第24話 銀次の爆死

 第2夫人の息子,勇馬,17歳は,予定通り,楽しみな鹿狩りに出かけた。でも,本当の目的は,実際の村人を射止めることだ。最近,検討した混合毒の威力を確認するためだ。


 勇馬の仕事,その実,趣味みたいなものなのだが,毒蛇やサソリ,毒ガエルなどを飼育していて,どの配合でもっとも即効的に人を戦闘不能状態にできるかを検討していた。


 やっと,改良してきた10種類の配合毒が完成したので,晴れて,それを鹿だけでなく,こっそりと村人にも試す予定だ。


 その事実は,ひた隠しにしている。もし,第2親衛隊にでも知れたら,即,城主にバラされて,次期城主争いレースから追い出されてしまう。


 勇馬自身,小さい頃から,毒を自分の体に馴染ませてきたので,毒に対して免疫がある。今では,どんな毒にも耐性がある。その事実は,誰にも言っていないし,本人以外,知る者はいない。


 だが,その副作用のためか,気の習得は全然だめで,17歳にもなるのに,今でも,初級中期レベルだ。その代わりに,肉体強化をしてきた。かつ,剣技や弓の腕はかなりのレベルだ。


 武器を持った総合的な戦力は,気の上級使い手に引けをとることはない。


 今回,勇馬の護衛をするのは,第2親衛隊5名と,後宮護衛隊からの5名の10名編成になる。この10名の指揮上のトップは,第2親衛隊長が行う。もし,後宮護衛隊の律副隊長が参加すれば,彼になったのだが,後宮護衛隊からは男性の分隊長が参加した。


 彼らは,馬の乗って移動する。勇馬は,馬に種々の弓矢入れを馬に配置させて,万全の準備をした。こればっかりは,他人任せにはできない。


 勇馬は,即効性毒とは別に,遅効性毒も検討している。それがうまくいけば,兄の藤斗や弟の霧仁をそれで殺す算段だ。でも,霧仁は病気で間もなく死ぬ運命だ。ならば,当面のターゲットは,兄の藤斗だ。


 だが,遅効性毒については,キノコ毒を中心に検討しているが,意外と即効性なので,今ひとつ,うまくいっていないのが実情だ。


 勇馬も,実は,女中を5人ほど殺している。毒の人体実験のためだ。殺された女中は,こっそりと他の女中から薬だと言われて毒を飲まされたので,勇馬が殺した事実を知らないで死んでいった。


 でも,周囲の者は,なんとなく,勇馬が殺したのではないかと噂が広まった。でも,噂だけでそれ以上,何らお咎めにはなかった。


 この噂は,銀次もすでに報告を受けていたので,勇馬の殺害については,なんら躊躇はない。今は,後宮護衛隊の律隊長からの報告を待つだけだ。


 ・・・

 勇馬たち一行は,最寄りの山林に来た。この場所は,鹿の生息地であり,その鹿を狙って狼もよく出没する。


 勇馬は,並んで馬を歩かせている第2親衛隊長と雑談していた。


 勇馬「もうそろそろ鹿や狼と遭遇してもいいのだが,ぜんぜん出てこないな」

 隊長「そうですね。狼なら,馬も襲うターゲットになるはずなのに出てきませんね。勇馬様を怖がっているのでしょうか?」

 

 そんな会話をしている時,一頭の鹿がスーッと姿を顕した。


 勇馬は,全軍をその場で停止させた。彼は,愛用の弓用手袋をして,複合毒試作25番目の毒矢を弓に装着して鹿を狙った。


 シューン!


 その毒矢は,見事に鹿にヒットした。さすがは,弓の名手だ。体を鍛えているだけのことはある。


 弓矢が当たってから,鹿がすぐに逃げたものの,1分もすると,走れなくなり,その場に倒れた。


 勇馬「なるほど,,,1分で歩行停止してダウンか,,,まあ,悪くない結果だ。うんうん,,,」

 

 この頃から,後宮護衛隊の5名は,徐々に後方に下がっていった。そのため,勇馬のそばには,第2親衛隊の5名がいるという状況になった。もともと後宮護衛隊は,周辺の状況を視察するという役目だ。だから,勇馬のそばにいないのは,おかしな状況ではないので,第2親衛隊の隊員もさほど気にしていなかった。


 ワオー,ワオーー!ーー


 今度は,3頭の狼が勇馬と第2親衛隊たちを襲った。


 勇馬「なに? 何で急に狼が襲ってくるんだ?」

 第2親衛隊長「今は,そんなこと言っている場合ではありません! 馬をおとりにして,逃げましょう!」

 勇馬「わかった!」


 だが,奇妙なことに,狼たちは,勇馬だけを狙ってきた。


 勇馬「なんで,俺だけ狙ってくるんだ?」


 狼が勇馬だけ狙ってくるので,第2親衛隊のうち,隊長を除く4名は,早々に勇馬の護衛を諦めた。


 だって,勇馬は,悪いウサワが耐えないし,親衛隊員に対して,いつも高圧的な態度をとっている。過去,第2親衛隊の仲間が,勇馬を庇って死んだことがあるが,その仲間に対して,一切のねぎらいの言葉もなかった。まさに死に損だ。


 襲ってくる狼はわずか3頭だけなので,もし,第2親衛隊5名が勇馬を庇って,職務を全うしたら,蹴散らすことは十分可能だ。でも,そうはならなかった。


 第2親衛隊たちは,今日の朝,後宮護衛隊の連中が噂話しているのをししっかりと聞いていた。


 「もし,狼が襲ってきたらどうする?勇馬様を護衛するのか?」

 「あほ!そんなことするわけないだろう。お前も知っているだろう?勇馬様の親衛隊で,命をはって守っても,犬死にするだけだよ。遺族への補償もないし,しかも,死んでいった親衛隊を,ノロマ,ドジだのと言われて,遺体さえも回収しなかったって言うぜ?狼に襲われたら,俺,自分の身を守ることに専念するぜ」

 「そうだよな。勇馬様は,次期城主様にはふさしくないよな。あーあ,この鹿狩りで,狼に襲われて死んでくれないかなぁー」

 「バカ,大声でしゃべるな。誰かが聞いているかもしれん!」

 「あっ,つい,うっかり!」


 この会話内容は,第2親衛隊員に,しっかりと胸に刻まれた。そんなこともあって,狼に襲われた時,この時の会話が瞬時に思い出して,第2親衛隊員は,自分を守ることに必死で,勇馬を守る行動を捨てた。


 第2親衛隊長と勇馬が,馬を捨てて,襲ってくる狼から逃げた。勇馬の捨てた馬は,第2親衛隊員のひとりに確保された。彼は,その馬に乗って,道を迂回して,事前に指定された場所に戻っていった。その彼は,第2親衛隊長にもっとも信頼の厚い隊員だった。


 馬を捨てた勇馬と第2親衛隊長だったが,所詮,2本足と4本足では,勝負が自ずと決まっている。狼から逃げ切れるものではない。


 勇馬は,已むなく,逃げるのを諦めて,狼3頭を剣で撃退することにした。彼は,剣技も達者だ。3頭のうち,一頭は確実に殺せる。あと2頭は,第2親衛隊長がカバーしてくれるはずだと思った。


 第2親衛隊長は,勇馬から5メートルほど離れた位置にいて,勇馬と一緒に狼と戦うか迷った。


 ピーー!


 どこからともなく,笛の音がした。すると,狼は,何を思ったのか,向きを反転させて,どこともなく去っていった。


 勇馬「ふう,助かったぜ。しかし,あの笛の音は何だったんだ?」

 第2親衛隊長「もしかしたら,狼使いの仕業かもそいれません」

 勇馬「何? あの有名な狼使いジャグラか?」

 第2親衛隊長「わたしは,ただ,可能性を言ったまでで,ほんとうかどうかはわかりません。それよりも,また,狼が襲ってくるかもしれません。ここは,鹿狩りを諦めて出直しましょう」

 勇馬「そうだな」

 

 勇馬は,その場で尻餅をついた。その姿を見た第2親衛隊長は,勇馬のそばに来た。


 第2親衛隊長「お怪我はありませんでしたか?」

 勇馬「おい,お前たちは親衛隊だぞ! 俺を守るのが仕事だぞ。自分たちがさっさと逃げてどうするんだ」


 第2親衛隊長は,頭をボリボリかいた。


 第2親衛隊長「不甲斐ない部下たちで,すいません。命あっても物種です。ですが,勇馬様が助かってほんとうによかった。馬も逃げてしまいました。今日はもう戻りましょう。また,狼が襲ってきたら大変です」

 

 その言葉に,勇馬は従うしかなかった。試すべき毒矢は失ってしまった。


 勇馬「まあいい。ところで,後宮護衛隊のやつらはどうしたんだ?」

 第2親衛隊長「さあ,いつの間にか姿を消してしまいました」


 勇馬と第2親衛隊長は,帰路につくことにした。帰るルートは,ほぼ一本道だ。しばらく歩いて,少し,見晴らしのいい場所に出た。


 パシュー!パシュー!--


 今度は,弓矢が藪の中から襲って来た。その矢のほとんどが,勇馬にヒットした。全身,弓矢だらけになった。


 その弓矢は,一度に5本が飛んできて,それが4回ほど繰りかえされた。その狙撃の腕は,訓練を積んだものの狙撃だった。


 20本の矢が,しかも,毒矢が,それも,勇馬が準備した10種類の毒矢が,ことごとく勇馬の体に突き刺さった。


 勇馬「え? これって,俺が準備した毒矢だ,,,

なぜ?」


 後宮護衛隊員の5名が,手に弓を持って藪から出てきた。さらに,その後ろから,勇馬の馬に乗った親衛隊員もいた。


 後宮護衛隊分隊長「さすがは勇馬様ですね。やはり毒には耐性がありましたか。このままでは,なかなか死にませんね」

 勇馬「貴様ーー!!こんなことをしてタダで済むとおもっているのか?!」

 後宮護衛隊分隊長「いいえ,思っていません。これから,激動の時代に突入していきます。

 わたしたちの隊長が夕霧様陣営についたことで,遅かれ早かれ,こうなる運命だったのです。それに,勇馬様は,敵を多く作り過ぎました。霧仁様も悪でしたが,勇馬様は,それ以上に悪です。わかっているだけで,女中5名を毒殺しています」


 この話を受けて,第2親衛隊長が言葉を続けた。


 第2親衛隊長「わたしの部下も,職務上とはいえ,2名が,落とさなくていい命を失ってしまいました。無念でなりません」


 さらに,勇馬の馬に乗ってきた第2親衛隊員も言葉を発した。

 

 第2親衛隊員「勇馬様が’毒殺した女中のひとり佑美は,わたしと結婚する約束をしていました。それが,,,結婚する1週間前に,突然,毒殺されてしまいました,,,」


 彼は,目から涙が溢れてきた。


 ゴホッ,ゴホッ,--(血を口から出す音)


 さすがに20本もの矢が刺さっているので,その激痛は激しかった。いくら毒に耐性があるといっても,その毒量は半端ない量だ。徐々に毒が効き始めていった。


 勇馬「なるほど,,,お前たち,率先してそんなことをしたのか,,,だが,明日には城主が戻ってくる。フフフ,どうやって,言い訳する気だ? 軍隊1200人が城主の命令で動くのだぞ?」

 

 後宮護衛隊分隊長「その点は,心配しなくていいと思います。われわれの凜隊長が,陣頭指揮をして城主様と藤斗様を討伐する手筈になっています」


 勇馬「なるほど,,,ということは,城主が入城する前に対策を打つということか,,,フフフ,ハハハーーー」


 勇馬は,気がふれたように笑った。でも,時々,血を吐いたので,その笑いは,途切れ途切れだった。


 勇馬「もはやこれまでか,,,さすがに毒も廻ってきたようだ,,,さらばだ」


 勇馬は,腰につけていた匕首を持って,自分の首を刺した。自害した。これ以上,毒で苦しむのを避けるためだった。


 その後,狼3頭を従えた狼使いのジャグラ,さらに,退避していて,事情をまったく知らされていなかった3名の親衛隊員もここに集合してきた。


 彼ら3名は,勇馬様が弓で殺されたことを知って,かつ,狼使いのジャグラも姿を顕したので,状況をすぐに理解した。


 ジャグラは,第2親衛隊長に挨拶した。


 ジャグラ「隊長,ご無沙汰しております」

 第2親衛隊長「こちらこそ。勇馬様の殺害の件,遅くなってすいません」

 ジャグラ「別にかまわん。みなしごの少女を拾って育てて,縁あって勇馬様の女中にしていただいたのに,,,毒殺されてしまうなんて,弥美もつくづく不憫な子だった」


 第2親衛隊長「今回,後宮護衛隊の律副隊長から,勇馬様殺害計画を提案されて,わたしは,図らずも二つ返事で同意しました。しかも,日頃考えていた勇馬様殺害計画を逆提案しました。彼も,わたしの計画に同意して,今回の殺人劇になりました。

 彼が期待していた事故死にはなりませんでしたが,この方法が,もっとも亡くなられた方々への無念さを晴らす方法だったと確信しています」

 

 ジャグラ「そうか,,,後宮護衛隊の律副隊長が発案者か。いずれ,どこかで,お礼を言わないといけないな。では,わたしはこれで失礼する。弥美の墓前に報告せねばならんのでな」

 第2親衛隊長「はい,後のことは,私どもにお任せください」


 その後,勇馬の遺体は,地中に埋設して隠蔽して,勇馬は,謝って崖から落ちて,川に流されたことにした。


 勇馬の母親への報告は,第2親衛隊の隊長と副隊長が行った。母親は,発狂するかのように隊長に罵倒して,いつも女中たちを鞭打っている鞭で隊長に放った。


 だが,その鞭は,隊長に当たらなかった。鞭が飛んでくるよりも早く,隊長は第2夫人の腹部を強打して気絶させた。その後,夫人の太ももに隠してある匕首を取りだして,夫人に持たせて,夫人の喉を刺した。自殺を装った。


 第2夫人の残虐さも城内では有名だ。女中をゴキブリと同じように扱う。それに対して,城主はいっさい何も言わない。第2夫人の父親の影響力を気にしてのことだ。その父親は,軍隊の第2隊長を務めている。その部下は,約200名。その影響力はかなりのものだ。


 ちなみに,梅山城の軍隊は,第1から第6部隊に分かれていて,それぞれ200人ほどの部隊だ。建前上は,第1部隊の隊長が,総大将を務めるが,敵の種類に応じて,別の部隊長が総大将を務めることもある。


 第1部隊は,遠征部隊とも呼ばれ,城主が外遊する際に同行する部隊だ。その際,普段,城下町の治安を担当する第2部隊が,城の留守を預かる。第3部隊から第6部隊は,城下町周辺の東西南北方面の守りを維持している。


 すでに亡くなった勇馬の第2親衛隊10名は,勇馬の母である第2夫人の護衛任務も行う。その護衛任務を預かる親衛隊長に反逆されては,もう,どうしようもない。第2夫人の『自殺』は,すぐに,第2夫人の父親である第2部隊長に通報された。


 小芳は,第2部隊の副隊長に会いにいった。


 実質,第2部隊のこまごまとした指揮をするのは副隊長だ。小芳は,第3夫人の名代という立場で,治安局棟の小会議室で,面談を持った。


 その意味では,小芳は,女中という立場でありながら,第2部隊の副隊長よりも,立場が上になる。


 小芳は,会議室の上座に座って,副隊長に,あるものを差し出した。それは,中級聚気丹だ。


 副隊長「え?これは? 聚気丹? それも中級? なんと!」

 小芳「はい,そうです。この意味,もうお分かりですね?」

 副隊長「・・・」


 副隊長は,なんとなく理解している。第2夫人の父親が隊長をしている。その息子,勇馬は事故死したという情報は,すでに副隊長の耳に入っている。でも,それを隊長にはまだ説明しなかった。別途,正式に報告すべき者がいると知っているからだ。


 小芳「返事がないようなので,はっきりと申し上げます。まもなく,あなたの隊長は事故死します。その後,すぐにあなたは隊長となって指揮をとってください。

 最初にする仕事は,遠征中の城主の偵察員が,ここに来るでしょう。その時に,対応すべき内容を記載しています」


 小芳は,そのメモを副隊長に渡した。副隊長は,もう,流れに任せるしかなかった。第2夫人が殺され,勇馬が事故死,かつ,その父親である隊長も,まもなく事故死する。かつ,遠征中に城主と藤斗も,討伐のターゲットにされている。


 それに,副隊長がすべきことは,大したことではない。城主の偵察員に,ちょっと,誇張した状況を報告するだけでいい。決してウソではない。ならば,将来,城主が返り咲いたとしても,責任はほとんどない。


 副隊長「分かりました。この聚気丹,いただきます」

 

 この言葉で,第2分隊の副隊長が,夕霧側についたことになる。


 この報告を受けて,勇馬の護衛を務めていた第2親衛隊長と副隊長は,城を預かっていて,治安局棟に常駐している第2部隊長の隊長,つまり,第2夫人の父親に会いに向かった。


 第2親衛隊長と副隊長は,大会議室に通された。そこには,第2部隊の隊長,副隊長,さらに,隊員5名ほどがいた。


 第2親衛隊長「実は,先日のことですが,勇馬様は,鹿を追っている最中に,馬が足をすべらせて,崖から落ちてしまいました」

 

 この言葉に,第2部隊長は,急に顔を真っ赤にして,その場から立ち上がって,激高した。


 第2部隊長「何だと? 貴様! それでも親衛隊長か?!」


 この時,親衛隊長は,机の下から,ヒモ付きの毒針を第2部隊長の太ももに発射した。


 ちょうど激高している時であったため,その針が刺さった痛みは,まったく感じなかった。


 第2親衛隊長は,毒針のヒモを巻き戻して,毒針をなんとか回収した。

 

 今度は,第2親衛副隊長が,なにやら,腰にぶらさがっている皮製の袋を開けて,床面に放った。それは,3匹のサソリだった。


 その異変に,第2部隊の隊員Aが気がついた。


 隊員A「あっ! サソリだ!」

 第2部隊長「なに?!」


 第2部隊長は,孫が死んだことに激高しているのに,今度は,床にサソリが這っている?


 第2部隊長は,その場から,去ろうとした。


 グラッ!


 第2部隊長「え? なんだ?」


 彼は,めまいが急にしだして,その場に倒れた。


 第2部隊副隊長「隊長!隊長! おい,すぐに,医者を呼べ!」

 隊員B「はい! すぐに呼びます!」


 隊員Bは,すぐに医務棟に向かった。その間,床に這っているサソリ3匹は,退治された。


 ややしばらくして,常駐している奥医者が大会議室にきて,倒れている第2分隊長の様子を見た。彼は,すでに息をしていなかった。床面にサソリが潰された痕があった。


 奥医者「どうやら,サソリの毒にやられたみたいです。残念ながら,もう手遅れです」


 この場で,サソリがどこから出てきたのかを問う者はいなかった。第2分隊の隊員たちは,すでに副隊長によって,言い含められていた。


 この時,伝令の隊員が来た。


 伝令「城主様の偵察隊の方がお見えです」

 

 この言葉に第2分隊副隊長が返事した。


 第2分隊副隊長「では,応接室に通しなさい」

 伝令「了解です」

 

 この場の後始末は,部下に任せて,第2分隊副隊長は,応接室に向かった。


 ー 応接室 ー


 応接室では,2名の偵察隊が待っていた。


 第2分隊副隊長「お役目,ご苦労様です。隊長は,今,急病にかかってしまい,わたしが対応します。ご了解お願いします」

 偵察隊A「急病ですか,それは大変ですね。それで,われわれが留守にしている間,何か異変が生じましたか?」


 第2分隊副隊長「異変ですか,,,実は,ある病が流行しまして,第3夫人の御子息,霧仁様が倒れてしまいました。その病は,ダイヤ病。 発病すると,1週間で死に至るとされています。霧仁様は,あと数日の命です。現在,城下町にこの病が蔓延しております。その対策に,多紀医師が陣頭指揮をして,門弟たちに予防薬を煉丹中です。

 優先的に,城主様たちと,城内の方々に配布するように頑張っているところです。今日の夕方には,予防薬ができますので,それを持って,戻っていただきたいのです」

 偵察隊A「なんと,,,でも,また戻るとなると,,,」


 偵察隊Aは,もう戻りたくないので,偵察隊Bに振ろうと思った。


 第2分隊副隊長「あっ,もしかして,もう戻りたくないのですね? では,多紀医師様,自ら持参するようにお願いしておきます。お届けは,明日のお昼になるかと思います」

 偵察隊A「それは助かります。では,その旨,伝書鳩で連絡します」


 それを受けて,偵察隊Bが,要件をメモ用紙に書いて,小さな筒の中に入れ,持参した伝書鳩の足首にしっかりと結び,窓から伝書鳩を飛ばした。

 

 これで,偵察隊の仕事は終わりだ。


 偵察隊A「あれ? ちょっとめまいがしてきた」

 偵察隊B「わたしも,ちょっと,具合が悪くなってきました」

 第2分隊副隊長「もしかして流行病かもしれません。医務室にお急ぎください」

 

 偵察隊の2名は,副隊長の部下に連れられて,医務室で軟禁された。


 

 第2分隊副隊長は,心の中で思った。『でも,多紀医師をここまで言いなりにさせるなんて,どうやったらできるんだろう? 』


 その多紀医師は,ある特殊な丹薬を大量に煉丹していた。なぜこんな状況に陥ったのか,,,話は,半日前に遡る。


 ・・・

 元後宮護衛隊隊長の凜が,多紀医師が所長を務める煉丹養成所に,ある依頼を持ってきた。それは,4時間以内に,精力丹を偽装した催眠丹250個を至急に煉丹して,多紀医師自ら,それを城主がいる待機場所に持っていくこと。しかも,その丹薬は,『ダイヤ病の予防薬』という触れ込みでだ。


 凜「以上が依頼内容です。多紀医師,お願いできますか?」

 多紀医師「何? なんで,そんな依頼を受ける必要があるのかな?」

 凜「多紀医師は,必ずそれを受ける必要があります。受けないととんでもないことになりますよ?」

 多紀医師「ほう?とんでもないこと? さて,それはどういうことかな?」


 凜「霧仁様が,そのようにいいなさいと云われました。どうぞ,この手紙を読んでください。その内容については,霧仁様しか知りません」


 凜は,銀次が小芳狐に書かせた手紙を多紀医師に渡した。多紀医師は,その手紙を読んだ。


 多紀医師の顔は真っ赤になり,彼の手は,みるみると震え,その手紙をグチャグチャにして,ちりぢりに破って捨てた。

 

 その手紙には,このように書かれていた。


『おーい,ヘボ医者!

 俺がダイヤ病だって? 誰がそんな診断をつけたんだ? 俺,霧仁は,ずーっと元気だぜ。何? 3名の病歴の患者がいる? ウソつけ! それは,俺が考えた病歴だ! ふん,簡単に幻覚に陥って,偽の情報を信じやがって,バカかお前! もし,これがバレたら,お前,もう,この国で煉丹師としてやっていけないぞ。

 まあ,やさしい俺様は,この事実を黙ってやる。素直に,凜の指示通り動け。動かないから,即時,この情報を公開する。煉丹師,医師として,仕事はもうできなくなるだろう。 以上 霧仁』

 

 この事実は,多紀医師にも心当たりがあった。後で,思い返すと,ダイヤ病の過去の患者について,口では何度か説明したものの,現実味が感じられないのだ。もし,ほんとうに幻覚に陥ったのなら,いったいどこで陥ったのか? いくら考えても分からなかった。


 多紀医師は,込み上げる怒りを抑えた。


 多紀医師「とりあえず,依頼は引き受ける。届け先を正確に教えなさい」

 凜「はい! 了解です!」


 凜は,多紀医師が,なんでこんな面倒くさい依頼を引き受けたのか,よく分からなかった。


 多紀医師は,弟子たちに,特急の依頼を申しつけた。それで,当面は,時間内に依頼の丹薬はできる。だが,それでだけでは面白くない。


 多紀医師は,試したい煉丹術があった。


 このままでは,一生,霧仁の奴隷に成り下がってしまう。ならば,,,あの手紙を書いた霧仁を,,,殺す!


 多紀医師は,試したい煉丹術があった。超やばい丹薬だ。毒とかではない。どちらかというと,符篆術に近い。禁断の煉丹術『爆気丹』だ。造り方をちょっとでも間違うと,大爆発を起こしてしまう。つまり,自爆してしまうほど超やばい煉丹術だ。


 でも,もう今の多紀医師には,もう後はない。『爆気丹』,彼は,それを煉丹する決心をした。その威力,爆裂符の10倍の威力がある。


 多紀医師は,凜に言った。


 多紀医師「では,ご依頼の煉丹が完成した際には,一度,霧仁様に,ご報告をさせていただいてから,城主様が待機している駐屯地に赴きたいと思います」

 凜「わかりました。では,幽霧庵でお待ちしております。駐屯地には,わたしもお供させていただきます」

 多紀医師「はい,こちらこそ,よろしくお願いします」

 

 多紀医師は,禁断の爆気丹を煉丹した。命の危険を顧みず,,,なんせ,煉丹する時に,気含石24個を使う。その煉丹レベルはS級! 多紀医師はS級煉丹師なので,理論上,煉丹することは可能だ。だが,S級の煉丹ともなると,S級煉丹師でも成功率70%前後。10回に3回は失敗する確率だ。失敗は,即,自爆となる。


 多紀医師は,その7割の成功率に自分の人生のすべてをかけた。そして,,,4時間後,爆気丹を煉丹することに成功した。後は,臭いを誤魔化すため,そこに,精力丹のコーティングをして完成させた。


 依頼された催眠丹250個も完成した。


 多紀医師は,それらを持って梅山城に向かった。


 ー 梅山城,幽霧庵 ー


 銀次は,相変わらず,ダイヤ病で瀕死の状態を装って,ベッドで寝ていた。


 凜「霧仁様,多紀医師様と奥医師がお越しになりました」

 銀次「そうか,通しなさい」

 凜「はい」


 凜は,多紀医師と奥医師を銀次の寝室に通した。横になっていた銀次が,ゆっくりと起き上がった。


 奥医師は,梅山城に常駐している医師で,上級煉丹師でもある。医療に関することは,奥医師が必ず同席することになっている。


 銀次「多紀医師,さて? 何用かな?」

 多紀医師「はい,ご依頼のダイヤ病の予防薬,250個が完成しました。中級精力丹でございます。これを飲めば,ダイヤ病の予防に一定の効果があることがわかりました。これを,郊外で待機している城主様一行に飲んでいただきたいと思います」


 銀次は,声を出すのも辛そうに演技して,言葉を発した。


 銀次「わかった。それで,,,わたしのダイヤ病は治るのかな?」

 多紀医師「それですが,ダイヤ病にかかってしまった場合,その治療方法はまだわかっておりません。ですが,すべての病を治すことが可能だと云われている超級精力丹であれば,霧仁様のダイヤ病も治療できるものと思います」

 

 この言葉に,奥医師が反応した。


 奥医師「え? 超級精力丹? それの材料って,いったいどうやって? 」

 多紀医師「実は,大変貴重な蛟竜のキモを入手できました」

 奥医師「何?伝説の蛟竜?それって,実在したのですか?」

 多紀医師「入手できたから,実在したのでしょう」


 多紀医師は適当に返事した。


 多紀医師は,特別な丹薬一個を銀次に渡した。


 多紀医師「その丹薬こそ,超級精力丹です。すぐに飲んでください。まもなく効果が期待できると思います」

 

 監視役の奥医師が見ている以上,飲まないわけにはいかない。奥医師は,城主の親戚なので,懐柔するのも困難だ。


 銀次は,罠の可能性はあると思ったものの,せいぜい下痢をするか,『気』のパワーを消失するくらいだろうとタカをくくった。


 銀次は,偽装された超級精力丹を呑んだ。


 銀次「これで,ダイヤ病は治るのですか?」

 多紀医師「はい,これで治るはずです」

 

 銀次と多紀医師は,お互い,演技を続けた。すべては,奥医師に信じさせるためだ。


 銀次「では,郊外で待機している父上に,予防薬を渡しに行ってください。凜と水香も連れていきなさい」

 多紀医師「わかりました。では,届けさせていただきます」


 多紀医師は,奥医師に挨拶して,凜と小芳狐を連れて,5kmほど離れた郊外で待機している城主と藤斗に予防薬を渡しに行った。


 

 ー 城主たちのいる臨時駐屯地 ー 

 

 その仮設テントで,城主,藤斗,親衛隊の連中,約10名ほどが待機していた。すでに,多紀医師が来ることは,伝書鳩で連絡を受けている。


 城主は,桜川城視察のため,2週間ほど留守にした。桜川城では,多くの兵士や民が死んだ。その死体をまじまじと視察した。そのためか,危機意識が異常に発達していた。それは,城主だけでなく,藤斗や親衛員,第1分隊の連中の同様だ。


 伝書鳩の連絡を受けて,城主は,密かに,別働隊の連中を梅山城に派遣して,いったい,何が起きているのかを探りに出した。


 こんな時のために,梅山城の後宮の敷地の外れに,城下町のある場所から,直接,侵入できるルートがある。特命を受けた2名は,城主の信頼厚い城主親衛隊長と,藤斗の第1親衛隊長の2名だ。


 彼らは,まず,藤斗の母親,第1夫人が住む菊音荘に,行くことにした。


 ちょうど,菊音荘では,何やら騒いでいる状況だった。彼らは,裏門から,こっそりと入って,何が起きているのかを探った。


 彼らは,見たのは,藤下層の大広間で,藤斗の第1親衛隊員で,居残り組の5名が,床に倒れていた。かつ,女中も倒れていた。


 第3親衛隊員たち8名全員が,菊音第1夫人に刃を向けていた。


 第3親衛隊長「菊音様,残念です。ここで自刃してください。それがイヤなら,首つりでも結構です。どちらかを選んでください」

 菊音「さては,第2夫人の自殺も,お前たちが仕組んだのね? もしかして,勇馬の失踪もお前たちがやったの? 城主は? 藤斗はどうなの?」

 第3親衛隊長「勇馬様は,謝って崖から落ちてしまわれました。城主と藤斗様は,わたしの役割ではありません」

 菊音「では,誰の役割なの?」

 第3親衛隊長「わたしもよく知りませんが,たぶん,後宮護衛隊の凜隊長が関与しているのは間違いないでしょう」

 菊音「ということは,,,首謀者は,夕霧? それとも,病に伏している霧仁?」

 第3親衛隊長「わたしは,霧仁様の護衛です。霧仁様の命令に従います」

 菊音「そうですか,,,霧仁ですか,,,もはや,これまでですね」


 菊音は観念した。懐に忍ばせている匕首を取り出して,自らの首を刺した。


 菊音は自刃した。


 それを窓越しから見ていた第1親衛隊長は,音を立てずにそこから去って,霧仁のいる幽霧庵に向かった。彼は,第1夫人・菊音の仇をとるため,差し違えても,霧仁を殺す覚悟だ。


 第1親衛隊長は幽霧庵に向かった。まさに,幽霧庵の正門に着こうという時,


 ドーン!


 爆発音がして,建物の一部が爆風で破壊された。その爆風と共に,何かを懐にしっかりと抱いた少女が飛ばされた。


 ダンダンダン!


 その少女は,地に激しく当たった。だが,もし,詳しくみることができれば,彼女の周囲に何か透明のクッションのようなものがあって,それによって,衝撃が大幅に緩和されたのを理解できただろう。その少女は水香だった。懐にしっかりと抱いているのは,銀次の頭部だった。


 というのも,銀次と水香があの最中に,銀次の腹部が大爆発を引き起こしてしまったのだ。


 だが,その大爆発も,水香の体を破壊することはできなかった。銀次が横になって,水香の胸の谷間に顔を埋めているときに,大爆発を引き起こしたので,その勢いで,水香を水平方向へと吹き飛ばしてしまった。


 また,それと同時に,水香はすぐに銀次の頭部をしっかりと抱いた。


 胴体をなくした銀次だが,魔体の頭部も,少なからず破損していた。


 銀次は,なけなしの魂力を使って水香に念話した。


 銀次『どうやら,多紀医師が与えた丹薬が爆発の原因だったようだ。フフフ,一本取られてしまったな。水香,ボクは,もう,この世から去る。後は,水香の好きなように生きなさい』

 水香『多紀医師への復讐はしなくていいのですか?』

 銀次『水香の判断に任す。最後に,ボクの霊体を水香のお腹の中に入れ込んでほしい』

 水香『はい,わかりました。ご主人様』


 水香は,その意味を瞬時に理解した。水香は今日が排卵日だとわかり,ついさきほど妊娠したと感じた。


 水香は,霊力の帯を銀次の頭部の周囲に展開して,銀次の霊力をやさしく覆っていき,それを子宮内に移動させていった。この方法がうまく行くのかどうかは不明だ。


 水香は銀次を失った。でも,自分のお腹の中で息づいている。思い返せば,メリルをお腹に宿すことから始まって,おかしな人生を歩んできたものだ。


 銀次は,このような事態になることは重々予想していて,その際,水香が取るべき行動を指示していた。それは,小芳の故郷,妖狐族の里に行って身を隠すことだ。


 第1親衛隊長は,すぐに吹き飛ばされた水香のところに来た。


 第1親衛隊長「おい,大丈夫か? 何があった?」

 水香「霧仁様が爆破されました。これ,,,霧仁様の頭部です」

 第1親衛隊長「なんと,,,犯人は分かっているのか?」


 水香は,いずれ多紀医師を自らの手で討伐することにした。だから,彼のことは黙っていることにした。


 水香「いえ,わかりません」

 第1親衛隊長「そうか。俺は,他に用事があるので,これで失礼する」


 第1親衛隊長は,すぐに,この場から去って姿をくらました。

 

 しばらくして,第3親衛隊員たちが,爆場現場に駆け寄ってきた。水香は,彼らに霧仁が爆死したことを伝えた。彼らは,驚いたものの,現場の状況から,当然,そのような状況だったのだろうと思った。


 彼らも,第1夫人・菊音が自刃したことを水香に伝えた。


 彼らは,水香に外傷がなく,応急措置も必要ないものと判断し,水香をそのまま放置して,第3夫人・夕霧に,今後の指示を仰ぎに夕霧荘に向かった。


 だが,,,夕霧は,ひとりでトイレに行く途中,何者かの手によって,刃物で刺されて死亡していた。


 付近の者たちや第3親衛隊員らが現場に駆けつけてみると,夕霧の体に,5,6本もの匕首が刺されていた。その匕首は,護身用に女中たちに配布されたものだった。


 柚花は,後宮の混乱の乗じて,夕霧に拷問を受けた女中たちが結束して夕霧を暗殺したのだろうと思った。いずれ,こんな日が来るとは思っていたが,意外と早かったようだ。柚花は,夕霧は事故死したことにして,犯人捜しをするのを止めた。もっとも,今の後宮の状況では,とても犯人捜しなどできるような状況ではない。


 水香は,ひとりになった。もはや,ここにいる必要はない。そこで,自分の体を保護色にして,空中に舞い上がり,小芳の古里のある方向に飛んだ。


 ふと,地上をみると,一台の馬車が走っていて,さらに後方からすごい勢いでひとりの男が馬に乗って駆けているのが見えた。その方向の先には,テントが多数設置された駐屯地が見えた。


 水香は,あの馬車には,小芳,凜,多紀医師が乗っており,今にもその馬車を追い抜かそうとしている男は,城主の先兵隊か偵察隊だろうと思った。


 その偵察隊が,馬車を抜かしたのを見計らって,水香は,高度を下げて,その馬車の屋根に降りて,声をかけた。


 水香「わたし,小芳です。キャビンのドアを開けてください」


 この声に,小芳がすぐに反応した。このキャビンの屋根に不時着できるのは,水香しかいない。小芳は,すぐに,キャビンのドアを開けた。それをみて,水香は,そこから,キャビンの中に入った。


 多紀医師は,ビックリ仰天した。なんで水香がこんなことができるのか? でも,凜はさほど驚かなかった。大妖怪の水香なら,出来て当たり前だと思った。


 水香は,すぐにでも多紀医師を殺そうかとも思ったが,止めることにした。まずは,小芳たちに後宮で何が起こったかを伝えることにした。


 水香「霧仁様が,爆死されました」


 小芳狐「ええ?! どうして?」

 凜「なんと!」

 多紀医師「・・・」


 水香「それと,第1夫人・菊音様が自刃されました」


 多紀医師「なんですって? また,どうして?」 

 小芳狐「・・・」

 凜「・・・」

 

 この反応で,誰がどのことを事前に知っているのかがわかった。


 小芳は,念話で水香に尋ねた。


 小芳『水香様,今後はどうされますか?』

 水香『ご主人様は,わたしのお腹の中にいます。しばらく,小芳の古里で,身を隠します』

 小芳『では,わたしがお供させていただきます』

 水香『それはダメです。ご主人様のプランに反します。小芳は,このまま『水香』を演じてください。もう,ご主人様の体がない以上,守るべきものがありません。城主と藤斗を事故死で殺す必要もありません。それよりも,ここに,大妖怪・水香がいることを明確にします』

 小芳狐『・・・,それって,計画が大幅に変更するってことですか?』

 水香『はい,そうです』


 ガン!


 その音と共に,多紀医師が倒れた。その後,徐々に年齢を重ねていき,老人となり,とうとうミイラにまでなっていった。多紀医師が身につけていた財布は,空中を移動して,水香が背負っているリュックの中に収納した。その後,キャビンのドアが開き,ミイラになった多紀医師が放り出された。


 凜は,霊力を見ることができない。財布が空中を移動するのは,水香の超能力なんだろうと思った。ヒトがミイラに変えられるのは,初めてみる現象ではない。でも,どうして多紀医師がミイラにさせてしまうのか?


 凜「あの,,,どうして多紀医師が殺されたのですか?」

 水香「霧仁様を爆死させたのは彼です。超級精力丹に偽装して,爆発する丹薬を呑ませたのでしょう」

 凜「まさか?爆気丹は禁忌の丹薬です。もし,,,,」

 

 この時,凜は,銀次から預かった手紙のことを思い出した。その手紙を見せたら,多紀医師が急に険しい顔になった。そのことに関係しているのではないかと予想した。


 その後,駐屯地に着いた時の手順について,打ち合わせた。


 ーーー

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