ10年,S級煉丹師にはなれたのですが,どうしても気法術では,上級後期からS級にレベルアップすることができませんでした。
でも,今,雲禅天女様のお力を借りて『気』を強化させていただき,やっと,念願のS級レベルに達することができました。わたしく,前悟は,ここに,雲禅天女様に帰依いたします!」
それに併せて,5名の弟子たちも「雲禅天女様に帰依いたします」と,言葉を発して五体投地を行った。
この一連の出来事に,多美江や秘書の陽架は,驚きの連続で開いた口を閉じることを忘れてしまった。
穌梨子「分かりました。あなた方の帰依する気持ち,禅子様は,確かに受けとりました。これから,禅子様は大きな変革の時代を導きます。この青蒼大陸を,新しい秩序体型にしていきます。もちろん,あなた方にも協力してもらいます。その際は,全力をもって禅子様に協力してください」
奥医師「ははーー,天地神明に誓って,全力をもって対処させていただきます」
それに併せて,弟子たちも,同じく天地神明に誓った。
穌梨子「わかりました。平伏を解除していただいて結構です。これからは,あなた方は,わたしたちの仲間です。雲禅天女様を,禅子様と呼ぶことを許可します。では,わたしたちは,これで失礼します」
穌梨子は,いまだ呆然自失している多美江に声をかけた。
穌梨子「多美江様? そろそろ戻ってよろしいでしょうか?」
多美江「え? はっ,はい,そっ,そうですね。そうしましょう」
多美江は,慌てて,奥医師たちに挨拶をしてから去った。
・・・
残された弟子たちは,皆,奥医師がS級前期にレベルアップしたことを喜んだ。
奥医師「みんな,ありがとう。やっとS級前期になれた。これも,日頃,精進した結果なのだと思う。それにしても,あの『気』の強化術を受けて,ビックリした。『気』の強化レベルは,10倍どころではなく,20倍にも30倍にも引き上げられた感じがした。
あの禅子様は,もしかしたら,雲禅仙人を越えるレベルに達しているのかもしれん」
弟子たちは,その言葉に,再度,感嘆の気持ちを表した。
その後,彼らは,他の友人・同僚たちを誘って,奥医師がS級に達したことを祝って,宴を催すことにした。
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