第26話 布篆符
新しく城主に君臨すると,必ず菊峰城に報告しなければならない。その主な理由は,そこからしか気含石を購入できないからだ。
気含石がないと,気含丹薬を煉丹することができなくなる。それだけでなく,庶民の憩いの場にもなっている温泉にも気含石が使われる。温泉施設には,一般の温泉とは別に気含温泉があり,その温泉につかると,体力気力回復に有効であり,重い病でも,その症状が軽減されると謳われている。
ともかくも,気法術を基本とする戦闘スタイルのこの国にあっては,気含石は,なくてはならないものだ。
そんなことは知らない小芳は,文官の中ならトップの地位についた榮楽宰相から,気含石に関する情報を聞かされていた。
宰相「つまり,他の城主も菊峰城には逆らうことができません。気含石は,そこからしか購入できませんので」
小芳「そもそも気含石って,なんなの?誰が造っているの?」
宰相「それは,どうも最大の秘密らしく,誰も分かりません。ですが,仙界から提供されているという噂もあります。われわれ周辺の城主は,菊峰城から気含石を購入し,周辺の武林界の各宗派は,真天宗から購入します。菊峰城も真天宗から入手すると聞いています。つまり,この蒼青大陸では,誰も菊峰城や真天宗に逆らうことはしません」
小芳「しょうがないわね。では,菊峰城に,わたし,小芳が城主になったと伝えてちょうだい」
宰相「わかりました。伝書鳩で連絡しますので,2日ほどあれば,菊峰城に連絡できます。菊峰城から使者が派遣されて,梅山城の城主に相応しいかどうかを判定されます。晴れて,相応しいと判定された場合,これからも気含石の取り引きが継続されます。判定されなかった場合,取り引きは停止されます」
小芳「なんか,超悔しいわ。これまではどんな対応をしてきたの?」
宰相「過去の例ですと,使者は菊峰城主のご子息が来られます。従者は2名でS級クラスの強者です。別途,護衛が100名ほど来ます。毎晩,使者と従者の3名には,処女の女性をあてがって,最高のお酒と食事を提供してきました。護衛100名には,娼館を無料で使える優待券を渡しています。それが,1週間続きます。食事や酒はいいのですが,問題は処女の女性です。1週間ほど,3名に毎晩処女をあてがうので,21名ほど必要になります。それもとびきりの美人で巨乳が条件になります」
小芳「ドスケベな連中ね。気含石を周辺の城から,20個ずつでも分けてくれないの? 7箇所あるんでしょう?一箇所で20個分けてくれたら,210個確保できるわよ」
宰相「それは無理です。契約上,他の城への転売は禁止されています。現在,巨乳で処女の美少女の選定作業を開始しています。なんとか1週間ほどで21名が確保できる予定です」
小芳「使者自身の戦闘力はどんなものなの?」
宰相「過去の例でいうと,さして強くありません。中級か上級レベルです」
小芳「もし,菊峰城と戦いになったら,どうなるの?」
宰相「周辺の城も菊峰城に加担しますので,われわれはすぐに滅ぼされてしまいます」
小芳「悔しいわね。こんな時,水香様だったら,皆殺しにできるのに! まあ,いいわ。とにかく今の案で進めてちょうだい。あっ,そうそう,わたしに,超頭のいい美少女をあてがってちょうだい」
宰相「え? それって,どういう意味ですか?」
小芳「文字通りの意味よ。わたしの話相手になってほしいのよ。凛は,武闘派だから何も考えないのよ。水香と一緒。殺せばいいと思って」
宰相は,小芳も同じ穴のムジナだと思ったが,それは言わないことにした。
宰相「さて,そう云われましても,,,では,わたしの娘はどうでしょうか? まだ10歳で,美人ではありませんが,利発な子どもです。今,政治に関する書物も読み始めているところです。話相手程度なら,それなりに務まるかと思います」
小芳「じゃあ,その子でいいわ。すぐに連れてきてちょうだい」
宰相「わかりました。後ほど,連れてまいります」
・・・
その後,しばらくして,宰相の娘,珠莉が小芳のところにやって来た。
珠莉「お初にお目にかかります。わたくし,宰相の娘で珠莉と申します。まだ10歳で右も左もわかりません。でも,誠心誠意,城主様のお話に,お付き合いさせていただきます」
小芳「丁寧な挨拶だこと。早速だけど,菊峰城から視察団が来ることは知っている?」
珠莉「はい,父上が簡単に状況を説明してくれました。今は,過去の例に従って対策中だと聞いています」
小芳「じゃあ,過去の例に捕らわれない方法で対処できないかしら?」
珠莉「その前に,城主様は,仙人並みのパワーをお持ちだと聞いています。その能力をすべてわたしに開示していただけますか?決して,他言はいたしません。ここに神に誓って宣言させていただきます」
珠莉は,神に誓って宣言した。ひとたび,神に宣言すると,その宣言内容に違反する行為は,自分を否定する行為,つまり,自害行為をとることを意味する。自分自身に暗示をかけるようなものだ。
小芳「なるほど,10歳にしては,キモが座っているわね。じゃあ,わたしの身分と,すべての能力を開示するわ」
珠莉「はい,よろしくお願いします」
小芳「わたし,ヒトではなく,妖狐なの。狐を100年経験して,妖狐になって,さらに100年が経ったわ。その後,ヒトの母体を使って転生したのよ。今は,転生後,12年経過しているけど,でも,8歳の時に,転生前の記憶を思い出したの。それからまもなく,育ててくれた両親が,わたしを盗賊に売ったの。それを契機として,盗賊から逃げて,妖狐族の古里に身を隠したのよ。
その古里で,長老の庇護下に入って,妖力を回復させて,気力の修行もしたの。
妖力,それは,自己の変身と幻覚を相手に見せる能力よ。変身は,顔を少し変化できるわ。それと狐に変身できて,大きさもネズミ大まで小さくできます。
幻覚の場合,複雑な幻覚だと,数秒しか効果ないけど,単純な幻覚なら数十分,場合によって1時間くらいは可能だと思う」
小芳は,霊力や神人としての能力については,開示するのを控えた。それは,決して誰にも開示してはいけないと思っている。
珠莉「記憶操作はできないのですか?」
小芳「記憶操作は,妖蛇族が得意よ。わたしはできないわ」
珠莉「では,例えば,うちの兵隊を,使節団の連中になりすますようなことはできないのですか?」
小芳「へえ,とんでもないこと考えるわね。そうね,,,自分自身なら,変身能力は得意よ。でも,他人を変身させるには,そのヒトの顔の皮膚が必要となるわ」
珠莉「え?それって,顔の皮膚をまるまる削いでしまうのですか?」
小芳「そうよ。確実に殺してしまう必要があるわ」
珠莉「殺すとなると,,,やっかいですね,,,」
珠莉は,しばらく考えてから,小芳の耳元に,小さな声で自分の考えを伝えた。その案を聞いて,小芳は凛を呼びつけた。小芳狐は,珠莉の案を伝えて,それを実行するように命じた。
凛「なんとも,,,かなり,下準備が必要です。しかも,隠密裏にすするとなると,,,でも,なんとかしましょう。それで,処女の乙女たちが泣かなくて済むのですから」
凛は,すぐに,信頼できる後宮護衛隊隊長に,仕事を割り振った。彼に割り振った仕事は,一番,やっかいな仕事だった。それは,爆裂符200枚を1週間で準備させるというものだった。
後宮護衛隊隊長「凛様,それは,無理ってもんですよ,爆裂符200枚? 剣流宗に行って,お願いしないといけませんが,1週間だと,せいぜい2,30枚が限界だと思いますよ」
凛「いいから,すぐに行動しなさい。200枚よ,200枚!」
後宮護衛隊隊長「あーあ,今度の城主様は,いったい何を考えているのか,,,新任の女性副隊長にこの仕事,振ってもいいですか? 彼女,凛様ほどではありませんが,そこそこ美人なので,色気である程度,人を動かせるかもしれません」
凛「かまわないわ。でも,話を広げるのはそこまでにしてちょうだい。では,副隊長には爆裂符の手配,隊長には,別の任務として,盗賊対策をしてもらいます」
後宮護衛隊隊長「はぁ? 何それ?」
凛「文字通りの意味よ」
凛は,詳しい説明を後宮護衛隊隊長に説明した。
・・・
後宮護衛隊隊長の律は,部下の女性副隊長・憫佳に,剣流宗に出向いて,爆裂符200枚を1週間で調達する仕事を振った。
彼女も剣流宗出身なので,爆裂符が簡単に準備できるものではないことも知っている。
憫佳「ええー? 隊長,そんなの無理に決まっているでしょう。せいぜい10枚か20枚が限界ですよ。まったく,常識を知らないのですか?」
隊長「そんなの百も承知だ」
憫佳「だったら,なんでそんな無謀な依頼,受けるのですか?」
隊長は,凛からの依頼は断れない。隊長の妻,菊江を確保できたのも凛のお陰だ。
隊長「時には,断れないこともある。もし,1週間以内に爆裂符200枚確保することができたら,城主にお願いして,お前のために聚気丹を入手してやる。どうだ? やる気が出たか?」
憫佳「え? ほんとですか? はい! それなら頑張れます! 今,中級後期で,なかなか上級になれないんですよ。それ呑んだら,一発で上級になれますから!」
隊長「よし,では行ってこい!」
憫佳「了解でーす!」
憫佳は,意気揚々として剣流宗に向かった。でも,行く途中で,1週間で200枚を調達するのって,やっぱり無謀だと思い直した。いったい,どうやったら,確保できるのだろうか?とにかく,剣流宗の早乙女宗主に会うしない。
ー 剣流宗,宗主邸 ー
宗主邸は,よっぽどのことが無い限り,門弟でも出入りができない。特に,早乙女宗主は,出入りを厳重にしている。その理由は単純だ。
ヒカルを性奴隷にできたので,ヒカルとの逢瀬を楽しんでいるからだ。ただ,ひとつだけ不満なことがある。ヒカルと唇でキスができないことだ。
ヒカルが,唇でキスをすると,無意識に相手の気を吸収してしまう変な能力があると聞かせれたからだ。ヒカルとしても,その変な能力,気呑術なのだが,それを制御すべく努力している。
確かに意識すれば制御できるのだが,キスする行為が,性欲を解放することになり,その解放が,同時に,気を吸収してしまう行為を連動させてしまうことがわかった。
その連動を断ち切る方法を試行錯誤している最中だ。
早乙女「ヒカル,どう? 制御できそう?」
ヒカルは,早乙女宗主のDカップの胸をまさぐって,乳首にキスしながら答えた。
ヒカル「なんか,もう少しで感じが掴めそうです。今,乳首を吸ってしますが,どうやら気を吸収していない感じです。もう少し,乳首で試させてください」
早乙女「いいわよ。いくらでも吸ってちょうだい。ああ~~」
早乙女は,ヒカルの愛撫に,また絶頂を感じてしまった。彼女は,もう片時もヒカルを手放さないと決めている。こんなに,超かわいくて,ハンサムで,あの行為もうまくて,何時間でも何日でもあの行為を持続させることができる男なんて,この蒼青大陸,どこを探してもいるわけがない。
ヒカルの乳母であり,ヒカルの子どもを妊娠している琴弥が宗主邸に来て,ヒカルに会わせてと何度も依頼しに来るのだが,門番に追い返されてしまっている。
ヒカルもヒカルで,早乙女宗主の体は,痩せ型のくせに,出るところは出ているので,琴弥や彩華と違った魅力を感じていて,今の境遇を堪能している。
だが,それ以上に,大妖怪・水香の情報が,ここにいると,どんどん入って来る。
ヒカルにとって,やはり,大妖怪・水香は,なんと云っても,一番の美人だし,強者だし,それ故,恐怖を感じたこともあったが,今となっては,大妖怪・水香の情報を入手するたび,気持ちが切なくなって,彼女への思いを募らせている。
『大妖怪・水香らしき人物が,菩提大湖に棲む蛟竜を討伐した』,『大妖怪・水香らしき人物が,山吹盗賊団を襲った』,そして,決定的だったのは,『「大妖怪・水香」が,梅山城の城主と籐斗を討伐したものの,たまたま付近を調査しに来ていた花馨天と玉輝仙人によって討伐され,かつ,その弟子たち2名も殺害された』という情報だ。
ヒカルは,最後の情報を入手した時,直感的に水香は討伐されたことを偽装したものと思った。それは,確信に近いものだった。ヒカルは,実際に水香の戦闘しているところを見たことがない。
でも,ヒカルが,仙人レベルの強さになってみるとよくわかる。大妖怪・水香は,決して,仙人・天女レベルでは,決して討伐などできるはずもないことが! たとえ,10人の仙人・天女が束になっても,大妖怪・水香には勝てないだろう。
でも,,,ヒカルは,もし,水香に会う機会が訪れたとして,どの面下げて会いに行ったらいいのだろう? 最初にかける言葉は,何がいいのだろう? 『あの時は,ウソついてこめんなさい?』,『愛してる?』,『ボクと一緒になってくれ?』,いやいや,そんな言葉ではないはずだ。
とにもかくにも,もっと正確な情報がほしい。
ヒカル「宗主,もっと詳しい情報はないのですか? 梅山城で水香がどのように過ごしていたかも知りたいです。一度,梅山城に行かせてください」
早乙女「ダーーメ! ヒカルは,わたしの性奴隷よ。わたしにあらゆる性的満足を与えさない。それが性奴隷としての役目よ。それに,梅山城の状況なら,いくらでもわかるわ。わざわざヒカルが行く必要もないわ」
ヒカル「だったら,その情報をくださいよ」
早乙女「じゃあ,わたしをあと10回イカせてちょうだい。そしたら,情報とってあげるわ」
ヒカル「・・・,わかりました」
ヒカルは,そう言ったものの,ヒカルは宗主に,ときどき,ある術を施している。
それは『気篆術』だ。催淫符なら,もう手慣れたもので1秒で描くことができる。他の呪符でも,10秒ほど時間をかければ描くことができる。ヒカルは,催眠符を空中に描いて,恍惚状態の早乙女宗主に放った。
うううーー
早乙女宗主は,うめき声をあげて,熟眠状態に陥ってしまった。
そんな頃,宗主邸の門を警護している門弟と,後宮護衛隊の副隊長・憫佳がもめていた。
憫佳は,かつては,剣流宗の内弟子であり,一度は『剣流宗の花』と云われたこともあるほどの美人だ。だから,門番当番の門弟も憫佳のことはよく知っている。
門番「いくら憫佳さんでも,ここを通すことはできません。面談依頼の手紙を書いください。それを渡すことはできますから」
憫佳「そんな面倒くさいことできないわよ。それに,最高機密の依頼なのよ。文章に残せるわけないでしょ」
門番「だったらダメです。ここを通すことは出来ません」
憫佳も,聚気丹がかかっている。おいそれとは引き下がることはできない。
憫佳「アッ! あれは何?」
憫佳は,上空を指刺した。門番役の門弟もそれにつられて上空を見た。
ドン!
憫佳は,門弟の後頭部を強打した。
憫佳「わたしも自分の昇級がかかっているのよ。ごめんね」
憫佳は,宗主邸の敷地内に入り,宗主邸のドアをノックして大声をあげた。
憫佳「宗主様ー! わたし,後宮護衛隊の副隊長,憫佳でーす! 以前,ここで内弟子でお世話になった憫佳でーす! 大事な話がありまーす! 宗主様ー! ドアを開けてくださーい!」
こんな大声をあげられても,熟眠中の早乙女宗主には聞こえるはずものなった。
ヒカルは,バスローブを羽織ってドアを開けた。
憫佳は,ドアから出て来たのが,超可愛くて,かつ,ハンサムの少年なのを見て,ビックリした。
ドックン,ドックン,ドックン,
憫佳の心臓の音が強く鳴った。
憫佳『もしかして,これって,一目惚れ? イヤイヤイヤ,今は,そんな事,考えている時ではない。仕事,仕事!』
憫佳は,高鳴る気持ちを抑えた。
憫佳「あの,,,あなたは?」
ヒカル「ボク,ヒカルです。よろしくお願いします」
憫佳「あっ,はい,わたし,憫佳です。こちらこそ,よろしくお願いします」
憫佳は,頭をしっかりと下げた。それにつられて,ヒカルも頭を下げた。
ヒカルは,憫佳を部屋の中に招き入れた。
ヒカル「わたしは,宗主の身の周りの世話係をしています。今,宗主はお休み中です。何かお伝えしたいことがあれば,代わりにわたしがお聞きしますが?」
憫佳は,宗主に直接,依頼したかったが,ヒカルが超可愛いので,彼に伝えてもいいと思った。だって,ヒカルともっとおしゃべりできるのですから。
憫佳「宗主への依頼内容ですが,1週間以内に爆裂符200枚を準備してほしいというものです」
憫佳は,ヒカルが無謀な依頼内容だと文句を云うと思った。
ヒカル「その依頼内容でしたら,宗主よりもわたしに依頼するべき内容でしょう」
憫佳「え?それって,ヒカルさん,この依頼,実現できるのですか?」
ヒカル「正規の符篆術ではなく,簡易版であれば,さほど時間はかからないで準備できますよ。有効期限はかなり短縮されますし,効果もかなり弱くなりますが,それでいいのならですけどね」
憫佳「簡易版? そうね,爆裂符であれば,そのレベルは問われていないです。ヒカルさん,その簡易版でお願いします」
ヒカル「・・・」
ヒカルは,何度か溜息をついた。
ヒカル「その依頼,まだ引き受けたと言っていませんよ」
憫佳「え? だって,準備できるって,言ったじゃないですか?」
ヒカル「はい,準備できますよ。ですが,,,」
ヒカルのこの言葉を濁した意味を,憫佳はすぐに理解した。
憫佳「あっ,ごめん,ごめん,報酬のことね?心配しないで。言い値の金額を支払うわ。いくらほしいの?」
ヒカル「いえ,わたしの望みは,お金ではありません。わたしは,,,宗主によって,汚された身を浄化したいんです。もとの,きれいな体に戻りたい」
憫佳「身の浄化?」
ヒカル「そうです。処女の身をわたしに捧げてください。処女の体に,わたしの受けた汚い者を移したい」
憫佳「・・・,?」
憫佳は,ヒカルが何を言っているのか,よくわからなかった。ただ,単に処女を抱きたいのか? そうなら,可愛い顔しているのに,意外とスケベだと思った。
ヒカル「ボク,,,いまでも,あの日のこと,後悔している」
ヒカルは,ひとりごとのように言った。
ヒカル「水香にウソをついてしまった,,,謝ったけど,毒矢に刺されて,きちんと謝れなかった,,,もう一度,あの無垢な体で,水香に謝りたい,,,」
憫佳「??」
憫佳は,ヒカルの思考回路がちょっとおかしいのではないのかと思った。
ヒカル「憫佳さん,,,あなたの体をわたしに捧げてください。いえ,殺しはしません。体を傷つけても,血はすぐに止まります。傷口も塞がります。傷跡は残るかもしれませんけど,,,」
ヒカルは,ガウンをはだけて上半身を見せた。腕部と胸に無数の切り傷の跡があった。
憫佳「ええ? その傷跡,どうしたんですか?」
ヒカル「・・・,ボク,何のとりえもないです。水香さんに愛情がないとあの行為はしないと言っておきながら,ほかの女性とそんな関係になってしまった。宗主の性奴隷にまでなってしまった。この汚れた体が,,,大嫌いだ! 水香さんに何て詫びたらいいんだ!」
ヒカルは,両手で顔を覆って前屈みになり,太ももで両肘を支えた。
ヒカル「この体傷つけて,傷つけて,,,でも,やっぱり死にたくなくて,傷を早く尚したくて,気の治療をいろいろ試して,,,血は,,,すぐに止まるようになって,,,傷口も,,,すぐに塞がるようになって,,,でも,傷跡はこのように残ってしまって,,,これでは,水香さんが怪我したとき,怪我を治してあげれない,,,何もできない,,,
憫佳さん,,,その身,ボクに捧げてください,,,」
憫佳は,この可愛い顔したヒカルが,気がふれた状態に陥っていると思った。このままでは,ヒカルに犯されてしまいそうだ。
初対面のときは,胸の高まりを感じたものの,狂気の世界に住むヒカルとは,これ以上,一緒にいるつもりはない。
憫佳「あの,,,急用を思い出しました。また,宗主がいる時に出直してきます」
彼女は,席を立った。
ヒカル「憫佳さん,,,いいものを見せてあげましょう。符篆術の応用です」
それを聞いて,憫佳は,ちょっと立ち止まった。そのちょっとが,今後の憫佳の人生を大きく狂わしてしまった。
ヒカルは,もうすでに何百回となく描いてきた気篆術の催淫符を空中に描いた。これだけは,わずか1秒で描くことができる。
ヒューン!
その黄金色で描かれた催淫符は,憫佳の体にヒットした。
憫佳「え?黄金の変なものが体にあたった? あれ? どうして? 体が火照ってきたわ。え? 何? この燃えるような,,,欲情,,,」
憫佳の顔は真っ赤になって,眼から炎が出ているようだった。憫佳は,自分の着ている着物の腰帯を解いて,着物を脱いで,下着も脱いで,ヒカルを襲った。
ヒカルの放った気篆術の催淫符,その威力は,最初こそ初級レベルだったが,今では,上級を越えて超級レベルにまで到達した。催淫符に接触させなくても,対象から数メートル離れた場所に出現させるだけで効果が期待できる。ましてや接触させるのだ! 三日三晩,その催淫状態が続く!
ヒカルは,自分に染みついた汚い物を,すべて憫佳に移し換えるというおかしな発想で憫佳を犯した。
「ボクの汚い物を受けとれ!」
「宗主から受けた淫乱を受けとれ!」
「冷酷さを受けとれ!」
などと叫びながら,彼女のCカップの乳房や乳首を傷つけていった。
ひとしきり,傷つけて,憫佳の体が血に染まると,今度は,
「ボクのウソを,,,許して,,,」
「ボクが汚れたことを許して,,,」
などと叫んで,止血して傷口を塞いでいった。奇妙なことに,傷跡は残らなかった。ヒカルは,わざと自分の体の傷跡を残していた。自責の念を忘れなくするためだった。
・・・ ・・・
こんな事を何度も繰りかえして,丸1日が経過した。
ヒカルは,ふと,我に返った。
ヒカル「え?ボク?どうしていたんだ?」
ヒカルは,何度も犯されて,体中に血痕が残っている憫佳をみた。
ヒカル「そうか,,,また,水香のことを考えて,異常な行動に出てしまったのか,,,宗主にしてあげる行為をそのまま憫佳さんにしてしまったのか」
ヒカルは,『水香への懺悔』と称して,これまでにも,宗主に催淫符を放って,このような行為をたびたびしてきた。宗主も,このようにされるのを非常に喜んだ。超の字が何個もつくほどの絶頂を味わえるからだ。
その『水香への懺悔』を今度は,憫佳にしてしまった。済んだことを悔やんでもしかたがない。
ヒカルは,気篆術の催眠符を描いて憫佳に放って眠らせた。ヒカルは,憫佳の着ていた着物を机の上に広げて,ハサミで5cm間隔で切り刻んでいった。5cm幅の帯の布状になったものを,今度は,10cm間隔で切断していった。
縦5cm高さ10cmの布辺が400枚ほど準備できた。そこに,気篆術による爆裂符を描いて,その布に移していった。こうすることで,有効期間が2週間ほどの爆裂符が完成する。ヒカルの言っていた簡易版爆裂符だ。
最初こと,1枚描くのに30秒ほどかかっていったが,慣れていくと,10秒,5秒,3秒と縮めていって,200枚が完成する頃には1秒で描けるようになった。予備で追加で10枚ほど描いた。
ヒカル「まだ,布が余っている。どうしよう」
ヒカルには,まだまだ『気』が十分にあった。今では,大気から必要なだけ気を吸収できる。もっとも,その吸収速度は,さほど早いものではないのだが。
残りの余った布片で,通信符,着火符,着氷符,催眠符,催淫符,封気符,止血符などを,練習がてら描いていった。
ヒカルは,宗主も憫佳も寝ているので,ちょっと寂しくなって,宗主邸を離れて,琴弥と彩華に会いに行った。やはり,ヒカルは性に目覚めた男だった。
・・・
琴弥と彩華を性的に満足させた後,ヒカルはまた宗主邸に戻った。
憫佳はまだ寝ていたが,起こすことにした。覚醒符は,まだ覚えていないが,催眠符や催淫符の効果を打ち消すことはできる。
ヒカルは,素の気を憫佳の体の中に流すことで,催眠や催淫を促す気を排除させていった。
スーー!
憫佳は,ゆっくりと催眠状態から回復していった。
憫佳「あら? わたし,寝ていたの? いや,違うわ。ヒカルさんと,あの行為を,,,」
憫佳は,顔を赤らめた。この時,自分が裸であることに気がついた。ヒカルも,やっと,そのままでは,風邪を引いてしまうと思って,クローゼットから,宗主の着物を持ってきて憫佳に渡した。それと,濡れタオルも持ってきて,憫佳の体についた血の跡を拭いてあげた。
憫佳「ヒカルさん,ありがとう。でも,,,わたし,ヒカルさんに,,,何度も,,,」
ヒカル「はい,,,,」
お互い,それ以上の言葉は言わなかった。
憫佳は,自分が催淫術にかかったことを知らない。自分からヒカルに迫ったということだけは覚えている。
ヒカルは,話題を変えた。
ヒカル「簡易版ですけど,爆裂符200枚準備しました。それと,他にもいろいろ準備しました」
ヒカルは,他に準備した種類を説明した。これらは,有効期間が作成後,2週間程度しかないことも説明した。
憫佳「え? これって,わたしが着ていた服を切り取って描いたの?」
ヒカル「はい,ほかに材料がなかったものですから。強いて言えば,『布篆符』ですかね?」
ヒカルは,ちょっとニヤニヤした。自分で命名したのが,意外と様になっていると思ったからだ。
憫佳は,机に散らばっている布篆符を手にとってマジマジと見た。その篆字は,金色に輝いていた。明らかに,通常の呪符とは違っていた。そもそも,通常の呪符は,専用の一定の気が込められた呪符紙を使う。そこからして異なる。
憫佳「あの,,,これ,ほんとうに効果があるのですか?」
ヒカル「はい,大丈夫だと思いますよ。わたし,どうやら符篆術には才能あるみたいで,練習するほどに短時間で描けてしまうみたいです」
憫佳「あの,,,この爆裂符,この場で1枚描いていたけませんか?その効果を試したいので」
ヒカル「はい,いいですよ」
ヒカルは,どうせ,すぐに試すのだからと,余った布きれを取った。その布切れは,幅は5cmだったものの,長さも5cmしかなかなかった。そこに『爆裂』という文字を篆書体で書かなければならない。
ヒカルは,一瞬,迷った。
ヒカル『さすがに,ここに2文字も書くのは,指では無理かもしれない。専用の筆もここにはないし,とりに行くのも面倒くさい。でも,失敗したら,やり直せばいいか?』
ヒカルは,他の種類の呪符では何度も失敗したことがあるが,爆裂符の作製では,失敗したことがない。失敗すると,どうなるかも経験していない。そのためか,失敗しても,効果がないだけだと思って,軽い気持ちでそこに描いていった。
気を指先に込めて,篆書体で,『爆』と小さく書いた。そこまでは成功した。次は『裂』だ。ヒカルは,その文字を,空いたスペースに注意深く描いた。
その時,一匹の蚊が飛んできて憫佳の腕に止まった。彼女はその蚊めがけて手の平で叩いた。
パチン!
その音で,ヒカルの集中が一瞬途切れた。指先がズレてしまった。
ボン!
作成中の爆裂符が,小さく破裂してしまった。その際に発生した火花が周囲に飛んだ。
その一つが,机上に置かれた爆裂符の束に着火した。それを見たヒカルは,『ヤバイ!』と思って,とっさに憫佳の前に被さって,自分の体に多重の気の防御結界を敷いた。
その直後,
ドドドドドドーーーカーーン!
宗主邸は,木っ端微塵に吹き飛ばされた。奥の部屋ですやすやと寝ている宗主も,その部屋ごと吹き飛ばされて,部屋ごと地面に叩きつけられた。幸い,爆裂音で目覚めた宗主は,空中に飛んでいる時に,自分の周囲に気の防御を展開したので,大事にはいたらなかった。
問題は,爆発とともに飛び散った他の呪符だ。その中で,特に厄介なのが着火符だ。炎を維持したまま飛んでしまった。火の玉が飛んだようなものだ。
その火の玉は,周囲の建物に飛び火してしまった。
かなりの爆裂音だったため,門弟たちもすぐに気がついて,周囲に飛び火した火事の消火活動を始めた。
爆破の震源地にいたヒカルは,爆発と共に,宗主邸から,百メートル以上も離れて吹き飛ばされてしまった。その際,憫佳をしっかりと抱いていた。
幸い,ヒカルの気のレベルは,宗主や,琴弥,彩華たちとの双修を何度も繰りかえすことによって,下級仙人から中級仙人クラスの気の使い手になっていた。そのため,彼の展開した多重気の防御結界は,かなり強固なものになっており,今回の爆発でも,ほとんどケガを負うことはなかった。憫佳もその結界に覆われていたので無傷だった。
吹き飛ばされたところから,起き上がったヒカルは,憫佳にニコっと微笑んだ。
ヒカル「憫佳さん,わたしの作製した呪符,効果があるって,充分に証明されたでしょう?」
憫佳「・・・」
憫佳は,ヒカルはやっぱり頭がおかしいやつだと確信した。
憫佳は,ヒカルに何度も犯されたので,妊娠している可能性がある。彼女はふと思った。
憫佳『顔は可愛いけれど,こんなアホなやつの子ども,ほんとうに産んでいいの?』
・・・
ヒカルは,何事もなかったかのように,憫佳を連れて,琴弥と彩華のいる離れに退避して,騒ぎが収まるのを待った。
ヒカルは,しばらく休んだ後,再び,琴弥から不要な着物を1着もらって,5x10cm角の布切れにして,そこに気篆術による爆裂符を作製していった。もう手慣れたものだ。それに,レベルも低くていいので,下級クラスのを,再び作製していった。
30分もかからずに200枚の下級爆裂符相当の簡易版『布篆符』を完成させた。今度は,簡単に発火しないように,琴弥に革製の袋を持ってきてもらって,その中に収納した。
ヒカル「憫佳さん,これ下級爆裂符相当の簡易版『布篆符』が200枚入っています。これでいいですね?」
ヒカルは,そう言って,その皮袋を憫佳に渡した。
憫佳「・・・」
憫佳は,200枚もの爆裂符が,30分程度で完成するのかと唖然とした。
彼女は,ニコッと微笑んだ。もしヒカルの子を妊娠したら,必ず産む決心をした。この子をダシに,ヒカルにいくらでも呪符を描かせて,お金を稼ぐことができるからだ。
憫佳「はい,今はこれで結構です。もし,妊娠したら報告しに来ますね。結婚はしなくていいですけど,わたしのために,たくさん呪符を描いてくださいね♥ わたしの愛しいヒカル様♥」
憫佳は,ヒカルの返事を待つまでもなく,その革袋を持って去っていった。
憫佳の言葉に,彩華と琴弥が険しい顔をしてヒカルを厳しい眼で睨んだ。睨んだけど,彼女らにとっても,ヒカルをどうすることもできない。
・・・
憫佳は,帰路の途中で,自分の足取りが軽いことに気がついた。
憫佳「あれ? わたし,レベルアップしちゃったのかな?」
憫佳は,立ち止まって,気の巡りを体内に展開してみた。すると,その勢い,流れから,憫佳は,上級レベルに達していることがわかった。それも,前期ではなく中期レベルだ。
憫佳「ええーー,わたし,上級中期に到達したみたい! これって,隊長の上級前期を抜かしたってこと? やったーー!」
憫佳は,超嬉しかった。なんで,こんなにレベルアップしたのかすぐにわからなかった。でも,考えられることはただ一つ! ヒカルとのあの行為だ。
憫佳は,ニコニコ顔で,梅山城の後宮に戻った。
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