第23話 若旦那の回想
若旦那は,10年前の,10歳の頃の思い出を,また思い返していた。
♦ー♦ー♦
梅山城から200kmほど離れた場所に桂河城下町がある。そこからさらに奥地の山脈方向にいくと,三帝森林がある。その麓に村があり,そこで,当時10歳の少年,未来の若旦那は,まだ,桂河城で薬問屋を開店したばかりの父親と,薬草集めに来ていた。護衛は3名ほど連れていた。
ちょうどその時,梅山城の夕霧一行も来ていた。当時の凜は20歳で,上級前期のレベルで,凜の父親が後宮護衛隊長を務めていた。父親はS級前期レベルだった。
この三帝森林は薬草の宝庫だ。特に,冬獣夏草の棲息場所として有名だった。もし,それを発見できれば,聚気丹を10個ほど煉丹できるので,レベルアップや金儲けにもなる。
同時に,この地は,猛獣たちが跋扈する危険な場所でもある。それでも,上級レベルの腕前であれば,なんとかなる場所という認識があった。
その麓に村で,食事を取れる場所は限られており,当時の若旦那と父親は,たまたま夕霧一行と同じテーブルで食事する機会を持った。夕霧一行は,男性陣と女性陣に分かれて食事を取っていて,女性陣のところに,少年と彼の父親が相席し,男性陣のところに若旦那の護衛3名が相席した。
女性陣の顔ぶれは,夕霧第3夫人,柚葉,そして,当時,後宮護衛隊の一隊員だった凜の3名だった。当時10歳の少年は凜隊員の隣に座った。
凜隊員は,彼に料理を取ってあげて,かいがいしく世話をしてあげた。彼は,母親以外で世話を焼かれるのは,初めての経験だった。彼は少し顔を赤くして何も話せず,ただ,少し下を向いて,取り分けられた料理を食べるだけだった。
一緒に食事した縁で,翌日,夕霧一行と,少年一行が合流して,薬草採取すことになった。護衛部隊は,多人数のほうがいい。夕霧一行は,護衛が5名ほどいて,少年一行は3名ほどいて,合計8名の部隊となり,野営しても,護衛の負担が大きく低減できる。
このメンバーなら,狼の群れが襲ってきたとしても,十分に対処可能だ。
野営1泊,2泊,3泊としていって,種々の薬草を採取していった。もちろん,いろいろな猛獣に遭遇したが,戦わず逃げたり,戦ってが,敵わないと思って逃げたりした。
このことに気をよくしたのか,さらに奥地へと移動していった。
その道すがら,10歳の少年は,いつしか凜隊員がずーっと面倒をみるようになっていた。夕霧第3夫人は中級後期の腕前で,護衛などさほど必要もないし,柚葉も中級前期の腕前で,ぎりぎりなんとかなる感じだ。
一番頼りないのが,10歳の少年だ。そのためか,凜隊員は少年の護衛についた。
4日目の昼,崖を降りて,流れの急な川を,先に凜隊員の父親が対岸に越えて,ロープを通し,ロープを支えにして,他の者が対岸に移動した。少し危険に対して鈍感になっていた頃だ。それよりも,深部に行くに従って冬獣夏草を発見できる可能性が高いので,その期待に胸が膨らんだ。
しばらく行くと,植相が変化した。菌種が多くなった。
柚葉「あれ?あの菌種,茎がドクロを巻いているわ」
夕霧「もしかして,大蛇の死骸に寄生した冬獣夏草かもしれない」
夕霧と柚葉が,そこに駆けていき,冬獣夏草らしき菌株が生えている地中を掘り返した。大蛇の死骸の有無を確認するためだ。しばらく掘っていくと,大蛇の骨格の一部が出て来た。
夕霧「ヤッター!冬獣夏草に決定!上手に菌株を採取してちょうだい」
柚葉「了解でーす」
柚葉は,上手に冬獣夏草の菌株を採取した。
「痛ッ!」
護衛のひとりが足を抱いて倒れた。その時,一匹の蛇がサササーと地表を這って去っていった。その護衛は,慌てて解毒丹を飲んだ。
他の連中は,他の蛇がいないか,最大限の警戒した。
パシュー!パシュー!ーー
何か液体が,森林の樹木 飛んで来た。他の護衛隊が,すぐに気の防御を展開したが,解毒丹を飲むのに忙しかった護衛隊に,もろにヒットした。
ジューーー!
その液の体に接触したその部分が,溶解したかのように溶けだした。
ワーーー!
彼は人生最後の言葉を発した。その後,体が溶けて消滅した。
今は,溶けた護衛を気にしている場合ではない。液体が飛んできた方向に警戒した。
ガサガサーー
茂った草木で視界を遮ぎられていたが,何か大きなものが側にいるのは感じた。2つの目が光った。
藪から出て来たのは,ヒトだった。いや,正確には,ヒト型の姿をした蛇だ。全身鱗を纏って,顔は,蛇そのもの,それでいて,手に剣を持っていた。
S級である凜隊長の父親が口を開いた。
凜の父親「三帝のひとり,妖蛇の王,『妖蛇王!』か?!」
その妖蛇も口を開いた。
妖蛇「おまえたちは,そう呼ぶのか?やっと,ヒトの言葉を話し,ここまで変身できた。まだヒトの皮膚に変身させることができない。あと,4,5人は食べないとだめみたいだ」
凜の父親「われわれは,あなたを殺しに来たのではない。ここからすぐに去る。見逃してほしい」
妖蛇「お前たち,自分たちの墓を荒らされたらどうする? そのまま放置するのか? するわけないだろう?俺も同じだ。でも,俺様は寛大だ。そこの女3人とガキを置いていけ。だったら勘弁してやる。男は食べてもゴツゴツして好かん」
凜の父親「どうやら,見逃してくれないようだな。ここは,俺がなんとかする。お前たちはすぐに戻れ」
凜隊員「隊長,わたしも戦います!」
その言葉に,他の護衛員も,同じ言葉を吐いた。
凜の父親「無駄だ。死人を増やすだけだ。蛇王はS級に達している。ここでこれ以上,命を落とすな。お前たちの仕事は護衛だ。それぞれの仕事をしろ。凜もその少年を守れ。すぐにこの森林から出ろ。わたしもすぐに後を追う」
妖蛇の足元から,無数の蛇が出てきて,凜の父親だけでなく,背後にいる凜たちを襲った。凜の父親や護衛たちは,すぐに氷結弾を発射したが,クネクネとしてして,なかなかヒットしなかった。すぐに火炎弾に変えて攻撃した。
しかし,妖蛇も氷結弾を連射して,彼らを襲った。その威力,まさにS級レベル。それを完全に防御できるのは凜の父親しかいなかった。
凜の父親は,妖蛇の氷結弾を防御するのに忙しく,地を這う蛇までまかっていられなかった。他の隊員は,火炎弾を発射することで蛇を攻撃した。攻撃しながら,徐々に退避した。
だが,彼らの火炎弾は蛇の攻撃を緩めることはできなかった。
凜の父親「すぐに逃げろ! 逃げろ! 命令だ!」
この言葉に,凜たちは一目散に逃げた。凜は少年を抱いて逃げた。目標を失った多数の蛇は,一斉に凜の父親に向かっていった。
その後,凜の父親がどうなったのか,想像に難くない。妖蛇の氷結弾の連弾と多数の蛇を同時に防御するのは困難だ。
凜の父親は,たぶん,蛇の攻撃を無視して,加速技で氷結弾を回避して,妖蛇に剣風刃を放つ攻撃をするだろうと,凜に抱かれた少年は想像した。
しかし,いずれ,無数にいる蛇に噛まれてしまい,解毒丹を飲む時間を与えられずに,力尽きて死亡する可能性が高いと思った。
少年は,凜を見た。凜の目から涙が溢れていた。凜も,父親が生還する可能性は低いと思ったのだろう。
少年は,この時,心に決めた。
『凜をお嫁さんにする! そして,あんな蛇王なんかに負けない,絶対的な強さを身につけてやる! そして,凜の仇討ちを一緒にしてあげる!!』
その後,数日後に三帝森林を出て,採取した薬草を山分けした。
夕霧は,少年の父親に冬獣夏草の菌株をすべて渡した。
少年の父親「え? どうしてこんな貴重なものをわたしに?」
夕霧「これで聚気丹を煉丹してください。そのすべてをその少年に与えてちょうだい。若いその子だったら,S級,いや,場合によって,仙人レベルにだってなれるかもしれない。もし,仙人になったら,凜の父親の仇,取ってちょうだい」
凜隊員「わたしからもお願いします。わたしが今から聚気丹を飲んでも,S級にはなれるかもしれませんが,天女クラスには到底なれません。父の仇,あの蛇王を圧倒的な差で打ち負かすことはまず無理でしょう。
でも,この子の年齢なら,本人のやる気があれば,十分に仙人クラスになれる可能性があります。例え,仙人になれなくても,S級,それも後期くらいにはなれるはずです。十分に蛇王を倒せる力を身につけることができます」
凜は,膝を曲げて,少年の顔を直視して言った。
凜「ボク,どう?強くなりたい?」
少年「うん! 強くなって,仙人になる!絶対的な強さを身につける!そして,お姉ちゃんをお嫁さんにする! お姉ちゃんと一緒にあの蛇王をやっつける!」
この言葉に,凜だけでなく,周囲の護衛たちも笑った。ひとしきり笑ったあと,凜は言葉を続けた。
凜「じゃあ,仙人になったらプロポーズしてね。でも,そのためには,お父様にその菌株から聚気丹を煉丹してもらうようにお願いしなさい。そして,近くの武林道場で修行をしなさい」
少年「うん!わかった。お父さん!その菌株を受けとってください!ボク,強くなりたい!」
少年の父親「・・・,わかりました。この冬獣夏草を受けとります。この子を立派な戦士に育ててみせます。そして,もし,この子に才能があって,仙人になったら,この子の夢を実現させてあげたいと思います」
♦-♦-♦
若旦那の回想は終わった。凜隊長は,父の仇のことは忘れないと思うが,当時の少年の約束ことなど覚えていないだろう。それに,彼の薬問屋の本店は桂河城下町にある。梅山城下町にあるのは支店だ。少年のことなど,記憶にはあっても,思い出すことはないだろう。
当時の少年の父親は,桂河城にもどって,S級煉丹師に,中級聚気丹10粒を煉丹してもらった。謝礼として2粒を渡した。残り8粒は,少年に与えられた。すぐに1粒飲んで,基礎から初級レベルになった。歳を重ねるごとに1粒飲んだ。11歳の時,中級になって,林弦宗に入宗した。そこで,剣術だけでなく,煉丹術も勉強した。12歳の時,中級後期に達した。13歳で上級前期,14歳で上級後期,15歳でS級前期となり,2代目芭蕉仙人に見いだされて,彼の直弟子となる。この時から,林弦宗を退宗した。すでに,林弦宗で覚えるべきことは何もなかった。
16歳でS級中期,17歳でS級後期となった。ここで聚気丹がなくなった。でも,もう聚気丹は必要なかった。
18歳で,とうとうS級を越えて仙人クラスとなった。2代目芭蕉仙人は,その象徴ともいうべき仙器の扇子を彼に与えて,3代目芭蕉仙人と名乗ることを許可した。2代目芭蕉仙人は引退して,仙界に戻った。
19歳になった時,梅山城下町で支店を開き,商売を開始した。その半年後,商売が軌道に乗ったので,晴れて,梅山城の後宮護衛隊長をしていた凜隊長に,彼女の親戚を通じて見合い話を持っていった。しかし,けんもほろろに断られた。ならば,口の達者なお節介ばあさんに依頼して,再度,見合い話をもっていった。それでも断られた。
そんな時,後宮護衛隊の律副隊長が,中級聚気丹を売りにやってきた。番頭は,すぐに若旦那に連絡した。
そして,今回の騒動になったというわけだ。
3代目芭蕉仙人である若旦那は,小芳との戦いを思い返した。あの,自分の足を絡めた透明のエネルギー体はいったいなんだったのか?『気』の操作では,あのような芸当はできない。
彼は,情報を集めに,一度,真天宗に行く必要を感じた。仙人や天女の絡む重大事件が起きた場合,その情報は,真天宗に集約するという決まりがあるからだ。
でも,今は,慌てることはない。まず,凜隊長との結婚までのスケジュールを決めるのが先決だ。
ーーー
一方,小芳たちを乗せた馬車のキャビンの中では,女性たちによる結婚話に花が咲いた。その実,小芳がひとり騒いでいた。菊江は,ただ,顔を赤くしていた。
小芳「いいなぁ,いいなぁーー,菊江さんは,律副隊長のお嫁さん,凜隊長は3代目芭蕉仙人で,かつ,来福薬問屋の若旦那様。超強くて,超ハンサム! しかも,超若い! うらやましいー!」
凜隊長「ふん,わたしなんか,もういい歳だから,10番目くらいの妾がせいぜいだわ。でも,どうして,わたしみたいな年増を妾にほしいのかしら?以前は,見合い話ももってきたし?
あれだけ強くて若くてハンサム,しかも,お金もあるなら,天下の若い美女なんて,よりどりみどりでしょうに」
小芳「女は顔よ,顔!凜隊長はお城でも,唯一の月下美人よ。あの若旦那もそれでまいったのよ! それよりも,よく藤斗様や勇馬様からお嫁さんの誘いが来なかったわね」
凜隊長「誘いはいくらでもあったわ。でも,わたしの夫の条件は,わたしよりも強いことが絶対条件だって言ってやったら,みんな引き下がったの」
小芳「そんなこと言ったら,わたしなんか,絶対結婚できないわ」
凜隊長「水香様の結婚の条件はなんですか?」
小芳「わたし? そうね,,,わたし,霧仁様の奴隷だから,霧仁様の言葉に従うわ」
凜隊長「え?でも,いくら女中でも,いやなことは断れるのでしょう?」
小芳「そんなこと考えないことにしているの。必要なら娼婦にだってなれるわ。乞食とだって結婚できるわ。それは,ここにいる小芳も同じよ」
凜隊長「ふーん,でも,霧仁様って,どうやって仙人にも匹敵する強者の水香様を女中にできたの?それが不思議でならないわ」
小芳「ふふふ,,,いずれ分かる時が来るわ。ともかく,凜隊長は,今から,若旦那様と結婚するまでは,わたしの奴隷よ。理解しましたか?」
凜隊長「はいはい,ご主人様」
・・・
小芳たち一行は,無事に梅山城に戻った。菊江は後宮護衛隊の律副隊長に引き渡された。その後,小芳たちは,幽霧庵に戻った。
凜隊長は,小芳の部下として銀次と面談した。
銀次は,ベッドから体を起こして,新しい部下の凜と面談した。
銀次「あなたが凜ですか?」
この言葉に,凜は違和感を覚えた。何度も会っているのに,初対面のような言葉使いだ。しかも,顔面の半分が包帯で巻かれている。素顔がはっきりしない。
凜「はい,凜です。このたびは,元部下,律副隊長のために,いろいろと骨を折ってくださり,誠にありがとうございます」
銀次「いや,別に構わない。それよりも,明日の勇馬兄さんの事故死の件,問題なく実行できるのですね?」
凜「はい,律副隊長が,すでにアレンジ済みです。明日になれば自ずと結果がわかると思います」
銀次「わかりました。ありがとうございます。では,明後日の,城主と籐斗兄さんの事故死ですが,何か,いい案はありますか?」
凜「正直言いまして,帰路途中で,盗賊に襲わせるくらいしか,いい案がありません」
銀次「盗賊ですか,,,何か具体的にな盗賊団は思いつきますか?」
凜「この辺ですと,山吹組くらいでしょうか? 娼館の運営を影で牛耳っている連中です。武闘派というわけではありませんが,でも,組織力はありますので,うまくけしかけることができれば,なんとかなるかと思います」
銀次「もっと,具体的に言ってもらえますか? 凜が自分で行動するなら説明は不要ですが」
凜「・・・」
凜は,自分の言うことが,そのままほんとうに現実になってしまうかもしれないと思って,少し,恐怖を感じた。それに,なによりも,この『霧仁』,絶対に,霧仁ではない!別人だ。
この時,水香が珍しく声をあげた。
水香「ご主人様,凜様は,ご主人様が以前の霧仁様ではないと確信しました」
凜は心の中で叫んだ!
凜『え? 何? 小芳は人の心が読めるの?』
小芳も,水香を見た。
小芳『さすがは水香様!わたしの真のご主人様!その能力,もう,ほんとうに神様です!!』
銀次「そうか,,,もうバレてしまったのか。凜,そうだ。わたしは霧仁ではない。母である夕霧様も了解してもらった。以前の霧仁は死んだ。わたしは,あたらしい霧仁だ。もういいかな?何か疑問があるなら,答えるぞ?」
凜「そうなんですか。わかりました。あの,,,今の霧仁様は,どれくらい強いのですか? 一応,われわれ味方の戦闘力を確認したいと思いますので」
銀次「わたしは,水香から,少し力を分けてもらっているので,自分の身を守れるくらいのことはできる。その程度だ。それでも,凜が10人いても,わたしを殺すことは無理だと思う」
凜「なんと,,,それって,すでに仙人クラス!」
銀次「仙人って,なんともレベルが低いものだな。それでも,『気』のパワーだけでここまで進化させてきたのは,賞賛に値する。なんとも不思議な世界だ」
凜「・・・」
凜は,自分が実践すれば,こうするだろうという案を述べた。
凜「山吹組は,ここから20kmほど離れた山岳地域を根城にしています。その周辺の地域は,すべて彼らの領地みたいなものです。彼らは梅山城へも納税していますので,お城とは敵対関係ではありません。ですが,山吹団長に,それなりの利権,たとえば,山吹団長を軍隊の隊長にするなどの取り引きを行えば,行動を起こしてくれる可能性があります」
銀次「では,すぐに行動を起こしてくれ」
凜「え? いまからですか? もう夜ですよ」
銀次「時は金なり。時間がない。城主が城下町に戻ってくるまでに襲う必要がある。すぐに行きなさい」
そんなこと言われても,いくらS級になったからといっても,凜ひとりでは,さすがに心細かった。
凜「あの,,,水香様を同行させてもいいですか?」
銀次「では,小芳を連れていけ。水香には他の仕事がある。小芳,凜と一緒に行きなさい。凜が交渉に成功すればよし。もし,交渉に失敗すれば,小芳の判断に任す。凜の命令には従うな」
水香「はい,ご主人様」
この判断に小芳が懸念を示した。
小芳「え?どうして小芳を連れて行かすのですか?最悪,大変な結果に,,,」
銀次「小芳にも,少しは自分で考えるようにしたほうがいい。どんな結果になろうが構わん」
小芳「まあ,,,そうですが,,,」
凜は,まだ,水香の能力が不明だった。サトリの能力はあるようだが,戦闘力はゼロとう理解だ。でも,銀次が命じた以上,それなりに隠れた能力はあるのだろうと思った。
ーー
馬に乗った凜と水香は,一路,山吹組のアジトに向かった。
1時間半後,彼女らは,アジトに着いた。凜の身分が後宮護衛隊隊長であることは有名だ。『月下美人の凜隊長』,その名は,周辺地域に轟いている。夜10時にもかかわらず,山吹団長のいる応接室に通された。
団長は,女性たちの拷問室から直接,応接室に来た。団長のとなりには女性秘書もいた。
団長は,久しぶりに凜隊長を見た。相変わらず美人だ。その隣にいる少女は,一見すれば,超可愛い顔をして胸も超級のふくよかさだ。
団長「これはこれは,凜隊長,大変,ご無沙汰しております。城主様の誕生祝いの宴以来ですから,もう半年ぶりになりますね。でも,『月下美人の凜隊長』という名は,ほんと伊達ではありませんね」
凜「ありがとうございます。ですが,わたしはもう隊長ではなりません。第3夫人のご子息,霧仁様に仕える部下のひとりです」
団長「ほほぉ,そうですか。それで?こんな時分に,何用ですかな? それに,隣の少女は,わたしへのお土産ですか?」
凜「残念ですが,そうではありません。わたしがうまくことを運ぶかどうかのお目付役といった感じです」
団長「お目付役ですか。凜隊長ほどの方をお目付役できるとは,なんとも面白い」
凜「あの,早速,要件に入ってよろしいでしょうか?」
団長「結構です。どうぞ」
凜「では,申し上げます。梅山城を第3夫人の夕霧様の天下にしたいのです。ついては,団長の力を貸してください。具体的には,城主と第1夫人のご子息藤斗様一行を,明後日,帰城するまでに,襲ってもらいたいのです。彼らを首を取ってほしいのです。その対価として,団長には,梅山城の軍隊の隊長の地位を約束しましょう。団長の部下を軍隊の隊員にすることも自由です。その権益は膨大なものになると思います。軍隊の名を借りて,悪辣し放題,城下町の婦女子を自由に犯すのもいいでしょう。どうです? こんな場所でくすぶっていないで,一発大逆転を狙ってはどうですか?」
団長は,何度か溜息をついた。
団長「大変魅力的な話です。ですが,城主と藤斗様一行となると,その護衛は200名は下らないでしょう。リスクが大きすぎます。
それに,仮にうまくいったとして,わたしは,城主殺しの大悪党として討伐されてしまう可能性もあります。凜隊長のおしゃる言葉が真実だと足る証拠がほしいのですが」
凜「例えば,どんな証拠でしょう?」
団長は,ちょっと卑猥な顔をした。
団長「そうですね,,,そこのお目付役の少女を,今晩,わたしの自由にしていいのなら,凜隊長の言葉を信じましょう」
凜は水香を見た。
水香は,大きく溜息をついた。
水香「凜様,これって,交渉失敗ということでいいのですか?」
凜「・・・」
凜にこれ以上のアイデアはない。
凜「はい。交渉失敗です」
水香「では,凜様は,もう発言しないでください。わたしがご主人様のかわりを行います」
そう言われては,凜は,どうしようもない。でも,水香は,いったいどうしようと言うのか?
水香「団長,素直に,凜様の言った言葉を実行してください。さもないと,あなたの隣にいる女性の首が飛びます。今から,10秒で判断してください。10,,,9,,,8,,,」
水香はカウントダウンした。
団長は,立ち上がって,水香に向かって怒鳴った。
団長「なんだお前?!気でも狂ったのか?」
水香「6,,,5,,,4,,,」
団長は,となりの女性をすぐに部屋から退避させて,去らせた。その女性は,急いで駆け足でその場から去った。
水香「3,,,2,,,1。残念です。首を刎ねます」
その女性は,ここから20メートルほど離れていたが,首が飛んでしまった。
遠くで,何か騒いでいる声がして,すぐに,部下のひとりが応接室に飛んで来た。
部下「団長!大変です!団長秘書が,,,秘書が死んでしまいました。首が飛んで死亡しました!」
団長「なんだと??」
水香「今度は,その部下の首が10秒後に飛びます。10,,,9,,,8,,,」
この時になって,初めて団長が恐怖を覚えた。だが,その部下はそうではなかった。
部下「なんだ?てめえ? 首が飛ぶ?」
部下は,腰にぶらさがっている剣を抜いた。
シュパー!
その部下は,その場で首が飛んだ。血しぶきはいっさい出なかった。
ドサ!コロコロ!
部下の胴体と頭が地に倒れた。
水香「団長,もう一度いいます。凜様のことばを実行してください。さもないと,10秒後ごとに部下をひとりずつ首を落としす。10,,,9,,,8,,,7,,,」
!
団長「まっ,待て!待ってくれ!なんで,こうなるんだ?」
団長のその言葉に反応せず,水香はカウントダウンをした。
水香「3,,,2,,,1。今,一名の首を刎ねました。10,,,9,,,8,,,」
それと同時に,また,騒動が起きて,別の部下のひとりが,応接室に飛んで来た。
部下「団長!大変です!また首が,,,」
その部下は,その言葉を中断した。そこには,首のない死体が転がっていた。
水香「3,,,2,,,1」
団長「待て!!!」
だが,団長の言葉は意味がなく,その部下の首がまた飛んでしまった。
水香「10,,,9,,,8,,,」
水香はまた,カウントダウンをした。
水香「6,,,5,,,4,,,」
団長の顔は,真っ青になった。
それよりも凜だ,凜は,水香は,ほとんど戦闘力はないと思っていた。ところが,,,水香の力は何? いったい,この力は何? 水香は神様? 悪魔? それとも 大妖怪? 絶対に,その能力は,仙人や天女以上の化け物だ!!
こんな力があるなら,わざわざ団長に依頼しなくても,水香を動かせれば事足りるのに! 銀次の考えが理解できなかった。
凜は,殺された死体がみるみるとミイラ状態になることまでは観察する余裕はなかった。
団長は,もうパニクってしまって,どうすれば水香を止めれるか分からなかった。
団長は,応接室を離れて,部下たちをここから,できるだけ退避させようとした。
水香は,団長が逃げたので,もはやこれまでと思った。
水香「残念ですね。では,全員皆殺しにします。すべては,凜様が交渉に失敗したことが悪いのです。凜様,戻りますよ」
凜「え? 皆殺し? ええ? どうして?」
水香のおっぱいがドンドンと膨れ上がっていった。濃縮に濃縮を重ねて,Iカップにしたのだが,その重さは50kgにもなってしまった。
凜は,とにかく,周囲の状況がどうなっているのかを確認することにした。団長の死体をすぐに発見することができた。至るところ死体の山だ。異変を感じて,宿舎から出てきた連中が,のきなみ殺されていた。
凜は,宿舎の中に入ってみた。女性と子どもは殺されていなかった。女性で殺されたのは秘書だけだった。しかし,宿舎内の男性はことごとく殺されていた。しかも,心臓部に鋭い何かで刺されているようだった。
凜「いったい,どうやったら,こんなことができるの? あれ? この死体,ミイラ状になっている。え? それって,桜川城で発見された死体も,確か,ミイラにされていたって,,,」
水香は,応接室に座ったまま,霊力の場を展開していって,て,100人,,200人,,,400人と殺害していった。
ミイラ化するには,少々時間がかかるが,凜が戻るまでは,のんびりとミイラ化すればいい。
凜は,さらに周囲をくまなく視察した。周辺の警護をする団員も死亡していた。凜は,涙が出てきた。いったい,あの『小芳』って,何なの?
この時,凜は,ふと水香に分した小芳が銀次に訴えた言葉を思い出した。
♦-♦-♦
小芳狐「え?どうして小芳を連れて行かすのですか?最悪,大変な結果に,,,」
銀次「小芳にも,少しは自分で考えるようにしたほうがいい。どんな結果になろうが構わん」
小芳狐「まあ,,,そうですが,,,」
♦-♦-♦
このやりとり,,,凜は,小芳に分した水香こそ,桜川城を壊滅に追いやった大妖怪だと結論づけた。水香に比べたら,小芳の強さなど,痴戯に等しい! そして,自分の強さなどゴミだ!
・・・
4時間後,,,
凜と水香は,なんの成果もなく銀次のもとに戻った。すでに,翌日の朝3時頃になっていた。
目を真っ赤にした凜が銀次に報告した。
凜「わたしの交渉は失敗に終わりました。その結果,,,小芳が,山吹組を壊滅させてしまいました」
小芳「やっぱりね。そうなると思ったわ」
銀次「凜,お前の思慮の足りなさが,この最悪の結果を招いたんだぞ。反省しなさい! いや,厳罰を与える! 小芳,今からお前に血の池拷問のイメージを送る。それを凜に現実のように体験させなさい」
水香「はい,ご主人様!」
水香は,銀次から念話でイメージを受けた内容を霊力の帯に転写した。水香は,自分の両手を凜の頭に当てて,その霊力の帯を記憶層に注入して,記憶層に転写していった。
銀次の考えた血の池地獄,それは,拷問官の鬼がトゲトゲのある棍棒を用いて,人が20人も入ることのできる大きな釜の中で,体中を殴り倒されるというものだ。おっぱい,お尻,太もも,腕などなど,そこから血がどんどんと吹き出ていった。しかも,それをされながら犯されていく,,,死んだと思ったら,かんらかの秘術で完全な元の体にされて,再び,同じことを繰りかえされていく,,,
そのイメージを夢体験している間,凜は,自分の服をやぶりすすって裸となり,自分の爪で乳房,乳首,お尻,さらにあの部分まで掻きむしったり,刺し込んだりしていった。
凜は,全身が血に染まっていった。
小芳「ご主人様,このままでは,凜様がほんとうに死亡してしまいます!」
銀次「ふん,これくらいでは死なん」
小芳「でも,もう乳房がほとんど自分で破壊してしまってます!それに,あの部分も,お尻も大変な状況です!もう出血多量で,気の治癒術でも絶対に回復できません」
銀次「そこまで言うならしょうがない。小芳,回復魔法をかけてやれ。拷問は中止だ」
水香「はい,ご主人様」
銀次は,水香は,凜に記憶の夢体験を中止させて,回復魔法を全身にかけてあげた。
30分後,,,,
凜の破壊された胸,お尻,陰部,などなどがすべて完全に回復していった。凜のDカップだった胸は,期せずしてGカップにまで変化してしまい,お尻も一回り大きくなってしまった。
夢地獄から目覚めた凜は,ハッと我に返った。青白い顔がさらに悲惨な顔になってしまい,胃が空っぽなのに,ゲーゲーと吐いてしまった。
しばらくして,さきほど体験したのは,夢だったと思い直して,少し,気分が落ち着いてきた。
銀次「凜,少しは,自分が犯した過ちを理解したかな?また,同じ失敗を繰りかえすと,さらにひどい地獄をみることになる。キモに命じなさい!」
凜「・・・」
凜は,この時,真の意味で,銀次たちが,とんでもない連中だと理解した。拷問は,凜もある程度,実施したことがある。その意味では,多少は免疫がある。その凜をしても,あの夢地獄は,あまりに悲惨で強烈な感覚だった。
おまけに,時間が経つたびに,虐待拷問によるレイプで,超がつくほどの快感まで感じしてしまった。もう,正常な愛の行為などできなくなったのではないかと思うほどだ。
凜「はい,,,これからは,もっと,思慮深い案を考えます。ですが,小芳にあれほどの能力があるなら,どうして,小芳を使わないですか?」
銀次「『小芳』の能力は,最重要機密だ。決して口外してはならない。あの盗賊団でも分かったろう? 彼女の能力を見たものは死だ。凜の説得が失敗した時点で,盗賊団の壊滅は確定した」
凜「では,小芳を使って,城主様たちを皆殺しにしてはどうですか?」
銀次「それでは,目立ちすぎる。また,仙人が出てくるかもしれない。仙人は,水香の能力を可視することができる。水香の優位性が大幅に低下する。1対1なら負けることはないが,複数の仙人で攻撃されたら,勝つことは困難だ。いいか,桜川城を壊滅しのたのは,『水香』だ。『小芳』ではない」
凜「え?それって,もしかして,小芳と水香,名前を変えているの?」
銀次「やっと気づいたか。そうだ。いずれ,『水香』は,仙人に討伐されてしまう。『水香』には悪いが,捨て駒になってもらう」
小芳「ご主人様,十分に心得ております。そのための準備も,少しずつ準備しています」
銀次「よし,『水香』,お前は優秀だ。役に立つ」
小芳はウソでもそのように言うことにしている。だんだんと銀次の取り扱いが上手くなった。
銀次は,凜をじろっと見た。
銀次「凜,もう一度チャンスを与える。城主たちを事故死,もしくはリスクなく討伐する方法を今日の昼までに考えろ。目付役は同じく『小芳』だ。今度,失敗すれば,この梅山城のすべての男連中を皆殺しにする。その場合,凜,お前にもう用はない。血の池地獄で,そのまま死ね! あの世でふがいない自分を恨め」
凜「・・・」
小芳は,新しい着物を持ってきて凜にかけてあげた。凜は,それを着て,やっとGカップの胸を隠すことができた。だが,そんなことはどうでもいい。自分の考えひとつで,何万にもの無垢な男性が死んでしまう,,,その重責の重さに,血の池地獄で,死んで詫びてもいいとさえ思った。
血の池地獄,,,最初こそ,あまりの激痛にどうしようもなかった。でも,徐々に快感を感じていき,最後には,体が破壊されることによる狂気の絶頂感,,,もう一度,体験してしてもいいとさえ思った。
凛は,,,変態になった。こんなんで若旦那の妻になれるのか,,,??
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