第25話 新しい城主
ー 城主一行の駐屯地 ー
駐屯地に着いた凜たちは,やや開けた空き地に案内された。道案内した隊員は,彼女たちに言った。
隊員「ここでしばらくお待ち下さい」
凜「城主様は,どちらに?」
隊員「わたしは,ここに案内するように言われました。もう少々,お待ちください」
そう言って,あの隊員は,足早にそこから去った。
しばらくして,伏せていた第1部隊の連中が,四方八方から姿を現した。総勢200名,全員が姿を現した。皆,手に剣を持っていた。さらに,弓隊もすぐに矢を放てる準備をしていた。
第1親衛隊長が,一歩,歩み出た。
第1親衛隊長「お前たちは,第3夫人の手下だな? 勇馬様を事故死に見せかけ,第2夫人や第1夫人を自殺においやったのも,お前たちの仕業だな?」
小芳は,水香に小声で話した。
小芳「これでは,もう,多紀医師の準備した丹薬を呑ませることはできません。水香様,わたし,大妖怪・水香と名乗って,やっちゃっていいですか?」
水香「フフフ,はい,『水香』様」
小芳「水香様,了解しました」
小芳も一歩前に出た。
小芳「わたしは,第3夫人・夕霧様のご子息,霧仁様に仕える水香です。隣の桜川城を壊滅させたのは,このわたし,大妖怪・水香です」
このカミングアウトに,周囲を包囲していた第1分隊員たちは動揺した。彼らは,桜川城の壊滅の状況をつぶさに視察しに行っていたので,大妖怪・水香の恐ろしさは重々理解していた。
第1分隊員の中から,同様の声があちらこちらから漏れ出てきた。
第1親衛隊長の傍らに,第1分隊長が来た。
第1分隊長「親衛隊長,ここは,慎重に対応しましょう。もし,彼女の言うことがほんとうだったら,大変なことになります」
第1親衛隊長「うっ,そうか,,,わかった。そうしよう」
第1親衛隊長は小芳に向かって言った。
第1親衛隊長「では,あなたが,大妖怪・水香だという証拠を示してほしい」
小芳狐「証拠ですか? そうですね,,,では,今から,30分間,わたしに攻撃することを許しましょう。わたしは反撃しません。それで,わたしを倒せないと分かれば,認めてくれますか?」
第1親衛隊長は,第1分隊長の顔を見た。第1分隊長は,軽く顔を縦に振った。
第1親衛隊長「了解した。では,そうさせてもらう」
小芳は,水香たちの邪魔にならない場所に移動した。
小芳「準備ができました。どうぞ攻撃してください」
第1分隊長「では,各自,得意の技で大妖怪・水香を攻撃しなさい」
第1分隊員の全員「了解!」
バシュー!ーー
彼らは,得意の剣風刃を放った。この技が基本となる。200名の部隊の9割方は,中級レベルで,上級レベルに達しているのは,10名にも満たない。そのためか,防御に徹している小芳狐にとっては,なんとも,張り合いのない受け身だった。
3分が経過した。5名の第1分隊員が,膝を地面につけて,間もなくして倒れた。さらに3分後,別の5名が倒れた。
他の隊員は,攻撃に夢中になっているので,倒れた隊員のことは,気にする余裕はなかった。
その後,倒れる間隔が短縮されて,1分後になってしまった。さらに30秒後になった。
そして,,,30分も経たずに,200名いた第1分隊の全員がその場で倒れた。残されたのは,第1分隊長と第1親衛隊長の2名だった。
小芳は,水香の方を見た。水香は,ニコっと微笑んで念話した。
水香『ちょっと,黙って待っているの,飽きてしまいました。ついつい,寿命を奪ってしまいました。最初はミイラにするつもりだったのですが,時間が足りないので,寿命を20年か10年ほど奪って気絶させることにしました』
小芳は,さすがは大妖怪・水香だと思った。こんなんで殺されたのでは,殺される方もたまったものではない。
小芳狐『水香様,,,約束は守ってくださいよ,,,これではどうしようもないじゃないですか』
水香『彼らが何か言いたそうです』
その念話に,小芳は,まだ立っている2名の方を見た。
彼らは,全身が震えていた。彼らは,間違いなく目の前にいるのが大妖怪・水香だと理解した。
第1親衛隊長「こ,これは,,,反撃しないって,約束じゃなかったのか?」
小芳「どうやら状況が変わりました。わたしも,手を下します」
小芳は,その場から消えるように加速した。10倍加速だ。その直後,彼女は,彼らの目の前に来て,手を鋭い刃に変えて,彼らの首を刎ねた。
彼らは,防御する間もなく,首が胴体から離れてその場に倒れた。
凜は,水香が本物の大妖怪・水香だと知っている。でも,この小芳も,仙人レベルの強者なのだと改めて理解した。
小芳「水香様,では,城主様と籐斗様を始末しに行きます」
小芳は,設営されてあるテントの方に向かっていった。水香は,まだミイラにしていない連中を,ミイラ状態にしていった。こうすることで,ここに,大妖怪・水香が出現したことを知らしめることができる。
凛は,これからどうなるんだろうと思った。自分がこれから,いくら修行をしても,S級後期か,ぎりぎり仙人レベルになることができるかもしれない。それでも,小芳や水香には,とても勝てる気がしない。
ふと,自分が,薬問屋の若旦那の妾になる約束だったのを思い出した。もう,こんな化け物たちと一緒にいるのは,もういやだ。早く,妾にしてくれないかなぁ,,,凜は現実逃避をした。
凜は,その場で腰を降ろして,空を見上げて,溜息をついた。
しばらくして,小芳が戻ってきた。
小芳「水香様,テントにいた連中全員,血祭りにしました。城主様,藤斗様,親衛隊と思われる護衛隊20名ほどですが,皆殺しにしました」
水香「ご苦労様。わたしも,ここにいる全員,ミイラに変えたわ。凜,財布を奪ってきてちょうだい」
だが,凜は,返事しなかった。ある一点を睨んでいた。
水香「凜,聞こえている?」
凜「はい,,,でも,,,」
凜は,自分が見上げる方向に指を指した。
水香と小芳は,その方向を見た。何やら大きなバラの花が飛んできた。その花の上に,2名の男女がいるようだ。そのバラの花は,ゆっくりと高度を降ろして,地上に舞い降りた。
男性の方は,警戒して,水香の方をみて,美しい女性は,遺体の状況を確認した。
女性「玉輝仙人様,間違いありません。ミイラ状態になっています。犯人は,大妖怪・水香だと思います」
玉輝仙人と呼ばれた男性は,その女性に返事した。
玉輝仙人「花馨天女,遺体の確認はもういい。大妖怪・水香が目の前にいるようだ」
その美しい女性は,花馨天女と呼ばれていた。
花馨天女「では,ここで大妖怪・水香を討伐するのですか?」
玉輝仙人「ちょっと視察しに来ただけなのに,まさか,大妖怪と遭遇するとは,ちょっと予想外だ」
この話を聞いて,小芳は水香に念話した。
小芳『水香様,どうやら,ほんとうの敵が現れたようです。大妖怪・水香として戦います。もし,負けるようなことがあっても,なんとかうまく逃げ切ってみせます』
水香『小芳,ガンバです!』
小芳が,玉輝仙人と花馨天女の前に来た。
小芳「あなたたち,大妖怪・水香に何の用?」
玉輝仙人は,小芳をまじまじと見た。
玉輝仙人「お前が,大妖怪・水香? それほど強そうには見えないが。まあ,お前程度なら,花馨天女に任せてもいいかもしれん」
その言葉を聞いて,花馨天女は,ニコッと微笑んだ。
花馨天女「玉輝仙人様,承りました。では,わたくしが,大妖怪・水香の討伐を行います」
花馨天女は,数歩前に出てきた。
花馨天女「わたくし,花馨天女といいます。剣上仙人から,大妖怪・水香の調査依頼を受けました。まずは,桜川城と梅山城の視察に来て見たのですが,ほんとうに,大妖怪・水香に会えるとは思ってもみませんでした」
小芳「そうだったのですか。わたし,天女と対戦するの,初めてです。フフフ,楽しみです」
花馨天女「それは良かったです。では,参ります」
花馨天女は,バラのかんざしを抜いて,そこに気を流した。すると,そのかんざしは,美しい剣に変化した。気を剣に実体化できるのは,まさに仙人レベルの証拠!
小芳の体が青白く光った。これは,周囲から気を吸収する彼女方法だ。それと同時に,彼女に周囲に氷結の矢が出現した。10本,20本,,,,そして,100本にまで達した。
一方,花馨天女も,実体化した剣を旋回して,花びらを無数に出現させた。
小芳狐の氷結の矢が花馨天女に向かった。一方,花馨天女の花びらも旋回しながら,小芳狐に向かった,氷結の矢と花びらがぶつかると,爆発して氷結の矢が粉々になった。花びらは,爆裂弾と同じ効果を示した。
氷結の矢にヒットしなかった花びらは,そのまま小芳狐の防御結界にヒットして爆発した。だが,小芳狐の防御は,3重の気の防御で覆っていて,1層が破壊されてもすぐに2層目を構築できた。これは,日頃,水香に実践訓練を受けているたまものだ。
普段から,強者と対戦していると,自ずと,戦い方法が熟練してくる。小芳は,下級仙人レベルではあるが,戦い慣れているため,その実力は,すでに中級仙人レベルに相当する。
一方,花びらにぶつからない氷結の矢は,そのまま花馨天女に向かった。彼女の周囲にも,気の防御層が展開してあった。それでも,氷結の矢が10発ほど当たると,その防御層を破壊した。
花馨天女「え? わたしの防御が?」
バシュ!バシュ!--
数発の氷結の矢が,そのまま花馨天女の体にヒットした。彼女は,まだ,多重防御結界を構築できなかった。というようりも,これまで,強敵に出会ったことがないため,その必要性を感じなかったというのが実情だ。
氷結の矢は,なんら遠慮無く,彼女の胸や腹部に確実にヒットした。
玉輝仙人も,小芳狐の氷結の矢が,予想を大幅に超えて,強烈な威力を持っていることに驚いた。彼は,慌てて,花馨天女の周囲に,気の防御を2重に張って,彼女を守った。
バシュー!パシュー!ーー
だが,玉輝仙人の2重の気の防御も,小芳狐の鋭い氷結の矢に破壊された。1層が破壊されて,2層目が破壊されるまでの時間が,ほとんどなく,次の防御層を構築するのに間に合わないと判断した彼は,花馨天女を抱いて,すぐにその場から横方向に退避した。だが,だが,小芳狐の氷結の矢は,どんどんと新しく生成されて,退避した方向に放たれた。
玉輝仙人は,止むなく,伝家の宝刀,気篆術を使うことにした。
玉輝仙人「反鏡気篆陣!」
玉輝仙人は,右手の人差し指で,高速に一筆書きを書くかのように,空中に篆書体で『反鏡』と描いた。その文字は,黄金に輝き,あたかも大きな反射鏡の様相を呈した。
バッキーン!ーー
小芳狐の強烈な氷結の矢が,その「反鏡気篆陣」にヒットした。すると,その氷結の矢が180度反転して,小芳狐を襲った。
パリン!パリン!ーー
その氷結の矢は,小芳狐が展開した3重の気の結界をことごとく破壊した。だが,彼女は,1層の気の結界が破壊されるとすぐに新しい結界を構築して,反射された氷結の矢を防いだ。
それを見た玉輝仙人は,次の攻撃に出た。
玉輝仙人「爆裂気篆陣!」
彼は,今度は『爆裂』という文字を空中に篆書体で描いて,それを小芳狐に放った。
グワッ!
その爆裂気篆陣は,強力無比!それは,小芳狐の3重の気の防除を一瞬で破壊した。
玉輝仙人は,さらに連続して,爆裂気篆陣を放った。
小芳狐は,辛うじて1層の気の結界を新しく構築した。だが,1層では,爆裂気篆陣を防ぐことはできなかった。
バシュー!
その爆裂気篆陣は小芳狐の体にヒットして,彼女を木っ端微塵に粉砕した。
大妖怪『水香』は,この時,死亡した。
玉輝仙人は,その場で片膝をついて呼吸を整えた。
玉輝仙人「ふう,まさか,三発も気篆陣を放つ羽目になるとは思わなかった」
気篆陣,それは,自己の気を絞り出して空中に描く技だ。気の消費が甚だしいため,いざという時以外は使用しない。もちろん,大気の気を使えば疲労はないのだが,それだと時間がかかりすぎてしまう。今回みたく,一寸の時間もない時は,自己の気を使うしかない。
玉輝仙人は,腰紐にぶら下げている袋から,超級止血丹と超級精力丹を取りだして,花馨天女に呑ませた。彼女は,すでに自分で体に刺さった氷結の矢を抜いて,両手両腕で,それらの傷口を押さえて,血が流出するのを阻止していた。
玉輝仙人は,大妖怪・水香を片付けたので,後は,残党整理をするだけだ。
玉輝仙人は,凜と水香に言った。
玉輝仙人「お前たちは,大妖怪の手下か?」
この質問に,水香が凛に念話した。
水香『はい,と返事してちょうだい。もし,攻撃されたら,一切抵抗しないで,目を閉じて,体をいっさい動かさないで』
凛『水香様,了解しました』
凛は,玉輝仙人に返事した。
凛「はい,そうです」
玉輝仙人「そうか。大妖怪の手下になったのが不運だったな。では,ここで死ね」
玉輝仙人は,手を斜め十字に切って,風刃を放った。その威力は,さすがに仙人レベル! 半端ない威力だった。
その風刃は,彼女たち2名を,いといも容易く体を四等分して殺してしまった。
玉輝仙人「ふん,なんとも,気の防御もできないのか。たわいもない」
玉輝仙人は,腰紐にぶら下げているリング状の玉を取りだして,そこに気を流した。
ブーーン!
その玉は,直径2メートルほどの大きさになった。そこに,玉輝仙人と花馨天女が座った。
その玉は,ゆっくりと上昇してから,速度を上げていずれともなく去っていった。
・・・
しばらくして,,,
凛は,自分が生きていることを知った。思い返せば,風刃が迫る直前,自分の体が何かに覆われる感じがして,地に倒れた。その後,動かずにじっとして,なすがままにした。
この一連の行動は,玉輝仙人の目を欺くためのものだと理解した。
地中に隠れていた小芳が,小さい狐の体をして,地中から飛び出して来た。その後,人間の体に変身した。全裸状態だった。
小芳は,水香や凛がどこにいるのかわからなかった。
小芳狐「水香様? どこにいますか?」
その声に反応して,水香が保護色を解いた。同時に,凛の保護色も解除した。
凛は,何で小芳が生きているのか,玉輝仙人がどうして凛たちを見逃してくれたか,よくわからなかった。
小芳「水香様,やっぱりすごいです! 保護色にして,仙人の目を欺くなんて!」
水香「保護色はまだいいとして,霊力で,わたしと凛の外見だけを構築したけど,まだまだ稚拙だった。幸い,初めてわたしの技を見る相手だったからごまかせれたのかもね」
小芳「わたしなんか,霊力の扱い,ぜんぜんだめだから,加速20倍を発動して,服が切られる刹那,瞬時にネズミ大の狐になって身を隠したわ。うまく見逃してくれてよかったわ」
それを聞いて,いまだちんぷんかんぷんの凛が質問した。
凛「そもそも,霊力ってなんなの?」
小芳狐「霊力は水香様からいただいた力よ。わたし,他に妖力も使えるみたい。変身技は妖力を使うわ。幻術にも妖力を使うの」
凛「なんか,小芳って,妖狐族のように聞こえるのですけど」
小芳「そうよ。わたし,妖狐族なの。一族の期待を一身に浴びて,ヒト族の世界に足を踏み入れたのよ」
小芳「それは,いいとして,水香様,今後はどうされますか?」
水香「わたし,身ごもったの」
小芳狐「・・・」
凛「・・・」
小芳も凛も何も言わないにで,水香が言葉を続けた。
水香「小芳の古里で身を隠します。小芳は,身分を小芳に戻して,梅山城を切り盛りしてください」
小芳「水香様がいなくなると,母乳を飲めません。霊力が維持できないのですが,,,」
水香「小芳は,霊力がなくても十分に強いわ。得意の気力と妖力でなんとかなると思うわ。じゃあ,頑張ってねー」
水香は,空中に舞い上がって,ひとりで小芳の古里に向かった。
小芳は,元の小芳の姿に戻して,凛と共に梅山城に戻った。
ー 梅山城 ー
梅山城では,第2分隊の副隊長が,隊長に就任して,彼が実質仕切っている恰好だ。
梅山城の東西南北を監視・警戒している第3から第6分隊の隊長と副隊長が,梅山城の大広間に呼び集められた。もちろん,第2分隊の新任の隊長と副隊長もいるし,第2から第3までの親衛隊や後宮護衛隊隊の隊長と副隊長もいる。もちろん,文官も全員集合していた。
ここは,幹部クラスの文官と武官が一堂に会して,大事な政治判断をする場所だ。
そこには,この城で最高の武力を持つ凛と小芳がいた。
ここで,司会進行をするは凛だ。
凛「皆さん,お集まりいただきありがとうございます。わたしの今の身分は,後宮護衛隊長ではありません。新任の城主様の秘書という立場です」
この発言を聞いて,会場がざわついた。中には,まだ,城主がいまだ遠征中で戻っていないと思っているものがほとんどだった。
凛は,まだ状況が分かっていないと思ったので,赤く染まった布に包まれた荷物を手前に持ってきた。
凛は,元部下だった後宮護衛隊長の律に,その布を剥ぎ取るように命じた。彼はほぼ状況を理解している。ニヤニヤしながら,その荷物のところに来て布を解いた。
そこには,城主と第1夫人のご子息・藤斗の首があった。
「なに?城主様の首?」
「藤斗様の首も?」
「いったい第1分隊は何をしていたんだ?」
「それに,城主様や藤斗様の親衛隊員らも,何をしていたんだ?」
そんな疑問が文官や武官の口から飛び出した。
凛「皆さん,落ち着いてください。すでに事態は収拾しています。遠征中だった城主様一行は,第一分担,ならびに城主様と藤斗様の親衛隊員たち,全員が,大妖怪・水香によって壊滅させられました」
この言葉に,この場にいる文官と武官たちは,皆,驚愕し,口々に「そんなばかな!」,「有り得ない!」,「うそだろ」などなどの感嘆の声が発せられた。
凛「静粛に!静粛にしてください!」
この声で,なんとか静かになった。
凛「すでに申しましたように,城主と藤斗様は,お亡くなりになりました。第1夫人は,悲しみのあまり自害されました。第2夫人のご子息・勇馬様は,鹿狩りに行かれた際に,崖から落ちて死亡しました。その知らせを受けた第2夫人は自殺をされました。第3夫人のご子息・霧仁様は,ダイヤ病にかかって,余命数日という状況でしたが,誰かの陰謀によって,幽霧庵を爆破されてお亡くなりになりました。その直後,第3夫人・夕霧様も突然,心臓発作を起こされて死亡しました」
凛は,一気呵成に,状況を説明した。ここまで聞いて,誰も声を発しなった。
凛「その大妖怪・水香様は,ご存じの方もいるかとは思いますが,霧仁様の女中の身分でした。水香様は,霧仁様の命を受けて,城主様一行を討伐に向かいました。
水香様は,城主様一行を壊滅に追いやることに成功しましたが,たまたま仙人と天女の2人組と遭遇してしまい,殺されてしまいました。
今,わたしの隣にいる方は,水香様と同じく,霧仁様の女中をしていた小芳です。彼女は,この梅山城の城主になることを,ここで宣言します」
こんなこと言われても,文官や武官たちは,まったく納得しなかった。
凛「もちろん,皆さんは,一介の女中が,急に城主なるのは同意しないと思います。ですが,わたしは同意します。わたしの気法術は,S級前期です。そのわたしが同意するんです。その意味をよく理解してください」
この言葉を受けて,このか弱そうな少女は,もしかしたら,凛よりも強いのか?
文官のひとりが,小さい声で質問した。
文官「あの,,,質問していいですか?」
凛「はい,どうぞ」
文官「凛様が同意されるということは,何をもって同意するのですか? 知力ですか? 武力ですか? それとも,もっと別の何かですか?」
凛「いい質問です。理由は2つあります。ひとつは,わたしよりも強いということです」
この言葉に,特に武官たちはびっくりした。
「それって,ほんとうなのか?」
「そんなか弱そうな体をして,凛様よりも強い?ありえねえ」
「どうやって証明するんだ?」
などの文句が多く出た。凛も当然だろうと思ったので,凛に実演をお願いすることにした。
凛「小芳様さま,すいませんが実演をしてただけますか?」
小芳狐「しょうがないですね。では,一番わかりやすい方法のしましょうか。では,文官や武官の皆さん,気の防御を展開してしください」
そう言いながら,小芳の体が青白く光った。その周囲に氷結の矢が出現した。
氷結の矢を出現させるだけなら,中級レベルや上級レベルでも可能だ。ただし,1発ずつ出現させるものだ。中級レベルでは連弾攻撃はできない。上級では1発だけの連弾発射が可能となる。S級レベルになると,同時に10発の氷結の矢を連発発射が可能になる。仙人天女クラスでは,100発の無限連弾攻撃が可能だ。
小芳狐の背後に,氷結の矢100発を出現させた。それだけで仙人天女レベルとわかる。
それを見た文官や武官は驚いた。
「え?100発の氷結の矢?」
「まさか?それって仙人,天女レベル?」
「でも,幻覚だけかも?」
「そうそう,幻覚に違いない」
その言葉を聞いて凛が焦った。
凛「皆さん,挑発は止めてください!大変なことになってしまいます!」
バシュー!ーー
その氷結の矢の連弾は,不満の声を吐いた第3,第4,第5,第6分隊の隊長を襲った。彼らが展開する気の防御が何もないかのように貫いて彼らを襲った。彼らは,その場で絶命した。
それを見た文官や核分隊の副隊長は絶句して,心の中で叫んだ。
『同時に4人を何十発の氷結の矢で殺した?! これって,S級でも絶対に無理だ!』
『小芳は,間違いなく天女クラス!』
『やべえ! 口に出さなくてよかったー!』
などなど,小芳に対して反抗しても殺されるだけだと理解した。
まず,文官Aが,その場で正座して頭を下げた。
文官A「わたしは,小芳様を新任の城主様と認め,忠誠を誓います」
この様子を見た他の文官たちも同様に正座して,同じ言葉を口にして頭を下げた。
すでに小芳の強さを理解している第2,第3親衛隊,後宮護衛隊の隊長と副隊長も,それを見習って同じ行動を示した。
第3から第6の分隊長の副隊長たちも,上官を殺されたものの,次は,自分たちが隊長になれるので,悲しみ半分,喜び半分の気持ちで,正座して,同じ言葉を口にして頭を下げた。
ここに,梅山城の城主は,名実共に,見かけ12歳くらいの少女で,天女クラスのパワーを持つ小芳が君臨することになった。
その実,小芳,本名は美蘭,神人だ。今は,仙人クラスのパワーを持っている。だが,彼女の真の目的は,神界に帰ることだ。その意味では,まだまだ力が足りない。
ーーー
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