第18話 夕霧荘
ー 夕霧荘 ー
夕霧は,城主の第3夫人になる。城主の相手をする以外は,暇なので,女中たちに,自分の趣味で煉丹術を教えている。今では,一定数の丹薬を市場に卸しており,売り上げも好調だ。
彼女たちの身分は,もう女中ではない。煉丹術のレベルに応じて,基礎,初級,中級煉丹師と称するようにしている。中級煉丹師は,ひとりいて,この夕霧荘をしきっている。彼女の名は,柚葉,32歳になる。子供頃から夕霧に仕えて,幼少の頃から夕霧と一緒に煉丹術を修得してきた。
柚葉は,最近,少々,困った問題がある。夕霧のひとり息子,霧仁,12歳に仕える女中がいないのだ。彼は,半分,狂気の世界に住んでいて,女中を拷問するのが趣味だ。霧仁の女中付きになって,1ヶ月もしないうちに女中が殺されてしまう。すでに,3名の女中が殺されてしまった。人権などない女中は,殺され損だ。
霧仁の教育係も,もう,手につけようがない状況だ。霧仁は,母親の夕霧には,上手に愛想を振りまいていて,女中は,怪我して死んだと報告している。夕霧は,霧仁を溺愛しているので,彼を罰することは決してない。
柚葉は,太監から新しく入った水香を託した。
太監「柚葉様,こちらが,あたらしい女中の水香です。文字を読めますので,煉丹術の修得も早いと思います」
柚葉「あらあら,まだ若そうなのに,それは有り難いです。では,こちらで預かります」
柚葉は,水香を引き取った。
柚葉は,水香の性格を診るため,彼女と面談した。
柚葉「水香,あなたの服装,それ,娼婦服ですよね。あなた,娼婦をしていたのですか?」
水香「はい,娼婦しかできなかったので」
柚葉「なるほど,,,客の中には,あなたを拷問するような方はいましたか?」
水香「いえ,いません」
柚葉「そうだよね,,,拷問に耐えるのは,簡単ではないものね,,,」
その後,柚葉の背後から声が聞こえた。その声の主は,霧仁だった。
霧仁「お? 今度の新人は,めっちゃ巨乳で美少女じゃねえか。ヒェヒェヒェ,こりゃ,ええや。おい,柚葉,この女,俺に廻せ」
柚葉「霧仁様,申し訳ありません。水香は,丹薬製造の要員です。霧仁様には,別途,新しい方を準備しますので,少々お待ちください」
霧仁「柚葉,おいおい,俺の言うことわかんねえのか? 俺がママに一言いえば,柚葉を首にだってできるんだぜ? どうするんだ? えー, おい!」
柚葉「・・・,わかりました。やむを得ません。水香,あなたのご主人が決まりました。霧仁様です。彼に仕えてください」
水香「わかりました。霧仁様に仕えます」
水香は,自分と外見的な年齢が自分と変わらない霧仁に,挨拶代わりに頭を下げた。
霧仁は,水香を手に入れた。
霧仁「水香,俺について来なさい! 水香の部屋を準備してある」
水香「はい,霧仁様」
柚葉は,霧仁が水香を連れていくのを見て溜息をついた。水香は,1ヶ月以内に死亡してしまうと思った。
霧仁は,水香に準備した部屋を案内した。そこは,後宮にある一角の建物だ。幽霧庵という標識が掲げられていた。
ー 幽霧庵 ー
霧仁「水香,ここに住みなさい。わたしは,ちょっと打ち合わせがあるので,しばらく留守にする。それまで体を休めなさい」
水香「はい,霧仁様」
水香は,意外と広い和風様式の建物に住むことができた。
水香は,リュックを置いて,ベッドを見つけてそこで仮眠した。水香自信は,寝なくていい体になっているのだが,別にすることもないので,仮眠するのが水香流だ。
リュックの中から,一匹のネズミ大の狐が出てきて,体を元の大きさに変えて,さらにヒト型に変身した。Dカップの胸をした13歳くらの美しい少女の姿だ。
奥のタンスには,女性ものの着物が多くあったので,適当にそれを着た。
美蘭は,水香のベッドにそばに来て,正座して水香が起きるのを待った。
水香は10分ほどで目覚めた。人の気配がしたからだ。
水香「そこにいるのは誰ですか?」
美蘭は,深々と頭を下げた。美蘭は,自分を美蘭にするか,それとも,小芳にするか迷った。でも,神人である美蘭の名前を出すのはまずいと思ったので,今後は,小芳で通すことにした。
小芳(美蘭)「わたし,小芳といいます。少女の外見をしていますが,以前,あなたの乗っている馬車を襲って,串刺しにされた妖狐です」
水香「妖狐?」
小芳「はい,妖狐です。今から変身して元の姿を示します」
小芳は,着ている服を脱いで,Dカップの美しい体を晒した後,大型犬相当の大きさの狐姿を示した。さらに,ネズミ大の大きさにも変化させてみせた。その後,また,ヒト型に戻って服を着た。
水香「すごい変身能力ね。しかも,体の大きささえも自由に帰れるのね。わたしにはそこまで出来ないわ」
小芳は,ちょっと得意顔になった。変身能力,それは,小芳の最も得意とするものだ。
小芳「失礼ですが,あなた様を何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
水香「水香でいいわよ」
小芳「では,水香様,お願いがございます。わたし,小芳を,水香様に仕えさせていただけないでしょうか?水香様の弟子,いえ,奴隷にさせていただけないでしょうか?」
水香「え?」
小芳「不思議に思うのも最もでございます。実は,水香様の奴隷として仕える見返りに,水香様の持つ強大な力を分けていただき,わたしを強者に育てていただきたいのです」
小芳は,この説明だけでは,納得してくれないと思ったので,この地の妖界の状況を説明することにした。
小芳「わたし妖狐族が住んでいる地域は,妖狸族と妖蛇族が隣接しています。最近,妖狸族が力を増してきて,我々の領地を犯してきています。でも,彼らを追い払う力もなく,このままでは,恵多き土地を放棄しなくてはなりません。それは,死活問題になってしまいます。
わたしは,妖狸族を追い払うことができるほどのパワーがほしいのです。それができるのは,水香様だけだと信じています。水香様,どうか,わたしをお側に仕えさせていただき,その強大な力の一部を与えてください。どうかお願いします」
小芳は,深々と頭を下げた。人から,いや,妖狐からこんなに丁寧にお願いされたのは,初めてのことだ。
水香は,もちろん,人からお願いされたことを断るようなことはしない。でも,力を分けるって,どうしたらいいの? そこで,銀次を目覚めさせることにした。水香は,霊力を流してカバンを手元に移動させて銀次の頭部を取りだした。首に霊力の触手を接合させて,銀次を目覚めさせた。
銀次「ん? また,非常事態か?」
水香「はい,非常事態です」
小芳「え? 生首がしゃべった!」
小芳は,驚きのあまり,腰を抜かしそうになった。
水香「驚かなくていいわよ。この方は銀次様です。わたしのご主人様です。あなたも,ご主人様とお呼びしなさい」
小芳「え? 水香様のご主人様ですか? わかりました」
小芳は,銀次に深々と頭を下げた。
小芳「ご主人様,わたし,妖狐族の小芳と言います。わたくしを水香様の奴隷として,わたしを強者にしていただけるよう,お願いしております。銀次様,どうか,わたくしのお願いをお聞き届けください」
水香「ご主人様,彼女を強者にする方法ってありますか?」
銀次「霊力を含む母乳を与えればいいんじゃねえの?」
水香「でも,この体になってまだ日が浅いです。母乳はまだ出ません」
銀次「じゃあ,妊娠でもするか? でも,妊娠させるのは,俺でないとだめだ。肉体をすぐに確保しなさい」
水香「了解しました」
小芳が,この家に人が近づいて来るのを察知した。
小芳「人が近づいて来ます。2名です」
銀次「水香,ちょうどいい。2名のうち,ボクの年齢に近いやつの肉体を奪え」
水香「はい,ご主人様」
銀次「小芳は,,,そうだな,,,あなたは,水香の姿に変身できますか?」
小芳「はい,ヒト型の体型は,この体型で固定しましたので無理です。でも,顔だけは多少変更できます。胸の大きさも変更するのは無理です」
銀次「フフフ。小芳のそのDカップなら,充分な大きさです。では,顔を水香に似せなさい」
小芳「わかりました。顔を水香様に変えます」
小芳は,水香似の顔に変えた。よく見ないとその違いはわからない程度だ。
銀次「水香,わたしの頭部も含めて,保護色になって,隠れなさい」
水香「はい,ご主人様」
水香は,服を脱いで全裸となり,水香の体と銀次の頭部も含めて霊力の層で覆って保護色となった。
小芳「えええ? 水香様と銀次様が消えてしまった!」
銀次は小芳と水香の双方に聞こえる共通念話で話した。
銀次『これからは,共通念話で会話する。小芳,あなたは,水香として対応しなさい』
小芳狐「あの,,,念話って,どうするのですか?」
銀次『今は,言葉を頭で思い浮かべるだけでいい』
小芳は,『これでいいですか?』という言葉を思い浮かべた。
銀次『それでいい。慣れてくれば,思っている言葉に指向性を持たせることができよう』
ガラガラ(玄関の戸が開く音)
霧仁が従者を連れて,水香のいる部屋に来た。彼は,小芳がベッドに向かって正座している姿に奇異に感じた。
霧仁「水香?そこで何をしているんだ? 正座なんかして?」
小芳「はい,時間がありましたので,わたしの先祖に礼拝をしていました」
霧仁「なかなかいい習慣だ。先祖を敬うのはいいことだ。え? あれ? お前,もっと胸が大きくなかったか?」
小芳「実は,,,お客さんの注意を引くために巨乳を偽装していました。でも,もうその必要はなくなったので,もとの大きさに戻しました」
それを聞いて,霧仁はがっかりした顔をした。
霧仁「そうか,,,偽装だったのか,,,」
彼の後ろに控えている従者が彼に耳打ちした。
小隊長「この間の女中よりも,ずっと大きいと思いますよ。気を取り直してください」
霧仁「そうだな,,,これなら,俺が拷問して潰すよりも,兄上たちに仕えさせて,毒殺,,,」
ドタ!
霧仁がそこまで言うと,彼の従者がその地で倒れた。
霧仁「え? どうした?」
ガン!
霧仁の後頭部が強打されて,従者と同く地に倒れた。それと同時に,水香と銀次の頭部が姿を現わした。
銀次「水香,この男の体をもらう。首を据え変えなさい」
水香「はい,ご主人様」
水香は,霧仁の首を切断して,銀次の首を据え変えた。その後,胴体と首の接合部に回復魔法をかけた。
1時間後,,,,
銀次は,霧仁の胴体の支配を試みた。しかし,まったく手足を動かすことはできなかった。
銀次「水香,体が動かん。霊力を神経代わりに体内に流しなさい」
水香「はい,ご主人様」
水香は,霊力を流して,銀次の頭部と胴体を何本もの霊力の線で繋いだ。
水香「こんな感じでいかがでしょうか?」
銀次は,手,足を徐々に動かすことができるようになり,体を起こした。
銀次「どうやら,なんとか体を動かすことができるようになった」
水香「それはよかったです。あの,,,霧仁様の頭部の周囲に,女性の霊体が3体,纏わり付いていましたが,金色に変化して,ゆっくりと消えていきました。浄化されたようです」
銀次「水香は,霊体が見えるようになったのか?」
水香「生前からも少し見えていましたが,こちらの世界に来て,ますますはっきりと見えるようになりました。わたしが自殺に追い込んだ方々の霊も,徐々にわたしのところに集まってきています」
銀次「それらは,別に悪さをしないのだろう? ほっとけばいい」
水香「はい,ほっときます。幸い,胸が大きいので,その中に入ってもらうようにお願いしています。彼らは喜んでその中に入ってくれます」
銀次「なるほど,巨乳もそんなところで役立つんだな」
小芳は,まったく理解が追いつかなかった。でも,首がしゃべった時から比べると,まだ驚きは少なかった。
小芳「あの,,,ご主人様,この切断した頭部はどう処理しますか?」
銀次「母親に返すべきものだろう。水香,その頭部を霊力で覆って腐敗を遅らせて,そのリュックに収納しなさい」
水香「了解しました」
水香が霧仁の頭部を処理し終わった頃,従者の虎丸が意識を取り戻した。
虎丸「いてて,,,誰がいったい,,,」
銀次「やっと目覚めたか?」
虎丸「え? 誰だ? お前は?」
虎丸は,鞘から剣を抜こうとした。しかし,何かに阻止されて抜けなかった。その後,彼の首に変なものが絡みついて,徐々に,首を絞めていった。
銀次「死にたくなかったら,抵抗するな。それに,お前の主人はもう死んだ。これからは,ボクがお前の主人だ。理解したかな?」
虎丸は,もう少しで窒息死するところだった。いったい,どうやって,こんなことができるのか?彼は,抵抗することを諦めた。力のレベルの差が歴然だった。
虎丸「・・・,わかった。もう抵抗しない」
銀次「よし,では,自分の名前と役割,お前の主人の名前と望みについて説明しなさい」
虎丸は,前の主人である霧仁に対して,忠誠心などこれっぽちもない。
霧仁は,粗暴で暴力を好む小心者だ。とても上に立つような器ではない。虎丸も,近々,転職を考えているところだった。
虎丸「わたしの名は虎丸です。前の主人,霧仁様の従者です。霧仁様は,第3夫人,夕霧様の長男になります。彼の野望は,兄たちを差し置いて,次期城主となり,この国を統一するという馬鹿げた野望をもっています」
銀次「なるほど,,,では,わたしは,今から霧仁と名乗ることにします。顔が変わったのは,,,そうだな,水香の妖怪の術によって変えされられたとでもしようか。 虎丸,お前は,これまで同様に,ボク,霧仁に仕えなさい」
虎丸「・・・,は,,はい,仕えます。ですが,その前に,この首に絡まっている変なものを取ってくれますか? もう,,,息が,,,息ができなくなりそうです」
銀次「・・・」
銀次は,水香に霊力の展開を解除するように命じた。
銀次は,虎丸を配下にした。
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