第30話 仙界の責任

 ー 剣流宗 ー


 剣流宗は,相変わらず宗主邸の事後処理に追われていた。宗主が陣頭指揮を取らざるを得ず,忙しい毎日を送っていた。ヒカルは,宗主の性奴隷の身,夜には宗主の仮住まいの屋敷に泊まりに行かなければならないが,それ以外は,琴弥と彩華の住む屋敷にいる。


 その屋敷に,重大な任務を背負って憫佳がやってきた。


 憫佳「ヒカル,わたし,宗主邸の事故の原因,知っているのよ。バラされたくなかったら,すぐに梅山城に来て,その城を守ってちょうだい」

 

 ヒカルは,そんなこと,今となってはどうでもいい。宗主も,宗主邸の爆発がヒカルが原因だと薄々知っている。バラされたところで痛くも痒くもない。


 ヒカル「どうぞ,ご自由に」

 憫佳「・・・」


 憫佳は,次の手段に出た。


 憫佳「ヒカル,あなた,梅山城下町にいるすべての美人処女を抱けるようにするわ。だから,すぐに梅山城に来て,その城を守って!」

 ヒカル「興味ない」

 憫佳「・・・」

 

 憫佳は,凛から云われた殺し文句を云うことにした。


 憫佳「じゃあ,ヒカルを梅山城の城主にしてあげる。だから,すぐに梅山城に来て,その城を守って!」


 ヒカルは,城主になるのも悪くないと思った。城主になって,水香を待つ。意外といいかもしれない。でも,すぐに同意するのもいやだ。


 そんなことを考えていると,琴弥が文句を言った。


 琴弥「憫佳,あなた,何勝手なことしてるのよ!ヒカルの子を妊娠しているの,あなただけじゃないのよ! わたしが正妻なのよ。妾ふぜいが何ほざいているのよ! 前回は,大目にみてやったけど,もうダメよ! さっさと去りなさい!」

 

 この言葉に,彩華も舌戦に参加した。


 彩華「そうよ。わたしは,第2夫人なのよ。あなたは,まだ,ヒカルに認められていないそこらへんの売女よ!さっさと失せない!」


 さすがに,憫佳は,腹が立ってきた。


 憫佳「何? 正妻?第2夫人? ちゃんちゃらおかしいわ。この世界,強さがすべてよ。そんなこと言うなら,わたしと勝負しなさい!」

 琴弥「ふん,大きく出たわね。いいわよ。勝負しましょう。中庭に来なさい。参ったというまで攻撃するわよ。死んであの世で後悔しなさい」

 憫佳「ふん,それはこっちの台詞よ」


 憫佳には自信があった。だって,すでにS級の中期になっているのだから。ちょっとやそっとでは負けない自信がある。しかも,肉体も徐々に強くなってきており,2倍速が可能だ。肉体さえ強化すれば3倍速だってできる。


 憫佳,琴弥,彩華の3名は中庭に来た。ヒカルは,女同士の喧嘩には顔を出さないことにしている。たとえ,それが自分の原因であるにしても,,,


 憫佳は,琴弥と勝負した。勝負の開始直後,,,


 憫佳は,琴弥が目の前で消えた。


 憫佳「え?消えた?」

 

 ダーン!


 琴弥が消えたと思ったものの,20倍速で憫佳の後ろをとって,掌打を背中に受けた。憫佳は,数メートルほど吹き飛ばされた。琴弥は,憫佳を殺すつもりはないので,掌打も威力をかなり低減させた。


 琴弥「憫佳,あなたは弱すぎます。わたしの相手にはなりません。彩華さん,あなたが相手してちょうだい」

 彩華「了解,師匠!」


 彩華にとって,琴弥は師匠だ。特に,琴弥の加速技に憧れて,彩華も加速技を修練してきた。


 憫佳が立ち上がったと同時に,彩華が5倍速で憫佳に掌打を喰らわした。掌打は,相手を傷つけないで倒すのに有効な方法だ。


 憫佳は,まだ2倍速しかできない。彩華の5倍速にも反応できずに,また数メートルほど飛ばされた。


 憫佳は,吹き飛ばされながら思った。


 憫佳「えーー? ぜんぜん勝てない! S級中期って,こんなに弱かったのー?」


 憫佳は,再び地面に激突した。気の防御を体全体に展開したので,ダメージはないのだが,いとも簡単に吹き飛ばされた。ショックだった。 


 琴弥「憫佳,あなた,彩華さんにも勝てないじゃない。やっぱり,売女ね。さっさと去りなさい!」

 

 憫佳は,まさか自分がこんな簡単に負けるとは思ってもみなかった。琴弥の速度にまったく反応できなかった。彩華の速度でも対応できなかった。

 

 憫佳は涙が流れた。かくなる上は,,,,


 憫佳は,屋敷に戻って,ヒカルの足元にしがみついて訴えた。


 憫佳「ヒカル! ヒカル様! 梅山城に来なくていいですから,何でもいいので,強烈な呪符をください! それで我慢します! ヒカル様!ヒカル様!」


 ヒカルは,憫佳が琴弥にも彩華にも負けることはすぐに分かっていた。特に,琴弥の加速は,すでに天女レベルを越えている。仙人や天女と戦っても,彼らを凌駕するほどの加速技を持っている。


 憫佳が,彼女らにボロ負けして,ヒカルに泣きつくのも容易に想像できた。


 ヒカル「憫佳,すでに準備してあるよ。憫佳のために,必勝の呪符だよ」


 ヒカルは,準備した呪符を憫佳に渡して,使用方法を説明した。その呪符とは,超級結界符5枚と超級爆裂符5枚だ。


 憫佳は,ヒカルの手際よさに驚いた。


 憫佳「あっ,ありがとうございます。これで,なんとかなるのですか?」

 ヒカル「わかりません。でも,わたしの大部分の気をそこに込めたつもりです。そこそこの威力になると思います」

 

 憫佳「じゃあ,すぐにお城に戻ります」


 憫佳は馬を使っている。最初の数時間は常歩で移動し,その後,速歩で移動した。


  梅山城は,東西何北に門がある。北門と南門は封鎖されていて,西門と東門が使用されている。一般に,西門は大門,東門は小門と呼ばれている。剣流宗も梅山城の東側30kmほどの位置にあるので,憫佳は小門を使うことになる。


 避難民などは,すべて小門から避難している。そのため,途中,避難している城下町の住人や,梅山城の職員にもあった。彼らから,すでに梅山城は無人だと教えられた。それでも凛くらいはいるだろうと思って梅山城に急いだ。

 

 憫佳は,4時間ほどで梅山城下町の小門に着いた。小門は,開放されたままだった。そこからまっすぐ移動して中央広場に出た。その場所から北側に向かうと梅山城があり,そのまま東に向かうと西門である大門がある。ちなみに,どうでもいい情報だが,娼館街は東南の方角にある。


 馬に乗っている憫佳は,まずは,2kmほど先の大門付近の状況を確認しに移動した。


 ーーー

 一方,使節団の団長の浩三は,数時間ほど仮眠して目覚めた。すると,周囲に大勢の人影があった。


 団長を見張っていた隊員が,すぐに,馬車のところに駆けて報告した。


 隊員「浩三様がお目覚めになりました」


 報告を受けたのは,第2夫人の子息,継承権第2位の浩二だ。


 浩二「やっと目覚めたか。なんとも緊張感のない奴だ。おまえらも来い」


 おまえらと云われた連中は,源吾,源武の2名だけでなく,浩二の従者である源雅と源魏だ。かれらもS級中級の腕前だ。


 浩二が浩三の前に現れた。


 浩三「え?浩二兄さん,どうしてここに?」

 浩二「なんとも,お粗末なことだな。護衛隊20名を死なせて,しかも,貴重な陣盤20器をすべて破損させたんだぞ。しかも,使節団としての役目を放棄して,梅山城を攻め落とすだと? 何を考えていたんだ?お前は?」

 浩三「え?でも,浩二兄さん,どうしてここにいるんですか?」

 浩二「松風城の使節が,菊峰城に報告に来たんだ。浩三が「梅山城を攻め落とすので,兵を動かしてほしい」と依頼したそうじゃないか? 松風城としても,浩三からの依頼を不審に思って,菊峰城に確認しに来たというわけだ。

 父上は,もちろん,浩三の勝手な依頼なので無視するように伝えた。おって,松風城には迷惑料として,気含石を追加で100個送る約束する羽目になった」

 浩三「なんと,,,」

 浩二「もうお前に弁明の余地はない。罪人としてお前を処遇する。源吾,源武,浩三から強化陣盤を取り除きなさい」

 

 この命令を受けて,源武が浩三に近づいた。


 源武「浩三様,あなたは,罪人として菊峰城に連行されます。陣盤を外していただけますか?」

 

 浩三は愕然とした。罪人として捉えられる,,,それは城主の継承権を無くすことを意味する。もし,順調に梅山城を手中に収めることができたら,こんなことには成らなかったはずだ。くそ!どこでしくじったのか?


 浩三は,自分に未来はないと思った。彼は,自問自答した。


 浩三『ここで暴れるか? いや,ダメだ。それはない。強者が多すぎる。素直に連行されるか? それもダメだ。少なくとも数年は牢獄暮らしになる。じゃあ,どうすれば,,,逃げるか? でも,どこに? いや,1ヶ所ある!あの大門の中だ!俺ひとりで梅山城を攻め落とす! その功績で罪を帳消しにする! そう,それしかない!!』


 浩三は,極端な発想をした。そして,数歩後ずさりした。


 源武「浩三様,素直に浩二様の命令に従ってください。罪もそれだけ軽くなるかもしれませんよ」


 浩三「俺は,,,,ひとりで梅山城を攻め落とす!」


 浩三は,そう言って,一目散に大門に向かって走っていった。


 源武は,ポカンとした。でも,すぐに,浩二の顔を見た。


 浩二は,どうしようもない表情を示した。


 浩二「今,梅山城は,どんな状況なんだ?」

 源武「わたしたちが,大門の中に入った時は,周囲はとても静かでした。もっとも,芭蕉仙人に吹き飛ばされてしまいましたけど」

 浩二「ああ,その話は聞いた。ということは,大門の中は無人の可能性もあるのか?」

 源武「はい,その可能性もあります。ですが,敵は,これまで,超級催眠符や,強力な爆裂符を使って来ました。もし,敵がいれば,呪符攻撃を受ける可能性が高いと思います」

 浩二「そうか,,,では,浩三のあのバカの行動を,ここから様子見でもしてみるか」


 ・・・

 浩三は走った。ほんとうにもう後はない。仮に梅山城を攻め落とすことが出来たとしても,罪人として捕らえられるだろう。でも,その功績は認められるはずだ。うん,そうだ。そうに違いない!


 浩三は,何度も自分の考えが正しいものと信じて走った。もともと大門までの距離は500メートルしかないので,すぐに大門に着いた。


 そこには,馬に乗ったひとりの女性がいた。憫佳だ。憫佳は,周囲に肉片が散らばった死体を見た。ここが戦場になっているのがわかった。


 そんな時に,ひとりの男が駆けてきたのだ。憫佳は,その駆けてくる男が敵だとすぐに認識した。


 憫佳は,すぐに氷結の矢を展開しようとした。


 憫佳『いや,待てよ? ヒカルからもらった超級爆裂符を氷結で挟んで矢にすれば,遠くに飛ばせるかも?』


 憫佳は,超級爆裂符を取りだして,その周囲に氷結を形成して矢として,向かってくる敵に放った。


 ピシューー!


 浩三は,馬上の女性が氷結の矢を放ったのを見て,その場で止まり,すぐに上級陣盤を起動して,陣盤による仙人レベルの気の防御結界を構築した。


 浩三は,これでどんな攻撃も防げると確信した。だって,『仙人レベル』なのだから!


 氷結の矢が浩三の展開した結界に突き刺さった。


 ドドドドドドーーー!


 その強大な威力に,浩三から20メートルも離れている憫佳は,爆風で,馬もろとも数メートルほど吹き飛ばされてしまった。


 憫佳は,まさか,超級爆裂符がこれほどの威力を持つとは思ってもみなかった。爆発地点は,深さ5メートルほどの窪地になっていた。敵は,どうなったのはまったく分からない。仮に生きていたとしても,重傷は免れず,治療しなければいずれ死亡するだろうと思った。


 ・・・

 その判断は,浩二たちも同様だった。浩二たちからは,数百メートルも離れているので,どのような攻撃がなされたのかは不明だが,爆裂符によって浩三を攻撃したのは充分に予想された。


 しかも,あの爆発の規模からして,浩三が,かりに強化陣盤を発動して,仙人レベルの防御結界を構築したとしても,死亡するか,もしくは重症を負っただろうことは容易に想像できた。


 浩二は,従者2名と,護衛隊20名を引き連れている。その構成は,浩三と同じだ。菊峰城からの使節団としての基本構成だからだ。


 浩二は,浩三を拘束して菊峰城に送還し,自分こそは,正規の使節団であるとして,梅山城に入城するのが目的だった。でも,今では,もうその可能性はない。すでに戦闘状態に入っている。


 浩二は,5名ずつ,100メートル前方と後方に配置にさせて,周囲を警戒させた。自分は,馬車の中で待機し,伝書鳩担当者に,後方100メートルに退避して,現在の状況を父上に連絡するように指示した。


 その担当者は,伝書鳩を3羽持ってきている。その一羽を使って現在の情報を報告した。その内容は,次のような内容だった。


 『浩三様梅山城攻略行動中,護衛隊20爆裂符の矢で爆死』

 

 浩二が乗っている馬車を守っているのは,従者2名と護衛10名だ。


 ・・・

 憫佳は,立ち上がって,爆風が収まるのをまった。すると,さらに後方に,馬車や兵隊らしき一団がいるのを確認した。


 憫佳「やつら,そのうち,大門を通過してくるわ」


 憫佳は,大門の地面に超級爆裂符を1枚埋めて,そこに注意深く土を被せた。憫佳の発想は,凛と同じだった。土になっているのは,大門の少し外側なので,ちょうど,その境目に埋めた。


 馬が早々に逃げてしまったので,憫佳は,徒歩で梅山城に移動した。だが,梅山城の中はもぬけの殻だった。凛もいなかった。


 凛は,がっくりした。


 凛「どうしよう,,,わたし,ひとりで梅山城にいても意味なし,,,ヒカルからもらった呪符はあるから,,,超級結界符があるなら,死にはしないわ。だったら,あの馬車の一行に一泡吹かせてから,ヒカルのところに逃げましょう。うん,それがいい!」


 凛は,城内の馬を管理している場所から,一頭の馬に乗って,再び大門に来た。そこで,馬を注意深く,迂回して,『地雷』を避けて,馬車が見える方向に,ゆっくりと歩かせた。


 その間,自分の体と馬の体に超級結界符を貼り付けて起動させた。これは5分間しか有効ではない。次に,超級爆裂符4枚を束ねて,氷結させて矢とし,敵から200メートルほど離れた場所から,斜め上方45度の角度で,その氷結の矢を,全力の気を使って放った。それは,馬車を目標に,アーチ状に飛んでいった。


 馬車の前方100メートルほどのところにいる5名隊員は,馬上の女性が氷結の矢を,馬車の方角に放っているのを確認した。それを見た彼らは,強化陣盤を発動し,S級レベルに強化して,氷結の矢,火炎弾など,各自,得意な攻撃手段で,馬上の憫佳を攻撃した。しかも,連射攻撃だ。


 それらの攻撃は,ことごとく結界に遮られた。


 憫佳『さすがは,超級結界符だわ。長居無用!』


 憫佳は,馬を蹴って疾走させてその場から去った。

 

 4枚が束になった超級爆裂符は,強力な気の結界に衝突すると起爆する。でも,気の結界がなく,地面にささるくらいなら,さほど大きな衝撃がないので起爆しないこともある。

 

 馬車の周囲を警戒している従者の源雅は,アーチ状に飛んでくる氷結の矢を見て,すぐに馬車のキャビンの屋根に設置してある結界陣盤を発動させた。その結界陣盤も仙人レベルの気の防御結界を発動することが可能だ。


 源魏「お前たち,馬車の下に潜って,結界を張れ!」


 そう命じて護衛10名と従者2名が馬車の下に潜った。


 憫佳が放った氷結の矢は,みごと馬車のキャビンの屋根に当たった。そこには気の防御結界があった。もし,それが起動されていなかったら,起爆しなかったかもしれない。


 ドドドドドドーーー!


 馬車もろとも,大爆発を引き起こした。


 その爆風と岩石が飛び散ったことで,爆心地から前後に100トーメルも離れている護衛隊もぶつかった。しかし,幸いにも,気の防御結界を展開していたので,彼らはなんとか無傷だった。


 爆風が止んで,護衛達は被害状況を確認した。だが,,,肉片が散らばっているだけで,誰が誰だがまったくわからなかった。ただ,云えるのは,浩二たちは確実に死亡したということだ。


 伝書鳩担当者は,すぐに現状の状況を報告せざるを得なかった。


 『浩二浩三様従者3護衛隊10敵の爆裂符の矢で爆死』


 送れる文字数に限界があるので,これが精一杯だった。


 残された10名の護衛者で,リーダーの小隊長は,どうするか迷った。引き返すにも食料がない。村を襲うか,思い切って,大門の中に入って,城下町で食料を調達するか,,,


 小隊長は,部下の意見を聞いた。彼らの意見は,夜を待って,大門の中に入るというものだった。


 わかった。夜を待とう。中にさえ入ればいくらでも食料はあるからな。


 夜になった。梅山城下町は,まったく灯りがなく,人がいないようだった。


 小隊長「やはり,無人のようだな。でも,警戒して入るぞ」


 護衛隊の4名は,大門の両脇から中を確認して侵入した。そのひとりが,小隊長に連絡した。


 隊員「小隊長,大丈夫です。誰もいません。攻撃されることもありません」

 小隊長「わかった」


 小隊長は,残りの部下を連れて,まっすぐに大門に向かった。


 小隊長の足が『地雷』を踏んだ。


 ドドドドドドーーー!


 小隊長と仲間5名が,その場で爆死した。その爆風で,先発隊の4名は少し吹き飛ばされた。でも,無傷だった。


 隊員A「やべえ,,,地雷が仕掛けてあった」

 隊員B「もっと慎重になろう」

 隊員C「とにかく,飯がさきだ。近くの民家に侵入しよう。そこなら地雷もあるまい」

 

 彼ら4名は,近くの民家に侵入して腹ごしらえをして,そこで,仮眠を取り,朝が来るのを待つことにした。


 翌朝,彼らは,梅山城の中に侵入した。地面が土でないため,地雷の心配はない。無人だと分かると,彼らの行動は大胆だった。まず,金目の物を探すことだ。


 隊員A「おい,あそこに大きな金庫があるぞ!」

 隊員B「やったー! おれ,まだ爆裂符数枚あるから,仕掛ける」

 隊員C「俺も数枚ある」

 隊員D「俺も持っている」


 そんなことを言いながら,彼らはその金庫に近づいた。


 ドドドドドドーーー!


 彼らも『地雷』を踏んで,全員が爆死した。皮肉なことに,その爆発で金庫が空いてしまった。ただ,残念なのは,その中には書類しか入っていなかった。


 凛も憫佳も,なかなかいい仕事をしたと云えよう。


 ・・・ ・・・

 -菊峰城ー

 菊峰城内の伝書鳩の飼育室で,3羽の伝書鳩が戻ってきた。そのうち,2羽は浩二からの報告だ。もう1羽は,剣流宗に派遣しているスパイからだった。


 そのスパイからの報告は以下の内容だった。


 『剣流宗でヒカル爆裂符を憫佳に渡す。ヒカルS級気覇宗門弟,憫佳梅山城隊員』


 菊峰城主・菊峰浩蔵は,城主の書斎で,秘書から伝書鳩の報告を聞いた。


 浩蔵「なに? 浩二も浩三も爆死しただと? やつらは,上級強化陣盤をしていたはずだ。仙人クラスの防御機能だぞ! なんで,爆死するんだ?」

 

 そんなこと云われても,秘書には答えようがなかった。そこで,適当なことを言った。


 秘書「たぶん,その爆裂符,剣流宗にいるヒカルというS級の気覇宗門弟が準備した可能性があります」

 浩蔵「アホか!S級の使い手が,そんな強力な爆裂符が描けるはずがない」

 秘書「そうでしょうか? では,例えば,大妖怪・水香とか?」

 浩蔵「大妖怪・水香? それって,花馨天女と玉輝仙人が討伐したのではないのか?」


 秘書も,大妖怪・水香と口に出した以上,さらに適当なことを言った。


 秘書「大妖怪・水香って,桜川城の住民を皆殺しにしたんでしょう? そんな強者が花馨天女や玉輝仙人に,簡単に殺されるわけないじゃないですか。きっと,替え玉だったんですよ」

 浩蔵「そうか! それなら話が通じる。そうだ。そうに違いない。ならば,大妖怪・水香を討伐してもらうという名目で,仙人たちを動かせる! よし,真天宗の宗主に会いに行くぞ。お前も来い!」

 秘書「え?わたしも? ちょっと半端ない依頼になるで,浩一様も連れていくほうがいいと思います」

 浩蔵「わかった。浩一に連絡しなさい」

 秘書「了解です」


 秘書は,城主・浩蔵の第1夫人の息子・浩一に,事情を説明して,城主と一緒に真天宗に行くように依頼した。浩一は,争い事が嫌いで平和主義者だ。気の修行など,これっぽちもしていない。すでに17歳にもなるのに,気がまったく使えない。というより気を使うということよりも,読書を優先した。


 そのため,読書量だけはすばぬけていて,仙人たちも,仙界秘蔵の本をこっそりと浩一に渡して読ませている。気が使えない浩一に,どんな知識を与えても,大して影響がないからということもあるが,それよりも,この浩一に生き字引きになってもらうと,いろいろと便利なので,自然とそのような立場になった。


 城主たちは護衛を従えて,馬を走らせて10kmほど離れている真天宗に移動した。



 ・・・


 ー 真天宗 ー

 真天宗,ここには,仙人・天女並みの妖怪が出現すると,その情報はここに集約される。討伐を視野にいれる必要があるからだ。また,真天宗からは,気含石を動力源にして仙界に転移できる陣法がある。つまり,非常時には,仙界に依頼することも可能だ。



 宗主は,菊峰城の城主・浩蔵,その息子・浩一,さらに,浩蔵の秘書の3名と面談を持った。


 宗主「さて? 要件はなにかな?」

 秘書「実は,さきほど,梅山城の城主が新しい城主になったとの報告を受けました。そこで,その審査のため,第3夫人のご子息・浩三様を使節団として派遣しました。ところが,彼は,何を思ったのか,どうやら,梅山城を討伐しようともくろんだようです。その結果,当然かもしれませんが,梅山城とバトル状態に落ちいってしまいました。

 それを諫めるため,第2夫人のご子息浩二様を新しく使節団として派遣しました。ですが,戦闘状態を解消できず,浩三様と浩二様は,敵の攻撃を受けて死亡しました。合わせて,護衛隊30名が死亡,従者4名も死亡しました」


 宗主から質問がないので,秘書は続けた。


 秘書「浩三様,浩二様は,上級強化陣盤を装着していました。防御能力は仙人レベルです。また,従者は,中級強化陣盤を装着して,同じく仙人レベルです。護衛隊は,下級強化陣盤を装着していて,S級レベルになっていました。それが,このありさまです」

 

 宗主は,相変わらず,何も質問しなかった。


 秘書「敵は,仙人レベルをも軽く倒せる強者であることがわかりました。つまり,,,,敵は,大妖怪・水香であったと推測します」

 

 宗主はやっと重い口を開いた。


 宗主「知っていると思うが,大妖怪・水香は,玉輝仙人と花馨天女が討伐したはずだが?」

 秘書「はい,伺っています。ですが,仙人レベルに強化した者たちを討伐できるのは,大妖怪・水香しかいないと判断します。

 われわれ側は,浩二様,浩三様,従者4名の6名が仙人クラスに強化していました。それを殺せるのは,もう,大妖怪・水香しか考えられません。

 つまり,玉輝仙人と花馨天女が討伐したのは,替え玉だったと推測します。ぜひ,大妖怪・水香の討伐を,仙界に進言していただきたいと思います」


 宗主「でも,,,仙界を動かすとなると,そんな推定の話では無理ですよ。まぁ,個人的に,仙人や天女様たちを説得して動かすことはできるかもしれませんが。その場合,かなりの謝礼を与えないと無理でしょう」

 

 浩一がここで口を挟んだ。


 浩一「わたくしも,玉輝仙人と花馨天女が,大妖怪・水香を討伐したというのは,無理があると思います。わたしは,剣上仙人の方から,詳しく大妖怪・水香との討伐の状況を聞きました。かつ,玉輝仙人と花馨天女からも,大妖怪・水香との討伐の状況を聞きました。その話を聞いて,まず,おかしな点が多々あります。

 まず,玉輝仙人と花馨天女が,大妖怪・水香と戦った際,大妖怪・水香は花馨天女には勝ったようですが,玉輝仙人には,意外とあっさり負けていることです。

 それは,なんらの意図があったのではないでしょうか? それに,なんで彼らは,大妖怪・水香の遺体を持ち帰らなかったのでしょう? 

 遺体が飛散したとの話でしたが,そもそも,遺体がなかったのではないかと,わたしは推測しました。もっと,時間を掛けて遺体の破片を探すべきだったのです。怠慢としかいいようがありません。

 ともかく,玉輝仙人と花馨天女は,不確実な情報をわれわれに提供しただけでなく,仙界にまでそれを報告したという,重大な過ちを犯しました。仙界をそれを鵜呑みにしたのもいただけません。

 この点を突いて,仙界に,再度,調査隊を梅山城に派遣してもらうべきです。

 われわれは,その誤った情報で,大事な弟2名を失いました。その責任を,玉輝仙人と花馨天女の2名に,さらには,仙界側に追求したいと考えています。

 まぁ,もっとも,われわれの追求など,無視されるかもしれません。でも,仙界を動かせる可能性は,大きくあがると思います」


 宗主「・・・」

 

 宗主は,この浩一が嫌いだった。戦闘力はまったくないくせに,変に頭が回る。今では,独創的な陣法を構築できるほどの知識さえも持っていると聞く。真に恐ろしいのは,仙界なんかではなく,この浩一かもしれない。


 宗主「まあ,とにかく仙界に行きましょう。第1夫人手作りのチーズケーキを手土産に持っていけば,仙王様に気楽に会うことはできますから。わたしは,何も発言しません。そちらで,仙王様を説得してください」

 秘書「わかりました。ぜひ,そうさせてください」



 チーズケーキを手土産を持参した宗主の先導で,城主,浩一,秘書の3名は仙界の仙王に会いに行くことになった。


 ーーー

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