第17話 美蘭と小芳
水香は,あてのない道を歩いていた。乗り合い馬車の呼び込みがあったので,それに釣られて,その馬車に乗ることにした。行き先は,梅山城下町だ。ただ,問題なのは,水香の着ている服は,娼婦の服装だ。胸元が強調されている。水香の胸は,両方の乳房で4リットルほどのIカップの大きさだ。充分すぎるほど,男どもの垂涎の的だ。もっとも,その重さは25kgもあった。
だが,乗り合い馬車で,この姿では,他の乗客の迷惑になってしまう。
ところが,水香がこの馬車に乗ると言い出すと,女子どもは別の馬車に移動してしまい,スケベそうな男どもばかりが大勢の馬車に乗り込んでしまった。
馬車の馭者は,水香の娼婦姿に鼻の下を伸ばした。でも,それ以外,何もできないので,馬車は出発した。
・・・
1時間後,,,
馭者は,道を少し逸れて,10分ほど休憩を取ることにした。
馭者「10分ほど休息を取ります」
キャビンには,水香の他に,男どもが10名ほど乗っていたはずだ。だが,誰も声を出さなかった。馭者は,ちょっと奇異に感じて,キャビンの中を見た。
そこには,全裸で横になっている水香がいた。水香の横で,横たわっているのは,一人の客だけだった。顔を下に向けているので,顔の様子まではわからない。
水香の胸は,また少し大きくなったが,すぐに濃縮したので,もとのIカップの大きさのままだ。ただし,乳房の重さは26kgになってしまった。
馭者「あれ?他のお客さんは?」
水香「皆さん,満足してキャビンから降りていきました」
馭者「・・・」
馭者は絶対にそんなことはないと思った。だいたい,お客さんの荷物がそのままキャビンの中にある!それに,なんで水香は全裸なんだ? あの行為でもしてたのか?
馭者「お客さんの荷物はそのままなのに?」
水香「全部,わたしのために置いてくれました。これから金目のものをピックアップします。馭者さんもわたしを抱きますか?」
馭者「・・・,ありがたい申し出ですが,もうすぐ出発します」
水香「はい,このお客もキャビンから出たいと言っていますので,放り出します」
水香は,ミイラになったお客をキャビンから放り投げた。
彼は,瞬間的にヤバイと感じた。
馭者は,見て見ぬ振りをした。ここで騒ぐとすぐに殺されるのは明白だ。ならば,気づかない振りをするのが一番賢明な方法だ。すくなくとも,馬を扱う自分は殺されることはないだろうとの判断だ。
馭者は水香だけを乗せて出発した。
しばらく進むと,狐の群れに襲われた。
馭者「お客さん! 狐の群れに襲われています! なんとかなりませんか?」
水香「なんとかって,何ですか?」
馭者「えーと,えーーと,狐の群れを殺してください!」
水香「わかりました」
バシュー!ーー
狐,30頭前後の群れが,一瞬にして,串刺しになって地に倒れた。
それを見た馭者は,開いた口が閉まらなかった。やはり,あの巨乳美少女は,『化け物』で確定だ。触らぬ神に祟りなし! 黙って馬を操作するに限る。
馬車が去った。
「あららーー,なんとも,ものすごい化け物がいたものね。あの馬車に乗っている人は何者? もしかして,弟の禍乱と戦った大妖怪かもね」
そんな独り言を云っていたのは,ひとりで梅山城下町まで旅をしている神人の巫女・美蘭だった。
彼女は,たまたまその惨劇を目撃してしまった。
美蘭「狐さん,可哀想に,,,あんな化け物が馬車に乗っていたなんて分からなかったのでしょうね」
美蘭は,もしかしたら,まだ生きている狐がいるかもしれないと思って,その現場に来た。
すると,一匹の狐が,自分の傷に『気』を流してなんとか止血していた。でも,明らかに内蔵を何カ所も貫かれている。助かる可能性は低いと思った。でも,必死で生きようとしている姿勢に,ちょっと感動した。
美蘭は,その狐のそばに来た。
美蘭「神の力が使えるんだったら,なんとか治癒できたかもしれない。でも,今のわたし,何もしてあげられないわ。ごめんね」
美蘭は,狐が返事なんてするはずもないのに,そんな言葉をかけた。すると,その狐は,人の言葉で返事した。
狐「え?あなたは,神の力が使えたのですか? もしかして,神人ですか?」
この言葉に,美蘭はビックリした。そもそも狐が言葉を発するはずもないし,仮に発したとして,『神人』という単語など,知るはずもないはずだ。
狐「驚かないでください。わたし,狐の姿をしていますが,妖狐に進化しました。ヒトの言葉を解します。それに,神人様は,われわれの信仰神です。神人様,お願いがあります!」
美蘭「え? 何? 」
狐「わたし,この傷では,もう助かりません。そこで,わたしが得た能力,記憶,そして,我が一族の思いを,神人様に移させていただけないでしょうか? 我が一族の願いを、代わりに成就させていただけないでしょうか?」
美蘭「ええーー,だって,わたし,超弱いのよ。気だって,初級前期なのよ。とても,そんなことできないわ」
狐「神人様,弱くてもなんでもいいです。願いを成就しなくてもいいです。せめて,わたしが得た能力と記憶を受け継いでいただけないでしょうか?」
そこまで,譲歩されたら,断るのも難しい。
美蘭「わかったわ。では,どうすればいいの?」
狐「神人様の額をわたしの額に接触させてください。わたしの能力と記憶を移させていただきます」
美蘭「わかったわ」
美蘭は,その指示通りの行動をとった。
ひゅーーー!
妖狐の能力,それは,主に変身能力と気のレベルなのだが,それと,記憶,さらに,『妖狐の思い』まで,美蘭の頭の中に移されてしまった。
それらは,膨大な情報量だったため,一度に処理できず,美蘭は,その場で意識を失ってしまった。
・・・
10分ほどで,美蘭は意識を取り戻した。その直後,妖狐の能力,記憶,さらに,彼女の思いが,目の前に広がり,一瞬,自分が神人の美蘭なのか,妖狐の小芳なのか,わからなくなったほどだ。
でも,美蘭は,しっかりと自我を堅持していた。
この時,妖狐・小芳の隣で,同じく,自分の体に気を流して,なんとか生きようとしている長老の妖狐が,美蘭に声をかけた。
長老「小芳よ,われわれに構うな。それよりも,あの馬車の乗っている御仁を追え。あの御仁は,きっと,妖怪の中でも,神に近い力を持っている。いわば,妖怪神様だ。なんとか彼に仕えなさい! きっと,小芳の妖力もアップさせる方法もあると思う。必要なら,美人に化けて,色仕掛けで攻めなさい。
近年,妖狸の連中が力をつけてきて,われわれの領地が侵食されてきている。なんとしても挽回したい。小芳,今,動けるのはお前しかない。お前が頼りだ! すぐに,あの馬車を追って,妖怪神様に仕えなさい!」
この言葉は,妖狐の小芳にかけられた言葉ではなく,小芳の能力,記憶,思いを受け継いだ美蘭にかけられた。
美蘭は,一瞬,自分が小芳だと錯覚したかのように返事した。
美蘭「長老,わかりました。この生を受けて,30年,やっと妖力をためてヒトに変身できるようになりました。では,この乙女の体で妖怪神様に仕えて,妖力を分けてもらうように頑張ります」
長老「小芳,いい心構えだ。妖狐族の未来はお前に託した。よし,では行きなさい」
美蘭「はい!」
美蘭は,自分が神人であることは承知しているものの,小芳の記憶が鮮明であるため,ついつい,長老妖狐の命を受け,小芳として返事してしまった。
美蘭は,一世一代の任務を受けて,妖狐から受け継いだ変身能力,狐に姿を変えて,着ている服はそのまま地に捨てて,馬車を追った。ただし,背にはしっかりとリュックを背負うのは忘れなかった。だって,大事な営業経費が入っているのだもの。
美蘭は,でも,これはこれでいいと思った。タダで狐に変身できる能力を得ることができたし,気のレベルも,上級中期に達した。これなら,変な憑依能力を使わなくても,悪漢どもを正攻法で退治することも可能だろう。
その見返りとして,ちょっとだけ,妖狐族のために貢献してあげればいい。愛鈴会の仕事は,その合間に暇々にすればいいだけのことだ。
それに,あの馬車には,たぶん,禍乱と戦った大妖怪が乗っているはずだ。その力,神にも匹敵する! ならば,美蘭は,もしかしたら,その大妖怪のパワーを伝授されることで,神界に戻れるのではないのか?
馬車を追いながら,絶望しかけた望みが,現実味を帯びた希望に変わりつつあるのを感じた。
・・・
美蘭が狐に変身して去ったのをみて,長老が,皆に声をかけた。
長老「怪我の浅い者は,深い者を助けなさい。内臓を貫かれた者は,以前,人間から奪った上級精力丹を呑んで,急場を凌ぎなさい。こんなことろで命を落としてはいかん」
この言葉を受けて,他の妖狐たちは長老の指示に従った。
長老は,小芳に声をかけた。
長老「小芳,見事だった。まさか,あの人間が,神人だったとは驚きだ」
小芳「はい,わたしもビックリです。でも,なんとか,わたしの能力,記憶,そして,思いを移させることが出来ました」
長老「まさに天の助けとはこのことかもしれん。たまたま,人間の女性がそばにいたものだから,この作戦を思いついた。
われわれが怪我を被ったことを利用して,彼女に同情を買わせ,彼女を小芳のコピー体にさせるのが狙いだった。その彼女が,まさか神人だったとはほんとうに驚きだ」
小芳「わたしのこの能力,一生に一度だけの能力です。あの神人に使ってよかったのでしょうか?」
長老「あの状況では,最善の選択だ。彼女に,妖怪神様を追わせるしかなかった。この機会を逃せば,もう二度とないだろう」
小芳「確かにそうですね。でも,あの神人は,ちゃんと『小芳』として,妖狐族のために動いてくれるでしょうか?」
長老「小芳が,妖狐族のために動く強い意志がある以上,あのコピーの神人も妖狐族のために動くはずだ。われわれは,労せずして,優秀なもう一人の『コピー小芳』を得た。われわれは,古巣に戻って怪我を癒やしながら,『コピー小芳』が,大きな成果を持ち帰るのを楽しみに待つことにしよう」
小芳「はい,『果報は寝て待て』ですね?」
長老「まぁ,そういうことだ」
長老は,今回の水香の攻撃で,重傷者が少なからず出たものの,死者が出なかったことを確認して安堵した。彼ら妖狐族の一行は,古巣に戻って怪我の治療に専念することにした。
・・・ ・・・
馬車は,途中で休息を取ったこともあり,美蘭は,狐姿でしばらく走ったら,馬車に追いついた。彼女は,ジャンプして,馬車のキャビンの屋根に止まって,そこで,チャンスを待つことにした。
しばらくすると,この馬車は,今度は,盗賊の一団に襲われた。
その時,馭者は,水香に何も言わず,馬車を止めた。盗賊に襲われた時,何も言わずに馬車を止めるのがセオリーだ。
盗賊の部下のひとりは,キャビンの中を見た。そこには,娼婦服を着た巨乳の少女がひとりいた。
部下「ボス,娼婦の恰好をした巨乳美少女がひとりいます」
ボス「よし,連れて来い」
部下「了解っす」
部下は,水香にキャビンから降りるように言った。水香は,命令に従った。それが水香の生き方だ。水香はちょっと嬉しかった。
よく見ると,水香の顔が少し微笑んでいるのがわかっただろう。
部下は,水香をボスのところに連れてきた。ボスは,水香を見た。
小芳の能力と記憶を持った美蘭は,妖怪神様が,こんな小娘だと知ってびっくりした。これでは,色仕掛けがまったく効果がないではないか。しかし,一族の命運を任されたコピー小芳の美蘭は,なんとしても妖怪神様にいついていかなくてはならない。
でも,この状況で近づいても警戒されるだけだ。美蘭は,こっそりと,屋根からキャビンの中に入って,何かないかと探った。カバンがいくつか転がっていた。美蘭は,その中から水香のリュックをすぐに探しあてた。
美蘭は,そのリュックから水香の臭いが強く漂っているのがすぐにわかった。
美蘭『あら? わたしって,こんなにも臭覚がよかったかしら? もしかして,小芳の能力なのかもしれないわね。このリュック,妖怪神様の臭いが強烈にするわ。つまり,この荷物は捨てておかない証拠だわ。この中に隠れれば,いずれ妖怪神様と合流できるはずだわ』
美蘭は,自分のリュックの中から,大事な営業経費である金貨50枚を,妖怪神様の臭いがする樹皮製リュックの中に入れて,自らの体をネズミ大の大きさに縮小させて,そのリュックの中に隠れた。
自分が背負ってきたリュックは放棄するしかない。金さえあれば,なんとかなるとの判断だ。
小芳の能力の中で,最も優れているのは変身能力だ。狐姿にしかなれないが,大きさをネズミ大にまで小さくすることもできる。希有な能力と云えよう。
このリュックの中に入って,少々,ハプニングがあった。
美蘭は,そこでヒト型の頭部に出会った。彼女は,慌てて,大声で叫びそうになったが,両手で口を塞いだので,なんとか声を出さずにすんだ。
・・・
ボスは,水香をみた。こんな美人で若くて巨乳なのに,なんで男が傍にいないんだ?しかも,この馬車,乗り合い馬車だぞ。他の客はどうした? おかしなことには,絶対に原因がある。そんなことを考えているとき,別の部下がボスに進言した。
部下「ボス,彼女は上玉ですぜ。彼女なら,いくらでも客がつきますよ」
ボス「いや,彼女は献上品に廻す」
部下「え? せっかく,上玉を見つけたのに献上品にしてしまうのですか?」
ボス「彼女には手を出すな。いやな予感がする」
部下「チェッ!お楽しみが待っていると思ったのに,残念!」
この会話を聞いていた美蘭は,さすがはボスだと感心した。危険察知能力は半端ない。
部下は,水香に尋ねた
部下「名は?」
水香「水香」
部下「では,水香,お前は,後宮の献上品になります。いいですね? 抵抗してもだめです」
水香「はい♥」
水香は,ニコニコとした。だって,命令をしてくれる人物がいるのだもの。ちょっと嬉しくなった。
ボスはもちろん,この部下も,水香の素直な対応に違和感を覚えた。腕に自信のある女性なら,反抗してくるし,か弱い娼婦なら,他の男性の庇護下に入って,一人で行動することはない。
仮にひとりで行動するにしても,逃げ出すとか,助けを求めるとかをするはずだ。こんな状況になって,その部下も,なんとなく水香を献上品にするのかを分かった気がした。危険物はさっさと始末するにかぎる。
ボスは,アジトからすでに誘拐してきた3名の少女を連れてくるように別の部下に指示した。
しばらくして,3名の少女が馬の背に乗せられてきた。ボスは,彼女たちを馬車のキャビンに乗せて,水香もキャビンに戻るように指示した。
ボスは,馭者に自分たちについてくるように命令した。
ボスたちは,桜川城から100kmほど離れている城下町,梅山城に向かった。水香たち4名は,その梅山城の後宮の女中として献上される。もし,妾として採用されたら,金貨500枚は貰えるこことになる。女中でも金貨100枚は貰える。
1日後,,,
ボスたちは,梅山城に到着した。水香たち4名は,後宮の管理者,宦官の長官である太監に引き渡した。
3名の少女たちは,荷物は持っておらず手ぶらだ。水香だけ樹皮製リュックを背負っていた。
リュックの中には,銀次の頭部と美蘭がいる。あと,金貨が少々。
太監「これはこれは,4人とも,上玉ですね。よくここまで集めましたね。彼女たちは,皆,処女なのですか?」
この質問に,誤って答えると信用を無くする。ボスは,正直に答えた。
ボス「こちらの3名は,処女で購入したのですが,この巨乳の少女は,途中で拾った少女です。処女かどうかは不明です」
太監「わかりました。でも,美人で巨乳なのに免じて,処女並みの値段を支払いましょう」
太監の部下は,ひとりにつき金貨200枚,合計800枚をボスに渡すよう部下に指示した。
金貨800枚を受けとったボスはニコニコ顔でお礼を言って,その場を去った。
太監「では,お前たち,ついてきなさい」
水香「はい,ついていきます!」
この太監の言葉に,元気に返事したのは,水香だけだった。
その後,ひとりずつ,取調室で,身元調査を詳しく行った。
3人の少女たちは,剣術で有名な剣流宗で修行したことのある少女だった。だが,彼女らの最初の任務である薬草採取に出かけたとき,予想外にも蛇妖怪に出会ってしまい,命からがら,盗賊団の敷地に入ってしまった。蛇妖怪は,盗賊団によって追い払われた。
だが,彼女たちは,蛇妖怪で殺されたことにして,名前を,琴初,琴妮,琴美に変えて,髪型なども変更して,この後宮に売られた。彼女達としては,命を救われたので,この境遇を甘んじることにしたようだ。
水香の取り調べの番が来た。
太監「名前を言いなさい」
水香「はい,水香です」
太監「水香は,何ができますか?」
水香「なんでもできます」
太監「なんでもと言われてもこまるが,,,剣か武術の修行はしたことありますか?」
水香「ありません」
太監「読み書きはできますか?」
水香「この国の書物を見たことがないのでわかりません」
太監は,手元の薬草の本を水香に渡した。彼女はそれをペラペラと見た。
太監「その書物は読めますか?」
水香「だいたい読めます」
太監「では,このページを読んでみなさい」
水香「はい」
水香は,すらすらと読んでいった。太監は,かなりビックリした。水香の年齢で,ここまで書物を読みこなす者は,そうそういない。
太監「ほほぉ,学はあるようだな。では,水香は,夕霧荘で,夕霧に仕えなさい」
水香「はい,太監様」
水香は,城主の第3夫人である夕霧荘の夕霧に仕えることになった。ちなみに,琴初たち3名は,第1夫人である菊音荘の菊音に仕えることになった。
ーーー
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