第35話 忌み子殺し

 妖狐族と妖狸族の境界付近の領土の帰属をかける試合の日が来た。


 妖狸族からの出場選手は,もちろん,彩華,琴弥,ヒカルの3名だ。対して,妖狐族からの選手は,たった一名だ。その名は,小芳。つまり,神人の美蘭だ。本物の妖狐族の小芳は,いまだに怪我で療養中だ。


 妖狸族長は,妖狐族長に嫌味を言った。


 妖狸族長「え?そちらの選手は,たったひとりだけですか? それでわれわれに勝てるとでも? 妖狸族も馬鹿にされたもんだ」


 妖狐族長は謙虚だった。


 妖狐族長「ちょっとハプニングがあって,かなりの者が大怪我を負ってしまった。辛うじて,数日前に,小芳がやっと長旅から戻って来てくれた。今,試合に出場できるのは小芳だけです。妖狸族長,お手柔らかにお願いします」


 妖狐族長は少し頭を下げた。


 妖狸族長「ハハハ,そうか,そうか。まっ,今年もわれわれが勝たせていただくが,これまで同様に,温泉のお湯は,定期的に分けてあげよう。少しは温泉に入った気分になるだろう」

 妖狐族長「はい,もし,負けた場合は,これまで同様,よろしくお願いします」


 妖狐族長は,そうは言ったものの,小芳の実力を聞いて,金狸などに絶対に負けるわけはないと思った。でも,妖狸族からの選手は,初めてみる選手たちだ。どうやら,金狸よりも強者を連れて来たようだ。


 妖狐族長は,小芳のところに戻って聞いた。


 妖狐族長「小芳,どうだ? 妖狸族の選手は,どうやら雇われ選手のようだ。彩華,琴弥,ヒカルという選手らしい」


 小芳はヒカルという名前を聞いて,すぐに大妖怪水香のことを思い出した。言葉数少ない水香だが,ヒカルのことはときどき口にしていた。水香を庇って毒矢で死んだ少年だと。もしかして生きていた? 


 そんなことを思ってみたものの,肝心の水香が妖狐族の村にいないではないか?! いったい,水香はどこに行ってしまったのか? 


 でも,簡単に予想することはできる。なんせ,水香は,空中に飛んで空から移動した。いくら地図を持っていたとはいえ,道に迷うのは当然か? 逆に,妖狐族の村に無事に着くこと自体,奇跡なのかもしれない。


 小芳は,心の中で憤慨した。


 小芳『もう! まったく,なんでわたしがこんな試合なんかに出ないといけないのよ! まったく,族長ったら,ほかに選手がいないからと云って無理やりわたしをこの試合に出させて,,,くそっ,変に,『小芳』の記憶があるから,族長の命令に従ってしまったじゃない! 

 この忙しい時に,何日も時間を潰してしまったわ! 水香を探して梅山城に連れ戻さないといけなのに!! 

 まあ,でも,あのヒカルが,水香の云うヒカルなら,わたしの代わりにあの子を梅山城の城主にしてあげましょう。だって,ヒカルは,水香の思い人なんですから!』


 小芳が,ひとりで何かを考えているふうなので,妖狐族長が小芳の肩を叩いた。


 妖狐族長「小芳,試合が始まるよ。相手を3人,倒すだけでいい。あの妖怪神様から指導を受けたお前なら,あんな敵,倒すは容易だろう?」


 彼の云う妖怪神様とは,大妖怪水香のことだ。


 小芳「え?あっ,そうですね。試合が始まるんですね。はい,では,出場しましょう」


 試合時間は30分間,相手が参ったというか,戦闘不能にすれば勝ちだ。殺しても構わない。武器,呪符,毒など,なんでも使用許可されている。


 妖狐族側から小芳が,妖狸族側から彩華が出場した。

 

 試合進行は,妖狸族の銀狸が担当する。


 銀狸「両者,準備はいいですか?」

 

 この言葉に,小芳が声を上げた。


 小芳「銀狸さん,試合前に,わたしの実力を示していいですか? わたしの攻撃を受けたら,相手が死んでしまうのがいやなので」

 銀狸「はい,それは構いません」

 小芳「ありがとう。では,わたしの実力,示しますね」


 小芳は,全身を青白く光らせた。その背後に光りの輪が出現して,周囲から気が流れ込んでいった。それは,肉眼では見えないものの,気を修行する者なら容易に感じることができた。そのあと,氷結の矢が,10本,20本,,,,90本,100本まで形成されていった。


 それは,まさに天女レベルの気法術の使い手!!


 それを見た妖狸族の族長や観戦者たちは,驚きの声を出した。


 「何? あの小芳って,伝説の天女レベルか?」

 「うそーー! 妖狐族に天女が出現した?」

 「俺,小芳を知っているが,まだ上級レベルだったぞ? 天女レベルなんて,なるわけない!」

 「でも,どうみても天女レベルだ!」


 などなど,驚嘆の声が上がった。


 小芳は,100本の氷結の矢を,天に向かって放った。


 パシューー!ーー

 

 その威力,強烈無比!


 それを見た,彩華は,ここ数日,確かに『純剣気』のレベルを少しは引き上げたものの,とても小芳のあの攻撃を躱せるとは思えなかった。


 彩華「銀狸さん,わたし,負けを認めます。試合しても殺されるだけですから」

 銀狸「わかりました。初戦は,小芳の勝ちとします」


 本来なら,妖狐族陣営から「ワォーー!」と雄叫びが上がるところだが,妖狐族からは,族長と小芳の2名しか参加していない。他の連中は,皆,怪我の療養中か,彼らの面倒を見ているので来れない。


 琴弥は,小芳と試合をするかどうか迷った。加速を使えば,小芳の攻撃は躱せるが,敵にダメージを与えるパワーが足りない。戦っても,体力切れになって,あの氷結の矢の餌食になるだけだと思った。


 琴弥「ヒカル,わたし,棄権するわ。ヒカルはどうするの?」

 ヒカル「ボクは出てみるよ。気篆術がどこまで通用するのかを探るいい機会だ」


 琴弥は,銀狸に自分が棄権し,ヒカルが出場する旨を伝えた。


 銀狸「わかりました。2回戦は,小芳の不戦勝となります。では,最後の3回戦を行います。ヒカルさん,出場,お願いします」


 ヒカルは,ゆっくりと歩いてきて,小芳から10メートルほど離れた場所で止まった。


 小芳「銀狸さん,ちょっと,試合前にヒカルさんと話していいですか?」

 銀狸「構いません。どうぞ。時間がいくらでもありますから」

 小芳「ありがとう。ヒカルさん,あなた,大妖怪・水香さんを知っていますか?」

 

 その言葉に,ヒカルはビクッとなった。知っているも何も,毎日,水香のことを思わなかった日はない。


 ヒカル「はい,知っています。水香さんとは,一緒に旅をした仲です」

 小芳「やはり,,,水香さんは,あなたが死んだと思っていますよ」

 ヒカル「わたし,毒矢にやられて,危うく死ぬ1歩手前だったようです。一時的に仮死状態になったので,水香さんは死んだと思ったのでしょう。でも,その後,剣上仙人に助けられて,琴弥さんの献身的な看護を受けて,生き延びることができました。今でも,左手と左脚にしびれが残っています」


 ヒカルの『今でも,左手と左脚にしびれが残っています』という言葉は,琴弥にいい聞かせるためのものだ。今でも看護が必要だという言い訳だ。そのくせ,崖を『空中固定』気篆符で渡った時は,まったく正常に駆けていた。今さら,そんなウソ,琴弥を誤魔化せるわけがない。でも,琴弥も,それを理由にヒカルを看護した。なんとも可笑しな関係だ。


 小芳「そうですか。あなたが水香さんの思い人なんですね。確かに可愛い顔をしています。ヒカルさん,わたしのあの技を見て,棄権しないのですか?」

 ヒカル「なんとか,防御できそうだと思いました」

 小芳「そうですか,,,」


 小芳は,憫佳が剣流宗から呪符をもらってきたのが,ヒカルという名前なのは知っている。


 小芳「ヒカルさん,あなたは,憫佳のために呪符を描いたあのヒカルさんなんですね?」

 

 小芳は,再度,確認してみた。ヒカルという名前はさほど珍しくないので,同名の可能性を危惧した。


 ヒカル「はい,そうです。憫佳さんはいろいろと協力してもらいましたので,わたしも手伝わせていただきました」

 小芳「そうでしたか。あのヒカルさんだったのですか。これで少し,疑問が溶けしました。

 どうです? この試合が終わったら,梅山城に行って,そこで城主になってくれませんか? 水香さんも,それを知ったらきっと喜びますよ。それに,城主の名前は,すぐに他の都市にも知れわたりますから,水香さんに再会することだってすぐにできますよ」


 小芳のその言葉に,ヒカルは,やはり水香は仙人に殺されてはいなかったと思った。


 ヒカル「やはり,水香さんは生きていたのですね? やっぱり,水香さんはすごい!」

 小芳「あっ,そうでした。水香さんは死んだことになっていました。ヒカルさん,水香さんは生きていますが,でも,死んだことにしてください。どうやら,しばらく身を隠す必要があるみたいです。

 とにかく,ヒカルさん,梅山城の城主になってください!」

 

 ヒカル「ボクが城主になったら,わがままになりますよ。小芳さんは,そのわがままに付き合っていただけますか?」

 小芳「いいえ,わたしは,梅山城には興味はありません。水香さんに託されただけですから。ヒカルさんが自由にすればいいわ」

 

 ヒカルと小芳の話が長くなりそうなので,銀狸は途中で遮った。


 銀狸「あの,話はその辺で,先に試合をしていただけますか?」

 小芳「フフフ,そうでした。でも,わたし,この試合に参加してよかったです。ヒカルさんと知り合いになれたので。では,ヒカルさんも仙人レベルだと思うので,遠慮はする必要ないですね。では,ヒカルさん,試合をしますよ」

 ヒカル「はい,準備はできています」

 

 小芳は,再度,100発の氷結の矢を構築してヒカルを襲った。ヒカルは,気篆術で『結界』の気篆符を自分の側面4面と上面1面に構築した。


 ダン!ダン!ーー


 小芳の氷結の矢は,四方八方からヒカルを襲った。だが,『結界』の気篆符は,それらの防御に耐えた。


 ヒカルは,さらにその結界の内側にもう一層の『結界』気篆符を構築した。2重の結界だ。仮に,一層が破壊されれば,再度,結界を構築するだけだ。


 小芳「ヒカルさん,防御だけでは勝てませんことよ。攻撃はしないのですか?」

 ヒカル「わたしの攻撃呪符の威力がどれほどのものか分かりません。むやみに使ってはいけないと思うので」

 

 それを聞いて,小芳は攻撃を中止した。


 小芳「ヒカルさん,あなたの攻撃呪符の威力,見てみたくなりました。わたし,ここに,氷を構築して,その周囲に自分ができる結界を3重に展開します。ヒカルさんは,それを攻撃してください。3重の結界を破壊して,かつその中の氷を破壊できたらヒカルさんの勝ち,それができなかったら,わたしの勝ち,どうしますか?」

 ヒカル「それなら,間違っても怪我は起きませんね。それでお願いします」

 小芳「では,10分ほどお待ちください。周囲から気を取り込みますから」


 小芳は,周囲から気をどんどんと取り込んで,直径30cmほどの氷の結晶を構築して,その周囲に,気による3重の防御結界を構築していった。今の小芳ができる最高レベルの防御結界だ。


 そこから,20メートルほど離れて,かつ,安全の意味で自分自身にも防御結界を構築してからヒカルに声をかけた。


 小芳「ヒカルさん,いいですよ。氷塊目がけて攻撃してください」

 ヒカル「了解しました」


 ヒカルは,別に勝ち負けはどうでもいい。そこで,2割程度の力で,気篆術による爆裂符を構築して氷塊に放った。


 ドドドーーーーン!


 爆心地から半径10メートルの範囲を,強烈な高熱の炎の火柱で高さ30メートル以上にも舞い上がってしまった。


 観戦者もその火柱に,あっけにとられた。なんて形容していいのか??


 その気のエネルギー波動は,強烈すぎて,仙界や神界にまで及んだ。


 ー 仙界 ー

 仙界の仙王は,凡界で生じたこの異様なエネルギー波を機敏に感じ取っていた。


 仙王「この凡界から感じるこの膨大なエネルギー波は何だ? 以前感じたものとは違うようだが?」

 

 仙王の秘書が,慌てて大きなモニター付き羅針盤を持ってきた。


 秘書「仙王様,前回もそうですが,これだけの波動があると,この羅針盤で,凡界の状況を見ることが可能だと思います。今,波動の場所に合わせます」


 秘書は,波動を合わせるのに成功して,その映像を映し出した。


 仙王「だれだ? あれは?」

 秘書「わかりません。ですが,大妖怪・水香ではありません。外見からすると12歳くらいの可愛い男のようです」

 仙王「あれだけのパワーを繰り出すとは,もう,仙人レベルではく,神人レベルだぞ! まったく,今の凡界はどうかしてる!」

 秘書「あの,,,どうしますか?」

 仙王「どうもこうもない。あんなパワーを繰り出されては,もう,われわれが口出しできるレベルではない。

 秘書よ。もういい。見なくていい。これ以上見ると,頭が痛くなる」

 秘書「・・・」



 一方,神界では,,,


 ー 神界 ー

 神界でも,その異様なエネルギー波を感じていた。


 天帝「この異様なエネルギー波の出所はどこだ?」

 

 いつもなら,天帝の娘である巫女が対応するのだが,今は,巫女がいない。天帝の傍には,アルバイトで雇った神武宗の門弟である美羅琉(ミラル)いた。


 美羅琉「え?あの,,,何も感じないのですけど?」

 

 天帝は,今の神武宗のレベルの低さに嘆いた。つくずく巫女が戻って来ないのを恨めしく思った。


 天帝「お前,今のレベルはどの程度だ?」

 美羅琉「神武初級の中期レベルです」

 

 神武初級は,前期,中期,後期の三段階に分かれる。凡界でいうと,前期でS級レベル,中期で仙人レベル,後期で仙人レベルを超える。


 美羅琉の場合,凡界で謂うところのS級レベルということになる。尚,初級よりも低いレベルの場合,神武基礎級という表現を使う。

 

 天帝「そうか,お前はもう首だ。神武宗に戻って修行しなさい」


 ガーーン! 


 天帝に見放されては,もう未来はない! 


 美羅琉「天帝様,せっかくくじ引きで当たって,天帝様の秘書役になれたんです。こんなことで首にしないでください! お茶汲みだって,コーヒーだって,上手だって褒めてくれたじゃないですか?!」

 天帝「お前よりもレベルの低い巫女でさえ,このようなエネルギー派を感じることができたんだぞ。どうしてお前は鈍感なんだ?」

 美羅琉「人間,誰にも得手不得手があります。わたしだって,得意分野はあります。どうか見捨てないでください!」

 天帝「ほう? 得意分野?」

 美羅琉「はい! わたし,小さい頃から,人捜しには才能があって,人間の体臭を嗅ぎ分ける力があります。犬には負けるかもしれませんが,ほかの人よりも何倍も敏感です」

 天帝「ほう? 人捜し? では,凡界に行って巫女でも探せるというのか?」

 美羅琉「え? 巫女様?」

 天帝「そうだ」


 天帝は,巫女が愛用していた古着を持ってきた。


 天帝「これが巫女が来ていた服だ。この臭いの女性が凡界で行方不明になった。もし,お前が巫女を見つけることができたら,そうだな,褒美は思いままだ」

 

 美羅琉は,その言葉に眼を輝かした。でも,凡界に行ってしまうと,パワーが百分の一に低下してしまう。簡単に,盗賊どもに襲われてしまうのが落ちだ。


 美羅琉「でも,,,パワーが低減されてしまいますし,,,」

 天帝「お前は神人だ。神人は凡界では『神』の祝福が与えられる。パワーが削減されるというマイナスな面だけではない。もしかしたら,一生の伴侶も見つかるかもしれんぞ?」

 美羅琉「え? 『神』の祝福? それって,ほんとうですか?」

 天帝「ああ,ほんとうだ。これまで神人が凡界に降りて,死んだという報告は受けていない。安心して探しなさい」


 美羅琉は,天帝の言葉を信じるしかない。『神』の祝福という言葉に何の疑いもなく信じた。それに,天帝に用なしと思われては,もうこの神界で出世する望みは断たれたも同然だ。


 天帝「どうだ?巫女を探しに凡界に行く決心がついたかな?」

 美羅琉「はい! 決心がつきました! 巫女様を探しに行かさせていただきます!」


 その言葉に,天帝はニヤッと微笑んだ。こんな何の役にもたたないバカな門弟など,凡界で苦労すればいい! 万一,巫女を発見できたら,みっけもんだくらいの軽いのりだ。


 天帝は,1枚の木製の札を美羅琉に渡した。


 天帝「凡界への生き方は神武宗の宗主に聞きなさい。凡界で巫女を見つけたら,真天宗の宗主に会いに行きなさい。その札を見せれば仙界につれていってもらる。仙界から神界へのルートはわたしも知らないが,仙王に聞けばわかると思う」

 美羅琉「はい! では,すぐに行ってまいります!」


 美羅琉は,その場を後にした。


 美羅琉を見送った天帝は,天帝親衛隊の控え室に向かった。 


 ちなみに,天帝親衛隊は,神界にあって,天帝を守るかなめの役目をする。天帝が女好きのため,天帝親衛隊員はすべて女性たちだ。女性だからといってレベルが低いわけではない。天帝親衛隊員はすべて神武中級前期以上で,天帝親衛隊長は神武後期レベルだ。


 ちなみに,暴れん坊だった禍乱は神武初級後期レベルだ。この神武初級後期レベルから,仙人レベルを超えて,神人レベルということができる。


 天帝「隊長,先ほどの凡界で起きたエネルギー波を感じたかな?」

 天帝親衛隊長「はい,感じました。御子息の禍乱様に似た波動のように感じましたが? 勘違いでしたでしょうか?」

 天帝「やはり,そう感じたか。ということは,どういうことかな?」

 天帝親衛隊長「あの,,,禍乱様と血縁関係のある方の波動かと,,,でも,巫女様のそれとは違うようです。男性が放ったような波動でした」

 天帝「禍乱と血縁があって,しかも,男性の波動か,,,そこから導き出される結論は,,,ひとつしかない」


 天帝は,溜息をついた。


 天帝親衛隊長「え? それって,まさか,,,禍乱様が凡界である女性に産ませた子どもってことですか?」

 天帝「ほかの可能性があるなら言ってくれ」

 天帝親衛隊長「・・・,いえ,それ以外の可能性はゼロかと,,,」

 天帝「禍乱は今,地獄牢で修行させているが,地獄禁地に移管して永久追放とする。彼に与えた三種の神器はいずれ回収させる。

 隊長は,すぐに討伐隊を組織して,凡界に出向かせ,その波動の持ち主『忌み子』を突き止め次第,死刑執行して『忌み子殺し』の役割を果たせ。期間は2ヵ月以内とする。神力開放指輪の使用を許可する」


 天帝親衛隊長「でも,,,その方は,天帝様の孫に当たるのでは?」

 天帝「これは,凡界の平和を保つために定められた掟だ。例外は認められん」

 天帝親衛隊長「そうですか,,,あの,凡界で行方不明になった巫女様の捜索はしなくていいのですか? それに『仙人殺し』の役割はどうされるのですか?」

 天帝「巫女はドジっ子だが,特別なスキルがある。凡界でもなんとかなるはずだ。ほっとけばいい。『仙人殺し』は,そうだな,,,隊長,お前が引き継げ」


 天帝親衛隊長「ええ? わたしがですか?わたしは,この神界で親衛隊長としての大事な役目があります」

 天帝「わたしの護衛なら,神界防衛軍の三羽烏に負担してもらえばいい」

 天帝親衛隊長「・・・,はい,,,」


 ・・・ ・・・

 神界がそんな状況になっているとは,まったくわからないヒカルは,自分が放った爆裂符による火柱がやっと消えたことに安堵した。付近の森林に飛び火しないかとビクビクだったが,どうやらその懸念はなかったようだ。


 小芳が構築した氷塊は,跡形も無く消えていて,爆心地は,深さ10メートルにもなった。


 観戦者だけでなく小芳も,開いた口が塞がらなかった。


 小芳『この破壊力,え? これって,もう,仙人レベルじゃないわ。もしかしたら,水香さんのレベルに到達しているのかも?』


 小芳は,ヒカルの傍に移動した。


 小芳「ヒカルさん,あなたの符篆術,すごいわね。いったいどうしたら,そんなレベルになるの?」

 ヒカル「それ,よく分からないんです。気篆術を練習していたら,どんどんとレベルが上がっていって,,,ちょっと,自分でも怖いくらいです」

 小芳「そうね,もうちょっと威力を低減させた術を展開できるように心がけるほうがいいと思うわ。もしかしたら,反動が起こるかもしれない」


 小芳は,先ほど放った爆裂符の波動が神界に届いてしまうのを恐れた。イヤ,間違いなく届いただろう。それに,その波動を身近に感じた小芳は,ヒカルが禍乱と似た波動であることを知った。


 小芳『ヒカルは,たぶん,,,禍乱の子どもだわ。いったい,誰に産ませたのかしら?』


 小芳がそんなことを考えている時,銀狸が,やっと平静を取り戻して試合の結果を報告した。


 銀狸「この勝負,ヒカルさんの勝ちになります。よって,今年もこの地域の所有権は妖狸族に帰属します」

 

 今の小芳にとっては,そんなことどうでもいい。


 ヒカルが神界から討伐される危険性はあるものの,ヒカルのあの強さだったら,そうやすやすと討伐されることはないと思った。それに,ヒカルがもし大妖怪水香と一緒になれば,,,


 フフフ,逆に神界にだって攻め入ることができるかもしれない。小芳は,そんな未来を見て見たいと思った。神界が慌てふためく姿,もう何万年もそんな事態になったことはない。たまには,そんなことが起きてもいいのではないのか?


 そのためには,ヒカルと大妖怪水香を引き合わせることが必要だ。すべては,そこから始まる!


 小芳「ヒカルさん,前にも言いましたが,あなたには,梅山城の城主になってもらいます。水香さんを待つなら,梅山城の城主という立場が一番いいですから。了解いただけますね?」

 

 ヒカルにとって,水香と再会することは,重要な意味を持つ。自分の心に刺さった棘が抜けるかどうかだ。


 ヒカルは,小さく頷いた。


 小芳「では,今から,一緒に梅山城に戻りましょう」

 ヒカル「では,わたしたちが来た道から戻りましょう。途中の村で馬車を預かってもらっていますから」

 小芳「はい,それで結構です」


 小芳は,妖狐族の族長に簡単に別れの挨拶して,ヒカルたちと一緒に戻っていった。


 

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